あらすじ:エンジェウーモンから直々にD-コネクターの使用方法を教わったココロ一行。そして遂に本格的に修行が始まる。実戦演習…その相手はなんと修行担当のエンジェウーモンだった!
空は青く広がり、優しい風は野原を突き抜ける。川の音は心地よく耳に流れ、心を和ませる。そんな平和なこの場所で、今…
『本当』の修行…いや、戦いが始まる。
「さて…ここからは私も鬼になっていくからね。では、修行の内容を軽く説明するよ。ちゃんと聞くんだよ、いいね?」
先ほどまで緩く、柔らかい表情をしていた『天使』エンジェウーモンは急に声のトーンを落とし、低く、そして強くそう言い放つ。ココロとエクスブイモンネクストはその言葉から彼女自身の長年の『貫禄』、そしてその言葉から『恐怖』を感じ取った。だがその恐怖の2人は必死に振りほどく。
「はいっ!」
声を張り上げ返事をする。感じた恐怖を無理やりでも和らげるためだ。
その返事を聞き、エンジェウーモンはニヤリと笑ってみせる。
「ルールは簡単。私の肉体に傷ひとつつければ修行は終了。修行中D-コネクターの使用は可。そしてココロ君の援護、そして直接攻撃も可。ざっとそんなもんね・・・。分かった?」
「分かりました。まあようは俺がエンジェウーモンさんに攻撃してダメージ与えれば
いいんですね?」
説明を聞いてエクスブイモンネクストはそういうと眼力を段々と強くしエンジェウーモンを見つめる。その身体からは段々と青いオーラがユラユラと沸き立ち、恐らく『本気』を出すつもりだとココロの目から察することが出来た。
そんなエクスブイモンネクストを見てエンジェウーモンの笑みは更に増す。
「そうそう、その意気。じゃ、始めるよ!」
エンジェウーモンは腕まくりをして、すっとその場に静止する。エクスブイモンネクストはそこから距離を置いた真正面に立つ
「本当に攻撃して・・・いいんですね?」
「―――――――?」
ココロにはエンジェウーモンの言った一言が聞き取れなかった。軽く動いたのは見えたのだが、声が小さく、言葉はココロに伝わらなかった。
ココロはエクスブイモンネクストの方に目をやると、彼にも聞こえなかったのか、体勢は先ほどと全く同じである。
エンジェウーモンはふとため息をつくと、ココロらを見やる。
「それじゃあ行くわよ…。よーい、初め―――――」
修行開始の合図、
ドッ、パァン!!
一瞬だった。何かがぶつかり、弾ける…そんな感じの音がした。一瞬の強風がココロの全身を吹きぬけ、ココロは思わず目を瞑る。
数秒間、無言の時間が過ぎココロはゆっくりと目を開く。目の前に見えた光景は、一定の位置で固まる2匹。エクスブイモンネクストは右拳をエンジェウーモンの鉄仮面に沈めようとしてその拳をエンジェウーモンの顔面に向けているが、エンジェウーモンはそれを片手で受け止めている。エクスブイモンネクストの体は拳に力を込め続けているのか、小刻みに震えている。
「は・・・・速い!!」
「ねえネクスト君、さっき私がアナタになんて言ったかわかる?」
「え・・・さぁ?」
―なめんなよって言ったんだよ、『ボウヤ』―
「え……」
全く別人の声がした。エクスブイモンネクストの目の前にいるのはエンジェウーモンただ一人。その言葉は「貫禄」とかそういうものを遥かに越え、「殺気」を帯びていた。
一瞬ココロとエクスブイモンネクストの心に「恐怖」の念が一気に押し寄せ、足元、背筋と段々凍っていくような感覚を味わった。その恐怖は一瞬にして振りほどくことは出来ず、恐怖に身を固められ、その場から動くことは全く出来なかった。
「そんなボケボケしてると死ぬぞ、お前」
「なっ―――」
その言葉の直後だった。エンジェウーモンはエクスブイモンネクストの拳を握り、引っ張り出す。その引く力が強かったのか、エクスブイモンネクストは体勢を崩しエンジェウーモンに対して前かがみになる。そしてその引っ張られてくるエクスブイモンネクストの腹部に
エンジェウーモンの左拳がとてつもない速さで沈んだ。
「そら、どうした?ネ・ク・ス・ト・君?」
「ガ・・・・・ハ・・・・」
ふわりと空へ舞うエクスブイモンネクスト。朦朧とする意識の中、彼の身体は空で緩やかな弧を描き流れる小川に墜落した。
「ネッ君!!!!」
「おーやおや、こっちも多少は手を抜いた気でいたのにねぇ。それでも本当にデジタルワールドを統治するデジモンかしら?」
緩やかな川の流れに、身体を流されて行くエクスブイモンネクスト。それを追いかけるようにエンジェウーモンは駆け、少し追い抜き、先の方でエクスブイモンネクストを待った。
ココロはその攻撃の素早さと、攻撃の威力に度肝を抜かれ、ただその場に立ち竦んでいた。
「こんな所でギブアップゥ?もう少し頑張って欲しいな――――」
―エクスロストブラスター―
エンジェウーモンが愚痴をこぼした直後川の水が弾け、爆発した。弾けた水は一時雨となり、辺りに降り注いだ。その冷たい水はエンジェウーモン、そしてココロの頬を濡らし、ココロはその冷たさから我を取り戻した。
「はっ!!ネッ君!?大丈夫か!?!?」
水が弾けた地点に改めて目をやるココロ。ココロがそこに目をやった頃には川からはほのかに光の柱のようなものが出ていた。その下から一つの影が飛び出て、エンジェウーモンの方へ向かっていく。アレは…
「おらぁっ!さっきから人のことボウヤとか馬鹿にしやがって・・・いくらあんたでも頭に来たぞ!」
まさしくエクスブイモンネクストだった。まだ重症レベルのダメージを受けてはいなかったらしく、川から全速力で飛び出たエクスブイモンネクストは再びエンジェウーモンに右拳で殴りかかる。
「だから甘いって言ってるんだよ、ボウヤ。」
不敵に微笑みながらエンジェウーモンはその拳をいとも簡単に受け止める。だが今回は怯まず、エクスブイモンネクストは左拳を構えていた。
「ダァアアアアアアアアアアアアアア!!」
「甘い甘い甘い甘い甘い甘い!!!」
エクスブイモンネクストは次拳をエンジェウーモンにぶつけようと次々とパンチを繰り出すが、エンジェウーモンはそれを全身を使い避け続ける。
「ダァアアアアッ…ゼェ…ハァッ…」
「はははっ、こっちこっち!」
エンジェウーモンはエクスブイモンネクストの無数のパンチを避け終えると、疲れるエクスブイモンネクストを見下ろしつつ背中の羽を動かし飛翔、フワフワとエクスブイモンネクストの周りを回ると、川の流れに沿って飛んでゆく。
「くそっ、ココロ、行くぞ!!」
「あ、ああ!」
エクスブイモンネクストはココロの右手をしっかり持つと、エンジェウーモンを追いかけるように翼を動かし飛んでゆく。
エクスブイモンネクストは少しばかり焦りと苛立ちを感じていた。自分の攻撃が一撃も当たらない、完全に相手に舐められてる…。自分はここまで無力なのか…心に迷いを抱いていた。手を握っているココロの目はこちらを見ていて、そしてその瞳は明らかに『不安』を抱いている。
どうすればエンジェウーモンに勝てるのか、俺はまだ無力なのか…そう考えていた。
「おやおや、力が欲しいですか?なら私に入れ替わってください。あの方には興味がある…一度お手合わせ願いたいものです。」
声が聞こえる。大体予想はついていた、自分の心の中に居る黒の住人…エクスデビドラモンである。エクスブイモンネクストはその言葉を無視し、ずっと黙り込んでいた。
「あ!ちなみにこれから入れ替わるときは心も一緒に…ですよ。この前はアナタの意思が少々残った状態で戦いましたが、これからは私の意志で戦わせてもらいます。さぁ・・・私に肉体を…」
そういうと身体からと紫…もっと黒に近い色の煙が段々と湧き出てきて、エクスブイモンネクストの肉体を包んでいく。下半身から徐々に煙に包まれ、煙は段々エクスブイモンネクストの肉体を飲み込んでいく。煙はどれだけ飛行スピードを上げたところで身体から離れない。
この煙に全て飲み込まれれば肉体は完全にエクスデビドラモンに持っていかれる。そうすれば強さは得られ、エンジェウーモンに一撃…攻撃を与えられるかも知れない。
「ね・・・・ネッ君・・・?」
ココロは更に不安そうな表情をこちらに向ける。煙のことだろう。実際ココロはエクスデビドラモンへの進化の瞬間、そして戦いの一部始終をはっきりと見たことが無い。
「さぁ、選手交代です。私に肉体、そして心を・・・・」
煙は遂に首にまで達した。
身体が持っていかれる…修行が…そうだ、コレは俺の修行…俺が強くなるための…俺が…強くなるための…ソレを…ソレを…こんなヤツに…こんな―――――――!!!
「ふざけるなっ!!!!!」
エクスブイモンネクストは叫んだ。その声は辺り一帯に響き渡り、煙を弾き飛ばし、一瞬風をも起こした。エクスブイモンネクストの視界にかすかに入っていたエンジェウーモンも飛行を止め、こちらに目をやるのが見えた。
「ふざけるなっ、コレは…コレは俺の修行だ!!お前に邪魔されたら全く意味が無いんだよ!!お前なんかに…お前なんかに邪魔はさせない!!!」
そう、心の中に居るエクスデビドラモンに喋りかける。辺りから見たらただの独り言に見えるかもしれないが、これでもちゃんと相手が居て、そいつに喋りかけているのだ。
ココロは眉間のしわを寄せ、更に不安げな表情をエクスブイモンネクストに向ける。
「ネッ君…お前…大丈夫か…?」
「え、ん・・・ああ。ちょっと気合入れてたんだ。」
「明らかにそんな風には見えなかったけど?誰かと話してるみたい…」
「とりあえず気合入れてたんだよ、俺風だ!」
「あ・・・・そう。」
ひとしきりココロとの話を終えた後、耳元から再びエクスデビドラモンの声が聞こえてきた。
「そうですか・・・じゃあアナタの修行・・・楽しく心の中で見させてもらいますよ。修行するからには…ちゃんと強くなってくださいね、クフフフフフフフフ…」
怪しい話し声をひとしきり聞いた後、その声は完全に聞こえなくなった。
――――――――
「そういえばエンジェウーモンは!?」
そう思いエクスブイモンネクストは辺りを一通り見回す。
…いた。草原の中に不自然に存在する竹やぶの上にフワフワと浮いていた。そしてその中にスッと上から入っていく。
「行くぞ、ココロ。」
「ああ・・・」
エクスブイモンネクストはココロの手をギュッと再び握り締め、竹やぶの中に入っていった。
*************
ココロの視界一面に広がる竹、竹、竹。空を突き抜けるように生える竹は、人間界に存在するものと全く同じものである。林立した竹はココロ達の行く手を阻め、とても歩きにくい。そのせいか野生のデジモンの影は一切無い。
「あああ!!めんどくせぇ・・・」
ココロはそう愚痴をこぼしつつも、エクスブイモンネクストと共に竹の間を身体を横に曲げたりしたがら進んだ。
しばらく竹やぶの中を進むと、一瞬竹の間からコォッと光が見えた。竹やぶに光…ココロはこの2つからふと「かぐや姫」を連想したが、その光の中から出てきたのは『猫』…、テイルモンだった。
「あ、待ってたぞ坊やたち!」
テイルモンはココロ達の方を見ると明るく声をだし、ニッコリと微笑む。
「え・・・・何故退化を?」
「いやさぁ、ただ攻撃を避けるだけじゃつまらないから場所変更!」
「なっ!」
テイルモンはそう言い放つとネコにそっくりな外見からは想像できないほどのスピードで一本の竹を上り、鋭い爪を引っ掛け、竹に張り付いた状態でココロ達を見下ろす。
「はいはい、ここまでおいでぇ、坊や♪」
「くっそ・・・ココロ、右手に『接続』だ!」
「え!?」
「ここら辺の邪魔な竹、全部、一気に、叩き折る!」
エクスブイモンネクストの攻撃力なら接続しなくても十分に竹を折ることは可能、だが接続して強化させておけば接続しない状態より速く、強打により一気に竹を効率よく折ることが可能である。それを考えた上の判断だ。
エクスブイモンネクストはそう言い放つと、右拳をすっと構える。ココロはその構えに呼応するように右拳を前に突き出す。そして左手をポケットに突っ込み、D-コネクターをさっと取り出した。その様子を拳を構えつつもココロの方を向いたエクスブイモンネクストは見ていた。
「ん?なんだよその構え。」
「どうだ?さっき飛んでる間に考えてみた接続するときのポーズ!」
「ん・・・・イマイチ。」
「ちぇっ、何だよ…。まあいいや、じゃ、行くぞ!」
「はぁ…了解…」
エクスブイモンネクストは飽きれ気味のため息をつきつつも微妙に微笑む再び前方、テイルモンの登っている竹の方を向く。
「おーいココロ君、もうお話はいいかぁい?」
テイルモンは2人の会話を相変わらず竹に張り付き見下ろし、テイルモンは余裕の微笑を顔一面に浮かべる。
エクスブイモンネクストはそれをチラッと見た後、竹の方を見た。
「なぁ・・・ココロ」
「ん?どうしたネッ君。」
「絶対成功させるぞ、この修行。『俺』と、『お前で』。」
「今更何言ってるのさ、当然だろ?俺とネッ君以外に誰がいるのさ。」
「えっ・・・ああ・・・そうだな。」
そういうとエクスブイモンネクストは左手の指でポリポリと頭をかいた。ココロは何故そのようなことを聞かれたかは分からなかった。だが、そういうことを言ってくれて、少し嬉しい気持ちもした。ココロの顔に自然に笑顔がこぼれた。
「よし、じゃあ改めて行くぞネッ君!」
「了解!」
接続―コネクト―!!!
………
冷たい空気の漂う一室。黒に塗りつぶされたように暗い空間に、機械から点々と発せられる光が星のように散りばめられ、夜空のようである。その夜空の真ん中に怪しく緑色に光る『柱』が3本、そしてその柱の中には一つずつ生物が入っている。大きいものも居れば小さいものもいる。
そしてその光の下、いくつもの白衣を着たデジモンが動き回っている。
「実験番号1、肉体復元率89%。完全復元まであと30分!」
「全機器正常に作動しています、順調です!」
飛び交う言葉、混ざり合う影、その中に静止し『柱』を見つめる2つの影、レビエモンとダーケンモンだ。
「ダーケンモン…そろそろ例の器…仕上がるぞ。」
「機器の故障もあったりして結構大変でしたからねぇ、量産型のセフィロトウェポンも今は順調に作用してますし・・・。」
「まあこの器に使ったセフィロトウェポン、通常の量産型よりは性能はよく作られているがな。特注…というヤツだ。」
「通常の量産型も随分多く出来てるみたいですし、これで後はこの世界にばら撒けば世界を黒く染め上げる計画…案外早くうまく行くんじゃないですか?」
「フフフ…そうだな。」
一通りの会話の後レビエモンは怪しく、牙をむき出し、赤い下で牙をペロリと舐めながらニヤリと微笑む。その顔を覗きながらダーケンモンはクフフと声を漏らす。マントで隠れて見えないがきっと笑っているのだろう。
「その笑顔…久々に見ました。私とあなたが出会ったとき以来の笑い方…ですね。」
「む・・・デリートオブウィルスの時・・・だな。」
「ええ。」
そう会話を交わしているうちに暗い一室のドアが開いた。そこに立っていたのは白衣を着たクロックモンであった。
「レビエモンさま、例のお品、まだ製作段階なのですが少し見てもらえますか?」
「ああ分かった、すぐ行く。」
クロックモンの呼び出しに、レビエモンは扉の彼のもとへ向かう。それを見ながらダーケンモンは再び笑いの仕草をとった。
「クフフ…貪欲なお方だ。セフィロトウェポン以外にも何かお作りで?」
「ああ、まだ製作段階だがな。己の強さを求める意思が作り上げる『芸術』だ・・・。」
そういうとレビエモンはクロックモンに続き廊下に出て行った。そしてその後姿をダーケンモンはマントの中に潜む目でまじまじと眺めていた。
「レビエモン…つくづく面白いお方だ。」
******
日が傾きつつある空、小高い丘の上で少し離れた浜辺を見下ろす少女…いや、少年レイとブイドラモンクーロン。ブイドラモンクーロンの大きな肩に乗りながらレイは話しかける。
「ねぇ、あいつら今の所どう思う?」
「いや、どう思うって言われても…まあ努力はしてるみたいだね。でも思い切った修行方法考えたよねレイも。D-コネクターの使い方教えた後、あんなでっかいクロンデジゾイドの塊持って来てコレをぶち壊せって・・・。それにD-コネクター使用可能回数が3回なんて…。」
「あー、そうだね。まあどれくらい時間が掛かるかな・・・。」
「その後はどうするつもりなの?あの2人なら案外速く壊せるんじゃない?アレ。」
「うーん、どうするかな。まだ考え中―。」
そういうとレイはブイドラモンクーロンの頭に頬杖を付き改めて浜辺を眺めた。
「そんないい加減でいいのかねぇ…。」
ブイドラモンクーロンは飽きれつつため息をはぁっ・・・とつくと、同じく浜辺を眺めた。その浜辺にはボコボコとゆがんだ形をした家一軒ほどの大きな鉱石と
『あいつら』が居た。
続く
あとがき
こんばんは!(投稿した時間的に)
またもや久々投稿状態に…。始まったばかりの高校生活も想像以上に大変で執筆活動も大変な中での投稿です(何が言いたい
なんだかんだでもう20話。記念すべき20話到達記念…って何もやりませんよ(ぉ
でも俺がここに『銀』の名を担ぎここにやってきてもう1年経ちました…。時が流れるのも速く俺もなんだかんだでここまで成長させてもらいました。一話一話小説書いていく中で色々な方からアドバイス、感想をもらいました。そして色々な方の小説を読ませていただきました。それが俺の成長の元であります!!
皆様にはとても感謝しています!
まあそれはさておき・・・、次回はラストにも表記した『あいつら』に久々にスポットライトを当ててみようかなぁ~と思っています。軽く次回予告?ww
それと出来ればおまけコーナーの設立…とかも考えてます。
前回(19話)ではutさん、総集編では甘い塩さん、感想ありがとうございました!感想、アドバイス、苦情随時受け付けてます!
ではまた次回!!
初公開日:????年05月30日 INTENTION公開日:2009年12月31日
作者許可により、デジモンウェブ掲示板より原文を転載