◆nPOf42t9xA氏


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「……………あ?」

とりあえず、状況が理解できない。

いや、理解はしている……それも違うか。疑問を感じるべき所がないのだから、理解も何もない。
いやいや、疑問は感じるべきではないのか。いやだがしかし、これは当然のことだよな……?

なにやらはっきりとしない奇妙な感覚に悩んでいる俺に、

「………説明を、求める」

長門の静かな声がかかる。

「あー……説明?」
変に冷静な感覚があるがやはり混乱しているのも確かなのだろう。
長門が何を聞いているのかが分からない。
長門の言葉をオウム返ししてしまう。

それに、長門はいつもの無表情で。
「この事態の、説明を」
俺の握っている短刀の刃を掌で受け止めながら。
「何故、貴方は」
どこか、震えているような気がする声で。

「涼宮ハルヒを、殺害したの」

ハルヒの返り血に濡れた俺に、問うた。

「いや、何故とか言われてもな」

そんなことは答えるまでもないというか、いや、聞かれて当然のことだとは思うのだが。

つい先程まで、俺達、厳密に言えば俺、ハルヒ、長門の三人で文化祭の準備をしていたのだ。
とはいえ実際のところ、ハルヒがぎゃあぎゃあ無茶を言って俺が準備をさせられて長門が本を読んでいたわけだが、
まあそんなことはどうでもいいだろう。
とにかく、部室の中に木の板といくつかの工具を持ち込んで日曜大工ならぬ放課後大工に勤しんでいたわけだ。
で、SOS団なる怪しい団体の看板になる予定の哀れな木の板に
彫刻刀代わりの短刀で奇っ怪な模様を刻み込んでいたときに、
なんとなくハルヒが視界に入ったのでその首に短刀で切り込みを入れて、
突然のことに「え? ……え?」と血を噴出させながらぼうぜんとしているハルヒの喉に一突き入れて、
そのままなんとなく長門に切りかかった、という顛末で。

「別におかしいことはないよな……
 …って、ちょっと待て」

自分の言葉に自分で突っ込む。滑稽だとは思うが仕方がない。
自分でも自分が何を言っているのか分からないからだ。

おかしい。
いや、おかしくはない。

なぜ殺した。
いや、なぜ殺さない。

殺すのはおかしいだろう。
はて、殺さないのはおかしくないか。

いや、待て。おかしい。。
なんだ。何か、分からないことでもあるか。

分からないことだらけだ。いや、重要なことがわからない。
分かりきっている。別にそれは重要なことでもないし。

はて。
さて。


――― 俺は一体何をしてるんだ?

――― そりゃお前、人殺しだろ。


ああ、合点がいった。


「……どうしたの」

長門が、聞いてくる。
ああ、落ち着いた今なら分かる。
無表情に見えて、困惑している。冷静に見えて、驚愕している。
そりゃあ他のやつには分からんだろうが、俺は三年近く一緒に居て、こいつの成長を見てきたわけだし。
こいつの表情の多少の変化はすぐにわかるさ。まあさっきは混乱していたから読み取れなかったが。
とにかく長門を安心させてやりたいが、

「すまん、長門」

たぶんそれは無理だ。

「俺は人殺しらしい」

自分でもいまいち意味の分からない台詞を、ごく普通の実感を根拠に口にした。

ハルヒの死体を見る。
特に何の感慨も沸かない。
別に殺したかったわけでもない。
ただ殺しただけ。

長門の喉を目指していた短刀を見る。
特に何の感慨も沸かない。
別に殺そうとしたわけではない。
殺すはずだっただけ。

「なんだろうな。自分がおかしいことは分かってるんだけどな、それをおかしいとは思わない」

以前だったらこんなことをしたら自分に対して恐怖や嫌悪を感じたのではないかと思うのだが、
今はそんなものは感じないし、感じることも有り得ないと思っている。

何か、自分が別のモノになったような。
いや、自分が自分になったような。

「なにがなんだか分からないが、とにかく俺は人殺しみたいだ」

「そう」

長門は静かに、呟いた。

「理解はできない。異常としか認識できない。けれど貴方には異常はない」

すでに立ち直ったのか、困惑の色はほとんどない。
だが、その代わりに。

「事実として。貴方は貴方として殺人鬼になっている」

どこか、悲しげな響きがあった。

「殺人鬼、か」

かなり酷い言い様だとは思うが、とはいえ事実なのだし仕方がない。
今気付いたが短刀がさっきの位置と違う。先程から無意識のうちに長門を殺す動きをしていたようだ。
相手が長門でなければ確実に殺していただろう。

「あー……どうしたもんか」

現状は異常ではあるがおかしいことはなにもないとは思いつつ、
実際問題としてこれは大問題だと思う。
なにせ、気付かないうちに殺してしまうのだ。
今は相手が長門だからいいが、他の人間を目にしたら確実に殺してしまう。
って待て。

「しまった。ハルヒ」

どうしよう。殺してしまった。

これは大問題ではなかろうか。
殺してしまったのは仕方ないが、殺してしまったのは問題だろう。
なにせ人殺しだ。取りかえしがつかないし俺には普通のことだが普通は大問題だろう。

「どうしたもんか」

繰り返し呟く。
考えても仕方ないのはなんとなく気付いているが気付かないふりをして、

コンコン、と。

ノックの音でわかった。
ああ、古泉か。
中で朝比奈さんが着替えてたりしないことを確認して、
「失礼します」
古泉が扉を開いて―――

カッ 、と。
小さな音。

「………? どうかしましたか、長門さん」
部室に入ろうとしたところを長門に止められ、
玄関で拒否られてるセールスみたいな立ち位置で長門に尋ねる古泉。
長門が扉を閉めていなければ、古泉の頭があったはずの位置に突き立っている短刀には気付いていない。

「今、この部屋に入ることは推奨しない」
「どういうことでしょうか。いえ、中で涼宮さんが着替えている、ということならば理解できますが」
未だに自分の状況を把握できていない古泉だが、
「貴方の生命に関わる」
簡潔に事実を伝えた長門の言葉に、真剣な表情になる。
「あなたが冗談を言うとも思えませんが……どういうことでしょう」
「事実。今この部屋に入れば、貴方は確実に殺される」
「……物騒な話ですね。それは、誰に」

二人の話している間に扉に歩み寄った俺は、なんとなく古泉に錐を突き出した。

「古泉一樹。事態の理解はできた?」
「……いいえ、全く。どういうことか説明をお願いします。
 ええ、この扉は閉じたままで結構です。腰が抜けて動けそうにないですし」

錐は古泉の眼球の奥の脳味噌一直線だったが、
またもや長門が瞬間的に閉じた扉に阻まれ古泉の眼球には数ミリほど届かなかった。
今は扉の向こうにへたりこんでいる古泉の横にでも転がっているだろう。というか閉まる扉が当たった手が痛い。
いや、そんなことを考えるその前に言うべきことがあるな。

「すまん、古泉。殺しそうになった」
「いえ、そんな軽い調子で言われても困るんですが」
「いや、殺されないでくれてよかった。ハルヒは殺しちまったから」
「………今、冗談では済まない言葉を耳にした気がしますね」

古泉の声から、安穏としたものが完全に消えた。

「冗談じゃないからな」
「それは確かに、冗談ではありませんね……どういうことですか」
「どういうことも何も、俺にも良く分からないんだが、俺はどうも殺人鬼になったらしい」
「笑えないですし意味が分かりません」
どっかで聞いた台詞だ。なぜだか気持ちが良く分かる。
「俺にもよく分からん。ただ、俺はハルヒを殺して、長門を殺しそうになって、今お前を殺すところだった」

「………………長門さん」
理解を放棄したな。説明を求める対象を変えやがった。

「私にも分からない。ただ、彼は間違いなく彼であり、そして紛れもない殺人鬼」
「……どうやら僕の頭か世界のどちらかがおかしくなってしまったようですね」
なんとなく気持ちは分かるが、お前の頭がおかしいんじゃない。
俺や長門やハルヒだったモノも事態の中にいるんだから、お前が世界の中心じゃない以上お前の頭は関係ない。
「いえいえ、この世界が僕の見ている夢ではないなどと証明することはできないわけですし」
いつもの軽口が返ってくる。意外と元気だな。
「現実逃避がしたくなっているんですよ」
気持ちは分かる。今日はやけにこいつと分かり合えそうだ。
「僕の方は無理ですね。さすがに錐で目玉を貫かれそうになっては」

残念ながら俺と古泉の間にはどうしようもない溝が生まれてしまったらしい。というか俺が作ったのか。
いきなり殺されかけたわけだし、奴の崇めている神さまを殺してしまったわけだし。
正直、親友と呼んでもいいと思っていた間柄なだけに、本当に残念だ。まあ仕方ないが。

「……それで、どうするんですか」
「ん?」
「あなたが、殺人鬼になった、というのは分かりました。いえ、理解も納得もできませんが分かりました。それで、これからどうするんですか」

ああ。そういえばさっきはそれを考えていたんだっけか。

「どうしたもんだろうな。とりあえず殺人犯として出るところに出てしかるべき処罰を受けるべきか?」
一応常識人としての意見を言ってみたのだが。

「それは推奨できない」
「それはやめたほうがいいと思います」

ダブルで否定された。

「現在の貴方の行動と精神状態から推測すると、貴方が警察その他の治安機関に出向いても、貴方はそこにいる人間を無差別に殺害すると思われる」
「僕も同感です。場所がどこでも、相手が誰でも関係なく、人を見た途端に殺してしまいそうな気がしますね。あなたが人がいるところに行くのは、誰にとっても不幸な結果が出そうです」

確かに言われてみればそうだ。
すでに何度長門を殺し損ねているのか分からないし。そこらに長門に届かなかった様々な工具が転がってるし。

「そうは言ってもな。じゃあどうすればいいっていうんだ」
人がいるところは駄目、となれば、山奥で隠居でもするしかないのか。

長門は少し考えるように黙り、

「……私の部屋に来て」

感情の読み取れない瞳で、言った。

「……いいのか?」
行く宛がないとはいえ、つい人を殺してしまうような危険人物を家に招くのはどうかと思う。まあ、長門は殺せないわけだが。
「問題ない。貴方を隠匿できる程度の施設的余裕はある」
そういう問題か?

俺がどうしたものかと考え込んでいるときに。
「いいんですか、長門さん」
古泉が、深刻な声で、長門に問うた。

その問いに含まれているものは俺の問いのように軽いものではなかった。
もっと深い。もっと大きなこと。

「……いい、とは、何が。古泉一樹」
「彼は、涼宮さんを殺した」
その一言が、その一事が、全てではない。
もっと重いことを、古泉は問う。

「彼は、すでに殺人鬼。
何が彼をそうさせたのか分かりませんが、……あるいは涼宮さんの願望でもあったのかもしれませんが。
とにかく、彼は人の枠から外れています。
その彼をあなたが助けることがいいことなのかと、聞いているんです」

「……………」
長門は、答えない。
古泉は、声を向ける相手を長門から俺に移す。

「僕から、あなたに言うべきことを言います」

古泉の声は重い。
ああ、分かっている。
こいつだって、こんなことを言いたいわけがない。
けれどそれでも。
こいつにとって。
俺は。

「親友として、あなたに言います。
………あなたはきっと、死を選んだ方がいい」



学校からの帰途。
長門の配慮か、誰ともすれ違うこともなく、長門のマンションに向かう。
日は低い。町は赤く濡れている。

長門が、静かに言う。
「どうするか選ぶのは、貴方」

いつも通りに歩きながら、答える。
「……分からん。どうすれば、いいんだろうな」



親友の忠告を胸に刻んで。
隣に寄り添う伴侶に守られながら。

今はただ、歩く。



とりあえず、長門のマンションで暮らすことになった。
家には戻れず(戻れば間違いなく家族を殺すだろう)、
人のいる場所にも出られず(人に会えば間違いなく殺すだろう)、
避難場所に逃げ込んだ形だ。

だが、それで何か解決したわけでもない。


「……で、だ。結局これはなんなんだろうな」
長門が淹れてくれたお茶をすすりながら呟く。
普通に生活していたら、いきなり殺人鬼になる。
意味が分からない。
頭がおかしくなったというならまだ分かるが、長門からみてもそうではないらしいし。
長門曰く、俺は「常識的な人間でありながら殺人鬼」であるらしい。

「私にも、分からない」
長門が台所から鍋を持って出てくる。
部屋に充満したカレーの匂いといい、長門の両手の手袋(ミトン、だったか)の可愛さといい、緊迫感皆無だ。
「けれど、類似する症例がないわけではない」

「……症例?」
これは病気なのか? まあ、病気といえば病気なのかもしれないが。
「そう」
鍋の蓋をあけながら、長門は答える。
「D.L.L.Rシンドローム。別称、『殺傷症候群』」


D.L.L.Rシンドローム。

悪意や害意はなく、理由や理屈はなく。
ただなんとなく、あるいは当然のこととして、他者を傷付けあるいは殺してしまう精神病。
症例はほとんどなく、また精神病の性質としてその症状の虚実も判別がつけられないため、実在すら疑われる病気。


「……犯罪者の格好の言い訳だな」
「言い訳にはならない。この病状を理由に罪が軽減された判例は存在しない」
「根本的な疑問なんだが、その病気は実在するのか」
「実在する。何の理由もなく、他者を殺傷する性質の人間は確かに存在する。それをこの症候群の症例と見ている」
長門がそう言うのならば確かに実在するのだろう。

「なんだ。つまり俺はその病気なんだな」
簡単なことだ。俺はウイルスか何かにかかったのだ。
だが、長門は首を振った。
「それは、分からない」



「分からない? どういうことだ」
「『症候群』という概念は、類似の症例が見られる、原因不明の病状をまとめて呼称をつけたもの」

ああ、つまりこういうことか。
『そういう感じの危険人物が何人かいるからそれを症例とはしたけど、病気かどうかはよく分かっていない』と。
ん? いや待て。
人間にならともかく、長門や長門の親玉になら分からないことはそうないんじゃないのか。
これが病気かどうかぐらいは分かるんじゃないのか?

「分からない。病気というものは、原因が存在するもの。
この症候群の症例には原因が見られない。その悉くが原因もなく他者を殺傷する。理解不能」
宇宙人ですらさじを投げるような意味不明っぷりか。

まあとにかく、長門にも今の俺がどうしてこうなっているか、そしてどうすればいいのかはわからないのか。



詰まった。
完璧に詰まった。
どうすればいいのかが完璧に分からん。

とりあえず長門手製のカレーを食う。

「おいしい?」
「ああ」
「そう」

平和だ。



いや、駄目だろこの平和。



「このままってのはさすがにいかんと思うんだが」
長門の部屋に引きこもっているのもな。
どうも十数分に一回は長門を殺し損ねているので、部屋が荒れてきている。
いや、最初は数秒に一回は殺し損ねていたことを考えると、自制が利いてきているのだろうか。

「……………」
長門は少し考えるように沈黙する。
ついスプーンを眼球に突き立てかけたが、長門の掌に止められる。む。すまん長門。ちょっと手にカレー付いちゃったな。

長門は手に付いたカレーを舐めとったあと、
「打開策は、思いつかない」

予想はできていたがやはり落胆してしまう。
どうしたものか。どうしようもないのか。………俺はやはり死んだほうが、

俺の思考を止めるように。
「……どうすればいいかは、分からないけれど」
長門は、行動指針を示す。
「他の症例者を見てみるというのは、どう」



かくして。

長門に導かれ、とある街に来たのだが。



「おー、すげーな姉ちゃん。オイラの前で5秒以上生きてる奴なんて花火屋のジジイ以外じゃ初めてだ」


ああ、どうやら俺はまさにこの症候群だったらしい。
ああ間違いない。お互いに視界に入る距離になった瞬間に長門の周囲に爆炎が上がりやがった。
俺が古泉を見た瞬間に短刀を投げたのと同じ現象だろうな。
そしてなんだろうなこの親近感。
このガキの生意気な空気といい長門いきなり殺そうとしたことといい絶対に俺の好きなやつではないはずなのに、
やけにこいつのことが理解できやがる。


「お? なんだ兄ちゃんも死んでねえじゃん。兄ちゃんもすげえな!」
俺は長門に守ってもらっただけだがな。

「で、だ。いきなり殺そうとしたことは置いておくとしよう。君がえーと、肆屍…」
「おーっと兄ちゃん! オイラはそんなカッコ悪い名前じゃねーよ!オイラは火炎の戦士、炎の王、」
なんか特撮かアニメの噛ませキャラの登場シーンっぽいな。
「無粋な突っ込みいれんじゃねー!」
いやすまん。
「まったく、空気読めっての。もっかい行くぞ? 今度はちゃんとやれよ?」
はいはい。

「よし!
オイラの名前は肆屍なんつーカッコ悪い名前じゃねえ!
オイラは火炎の戦士、炎の王、そして爆熱の殺人鬼!

<寸鉄殺人(ペリルポイント)>様だあああああああ!!!!!」





「その名前(と二つ名)はカッコイイのか?」
「うるせええええええええええ!!!!!!!!!」





<寸鉄殺人(ペリルポイント)>。
よく分からん名前ではあるが、本人の強い意向によりそう呼ぶことにしよう。

この十代になったばかりのような少年は、ここ数ヶ月この周辺の町の何百かの殺人事件の犯人である。
正確な被害者の数は三百六十二人。数ヶ月でこれとは一日一殺どころじゃないな。
まあ目に入った人間を片っ端から殺していれば、このぐらいにはなるんだろうが。

とにかく長門の話によれば、彼はどこにでもいる、多少ハイテンション過ぎるきらいはあるが一応はごく普通の少年だったらしい。
だが数ヶ月前のある日突然、殺人鬼になった。
まず、同級生四名を殺害。そのまま、彼の帰り道で出会った生徒二十五名、一般人八名を殺害。
帰宅後家族四人を殺害。その後は放浪の中で出会った人々を殺し続けて先述の戦果に至るという。
当初こそさまざまな手段で、そこらの凶器と狂気でなんの一貫性もない殺害方法を取っていた彼だが、
被害者が三桁に上るあたりから炸薬・火薬による爆殺という殺し方にこだわり始めた。
ゆえにこその、爆熱の殺人鬼。

長門によれば、彼は現在生存するD.L.L.R症候群の症例としては、最も発症度合が大きいという。
つまり、最も人を殺しているということだ。
俺の異常を考える上でもっとも分かりやすい参考であるとして、こうやって会いに来たわけだ。
そして会ってみて、よく分かった。
こいつと俺は同類だ。
殺しに積極的か、そこまで積極的ではないかという違いはあるが。

「へえ。兄ちゃんもオイラと同じなのか」

俺の事情説明を受けた<寸鉄殺人(ペリルポイント)>はそう言って笑った。

「うん。なんか同じ匂いがするってゆーか。まちがいねー、兄ちゃんも殺人鬼だ」
俺が感じていた親近感のようなものを、<寸鉄殺人(ペリルポイント)>も感じていたようだ。
しかしあれだな。名前が言いにくいというか長いというか本名で呼んだら駄目か?
「やめろよ。オイラはあっちの名前は嫌いなんだ。まあ長いってのはわかるけどそれなら略してくれていいからさ」
案外話の分かるやつだな。しかし名前で呼ばれるのを嫌うとは俺とは逆のところもあるようだ。
「じゃあ、屁リルでいいか」
「兄ちゃん発音がおかしいぞ。屁じゃないペだ」
「屁リルか」
「だからペだって」
「屁」
「ペ」
「屁か」
「ペだっつーの! ああもう言えないんならいーよ屁は抜け!」
「そうかわかった。よろしくな、リル」

そうして、現行の人類最悪の殺人鬼、リルに俺の今後について相談したわけだが、

「は? そんなの殺せばいいだけだろ。殺したくなるんだから殺せばさ」

そんな、殺人鬼としてはまっとうな御意見を頂いた。

「いやだがな。さすがにそれはどうかと思うというか」
「なんかおかしいかー? 殺人鬼なら人殺しするのが普通だろ」
「まあ確かにそれはそうなんだが」
一応常識人である俺としては抵抗があるというか。殺すこと自体には抵抗はないが抵抗を持った方がいいのではないかと。
「なんだそりゃ。兄ちゃん人殺したいんだろ? だったら気の向くまま風の向くままに殺せばいーじゃん」
「………?」
今何か、違和感が。


何か、ずれているような。
何か、噛み合っていないような。


「どーした兄ちゃん。まさか殺したくないなんて言わねーだろーな。
兄ちゃんはオイラと同じ殺人鬼だろ?」
ああ、そうだ。俺は間違いなくこいつと同類の殺人鬼だ。
だが、何か。
「うん? なんだよ兄ちゃん。何が分からないってんだ? 簡単なことだろ?」
何かが、違う。
「殺したいから殺す。それだけだろ」

そうだ。それが、違う。

「リル。それだ」
「は?」
それのせいだ。その違いのせいで、俺はリルのように殺人鬼になりきれない。

「俺は、人を殺したいんじゃない。人を殺すだけだ」

俺の殺人に、意思はない。




「何言ってんだ兄ちゃん。殺したいから殺すんだろ。意味がわかんねーぞ」
リルは本当に理解不能だ、というように首を傾げる。

だが、確かにそうなのだ。

俺の殺人に意思はなく。
俺の殺人に意味はない。
俺の殺人に殺意はなく。
俺の殺人に理由はない。

リルのように、殺意に従って殺すのではない。
殺すから、殺す。
それはきっと、本当の意味で純粋な、殺人衝動。




「わっかんねーなー。兄ちゃん頭おかしーんじゃねーの?」
リルは難しいことは考えないタイプのようだ。軽い口調で話を流す。

だが、俺にはこれが、なにか重大な欠陥のように思えた。

殺意も理由もなく人を殺すなんて、何か、間違っている。
いや、人を殺す時点で間違っているとは思うのだが、それでも何か、違うと感じる。

ある意味で、リルは順当な人殺しだ。殺人者として、間違っていない。
ならば俺はどうか。
俺はなにか、間違っているのではないか。
人殺しというにも、殺人者というにも、あるいは、人間というにも。
俺はまるで、人殺しよりも最悪な―――

「長門。他の症例者にも会ってみたい」
自然と、そんな言葉が口をついた。
何かから、逃げるように。




「なんだ兄ちゃん、行っちまうのかー」と、リルは本当に残念そうな顔をした。
彼にとっては数ヶ月ぶりの人間的な会話だったのだろう。とても名残惜しそうだった。
そして別れ際、彼は不思議そうに言った。

「あれ。そういえばオイラ、兄ちゃんは殺したくなってねーな」

それは俺も同じだった。なぜか俺はリルを殺さなかった。
同類は殺さないというルールでもあるのか。まあ、大したことではないが。

そうしてリルと別れ、長門の案内で各地の症例者と会った。
症例者にはいろんな奴がいた。
鈍器を振るう奴、刀を振るう奴、素手を振るう奴。鎖やら毒やらもいた。
街中で暮らす奴、施設に押し込められた奴、山奥に潜む奴。暗殺者みたいな仕事をしている奴もいた。
そいつらはやはり、共通点を持っていた。
人を殺すこと。
殺しを始めたことに理由がないこと。
俺が親近感を感じること。俺に親近感を感じること。
俺が殺さないこと。俺を殺そうとしないこと(これには例外もいたが)。

そして、俺とは違って、殺したいから人を殺すこと。




「……分からん」

山奥の施設に幽閉されていた同類に会った帰り、ギブアップを告げるように呟く。
「俺はあいつらと同じだ。だが、あいつらとは違う」

彼らと俺の共通項。
そして、彼らと俺の決定的な差異。

どうやら俺は、症例者のなかでも異端らしい。
殺人鬼でありながら、殺人者ではない。
異端のなかの、異端。
それはあるいは、本当の意味での狂気―――

なんだか、嫌だ。
それは、なんというか。



「待って」

傍に寄り添うように歩いていた長門が、短く声をあげた。
なんだ、と思い意識を周囲に戻し、

「駄目」

視界に、向かいから歩いてくる男を収めた。

息をするように。
意思もなく。
理由もなく。
男の喉を突いた。







「……ふん。殺人鬼か。いや、変質者か」

長門に投げ飛ばされ、九死に一生を得たはずの男は、動揺を見せるようなこともなく、

「ふん。そんなことはどちらでも同じことか」

つまらなげに呟いた。




「ああ、すまん。殺しそうになった」
特に悪びれもせずに謝るが、男はふん、つまらなげに息をつく。

「殺しそうになった、ふん。
事実殺されてはいないのだから、殺しそうも何もないのだがな」
殺されかけたというのに、男は揺らいでいない。
まるで、殺されてはいないのだから全く構わん、というように。
あるいは、自分が殺されるのなら、それはそれで構わない、というように。

「ところで、だ。
貴様が赤神イリアか」

「見て分からんのか」
「ふん、聞いてみただけだ」

「殺傷症候群。殺す者。あるいは殺し名に近すぎるモノを見に来たのだがな。
その道中で別の殺人鬼に遭うとはな。
ふん、どうせ遭うのならば同じことか。お前も殺傷症候群だろう」
どうやらこの男は、先程俺が会ってきた幽閉された令嬢に会いに来たらしい。
「そうか。だがあいつは少し違うぞ」

この山の奥、豪奢な鳥篭に囚われている少女も確かに症例者だった。
だが、殺人鬼と呼ぶには軽度に過ぎた。
俺やリル、他の症例者のなかでも自制が効き過ぎる。
いや、突き抜けてはいたが『こちら』とは違う方向だった。

「ふん、ならば俺が赤神イリアに会うことはないだろうな。
貴様が赤神イリアの代替品でないというならば、赤神イリアには最初から遭うはずもなかったのだろう」
よく分からないことを言う男だ。
しかし、あらためて考えるとこの男は間違いなく変人だ。
殺されかけておきながら意にも介さず、むしろ手間が省けたというような調子。
そして長門に投げ飛ばされ木の幹によりかかり逆さになったまま話を続けるあたりもまごう事なき変質者だ。
「ふん、俺が変人であろうが変人でなかろうが、そんなことはどちらでもおなじことだ」

「しかしあんた、なんで殺人鬼なんかに会いに来たんだ。
あやうく殺されるところだったぞ」
俺にだが。
「殺されるところだったぞ、ふん。
俺が殺されるのならどうせ殺される。殺されないのならば殺されないさ」
本当に分からんやつだ。
「先の質問の答えを教えてやろう」
そして無駄に偉そうな奴だ。

「見てみたかったからだ」

ああ、やはりこいつは変人だ。



「ふん、それにしても」
男は、俺を舐めるように見る。
「なんだ」
「貴様は本当に殺人鬼だな」
なにを分かりきったことを。

「そうでもないだろう。俺は本当の殺人鬼などというものが存在するとは、初めて知った」


こいつの言っていることが、少し分かってしまった。
だがそれでも、反抗するように問う。
「なんだそれは。殺人鬼なんてのはいくらでもいるぞ。俺が知ってるだけでも二桁はいるしな」
「ふん、そいつらはただの殺人鬼だろう。貴様は本当の殺人鬼だ」
「何が違うんだよ」
「人間か、殺人鬼かだ」
ああくそ、答えるな。聞きたくない。

「貴様は殺人鬼の中の殺人鬼。異端の中の異端。窮状なまでに究極な殺人鬼だろう」



殺したいから、殺す。
それは異常なようで、しかし紛れもなく正常。
やりたいからやるのならば。それは道理といえる。

しかし、ただ、殺すのならば?
理由もなく。意思もなく。
衝動もなく。根拠もなく。
ただ結果として、殺すのならば。
それは異常なようで、そして紛れもなく異常。

有り得るはずのない、理屈として存在しない、理屈の存在しない道理。


「貴様は殺す。結果として殺す。現象として殺す」
男は、嘲るように、称えるように、そしてやはり無関心に続ける。

「貴様はもはや、人間ではない」



「ああ、分かってたさ」
男の糾弾に。男の賞賛に。男の通告に力なく笑う。

ただの通りすがりの変人に、最も認めたくなかったことを認めさせられるとは。
いや、長門の人払いを無視して俺の前に出てきた時点で、こいつはただの変人ではないのかもしれないが。
まあ、今となってはそんなことはどうでもいい。

とりあえずは、男に背を向ける。

「殺さないのか」
男が問うてくるが、答えるまでもないと思う。殺す理由はないのだ。殺さない理由もないが。
「あんたの言い方で言えば、あんたは俺に殺されてない。だったらあんたは俺には殺されないさ」
気障を気取って軽口を返す。
この男に、特に用はない。
俺が人間ではないと認めた今、俺が用があるものなど存在しない。
俺はもう、俺のままで終わるだけだろう。

長門の、何か言いたげな視線に、謝るように目を閉じて、
振り払うように歩き出し、


「つまらんな」

男の声を、背に受ける。

「つまらんぞ。まったくもってつまらん。
それだけの完成した破綻を持ちながら、ただ物語の端に沈むだけか」

男は、こちらのことなど考えもせず、自分勝手にひとりごちる。

「物語を見せればいいものを。終わらせればいいものを。
少しは俺の役に立とうとは思わんのか」

今更ではあるが、こいつは本当に始末に終えない。
誰の都合もなく、己のみを基準として好き勝手言いやがる。

「殺す者ならば殺せというに。
死の顕正者であるならば、俺の『死なない研究』に役立つものもあるだろうに」


「……そうは言っているが。あんた、本当は俺がどうなろうがどうでもいいんじゃないのか」
内容はともかく。その声と表情は無関心に過ぎる。
「ふん、当たり前だ」
ああくそこいつは。



本当に、嫌なモノに絡まれたと思う。
勝手に事態のど真ん中に土足で踏み入って、
土足のまま脈絡も考えず事態に決定打を打っておきながら、
そんなことはどうでもいいと自分のあずかり知らぬところに捨て置く。
迷惑を撒き散らす災厄のような害悪。

「あんたはなんていうかそう、―――最悪だな」
「ふん、当たり前だろう。俺は人類最悪だからな」
「人類最悪か。言いえて妙だな」
「そういうお前は究極の殺人鬼だろう」
「語呂が悪いな。俺にはいい名前があるぞ」

かつて呼ばれた渾名ではなく、自ら名乗った偽名でもない、割と愛着を持っている自分の名を告げる。

「つまらん名前だ」
「人の名前を聞いて第一声がそれか。そこは世辞でもいい名前ですね、というべきだろう」
「ふん、極端に変わった名ではなく、かといって凡庸というほどでもない。半端な名だ」
「うるさい」
「第一、それはお前の名前ではないだろう」


なにを意味の分からないことを。
これは間違いなく、俺の名前だ。
実際に呼ばれることはほとんどなかったとはいえ。悲しい話だが。

「ふん。究極の殺人鬼がそんな半端な名前なものか」
テメエの偏見を俺に押し付けるな。

だがまあ、親にもらったこの名前のまま、殺人鬼になるっていうのも悪い気がするのも確かではある。
が、
「いいだろう。貴様が自分に見合った名前を持たぬと言うのならば、俺がつけてやる」
いらん。あんたのセンスは間違ってる。
「そう言うな。そうだな、貴様は殺人鬼の中の殺人鬼、異端の異端、極致の飽和だからな、」
男は何を言っても止まらない。
まあ、そういう奴だった。


気の済むまで、いや飽きるまで言いたい事をいって、人類最悪は去っていった。
あらためて、嫌なものに絡まれたと思う。
だがまあ、やつのふざけた態度で気が抜けたし、
やつが残した『名前』、その名付けの理由は、俺の今後を決める上で指針になったと言えるだろう。
最悪で災厄の害悪ではあったが、無価値ではなかったということか。


長門が、俺の隣にいる。
俺を、見つめている。

「どうするの」

長門は静かに、訊いてくる。
俺はその問いには答えずに、笑う。

「いや、なんというか、俺にもやるべきことがあるような気になってきた」

「そう」

「お前は、どうする?」

「私は、貴方を守る」

「そうか」

そして、歩き出す。





とある、町。
廃墟の立ち並ぶ郊外。

爆音が、幾重にも重なって響く。

「あー……どういう状況だ?」

瓦礫が生まれる音、瓦礫が崩れる音がする。

「おそらく、『彼』と彼を処分するために来た者が争っている」

ああ、なるほど。
あんな見境のない殺人愛好者が社会に放置されるわけもないな。
あいつを処分……捕獲だか殺害だかに来た奴に、あいつが抗ってるわけか。

「だが、あいつと戦えるっていうのはすごいな。特殊部隊とかそういうのか」
あいつは殺人鬼。殺しの技に長けているし、そして一切のためらいを持たない。
普通の人間では相手にならないと思うが。

「彼の相手も、彼のような存在の処分を専門職としている存在」
なんだそりゃ。公安零課とかそんな感じか。
「例えが分からない」
すまんな。こう、分かりやすく言い換えるとどういうやつらなんだ。
「俗に言う、暗殺者」

「暗殺者、ねえ」
爆音が響く。
またひとつ、廃アパートが崩れる。
「こんな派手な戦場だと、いまいち似合わん言葉だ」
それにしても、そんなものに狙われてあいつは大丈夫なのかね。
「今の彼では、生存できる可能性はほとんどない」
「そうなのか?」
「『彼ら』は『彼』のような存在も殺す殺人の専門職。『彼』では敵わない」
「……恐ろしいな。何者だよ、そいつら」
「彼らの呼称は――『匂宮雑技団』」

「雑技団? 変わった名前だな」
「あくまで呼称。匂宮という一族の通称。それと、今『彼』と争っている『彼ら』はその一部に過ぎない。
匂宮という一族そのものならばこの場所は彼らで埋まる」
「どんな団体様だ……じゃあ、その匂宮とやらは今はここに何人いるんだ?」
「四人。………三人」
「? 何で減らしたんだ」
「一人、今貴方が殺した」
「あ。」
いかん、気付かなかった。

少年と言えるような年齢の死体に、軽く頭を下げる。
「すまん。殺しちまった」
これで二人目だ。
ついに俺も連続殺人犯に。
ん?

「どうして止めなかったんだ?」
これまでは俺が犯行を重ねるのを防いでくれていた伴侶に訊いてみる。
長門は、分かっていることを確認するように、答える。

「貴方はこれから、彼らを殺す」
「ああ」

「なら、止める意味はない」
「そうか」


二人で。
爆音の響く方向へ。


「ぬおわあああああああああああ!!!!!!!」

元気な声と共に、爆音がまきちらされている。

「くそ! 来んなあ! 肉片にすっぞおらあああ!!!!
粉塵爆発させっぞ瓦礫に埋めっぞとどめに上から乗っかかってやんよおらああああ!!!!
ていうか火薬尽きるんだよ手榴弾もうねえんだよいい加減種切れなんだようおらああああああ!!!!!」
元気ではあるがすでに半泣きだな。
まあ四対一とかいじめだしな。
というかよく生き残ってるな。さすがは現行最高の殺害数を誇る殺人鬼。
などと感心してる場合でもないか。

「よう。大変そうだな」
「うわあああ!!!!
ってくそ兄ちゃんかよ驚かすなよ心臓破裂すっかと思っただろおらあああああああ!!!!!」
「泣くな泣くな。男がそんな簡単に泣くもんじゃないぞ」
「ないてねーよおらあああああああああ!!!!!!!!」

限界状況にあって怒っているのか泣いているのか安堵しているのか分からないリルをなんとかなだめて、
「とりあえずまだ生きててくれて良かったよ」
リルの頭を軽く叩く。
「ばっ、馬鹿にすんな! だれが死ぬかよてゆーか子供扱いすんじゃねー!!」
「やれやれ」
「くそっ、なめやがって! オイラが本気出せばこんなやつら!!」

「本気を出せば。どうなるというのでしょう」

間近から、声が聞こえた。
「ひっ、」と、リルは怯むが、俺は特に思うことはない。
気付けば、すぐ後ろに見たことのない少女の死体があった。

「……無粋ですね。いきなり人の仕事場に乱入したかと思えば、
場の盛り上がりも何もかも無視して口上の途中で殺すなんて」

一人、いや二人目を殺して警戒させてしまったか。
今度はどこから声がするかわからない。

「誰ですか、あなた」

誰ですか、と聞かれれば。答えてやるのが世の情け、か。
といっても、キョンとか、ジョン・スミスとか、あるいは最悪曰くつまらない本名では、場にそぐうまい。

(『貴様は殺人鬼の中の殺人鬼、異端の異端、極致の飽和』)

あれか。今がまさに、

(『異端なまでに純粋で。異形なまでに完全な。始点にして終点たる円環』)

『俺』の、終わり時で、

(『他と和することもなく。始まりの一でも始まらぬ無でもなく。全にして焉。完にして終』)

『俺』の、始まり時か。

(『ゆえに貴様は零。零にして零。貴様のつまらぬ名に、貴様に相応しいこの概念をあててやろう』)


「俺の名か」


(『字にひとつ。名にひとつ。貴様のつまらぬ名は、貴様に相応しき名と成ろう』)


「―――――零崎、零識だ」


死体から。ナイフを、奪う。


異端の中で、唯一完全にして純然。
完成形にして極致たる殺人鬼。

ゆえにこそ、俺が導こう。
弱き同類たちを。
悲しき子供たちを。

俺たちは。一人では生きていけない。
いくら強かろうが、一人というのはよろしくない。
だから、群れようじゃないか。
殺人鬼同士で。同類ゆえに。

殺意など持たず。だが完全であるゆえに同類を理解し得る。
俺が父となり、弱者達の群れを作ろう。

殺しなど、戦いなど知ったことではない。
俺はただ、俺であろう。
殺人鬼にして、弱き群れ。
ああ、俺達は―――

「―――――さあ、」

となりで呆然と俺を見ている弱き同類に。
見えないところで怪訝げに俺を見ている弱き敵に。
そして、俺の後ろから俺を見守っている俺の伴侶に。

旋律するように、宣告する。

「 ―――― 零崎を、始めよう 」




完全であり純粋にして極致たる究極の殺人鬼が。
小さく弱き一賊を作り、父と呼ばれることも。
不敗にして無私にして極致たる絶対の殺人鬼が。
伴侶と共に子らを育て、母と呼ばれることも。
彼らの子らが、それぞれでつづる小さき生き様も。

それはまた、別の物語。


― 完 ―