雨は未だ止まず ◆q/26xrKjWg


 ゲイン・ビジョウは市街地を進んでいた。慎重に、ゆっくりと。
 パチンコとトンカチという武装とは程遠い装備では、武装した襲撃者に対抗するのは極めて困難だ。故に慎重を期さなければならない。
 既に局所的な戦闘が始まっている。爆音や銃声、遠方に炎上する建築物までをも確認していた。
(ピープル同士の殺し合い、か)
 名簿に記載されていた80人のうち、自身とゲイナーを除いた78人。それらがどんな人間か、ゲインには分からない。中には殺人を是とする人間もいるかもしれない。そうでない人間がそうでないままであるとも限らない。
 不安。恐怖。怒り。憎しみ。悲しみ。あるいは愛も。そういった感情は、人間の理性を容赦なくすり減らしてゆく。
 そして理性を失った人間は、容易く互いに殺し合うのだ。
 今の自分では、殺し合いを止めることはできまい。自身を守ることだけですら危うい。そもそも、ギガゾンビが首輪の爆弾を破裂させただけで自分の命は尽きる。
 迂闊な行動はできない。
 そのことに歯痒さを覚えるが、かといって絶望するつもりは毛頭ない。
(それでも、必ずいるはずだ。希望を失わない人間が)
 共にエクソダスを目指す仲間が。
 それを探すために、危険があると分かっていてもこの市街地を彷徨っている。戦闘には近付けないとしても。ゲイナーと再会できれば理想的だが、会えずとも彼は彼で自分のやるべきことをやっているはずだ。その点に不安はない。

 そして、僅かに残る血の臭いを警戒しながらも、雨の中でゲインが見付けたのは――

   ―― Umi Ryuuzaki sleeps here :1980~2031 ――

 ――そう刻まれたコンクリートの破片だった。

 空き地。土を掘り返した形跡。突き立てられた青い剣に、西瓜が一つ。意味するところは一つしかない。
 これは墓碑だ。
(ウミ・リューザキ。名簿にあった名前だな)
 彼だか彼女だかを殺した者がわざわざ埋葬したのか、その亡骸を見付けた者が哀れんで埋葬したのか。亡骸が身分を示すものでも持っていたならば、どちらも有り得る。
 絶望を抱いて死んだのか、希望を託して死んだのか。この墓の下で眠るウミ・リューザキは。それもまた、どちらも有り得る。
 どちらなのかを知る由はない。少なくとも、80人が79人に減った――それだけが厳然たる事実。
 装備の足しに剣を持っていこうかとも思ったが、やめた。たとえこのような状況であっても、死者を冒涜するのは気が引けたのだ。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 雨が降ってきたが、それでも獅堂光は歩みを止めなかった。
 身体は悲鳴をあげている。理屈から言えば、どこかで身体を休めて多少なりとも回復するのを待つべきだ。だが、彼女を突き動かすものは理屈ではない。
(……海ちゃん、風ちゃん)
 それは意志だ。
 親友達との再会を求める、光の意志。
 信じる心が力になる――かつて彼女達が冒険を繰り広げたセフィーロという世界は、そういう世界だった。
 ここはセフィーロではない。そしてセフィーロと同じように、信じれば必ず救われる世界でもないだろう。
 それでも、光は信じていた。
(三人で、一緒に帰るんだ。東京に!)
 その願いを叶えられると。叶えてみせると。
 だから、足を前に踏み出すことができる。
 雨に打たれ、身体が冷えてゆくのを感じる。しかし、それ以上に熱い何かか自分の胸の奥にあるのを感じる。
(きっと大丈夫。セフィーロでの悲しい戦いだって、三人一緒に乗り越えられたんだ。ここでだって――)
 彼女の思考は、そこで唐突に途切れた。

 自身に何が起こったのか。まずはそれを理解しなければならない。
 光は必死に暴れながら、自分の喉に食い込む太い腕に指を突き立てる。身体の痛みを気にしている余裕はなかった。片腕の自由が効かない。後ろ手に極められている。驚いて武器――といっても単なる鉄の棒だが――も落としてしまったようだ。
 理解できるまでに、とても長い時間を要したような気がする。実際には数瞬でしかないのだろうが。
 涙で視界がぼやける。しかし、関係なかった。前には誰の姿も見えていなかった。
 ここがどういう場所なのかを思い知る。自衛できなければ、親友達と再会する前に自分が死んでしまう。
(そんなのは――嫌だ!)
 思い浮かぶ『言葉』。
 そう。それを言いさえすれば、この危機を覆すことができる。誰よりも彼女自身がそう信じている。
「炎の――」
 だが、光はそこで『言葉』を止めた。
「……手荒な真似をしてすまない。落ち着いて話を聞いてもらえないか?」
 ようやっと、光も気付いたのだ。
 さして強く締め上げられているわけではないことに。混乱して暴れることで、余計に食い込んでいただけだったことに。
 相手にこちらを殺すつもりがないことを悟って、光は安堵の溜息を漏らした。

   ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 見れば、相手はまだ幼さの残る小柄な少女だった。サラよりは下、アナ姫よりは上。微妙な年頃だ。
(見える範囲に武器はない――せいぜい取り落とした鉄の棒ぐらい。服の下に何か隠し持っている様子もない。それに、落ち着きを取り戻してくれたようだ)
 それまでに腕に指を突き立てられたり、向こうずねを散々蹴られたりもしたが、大した問題ではない。
 十分に状況を吟味して、ゲインは対応を決めた。
「俺はゲイン・ビジョウ。君は?」
「私は、光――獅堂光」
「ヒカル、か。これ以上君に危害を加えるつもりはない。しかし――」
 彼女を解放する。さりげなくデイパックを奪いながら。
 ふらふらと自分から離れて咳き込む光は、それに気付いた様子もない。
「――ついうっかり、で殺されたりするわけにもいかない。少し預からせてもらう」
 彼女はこちらを確認するでもなく、濡れた地面にへたり込んでいた。
 張り詰めていた糸が切れたのだろう。
 彼女の足音を聞き咎めた時から、予想はしていた。歩調が一定ではなかった。疲労が激しいのか、あるいは怪我でもしているのか。
「ともかく、どこかで雨宿りをしよう。ヒカルには休息が必要そうだ」
 万全とは言えない状態で、この雨の中を出歩くのは得策ではない。丈夫で体力的にも余裕がある自分とは勝手が違う。無理をさせるべきではない。

 だが、彼女は退かなった。
「……そんなこと言っていられないよ。探さないと。海ちゃんと風ちゃんを」
 決然とした意志。それが、雨に濡れた髪の合間から覗く彼女の瞳に宿る。
(悪くない目だ)
 しかしながら、光の無謀を許容するわけにはいかなかった。意志の力というものは確かにある。が、意志だけで全てを解決できるほど世の中は甘くない。
「そんな簡単な話でもないぞ? もし俺がその気になっている奴だったなら、さっきの時点で君は死んで……」
 ――死。
 そう、ゲインは気付いてしまった。残酷な現実に。
「……ウミだって? もしかしてウミ・リューザキのことか?」
「ゲイン、海ちゃんのことを知っているのか!?」
 彼女は気力を振り絞って立ち上がった。そのまま自分に掴みかかってくる。実際に自分を揺り動かすほどの力はなくとも。縋り付くようであったとしても。
 避ける必要はなかった。だからゲインは避けなかった。
 躊躇はある。それでも言わねばならないだろう。だからゲインは口を開いた。
「ウミは――」
 ゲインの言葉は続かなかった。最後まで続ける必要もなくなった。

 ――放送が始まったのだ。

【E-5市街地 1日目 早朝】

【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:良好 ※雨で濡れています
[装備]:パチンコ(弾として小石を数個所持)、トンカチ
[道具]:支給品一式、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど) 、光のデイパック
[思考]
第一行動方針:海のことも含めて情報交換、まずは光を休ませたい
第二行動方針:市街地で信頼できる仲間を捜す
第三行動方針:ゲイナーとの合流
基本行動方針:ここからのエクソダス(脱出)

【獅堂光@魔法騎士レイアース】
[状態]:全身打撲(歩くことは可能) ※雨で濡れています
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
第一行動方針:ゲインから海のことを聞きたい!
第二行動方針:海、風との合流
基本行動方針:三人揃ってこの場所から脱出する
補足:可能であればギガゾンビを打倒

※光のデイパックの中身は以下の通りです。
支給品一式、ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、デンコーセッカ@ドラえもん(残り1本)

※クラッシュシンバルスタンドを解体したものは地面に落ちています。

※E-5の雨はまだ降っていますが、朝のうちには止むでしょう(黎明~朝で4時間)。


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42:請負人 ゲイン・ビジョウ 112:くじけそうになったら涙を
82:暴走特急は親友の夢を見るか 獅堂光 112:くじけそうになったら涙を





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