第61話 金髪に赤いバンダナ



焼け落ちる分校を背にチェスターは北へ向かった。
この様子では消火は不可能。…あの少女の遺体も分校と共に燃えてしまうだろう。
埋葬してやりたかったが、もうそれも絶望的だった。
嫌な言い方だが、死んでしまった人間よりは生きている人間を優先しなければならない。
「無事でいろよ…みんな…!」


チェスターは森の中を進む。
体中にダメージが残っている今の状態では、正直殺し合いに乗った奴に会ったら間違いなく負けてしまう。
だから周りから目撃されやすい道でなく、森を進む事にしたのだ。
危険でない者からも見つかりにくくなってしまうが仕方ない。
昨晩から一睡もしておらず、燃えさかる建物の中を疾走して蓄積された疲労と少女を救えなかった無力感は、確実にチェスターの体を蝕んでいた。
「…クソッタレ」
言うことを聞かない体に、何も出来なかった自分に毒づく。
こうしている間にも殺人鬼が暴れ回っているかもしれないのに。
仲間が襲われているかもしれないのに。
焦る思考と反比例するように、彼の足はどんどんスピードを落としていく。
ついにその足は完全に止まり、チェスターはその場に座り込んでしまった。


何をやってるんだ俺は。
わざわざ危険を冒して分校へ入って。
あの少女は救えず、殺した相手も確認できず、残ったのは自分へのダメージだけだ。
そしてこうして動けなくなっているんだから、なんてザマだ。
座り込んでる場合じゃないってんだ。

…いや、落ち着け。
今ここで無理をして、この状態で戦えるのか?
仲間を、力のない者を守れるのか?
答えは…否だ。
無茶をしたところでどうにもならないという事は、さっき身を持って知ったじゃないか。
そもそも敵に見つかるのを避ける為に森の中を進んでいるんだ。
今は体を休め、来るべき戦いに備えるのが得策なんじゃないか?
(頭では分かってるんだけどな)
そう、頭では分かっている。だが心が納得しない。
(クレス、ミント、クラース…アーチェ。無事でいろよ…)
自分と同じくここに来ている筈の仲間に思いを馳せる。
大丈夫だ、あいつらは強い。こんな所で死ぬような連中じゃないさ。
そう自分に言い聞かせる。
その直後、定時放送が流れた。

上空に主催者ルシファーの姿が映し出され、死亡者の名前が読み上げられていく。
その放送でチェスターは、宿敵であるダオスの名前を聞き。
そして。
ミントの死を、知った。




ミントが死んだ。
それを知った俺は、ただ呆然としていた。
ミントは優しく、清楚で、慈愛に満ちた人間だ。殺し合いに乗るなんて考えられない。
殺されたんだ。誰かに。
「クレス…!」
クレスは大丈夫だろうか?彼の悲しみはきっと自分の比じゃない。今の放送を聞いて、どう思っているだろう?

放送では13人の名前が呼ばれた。
最初に殺されてしまった二人を含めて参加者は64人、死者は15人だから既に1/4の参加者が死んでしまった事になる。
そんな中ミント以外の知り合いの名前が呼ばれなかったのは不幸中の幸いかもしれない。勿論素直に喜ぶなんてできるわけないが。
呼ばれた名前の中には、きっと分校で殺されていたあの少女の名前もあったのだろう。
そして死者となった15人の中には、ミントの他にもう一人チェスターのよく知る名前があった。

ダオス。
妹の…アミィの仇。

この手で殺せなかったのが心残りだが、ダオスが死んだのは朗報だと思うべきなんだろう。
それは分かっているのだが、少し気が抜けてしまったのは事実だった。
気合いを入れ直すため、チェスターは自分の両頬をひっぱたく。
(まだ、やる事はたくさんあるからな)
力の無い者を守る。クレスやアーチェ達と合流する。そしてあのルシファーとかいうふざけた野郎を殺す。
こんな所で死んでたまるかってんだ。



歩けるくらいまで休んだ後、チェスターは再び移動を開始した。
程なくして道に出る。
地図を見ると、恐らくF-3の道だと思われる。
この数時間でこれだけしか移動してないのかと軽く自己嫌悪に陥りつつも、チェスターはどちらへ向かうべきかを考えた。
(西に行けば平瀬村…東に進めばホテル跡、か。人が集まるとすれば村の方だと思うが…)
人の気配を感じたのはその時だった。
あまり気は進まないがエンプレシアを取り出して装備し、構える。
「誰だ?そっちに殺し合う気が無いなら、俺は争うつもりはないぞ」
気配のした方向に呼びかける。するとその方向から、チェスターより少し年上であろう青年が現れた。
「…俺も争う気は無いよ」
そう言って青年は持っていた剣を足下に置いた。
「俺はルシオ。人を探しているんだけど…」
「…悪いが、俺は生きてる人間に会ったのはあんたが初めてなんだ」
ルシオと名乗る青年の質問にチェスターがそう答えると、ルシオは「そうか…」と溜息をつく。
「俺はチェスターっていうんだ。俺も人を探している」
チェスターも自分の探し人を尋ねようとした。
「俺が会ったのは今の所、君を除いて二人だけだね」
「どんな奴だ?」
「一人は赤い髪をした壮年の男だった。この男は人を襲っていたから、殺し合いをしようとしてると思う。気を付けた方がいい」
「じゃあ、その襲われていた奴ってのが…」
「ああ。何とか助け出して応急処置もしたから大丈夫だと思うけど…。
ちょうど俺や君と同じ年くらい青年だったな。金髪で、赤いバンダナを巻いてて…」
金髪に、赤いバンダナ。
チェスターの頭の中に同郷の親友の姿が思い浮かぶ。
「おい、そいつはどこにいるんだ!?」
突然様子が変わったチェスターに、ルシオは思わずたじろぐ。
「彼ならこの先のホテル跡で、まだ眠ってると思うけど…」
「ホテル跡だな!?分かった!」
それだけ言うとチェスターはルシオに背を向け、道を東へと走り始めた。
「あっ、君、ちょっと…」
ルシオが呼び止めようとするが、もう聞こえないとばかりにチェスターは止まらなかった。


(プラチナの事を教えておけば良かったな)
走り去るチェスターの背を見ながらルシオは少し後悔した。
先程の放送…ルシオの知る名前も、何人か呼ばれていた。
レナスが簡単に負けるとは思えないが、不安は大きくなるばかりだ。
何しろあのアース神族の二級神であるフレイが既に殺されてしまっているのだ。どんな強敵がいるのか分からない。
「俺も急がなくちゃ」
そう呟くと、ルシオはチェスターとは逆の方向…平瀬村へと向かった。



二人が去ってからすぐに、修道服を着た一人の少女が物陰から姿を現した。
その少女ミランダは、先程から隠れてチェスターとルシオの会話を聞いていたのだ。
「あのお二人…チェスターさんとルシオさん…と言っていましたね」
チェスターが去っていった方向とルシオが去っていった方向を交互に見ながら、ミランダはどちらを追うべきか考えた。
正直な話、まともに戦って自分が優勝できるとは思えない。
支給アイテムも、時限爆弾にパニックパウダーと白兵戦で使う武器としては不向きな上、何度も使える物では無い。
だからこそ使い方と使い所が重要だ。
理想的な形としては、複数の参加者が一箇所に集まったところで爆弾をドカン。
もしくはパニックパウダーで混乱させ、乱戦を引き起こして相討ちさせる。
いずれにしろこのアイテムを活かすには、上手く参加者を集める事が大切だ。
そしてこの六時間で既に1/4近くの死者が出ている。自分が何もしていないにも関わらず、だ。
直接手を下さなくても、充分優勝できる見込みがある。
「幸いお二方ともお人好しそうでしたし…お二人について行けば人数を集めるのも容易にできそうですね」
少し思考した後、ミランダは歩き始めた。

「そうです、この殺し合いもきっと神の試練。私達の信仰心を試していらっしゃるのです…」

それならば、自分は負けない。
自分はこの参加者の誰よりも、神を信仰しているのだから。


「全ては、神の御心のままに…」



【F-3/真昼】

【チェスター・バークライト】[MP残量:100%]
[状態]:全身に火傷(命に別状は無い)、左手の掌に火傷、精神的疲労(だいぶ回復)、焦り
[装備]:なし
[道具]:スーパーボール@SO2、エンプレシア@SO2
[行動方針]:力の無い者を守る(子供最優先)
[思考1]:ホテル跡へ急ぐ
[思考2]: クレス・アーチェ・クラース・力のない者を探す。
[思考3]:分校に火を放った者を探し、殺す。
[思考4]: クレス・アーチェ・クラースと子供を除く炎系の技や支給品を持つ者は警戒する。
[現在位置]:道を東に移動中
[備考]:※ホテル跡にいるのがクレスだと思っています。

【ルシオ】[MP残量:100%]
[状態]:普通
[装備]:アービトレイター@RS
[道具]:無敵ユニット、確認済の支給品×0~1、荷物一式
[行動方針]:知り合いと合流(特にレナス)
[思考]:平瀬村へ向かう
[現在位置]:道を西に移動中

【ミランダ】[MP残量:100%]
[状態]:正常
[装備]:無し
[道具]:時限爆弾@現実、パニックパウダー@RS、荷物一式
[行動方針]:神の御心のままに
[思考1]:チェスターとルシオのどちらかの後を追う
[思考2]:直接的な行動はなるべく控える
[思考3]:参加者を一箇所に集め一網打尽にする
[現在位置:道を移動中

【残り45人】




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最終更新:2008年12月06日 03:51