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第101話 今夜の沖木島は所により一時棺桶、その後に炎が降るでしょう。ご注意下さい(後)


「あ゛ががあ゛……あ゛ががあ゛……!!」
(顎があ……顎があ……!!)
顔面を木の幹に陥没させたロキの顔面は、棺桶を食らった直後からこの先、作画崩壊したまんま戻る気配はなかった。
一挙一動のたびに周囲のモブキャラが「ざわ…ざわ…!」する、
どこぞの闇に降り立った天才を連想したくなるような、
まともな人間ならありえない奇怪なプロポーションを手に入れたロキの顎は、
ブラムスが棺桶に乗って空から飛び込んでくる、という奇襲作戦の結果と言わざるを得まい。
簡潔に説明しよう――ロキの顎は棺桶の角をモロに食らって、その拍子に脱臼を起こしてしまったのだ。
文字通り顎の外れたロキは、目の前の怪人を前に、自らの無力化を悟らざるを得なくなる。
仏像の仮面を着け、袈裟をまとい、ツルッパゲも同然のカツラの下からボサボサの長髪をはみ出させる、
この謎の変態仮面を前にして。
「あ゛ががあ゛……あ゛ががあ゛あ゛があ゛があ゛がががあ゛!」
(畜生……これじゃあ魔術が使えない!)
その変態仮面の正体がブラムスであるなどとは夢にも思わぬロキは、その事実を思い知らされることになる。
呪文詠唱の封印……すなわち自身の戦闘力の大半の欠落を。
魔術師がその身に秘める魔術の力は、敵に回せばもちろん恐ろしい。
その口から放たれる呪文によって、破壊や再生を思う存分に巻き起こされては、勝利を手にすることも覚束なくなる。
だが逆を言えば、魔術師などその口を封じてしまえば、ただの木偶の坊に成り下がる。
舌を切り落としたり顎を砕いたり、猿ぐつわを噛ませるなどすれば、もはや呪文の詠唱は不可能。
ブラムスはロキの顎を脱臼させることで、それを結果的に成し遂げてしまったのだ。
顎が外れた状態で、まともに言葉を喋れる人間など存在するまい。
それは肉体のマテリアライズを強要された神族であっても、また同じこと。
「あ゛ががあ゛あ゛あ゛がががががががあ゛があ゛ががががが……!」
(肉体のマテリアライズが解除できれば……!)
ロキは外れた顎で、必死に言葉を放とうとして、結局その言葉にならない呻き声を生み出すしか出来ない。
もちろんロキの思うことが可能であれば、この場で直ちにマテリアライズを解除し、
その後「ディヴァイン・マテリアライズ・エナジー」……すなわち「DME」と通称される、
霊的存在を物質化させるエネルギーを、再度己の魂に注入して肉体を再構成すればいい。
多少のDMEの損失に伴い、肉体的ダメージは残るが、外れた顎は元通りになる。
だが、この島ではエインフェリアや神族と言った、本質が霊的なものである存在は、
その身を常時マテリアライズさせておくことを強要され、自らの意志で解除することは出来ない。
結果として、ロキは再度自力で顎を嵌め直すほか、魔術の使用を再び可能とする手段は残されていない。
そしてそれがどれほど凄まじい苦痛を伴うか、想像には難くは無いだろう。
キュア・プラムスのような回復魔術を併用し、痛みを和らげようにも、そのためにはまず顎を整復せねばならない。
禅問答じみた、なかなかに難儀な話である。
それ以前に、今のロキにそんな苦行じみた整復作業を、のんびり行う暇があるかと問われれば、
その答えは「否」だろう。
何せ、目の前には謎の変態仮面……もとい「不審者王」ブラムスが存在しているのだから。
(そう言えば、観音堂でレザードと話をした際に聞かされたが――)
ばつん、という何かが弾けるような音が辺りに響き渡った時、怪人の姿はただの残像に成り下がっていた。
もちろんブラムスが行ったのは、超高速の踏み込み。
ブラムスが一瞬前まで立っていた地面には、その踏み込みで陥没した足跡のみが残される。
歩幅にして大股の6歩分程度だった彼我の間合いは、たちまち0。
拳の間合いにまで、詰められる。
(ヴァンパイアの拳士は、その掌打の連撃を叩き込むとき、『このかけ声』を伴うのが伝統とされているらしいな)
ロキはこの変態仮面を前にし、DMEにより与えられたかりそめの肉体を包む肌が、全て粟立った。
「あ゛ががあ゛……あ゛ががあ゛……! あ゛がががんがががががあ゛ががががあ゛ががががががあ゛がんが――!!」
(畜生……畜生……! 俺がこんな情けない死に方をしなきゃならないなんて――!!)
ロキの目前にまで迫る怪人は、すでにその腕を大きく振りかぶっている。
(我はそのような伝統など聞き及んだことは無いが――だが一興にはなるだろう。ひとつ、試してみるか)
ロキは怪人の構えからして、彼がこれから何をやらかそうとしているのかは分かっている……
分かりきってしまっている。
拳を用いた己の連打。
右手を用いたものでもない。
左手を用いたものでもない。
言うまでもなく、両方を用いたもの。
ちなみにここまでの流れで「もしかしてオラオラですかーッ!?」と思った者がいたなら、
残念ながらそれは不正解と言わなければならない。
ブラムスは「不審者王」……もとい「不死者王」――不死者の王族であるヴァンパイア達の、そのまた王なのだ。
ならば、次に来るフレーズは決まりきっている。
ずばり言って、これだ。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
(ちなみこれからおよそ7レス半ほど「無駄無駄」のラッシュが続きますが、
容量削減、さるさん回避、作者がコピペに飽きたなどの諸般の理由で中略とします。よって中略)
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」
ギギギギギャイーーーンギャリギャリギャリンッ!
ドカシッゴボッグガガガガガガボガボ!!
ガココココココバキバキバキャキャキャ!!!
ガコッガコッガコッガコッグゴゴゴゴゴ!!!!
グモッチュイーーンボゴゴゴゴゴ!!!!!
仮面の怪人がロキをフルボッコにするときの効果音を表すとすれば、上記のような感じだろうか。
フェイトとエルネストは、その様子をただただ唖然と見守るばかり。
「すごい……あの怪人……時間を止めながら戦ってる……」
フェイトは、ぽつんとこぼした。
「いや――さすがにそれはないと思うのだが……」
エルネストは少々淀みのある言葉でフェイトをたしなめる。
だが、フェイトの発した感想は決して的外れなものとは言えまい。
フェイトやエルネストらは、もちろん多くの荒事を経験した歴戦の戦士ではあるが、
その彼らの戦士としての動体視力を以ってしてすら、あの怪人の掌打の嵐は、
複数の拳の残像が次から次に現れては消え、そしてロキの全身に突き刺さっているようにしか見えない。
クラウストロ人であるフェイトの仲間……
クリフですら、これほどの超高速の拳打を見舞うことは、果たして可能だろうか?
フェイトは怪人の奇行と紙一重の偉業を呆然と見つめながら、思考してみる。
いっそのこと、時間を止めるか消し飛ばすかして、あのハチャメチャな手数を稼いでいるとでも考えた方が、
よっぽど納得行ってしまうと考えたくなる誘惑に駆られるのは、人間として当然のものだろう。
ちなみに言っておくと、この猛打はもちろんあの怪人ことブラムスが、自力で成し遂げたものである。紛れもなく。
さて、ロキの全身がサンドバッグよろしく滅多打ちにされ、
そろそろ彼にも人生ならぬ神生終了のお知らせが届くめどが立とうとした、その瞬間。
怪人は、ロキの鳩尾に強烈なアッパーを見舞い、一気に上空に振り抜く。
再度ロキの背は木の幹に叩きつけられ、その木の幹すらも怪人の超絶的な拳打に耐え切れず、木っ端微塵に爆砕される。
ロキはその木の幹から巻き起こった木屑を全身にまとい、勢い良く上空に舞い上がった。
怪人も、上空に吹き飛ばされたロキの後を追い、空へ向かい跳躍。
その背に月を負う怪人の頭に着けられたヅラが、月光を反射しまばゆく輝く。
(なるほど……存外このかけ声も悪くないやも知れぬな。
それではロキ――念のため貴様は、我の持つ最強の奥義で止めとさせて頂こう。
最後の最後まで決まれば、万に一つ――否、億に一つも貴様が生き残る目は存在しない。
呪うのならば、このような形で我と対峙する事になった、己の不運を呪うがいい――!)
ブラムスは空中で大きくその右拳を引き込み、肉体を流れる不浄の闘気を集結させる。
(轟然たる我が魔力の胎動――!!)
超高密度の余り、鮮血と見間違えんばかりのつややかな緋色を帯びた闘気が現出し、ブラムスの右手を覆う。
ブラムスはその右手を、容赦なくロキの胴体に叩き込む。
ロキはまだ辛うじて途切れてはいない意識で、詠唱なしで展開可能な急ごしらえの魔力防壁を生み出すが、
そんなものは彼の身を守るためには、何の役目も果たしていないも同然。
ロキの結界を軽々突き破り、ブラムスの拳はロキにクリーンヒット。
たちまちロキは空中で跳ね飛ばされ、一気に地面目指して急降下を始める。
だがそのまま地面に激突を許すほど、ブラムスの拳は生温いものではない。
まるで瞬間移動でも行ったのではないかと錯覚するほどの超高速で、
ブラムスはロキの速度を超えるほどの勢いで急降下――足の下で闘気を練り固め、
その練り固めた闘気を足場として、一気に地面に降り立ったのだ。
なす術もなく落下してくるロキのどてっ腹に、二撃目のアッパーを見舞う。
ロキは最初の一撃を受けた時に倍加するほどの衝撃を受け、再度天に舞い上がる。
もしロキが結界を張ることを放棄していたなら、ロキの腹にブラムスの拳が槍のように突き刺さり貫通していただろう。
再度ブラムスもロキに合わせ、天に向けての跳躍。
打ち上げられたロキの体が最高点まで跳ね飛ばされた瞬間を見計らい、下段への掌打。
ロキは倍速で地面に吸い寄せられるが、その着地点にやはり先回りしていたブラムスは、
そこから三発目のアッパーカット。
宙に舞い上がったロキに向け、ブラムスは更に地上から追い打ちのアッパーカット。
吹き上がる緋色の闘気が、ロキの肉体をズタズタに引き裂いてゆく。
(奥義――!!)
ロキはこの瞬間、死を確信した。
次に来るであろうフィニッシュブローが炸裂すれば、この肉体に残されたDMEは僅かも残さずに削り落とされる。
そうなれば、待つのは死……おそらくは、魂すらも砕かれる!
ブラムスは右手に全ての闘気を集結させる。
渦巻く鮮血の瘴気がブラムスの周囲の植生を次々と枯死させ、そのただならぬ力の昂ぶりを示す。
フェイトは、エルネストは、この一撃の成功を祈り、目の前で大暴れする謎の怪人を見つめ続ける。
(カツラが――光っ……!!!)
魔界のそれを思わせる瘴気が間欠泉のように炸裂。
怪人の着けたヅラが、禍々しく輝く瘴気を受けてきらめくのを、ロキは見続ける羽目になる。
ロキの視界が、鮮血の闘気で埋め尽くされたその刹那――。
怪人は、突如転身。
このまま振り抜けば完全勝利は確定だったはずの拳を止め、ロキに背を向け走り出した。
(!!?)
ロキは混濁しかける意識の中、怪人の行いに驚愕し一瞬限りその脳裏に空白を作る羽目になる。
だがロキは、怪人の行った本来ならばありえない奇行(そもそもこの怪人ことヅラムスは、
本来ありえない奇行ばかりやってるじゃないか、というツッコミはこの際無視する)の理由を、すぐさまに理解する。
なるほど、確かにこれでは自身に叩き込もうとした、そのフィニッシュブローを止めざるを得ないわけだ、と。
空の一点から、迸る閃光。
そこから一気に広がる、渦巻く爆炎。
怪人は、その爆炎の中心点の真下にまで一気に走り込み、そこで本来ならばロキに炸裂させるはずだった、
フィニッシュブローを繰り出す。
緋色の闘気の間欠泉が、大地から吹き上がり、荒れ狂う。
本来ならばこの闘気の間欠泉に相手を巻き込むことで、怪人ことブラムスの奥義は完成するが、
ブラムスはそれでは足りないと即座に判断。
何とブラムスは自らが発生させた闘気の間欠泉に飛び込み、その噴出の勢いに自らの脚力を追加。
地上に残像を残すほどの疾風迅雷の跳躍と共に、全エネルギーを集約させたその右手で、渾身のアッパーカット!
「――ブラッディカリス!!!」
「スピキュゥゥゥゥゥゥゥル!!!」
地上から吹き上がった、闇の闘気。
天空より猛襲する、爆炎の流星。
二者は天と地の狭間で炸裂し、閃光が夜闇を引き裂く。
二者の衝突が巻き起こした烈風が周囲に広がり、轟音と衝撃波が沖木島の夜を揺らした。

   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇

辺り一面の林は、先の闇と炎の正面衝突で、更地の一歩手前にまで荒れ果てていた。
瘴気に触れた木は枯れ果て、熱気に晒された木は炭化した。
今この林を上空から見れる者がいたのなら、彼または彼女は林の一角が抉り取られ、
さながらクレーターのようになっていることに否応なく気が付くだろう。
「……まったく、随分と無茶苦茶な伐採作業もあったもんだな」
言うエルネストは先の爆風に巻き込まれるも、幸いにも後頭部などの急所を打つ事はなかった。
幸か不幸かロキが結び付けた縄のお陰で、爆風の巻き添えでどこかに吹き飛ばされることなく助かったのだ。
そしてそれは、フェイトにとっても同じこと。
「同感です、エルネストさん」
もしロキの縄が彼らの身を木の幹に繋ぎ止める事がなかったならば、今の爆風の拍子に死傷していたかも知れない。
フェイトはその可能性を想像し、ぞっとしない思いに駆られた。
彼らの近くで、小さな光。
ロキがブラムスに奇襲されたとき、取り落としたと思しきストライクアクスの欠片。
すでにその刃に熱はなく、すでにただの白刃に成り果てている。
先にそれに気付いたのは、フェイト。
(! そうだ……あれさえあれば!)
フェイトは尺取り虫よろしく、胴体を縮め、伸ばし、また縮め、で刃の欠片に近寄る。
エルネストもフェイトのその動きをもって、ストライクアクスの欠片の存在と、フェイトの意図を同時に呑み込んだ。
「なるほど、これはありがたいな……!」
あの刃で縄さえ切り落とせば、この身は晴れて自由。
しかもエルネストにとっては最高にありがたいことに、切り落とした縄をそのまま武器と出来る。
考古学者である彼の得意武器は、考古学者らしく鞭。
もちろんただの縄に武器としての品質を求めるのは誤った判断だが、それでも鞭として振るえる縄は、
あれば丸腰の何倍も心強い。
フェイトが、ストライクアクスの欠片にたどり着く。
同時に、フェイトとエルネストの耳を、聞き覚えのある怒声が強打。
「てめえ……俺様をナメてやがんのか!?」
という声が、ほんの数秒前にブラムスとロキの輪に乱入を仕掛けた男から発される。
灼熱をその武器としてまとう十賢者が一角……ミカエルが、その男の名前。
対するは……ヅラと仮面と袈裟と浣腸が印象的な、謎の不審者王。
仮面を着けたまま名乗ることなく、突如として彼らの前に現れたこの男の名は、
ブラムスであるなどとは露ほども知らぬフェイトとエルネストとミカエルは、「怪人」だの「変態仮面」だの、
彼を思い思いの仮名で呼ぶほか、選択肢を持っていない。
そして不審者王……ことブラムスは、闖入を仕掛けた第三者であるミカエルに、静謐な言質で応じる。
「愚問だな――我はひとたび戦場に立ったならば、たとえ我が敵が赤子であっても油断はしない……
我が貴様を侮る理由は、どこにもない」
「そういうことを言ってんじゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ミカエルは怒りの余り、炎をまとった拳を地面に叩き付ける。
叩き付けた地面はたちまち赤熱し、飴状のガラスに変質。
フェイトとエルネストは、いかにミカエルが執拗な追跡をかけてきた自身らの敵であると認識はしても、
今回ばかりはミカエルに同意せねばなるまい、と各々の脳裏で考えた。
「だいたい何なんだてめえは!?
てめえは俺様が不意打ちでブチかましたスピキュールを真正面から受け止めて、
それでほとんど無傷だった、ってだけで十分いけ好かねえが――」
「あれで不意打ちを標榜するだと? 愚劣な。
あれほどにあからさまな殺気を撒き散らしての不意打ちなど、ただの無策の突撃も同然。
こうまで稚拙な攻め手では、仕留められる獲物にも逃げられるのが関の山だと――」
「うるせぇんだよこの野郎がぁぁぁぁ!!」
自らの意図せぬところで図星を突いてしまったブラムスに、ミカエルは激昂して拳を振るった。
不死者であるブラムスにとって、炎は可能であれば回避したい攻撃――聖属性に続き、二番目に苦手とする攻撃。
ましてやそれがミカエルほどの実力者から放たれるものであれば、直撃を受けることは出来ない。
だがブラムスにとって不幸なことに、ミカエルの拳は回避を試みるには余りに速過ぎた。
仏像の仮面に守られたブラムスの顔面に、ミカエルの正拳突きが炸裂!
「口ほどにもねえ野郎だった――あ?」
だがミカエルの拳が巻き起こした炎波が闇に溶け去った時、そこにブラムスの姿は無い。
代わって彼の姿は何と――
「……どこを見ている? 我はここだ」
虚空に突き出されたミカエルの拳の上に、見慣れぬ古ぼけた革製の靴が乗っている。
その上に立つ者は両目から赤い光を放ち、ミカエルを睥睨していた。
言うまでもなく、変態仮面その人……ブラムスである。
ミカエルの正拳の上に乗ったブラムスの靴が、蝶のように華麗に舞った。
続いて、ブラムスのその足はたちまち蹴撃を繰り出し、蜂のように苛烈にミカエルの顎を刺す。
ミカエルはたまらずにのけ反り、一方のブラムスは中空でその身を宙返りさせながら、軽やかに着地。
相手の出方を見ながら対応できる――そして望めば一瞬で0に詰め拳の間合いに出来る絶妙な距離をとり、
隙なくその拳を構え、ミカエルを見据える。
「てめえ……今何をしやがった!?」
口元からこぼれた血を拭いつつ、ミカエルは血走った目つきで目前の変態仮面を睨みつける。
ブラムスの答えは、実にそっけないものであった。
「貴様は今まで、聞けば手の内を教えてくれる愚か者としか戦ったことがないのか? 底の浅さが露呈するぞ、下郎め」
ぷつん、と何かが切れる音が、ミカエルから聞こえた。
2人の戦いを見守りながら、縄の切断作業を試みるフェイトは、一瞬そんな錯覚に捕らわれたような気がした。
「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ミカエルは再度、ブラムスに躍りかかる。
拳対拳の、零距離も同然の激戦。
双方が双方の拳を受け、脚を止め、肘を払い、膝をいなすそのたびに、いくつもの炸裂音と閃光が迸る。
「てめえはぜってぇブチ殺してやる! それが終わったら残りの3人もまとめて皆殺しだぁ!!
覚悟しやがれこのコスプレ変態仮面野郎!!!」
「温い――真の戦士であれば『殺す』などと発言する前に、相手を『殺して』いなければならん。
『殺す』などと吠える前にな」
ブラムスはミカエルの渾身の突きを受け止め、その反動で一気に間合いを取る。
基本の構えを崩すことなく、ブラムスは静かにこの乱入者の分析を行っていた。
(なるほど――どうやら我が先ほど用いた小細工の正体には気付いていないようだな。
小技でかき乱せば、決して渡り合えぬ相手ではないか)
ブラムスが先ほどミカエルの初撃をかわした際に用いた小細工……その正体は『分身(レヴェリー)』と呼ばれる、
戦士にのみ使用を許された秘技である。
闘気によって練り上げた分身を身にまとい、分身にその動きをトレースさせることで、
一撃で二撃分の攻撃を敵に与えるこの技は、使おうと思えばこのような小細工にも使えるのだ。
すなわちブラムスは、先ほど闘気で練り上げた分身をミカエルの前面に展開し、
ミカエルの拳がその分身にヒットした隙に、がら空きになったミカエルの上空に跳躍。
そのままミカエルの拳の上に着地し、挨拶代わりの蹴りを彼の顔面に見舞ってやった――
これが、彼が行った小細工の全容となる。
もちろん、ブラムスはその真相をミカエルに講釈してやるつもりはなど、未来永劫微塵もないのだが。
(とはいえ、第三者がここに闖入してくるなどという事態は、我にも予想外だ。
ましてやこの男は、本来の実力は我とそう大きく変わるものではない――いささか危うい状況と言わざるを得まい)
ブラムスはミカエルの放った炎波の軌道を見切り、それを紙一重でかわし可能な限り隙を作らぬよう努める。
ブラムスの背後で、顎の外れた褐色の肌の青年が涙目になりながら、
そのとばっちりから必死で逃れようとズタボロの肉体を引きずるが、ブラムスはそれに必要最低限の注意のみを払う。
(だが我の考えの至らなさを省みるのは後からいくらでも出来よう。
今なすべきは、この状況の俯瞰と、選び取るべき次なる一手の吟味だ。
ひとまずこの局面、我にとって最悪の事態は、この男とロキが結託し結果的に二対一の戦いを強いられる事だが、
『残る3人も皆殺し』と言ったこの男の姿勢から、それはまずあり得ぬ事態だろう)
ミカエルの言っていた「3人」の内訳は、言うまでもなくエルネスト、フェイト、ロキのこと。
もちろんこの宣言がブラムスの読みを狂わせるために放たれたブラフ、という可能性も皆無ではないが、
この男の性格からしてそれはあり得ない、とブラムスは読み解く。
すなわち、この男はクラースの存在には気付いていない。
(――しかし、結託をされずとも結果的に挟み撃ちにされる可能性は十分に存在する。
ロキもいつまで沈黙しているか分からぬ。消耗を避けるという意味でも、可能な限り短期決戦を図るべきだろう)
ロキに止めを刺すことさえできれば、一気に戦局は自身に有利なものとなる。それにはあと、拳打の一撃で十分。
だが残念なことに、この男ほどの手練を前にしては、その一撃を与える隙すら作り出すのは至難の業。
下手に背を向ければ、その瞬間大火力の正拳突きが自らの背に炸裂するだろう。
ロキに止めの一撃を与えることを牽制されるこの局面、結果的にミカエルはロキを防衛し、
そしてロキに回復の時間を与えているという構図になる。
この状態でロキがその顎を再度嵌め終え、魔術の詠唱を再び可能としたなら……
そしてそのタイミングが、上手いことミカエルの攻撃と同期してしまったなら……
いかに夜の帳が己の力を後押ししているとは言え、その挟撃で窮地に立たされる危険性は極めて高い。
そしてロキの側はミカエルの攻撃と魔術を同期させることくらい、やって来ない方がおかしいだろう。
たとえミカエルと急ごしらえの同盟を結ぶことはないとは言え、
漁夫の利に対する目ざとさに関して、ロキほど優れた者はなかなかいない。
敵の敵は味方ではないが、敵の敵を味方として利用することなら、いくらでも可能なのだ。
(……となると、クラースなるあの男が、どこまで機転を利かせて動いてくれるかが勝負か。
それがもし当てに出来ぬ事態となったならば――)
最悪の場合、撤退も計算に入れねばならない。ブラムスはそう状況を読む。
もちろん、クラースとの約束はエルネストとフェイトの救助。それと引き換えに、自身は情報を得ることが出来る。
しかしそれにこだわり過ぎて自身が命を落とすようなことになれば、元も子もない。
その場合は遠慮なくクラースとの約束を反故にし、この場は撤退する。
この判断を冷酷非情と糾弾することはもちろん可能だが、必要に応じてその冷酷非情な判断を容赦なく下せない者に、
王の座に着く資格は無い。
それは人間の王であれ、不死者の王であれ、変わらぬ真理である。
ブラムスはその帝王学にのっとって、遥かなる過去から現代まで、ただの一度も下克上の憂き目に遭うことなく、
己の居城の玉座を守り続けてきたのだ。
ミカエルの繰り出した三連続のジャブをいなしたブラムスは、攻撃をかわしざまにしゃがみ込みながらの足払い。
それが虚空しか切れなかったの感じたブラムスは、瞬間後方宙返りで一気に転身。
あと一瞬後方宙返りが遅れていたなら、ミカエルの繰り出した烈火で全身を包まれていただろう。
ブラムスはミカエルの拳の軌道を回避行動と並行して分析。この男の癖を伺うことにする。
(さて、どうしてくれたものか――)
沖木島の夜を、再度闇と炎が禍々しく彩った。
ついでに、淋しく光るブラムスのヅラも。



【D-2/夜中】
【クラース・F・レスター】[MP残量:70%]
[状態:正常]
[装備:ダイヤモンド@TOP]
[道具:薬草エキスDX@RS、自転車@現実世界、デッキブラシ@TOP、荷物一式]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:目前の乱戦に対応(召喚術を使う? 先にフェイトとエルネストを助ける? それとも……)]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]

【ブラムス】[MP残量:75%]
[状態:変態仮面ヅラムスに進化。本人はこの上なく真剣に扮装を敢行中]
[装備:波平のヅラ@現実世界、トライエンプレム@SO、袈裟@沖木島、仏像の仮面@沖木島]
[道具:バブルローション入りイチジク浣腸(ちょっと中身が漏れた)@現実世界+SO2
ソフィアのメモ、荷物一式×2、和式の棺桶@沖木島]
[行動方針:情報収集(夜間は積極的に行動)]
[思考1:鎌石村に向かい、他の参加者と情報交換しながらレナス達の到着を待つ]
[思考2:敵対的な参加者は容赦なく殺す]
[思考3:直射日光下での戦闘は出来れば避ける]
[思考4:フレイを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)]
[思考5:クラースの機転を期待しロキと目の前の男(ミカエル)に対処。あわよくば撃破する]
[思考6:最悪の場合、クラースとの『取り引き』を反故にし撤退する]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]
[備考:スキル『レヴェリー』で作られたブラムスの分身は破壊されました。
この戦闘が決着するまで、再度分身を生み出すことは出来ません]

【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:80%]
[状態:左足火傷(戦闘にやや支障有り。ゆっくり歩く分には問題無し)ザイルで拘束中]
[装備:無し]
[道具:ストライクアクスの欠片@TOP?]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考2:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[思考3:縄を切り、自由を得る]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]
[備考:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]

【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%]
[状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)ザイルで拘束中]
[装備:無し]
[道具:無し]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間と合流]
[思考2:炎のモンスターを警戒]
[思考3:縄を切り、自由を得る]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]

[備考]: フェイト、エルネストの装備と支給品はその場に放置されてます。

【ロキ】[MP残量:90%]
[状態:自転車マスターLv4(ドリフトをマスター)
顔面が作画崩壊 顎関節脱臼 再起不能(リタイア)寸前 神生終了のお知らせ]
[装備:グーングニル3@TOP]
[道具:10フォル@SO、ファルシオン@VP2、空き瓶@RS、スタンガン、ザイル@現実世界、
首輪、荷物一式×2]
[行動方針:ゲームの破壊]
[思考1:レナス、ブラムスの捜索]
[思考2:見つけ次第ルシオの殺害]
[思考3:首輪を外す方法を考える]
[思考4:一応ドラゴンオーブを探してみる(有るとは思っていない)]
[思考5:痛みに耐えて顎を嵌め直す]
[思考6:この状況に対応する]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]
[備考1:現在顎が外れているため、これを整復するまで会話や呪文詠唱などはほぼ不可能です]
[備考2:なおロキは自分をフルボッコにした相手がブラムスだとは、今のところ気付いていません
(ただしブラムスの決め技「ブラッディカリス」を目撃して気付いた可能性もあります)]

【ミカエル】[MP残量:20%]
[状態:頭部に傷(戦闘に支障無し)、図星を突かれて逆ギレ]
[装備:ウッドシールド@SO2、ダークウィップ@SO2(ウッドシールドを体に固定するのに使用)]
[道具:魔杖サターンアイズ、荷物一式]
[行動方針:最後まで生き残り、ゲームに勝利]
[思考1:どんな相手でも油断せず確実に殺す]
[思考2:目の前の変態仮面野郎をブチ殺す]
[思考3:それが終わったら残りの3人(フェイト、エルネスト、ロキ)もまとめて皆殺し]
[思考4:狩場を鎌石村に変更]
[思考5:使える防具が欲しい]
[現在位置:D-2北部、道から少し外れた森の中]
[備考:デコッパゲ(チェスター)は死んだと思っています。]

【残り26人】




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