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第128話 Flying Sparks


一体何故こんな事になってしまったのだろうか。

ようやくチェスターを捉える事に成功した。急所に一撃を叩き込み、無力化させる事に成功した。
手に残る感触はクロードに確かな勝利を伝えていた。
この一撃でチェスターには気絶するか、少なくともしばらくの間立つ事が出来ない程のダメージは与えたはずだ。
そう確信した矢先――――紋章術師の少女がチェスターを助ける意志を込めた掛け声と共に、閃光を撃ち出してきた。

少女への警戒を怠っていた訳ではなかった。
少女を見くびっていた訳でもなかった。
ただその紋章術の形態が、クロードの知るどの術にも類似しておらず、そして予想外の速度で飛んできたのだ。
知識と意識の外からの攻撃。反応出来たのは焦燥のみ。
覚悟を決める暇すらなく、クロードの身体は閃光に貫かれたはずだった。
しかし、クロードが気付いた時には閃光は反射しており、逆に少女の身体を貫き、地面に叩きつけていたではないか。

(……え? な、何が…………だ、大丈夫なのか?!)

今、何が起きたのか、クロードには理解出来なかった。
それでも、少女がダメージを負い、倒れた。その状況は分かる。

先程とは別種の焦燥が、クロードを急き立てる。
別の場所で戦っているアシュトンの事も一瞬忘れ、クロードは少女に近付いた。ただただ心配で近付いた。
彼女は――チェスターもだが――ギョロとウルルンを殺した危険人物とは言え、殺し合いには乗っていないはずの人間だ。
こんな誤解に塗(まみ)れたくだらない戦闘なんかで死なせる訳にはいかなかった。

そんなクロードの想いを知らない少女は、震える身体をどうにか起こし、杖を向けた。
立ち上がる事も出来ない身体で、迫るクロードに対抗しようと。
絶望と怯えをありありと浮かべた顔で、そんな状態にも関わらず必死でクロードに杖を向けていた。

(……ちくしょう……どうして……こんな事に…………っ!)

クロードの表情は、歪んでいた。

切なさで、歪んでいた。

自分達は殺し合いに乗っていない者同士のはずなのに。
本来なら手を取り合って、打倒ルシファーを誓う仲間になれるはずの者同士のはずなのに。
なのに何故ここまで戦わなくてはならないのか。憎しみ合わなくてはならないのか。

クロードが近付く事に、少女は怯えの色を強めていた。涙を流し始めていた。
自分が怯えさせているのだ。その事実がクロードの胸に重く圧し掛かっていた。
それでも少女への歩みを止めるわけにはいかない。
今の紋章術の規模は、下手をすれば致命傷にも成りかねない。少なくともクロードにはそう見えたから。
直撃を受けた彼女を、一刻も早く手当てしなくてはならない。そう思ったから。
少女を助ける為にも。そして、誤解を解き、彼女達と手を取り合う為にも。
胸がいくら痛もうとも、クロードは歩みを止めるわけにはいかなかった。




まさか、その歩みが、その表情が、更なる乱入者に更なる誤解を与える事になるとは思いもしなかったのだが。




☆   ★   ☆   ★   ☆   ★


「よくも、ソフィアを!」

左足の痛みが無くなったわけではない。正直走る事すら楽ではないし、どこまで動くのかも分からない。
だがフェイトはそれを気にも留めず、今、この状況を打破する事だけを考え、金髪の男に突進した。

男は明らかに動揺した表情を見せていて碌に剣を構えてもいない。
それどころか左手を前にかざし「ちょ、ちょっと待ってくれ!」とフェイトを制止しようとしていたが、
それに遠慮する程フェイトは優しくなかった。
相手は鬼のような形相でソフィアを追い詰めていた男。そんな男にかける優しさなど、微塵も無い。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

男の制止を無視し、フェイトは右手に持つ鉄パイプを力任せに振り上げた。
大振りの一撃は男の持つ盾で受け止められたが、それでも構わない。
そのまま力を緩めず、強引に男の身体を持ち上げた。男は小さな悲鳴を上げて宙に舞い上がる。
フェイトの得意とする、打ち上げを初段としたコンビネーションだ。
空に舞う男に対し、フェイトはサマーソルトでの追撃に移ろうと考えていたが、
しかしそれを阻止するかのように盾から無数の光弾が発射されていた。

「なっ?!」

流石に予想外の反撃。反射的に両腕で顔を隠すも、光弾は広範囲に広がり全身に着弾した。
それの威力自体は大した事もない。だが、左足から響いた痛みにはフェイトは思わず顔をしかめた。
そしてその間にも男は体勢を立て直し、着地されてしまっていた。

「くそっ!」
「待ってくれ! 君はフェイト……フェイト・ラインゴッドだろ?」

鉄パイプを構え直し男を睨みつけると、男はフェイトの名前を口に出した。
ソフィアとの会話が聞こえていたらしい。が、そんな事は関係無い。

「それが、どうした!」

フェイトは再び突進した。
男も再び「話を聞いてくれ」などと叫んだが、フェイトに止まる気はなかった。
この男は倒す。その決意に揺らぎはない。
フェイトは見たのだ。暗闇で光る2度の閃光を。この男がソフィアに向けて2度も閃光を放ったのを。
正確に言えば、1度目の閃光は良く見ていない。
その1度目の閃光でこの場所に居る彼等の存在に気付いて注視し、
はっきりと見たのは立て続けに光った2度目の閃光だけなのだが、
2度目の閃光に撃ち抜かれて倒れたソフィアの事は、確かにフェイトは見ていた。
それだけでも、この男を倒すべき敵だと認識するには充分な事実。男の話など聞く耳を持つ筈も無いだろう。

男は尚も叫んでいたが、それはフェイトには逆効果となった。
ソフィアをあそこまで追い詰めていたくせに、相手が変わると戦おうともしないこの男が無性に気に入らなかった。
怒りに任せて、フェイトは攻撃体勢に入った。


☆   ★   ☆   ★   ☆   ★


(『フェイト』? ちょっと待てよ、彼は確か……)

二人目の突然の乱入者、青髪の青年。クロードはこの青年に見覚えがあった。
確か彼は、この殺し合いの開始時にルシファーに対して明確な敵意を見せていた青年だ。
同時に、たった今少女が青年の事を『フェイト』と呼んだが、それにも聞き覚えがあった。そして、何かが引っ掛かった。
『ルシファー』に対峙する『フェイト』。この構図には、クロードの記憶を刺激するものがある。
『フェイト』。これはどこで聞いた名前だったか。
名簿で見たのではない。確かにクロードが自身の耳で聞いた覚えのある名前だ。
それを聞いたのは――――――――とクロードは記憶を辿る。答えは数秒で出た。

(そうだ……ブレアさんの仲間の名前じゃないか!?)

間違いない。『フェイト』はブレアと協力してルシファーと戦ったという人物の名前だ。
そして連鎖的に別の記憶が浮かび上がった。

(……しまった! 『ソフィア』に『アルベル』……そうだ! この二人も……っ!?)

クロードはようやく思い出す。
先程乱入してきた悪人面の男と、今まで戦っていた少女が、互いを何と呼んでいたのか。
『ソフィア』に『アルベル』。
どこかで聞いた名前だと思いつつも、考える前にレオンと再会し、その喜びで忘却の彼方へ吹き飛んでしまっていた名前。
彼等の名前もブレアから聞いた筈の名前ではないか。
つまり『今まで戦っていたのはブレアの仲間だった』。
そんな最低の事実、最悪の事実がクロードを余計に焦らせた。

(僕は……何をしているんだっ!?)

彼等の名前をもっと早くに思い出していれば、状況は変わっていたかもしれない。
ここまで少女を傷つける事も、チェスターを殴り飛ばす必要もなく、平和的に解決出来ていたかもしれないのだ。
そう思うと同時に、急速に戦意が薄れ出した。クロードの気持ちは戦闘よりも説得へと揺らぎ始めていた。
ここでチェスター達と戦闘となったのは、アシュトンの事もある為、ある程度は止むを得なかったとは思っている。
しかし、チェスターもソフィアも倒れた今、これ以上の戦闘は無意味でしかないはずだ。
もしかしたらこのフェイトなら。直接アシュトンともクロードとも関わりの無いフェイトならば。
自分がブレアと出会った事を伝えれば話を聞いてくれるのではないだろうか。誤解も解けるのではないだろうか。
クロードはそう期待した。だが――――










「ちょっ、待ってくれって!」

何とか話し合おうと制止の声を上げるクロードだったが、
一度仕切り直した後も、直情径行、猪突猛進とはこの事だと言わんばかりに、フェイトは止まらなかった。
突進の勢いそのままに突き出された鉄パイプをどうにか剣で受け流してその場を飛び退くが、それは皮切りに過ぎない。
瞬く間に距離を詰められ、一片の躊躇も無く振るわれる薙ぎ払い、払い返しの乱舞。
どうにか剣で防ぎはするものの、鉄パイプがまるで流れる水の如く途切れる事無くクロードに襲い掛かった。

(な、何なんだこの鉄パイプは?!)

身体ごと移動して武器を叩きつける剣技。いや、棒術と呼ぶべきなのか。
一撃一撃にただの鉄パイプとは思えぬ程の重さがあり、それでいてフェイトの動きは異常に素早い。
それだけでも厄介なのだが、更にフェイトの鉄パイプ捌きが只事ではないのだ。
鉄パイプという凶器の印象から一見出鱈目に振るっている様に思えたのだが、
その実、動きは妙に洗練されており、受けに回ってしまった今、割り込む隙すら見当たらなかった。
フェイトの本気が鉄パイプから伝わり、冷や汗が流れ落ちる。
防御に集中しなくてはやられる。説得したい気持ちは有るのだが、口を開いている余裕が無かった。

鉄パイプをエターナルスフィアで受け流す事で、クロードは何とか猛攻を凌ぎ続けた。クリーンヒットだけはどうにか防ぎ続けた。
だが、一撃、また一撃と衝撃の重さを防ぐ度に、コンマ単位だが遅れが生じていた。
コンマ単位。とは言え、その遅れが蓄積していけばどうなるか。当然動きの差は開き出し、余裕は削られていく。
ただでさえ防ぐだけで精一杯のクロードには、フェイトのスピードが徐々に上がっていく様に感じられていた。

(ま、まずい!)

このまま剣で防ぎ続けても、事態は好転しないどころかいずれ殴られてしまう。
そう踏んだクロードはタイミングを計り、突き出される鉄パイプの軌道上にスターガードを合わせた。
腕に伝導する衝撃と共に、光弾が発射される。先程と同じ手だがこれで距離を取ろうと考えたのだ。
しかし、フェイトの見せた反応はクロードの予測を遥かに上回っていた。

「ショットガン・ボルトッ!」

鉄パイプとスターガードがぶつかり合った瞬間、フェイトは技を発動させた。
フェイトの前面に爆炎の壁が出現し、無数の光弾は全てがそれに吸い込まれ焼き尽くされていく。
続けて発現したのは闇属性の紋章術を連想させる禍々しい色合いの霧だ。
爆炎を内側から掻き消すかのように発生した霧。その中心に朧気に見えたのはフェイトの姿。
霧はフェイトの全身を覆い隠すかのように、彼を軸に高速回転しつつ、クロードを包まんと広がった。

(くっ、何だこれ!?)

その霧に触れているだけで体力がじわりと失われていく。
脱出しようとクロードが思わず後退をした直後、唐突に霧は消えた。
そして中に居た筈のフェイトの姿も霧と共に消えていた。その認識と同時に、背後に気配が現れる。
振り返る暇は無かった。まずい、避けなきゃ。焦りがそう訴えかけるも間に合いそうにない。
咄嗟にクロードはフェイトの気配だけを頼りに攻撃の打点をずらそうと動き、背中の筋力に全神経を注いだ。

「ストレイヤー・ヴォイドッ!」

横薙ぎの衝撃が背中に走った。
力を込めていた背中で受けられた事はまだ幸いだったと言える。しかしその威力が尋常ではない。
直撃を受けたクロードは、まるで水面に投げ込まれた水切りの小石のように地面の上を弾き飛ばされ、何メートルも転がった。
勢いを殺してくれたのは前方に生えていた大木。
荒々しい抱擁で横腹から突っ込むクロードの身体を受け止めてくれたが、生じた衝撃は追撃となんら変わる事はない。
クロードは2つの激痛を堪えきれず、無様に地面に倒れこんだ。

「……かっ……かっ…………」

息を吸おうとしたが、まるで肺が働き方を忘れてしまったかのように空気が入ってこない。吐き出す事も出来ない。
背中と内臓へのダメージによる一時的な呼吸困難に陥っていた。
苦しんでいる間にも、フェイトはゆっくりと歩いて向かってくる。
彼の右手に持つ鉄パイプがやたらに凶悪な代物に見えた。止めを刺す気だろうか。
制止の声を出そうとするも、喉から出てくるのは潰されようになっている蛙のような呻き声のみだった。

(じょ、冗談じゃないぞ……こんな事で、死ぬなんて……!)

死ねない。死ねる訳がない。
強力な殺戮者を倒す為に戦って命を失うのならまだしも、相手はその真逆の立場にいる人物達だ。
こんな無意味な戦いで死んでしまっては、散っていった自分の仲間達にも申し訳が立たないではないか。

クロードは体内の気を患部に集中させた。
『活人剣』。自身の気の流れを操り怪我の治療を行う回復の技だ。
どうにか声を出せるようにして、せめてブレアの事だけは伝えたい。
それさえ伝えれば、こんな状況でもまだ説得の余地はあるはずなのだから。

徐々に、徐々に。受けたダメージが回復に向かう。その実感は確かにあった。
しかし、何故か普段よりも明らかに治癒の速度が遅かった。
フェイトの歩みは止まらないが、気のせいか足を引きずっているように見える。
一目で負傷していると分かる左足だ。今は走り回っていたが、戦いの中で悪化させていてもおかしくはない。
その落ちている速度の分を差し引いても回復が間に合うか――――判断の難しいところだった。
クロードは痛みを堪え、身体を起こした。

「くっ…………待……って…………」

声を出してみたが、力の篭らない、か細い声しか出てこない。
おそらくはフェイトまで届いていないだろう。回復にはまだ時間が掛かりそうだ。
それでも呼吸は出来るようにはなった。身体も何とか動いてくれる。
フェイトが目前に近付いてくるまでには、完治は無理だろうが、動ける程度にはなりそうだった。

だが、クロードは次の瞬間、目を見開いた。
彼の希望を摘み取るかのように、視界の端で動いた者が居たのだ。
フェイトの左後方で、おそらく活人剣で回復中のクロードよりもフラフラの身体のくせに立ち上がり、
殺気混じりの視線でクロードを貫いている男、チェスターが弓を構えようとしていた。

(あいつ!?)

ボディブローの一撃では、やや浅かったのか。今一番厄介な男が目覚めてしまっていた。
フェイトもチェスターの気配を感じたらしく、警戒した様子でそちらに視線を走らせた。
そしてチェスターとクロードを交互に見比べる。
状況が理解出来ないのか。その表情には初めて戸惑いの色が浮かんでいた。
しばらくの間、時間が止まったかと錯覚する程の静寂が場を支配する。
3人の内、最初に口を開いたのはチェスターだった。

「……ソフィアは、無事か?」

視線とは裏腹に、その言葉はフェイトに向けられたものだった。
どうやら少し前から意識を取り戻していたようだ。フェイトを味方と判断している。
フェイトもそれで合点がいったように戸惑いを消す。
誰が敵で、誰が味方なのか。その見極めは済んでしまったようだ。
彼もやはりクロードを睨みつけながら言った。

「気を失っているけど、大丈夫だよ。それより君も休んでてくれ。こいつは僕が倒す」
「………………援護は…………するぜ」
「だけど――」
「そいつは……やばい奴なんだ。……何人も殺してる。油断、すんな」

息も絶え絶えに言葉を吐き、チェスターはキリキリと弓を引いた。
その音と同調するかのように、クロードの歯が鳴っていた。
「ちがう!」出来ればそう叫びたい。だがこのチェスターが起きてしまっては出来る説得も出来ないだろう。
チェスターはまず話を聞いてくれる男ではない。それはチサトの時の事を思い返せば良く分かる。
そして今の会話でこのフェイトもおそらく、クロード自身に対する認識を刷り込まれているはず。
これではブレアの名前を出しても彼を説得しきれるものかどうか分からなくなった。
いや、仮に説得出来たとしても、それには時間を費やすであろう事は明白。
そうなれば今度は、迅速な手当てが必要なはずのソフィアに何らかの影響が出てしまう恐れがある。

「どうして、なんだ?」

俯いたクロードの呟きは、彼の本心と同様に、誰の耳にも届かない。
ようやく少しは声も出るようになった。身体もそれなりに動きそうだ。

「どうしてこうなるんだ……?」

それなのに、説得のチャンスは潰れてしまった。
誰もが自分を信用しようとしてはくれない。話を聞こうとしてはくれない。
一体自分はどこまでこの島に嫌われているのだろうか。

「ちくしょう……」

チェスターの狙いは完全にクロードに定められ、フェイトも歩みを再開していた。
このままでは、殺される。
どう楽観的に考えようとも、あれだけの憎しみを浴びせかけられてはその結末しか思いつかない。
無意識に剣を握る手に力が入った。
その些細な動きを敏感に察知した二人の男。
フェイトは走り込み、チェスターはこれで最後だと言わんばかりに「疾風ッ!」そう叫び、矢を3連射する。

「ちくしょおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

クロードは痛む身体を無理矢理動かし、二人よりも早くエターナルスフィアで地面を打ち付けていた。
地面が波打ち、槍のように硬質化して隆起する。
そしてフェイトの進行を阻み、チェスターの矢を次々と打ち落としていく。

「うわっ!」
「これは……上かっ!」

チェスターは感付いたようだ。そう、チサトとチェスター達から逃げる時に使った手だ。
直後にクロードは樹の枝まで跳躍すると、そのまま樹から樹へと、枝を跳び移って逃走を始めた。
現状でソフィアを助ける為に、戦闘を終わらせる最適な手段は『自らの逃走』。
殺される事を除けばこれ以外には思いつかなかった。

チェスターが絶叫する。
声を追いかけるかのように矢が放たれたが、枝が盾の役目を果たし、クロードには届かない。
クロードはそのまま森の深い闇に溶け込んでいった。


☆   ★   ☆   ★   ☆   ★


「てめえ、待ちやがれ……!」

見えなくなりつつあるクロードに更なる矢を放とうと、チェスターは素早く矢筒に手を伸ばした。
しかし矢羽を探すも感触は無く、右手は宙をさ迷うのみ。
舌打ちと共に睨み付けた矢筒は、既に中身を全て吐き出していた。
ならば、と迷わず走り出すが、すぐに足が縺(もつ)れてしまい、追走劇は僅か数歩で終了する。
ダメージの残る身体が動く事を拒否していたのだ。

「チッ……おい、あんた。頼む、あいつを――――」

――――追いかけてくれ。
そう紡がれるはずだった言葉は、座り込んだままの青髪の青年の素振りに押し留められた。
どうやらクロードの技を避け切れなかったのだろう。青年は黒く変色した左足を痛そうに押さえていた。

「また……かよ……っ!」

また、逃げられた――――実感は一呼吸の間もおかず怒りへと変わる。
クロードが残した土の槍の残骸がいやに目についた。気が付けば、チェスターは全力でそれを殴っていた。

「くそ……あの野郎! あの野郎っ! あの野郎ぉぉぉ!」

既にそれはただの土に過ぎないのに。
膨れ上がり、爆発しそうな感情をそのまま拳に乗せ、何度も、何度も、殴り、崩し続けた。

「気持ちは分かるけど、落ち着いて! 君もフラフラじゃないか!」
「ああっ!?」

いつの間にか側に寄ってきていた青年に肩を掴まれ、チェスターは腕を止めた。
睨むように振り返り、改めて青年を見ると、彼も所々に怪我を負っている。
特に左足は酷い状態だった。黒く見えたのは、炎にでも巻かれたのか、火傷の痕だとすぐに分かる。
その姿を見て、ようやくチェスターの腕から力が抜けた。

「あ…………わ、悪い。あんたは、大丈夫か?」
「僕は大丈夫だよ……とも言えないか。折れてはないみたいだけどね」

青年は左足を前に突き出し、苦笑する。
こんな状態でクロードと戦っていたのか、とチェスターは柔そうな外見からはとても感じられない青年の胆力に舌を巻いた。

「それよりも、ソフィアを護ってくれてたんだね。ありがとう。おかげであいつも何とか助かったよ」
「そうだ……ソフィアはどうしたんだ!?」
「心配無いよ。向こうで気を失ってる」

青年が指差す方向を見ながら、それは心配無いと言えるのか、と一瞬思うも深くは考えない事にしてソフィアの元へと急いだ。
ソフィアは、安心しきった表情で意識を失っていた。
しかし容態を見ると予想以上に、少なくともチェスターやこの青年よりも余程の重傷だった。気を失うのも無理はない。
危うくこんな目に合わせたクロードに対する怒りを再燃させるところだったが、このソフィアを前にして怒ってもいられない。

「何とか運ばないとな。あんたは……その足じゃ無理か」
「いや、それには当てがあるんだ。だけど……まずいな。全身の傷が思ったより、深いかもしれない」

眉根を寄せてそう言った青年はソフィアの応急手当を始める。
運ぶ当てとは何かを聞いてみたかったが、それどころではないだろう。
やる事はあるかと聞けば、無い、という旨の返事が返ってきたので、チェスターは手持ち無沙汰となり、仕方なく腰を下ろした。
そして数分後――――

「――――やべぇっ!」

弾かれる様に立ち上がった。
クロードを倒す事に集中し過ぎてすっかり頭から抜け落ちていたが、この場にはアシュトンもいたのだ。
それから、あの凶悪な顔をしたソフィアの仲間と、彼に同行していた給仕の様な格好をした少女。
付近で戦っているはずの彼等はどうなったのか――――チェスターは青年に心当たりがないか聞いてみた。

「それ、アルベルの事か!? アルベルがここに居るのか!?」
「ああ……確かそんな名前の奴だったぜ」
「そうか、あいつもここに……いや、今は会ってない。けど……あいつなら大丈夫だ。きっと、無事でいる」

とりあえずはソフィアの手当てが終わってからだと青年は言う。
と、その時――――樹々の枝が、ざわめき始めた気がした。
何か、これまでと雰囲気が違う。得体の知れない物が近付いてくる。そんな気配。
注意を促そうとして青年を見れば、何故だか表情は暗かった。

「おい気をつけろ。何かが、来る!」
「ああ……そろそろ来るんだよね……」
「…………?」

何処と無く諦めの口調だった。気になるが、その理由を問いただす暇はなさそうだ。
ざわめきは次第に大きくなってくる。
いや、これはざわめきなどではない。文字通り枝葉を突き抜けて何かが向かってきている音だ。
速い。そして、近い。
迫る気配に強烈なおぞましさを感じ取り、唐突に悪寒が走った。

(上か!?)

チェスターは視線を上方へと動かした。
その視線とすれ違う、二つの赤い光を放っている一つの塊。
チェスターの動体視力で捉えられない速度で飛来したそれは、激しい落下音を辺りに響かせ背後に着弾した。

「な、何だ!?」

チェスターは振り向こうとした。
だが何故か身体は震えるのみで、金縛りにでもあったかのように動かない。全身から嫌な汗が流れ出てきていた。
背後の物体の存在感と威圧感。それらが警告を放っている。
振り向くな、と。振り向けばきっと後悔する、と。

やがてその物体からは、野太い声が聞こえてきた。

「……フェイト。状況は?」


【D-05/黎明】

【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:75%]
[状態:左足火傷+打撲(少し無理をした為に悪化。歩くにも支障あり)。クロードに対する憎しみ]
[装備:鉄パイプ-R1@SO3]
[道具:ストライクアクスの欠片@TOP(?)、ソフィアのメモ、首輪×1、荷物一式]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:ソフィアの応急処置を済ませた後、アルベルと合流]
[思考2:チェスター達と情報交換]
[思考3:次の放送までにF-04にてチーム中年と合流]
[思考4:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考5:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[備考1:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]
[備考2:ソフィアの傷は全身に渡っています。応急手当にはしばらく時間を取られるかもしれません]

【チェスター・バークライト】[MP残量:30%]
[状態:クロードに対する憎悪、肉体的・精神的疲労(中程度)、腹部に当身による痛み]
[装備:光弓シルヴァン・ボウ(矢×0本)@VP、パラライチェック@SO2]
[道具:レーザーウェポン@SO3、アーチェのホウキ@TOP、チサトのメモ、荷物一式]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)]
[思考1:う、後ろに何がいるんだ?!]
[思考2:この次は必ずクロードを殺す]
[思考3:青年(フェイト)と情報交換]
[思考4:ソフィアの仲間と合流]
[思考5:平瀬村へ向かい、マリア、クレスと合流。その後鎌石村へ]
[思考6:レザードを警戒]
[備考1:チサトのメモにはまだ目を通してません]
[備考2:クレスに対して感じていた蟠(わだかま)りは無くなりました]
[備考3:手持ちの矢は無くなりましたが、何本かはこの場で回収出来るかもしれません]

【ソフィア・エスティード】[MP残量:0%]
[状態:気絶中。全身に『レイ』による傷(応急手当中)。ドラゴンオーブを護れなかった事に対するショック。疲労大]
[装備:クラップロッド、フェアリィリング@SO2、アクアリング@SO3、ミュリンの指輪のネックレス@VP2]
[道具:魔剣グラム@VP、レザードのメモ、荷物一式]
[行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める]
[思考1:クロード、アシュトンを倒す]
[思考2:平瀬村へマリアを探しに行く]
[思考3:マリアと合流後、鎌石村に向かいブラムス、レザードと合流。ただしレザードは警戒。ドラゴンオーブは返してほしい]
[思考4:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい]
[備考1:ルーファスの遺言からドラゴンオーブが重要なものだと考えています]

【ブラムス】[MP残量:90%]
[状態:キュアブラムスに華麗に変身。本人はこの上なく真剣にコスプレを敢行中]
[装備:波平のヅラ@現実世界(何故か損傷一つ無い)、トライエンプレム@SOシリーズ、魔法少女コスチューム@沖木島(右肩付近の布が弾け飛んだ)]
[道具:バブルローション入りイチジク浣腸(ちょっと中身が漏れた)@現実世界+SO2、和式の棺桶、袈裟(あちこちが焼け焦げている)、仏像の仮面@沖木島、荷物一式×2]
[行動方針:自らの居城に帰る(成功率が高ければ手段は問わない)]
[思考1:フェイトに状況を聞く]
[思考2:敵対的な参加者は容赦なく殺す]
[思考3:直射日光下での戦闘は出来れば避ける]
[思考4:フレイ、レナスを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)]
[思考5:次の放送までにF-04にてチーム中年と合流]

【現在位置:D-05南部】


☆   ★   ☆   ★   ☆   ★


戦闘から離脱して向かった先では、クロードが最も避けたかった事態が待ち構えていた。

夜の闇ですら隠せぬ程に飛び散っていた大量の血液。
吐き気を誘発する程に充満していた血の臭い。
血の海に無惨に沈んでいた、三人の身体。
内、二人は大切な親友達。一人は仲間の仲間。

激しい眩暈と吐き気がクロードを襲った。
膝が折れそうになり、地面にへたり込んでしまうところだった。
もしもそこで、アシュトンの微かな呼吸に気が付かなかったら、
きっとクロードはその惨状にそのまま心をへし折られていただろう。

今、クロードは背中に気絶しているアシュトンを乗せている。
活人剣で自身の回復を続けながら、アシュトンを背負い、暗い森を南へと駆け抜けているところだった。
アシュトンの応急手当はその場で何とか済ませたが、決して予断の許される状況ではない。
彼を救う為には、安全な場所まで運び、改めて手当てを行う必要があるのだ。
そのアシュトンの重みが、クロードの折れかかった心を奮い立たせてくれた。
自分を必要とする親友の存在が、自分でなければ救えない親友の存在が、クロードの心を支えてくれた。
アシュトンを救う為に。その一念でクロードは気力を持ち直したのだ。

「ごめん……ごめんなっ……レオン…………!」

しかし、頭の中にはどうしても後悔の念が渦巻いていた。
今の惨状が脳裏に蘇る度。レオンの死に様が頭を擡(もた)げる度。
後悔の念が堰を切ったように、嗚咽混じりの言葉として、涙として溢れ出していた。

状況から推測するに、レオンはアシュトンを庇おうとしてアルベルの前に立ち、そして剣を受けてしまったのだろう。
だがクロードには、レオンが死んだのは自分の責任だとしか思えなかった。
自分がもっと上手く立ち回っていれば、アルベルとの戦闘は回避出来たはずだった。
自分がもっと必死でアシュトンを止めていれば、こんな事態に陥りはしなかったはずだった。
あの状況では、ああしていれば。
この場合では、こうしていれば。
最早取り返しのつかない事態に、クロードはただ後悔に後悔を重ねていた。

更にはアルベルの事。
理由はどうあれ、フェイト達の仲間の一人をアシュトンが殺してしまった事実は曲げようが無い。
アルベルの死体を見つけた時、フェイト達はますます自分達を憎むだろう。
こうまで拗(こじ)れては、自分の力だけで彼等との関係を修復する事は不可能だった。

だが、クロードはフェイト達との関係修復を諦めるつもりはなかった。
フェイト達は打倒ルシファーのキーとなる人物だ。
その人物と敵対するような関係でいては、この島からの脱出など到底望めない。諦める訳にはいかない。

クロードにはフェイト達と手を取り合う方法に一つだけ心当たりがあった。
この状況を治める事が可能な人物とクロードは出会っているのだ。

(ブレアさんだ。ブレアさんに、頼むしかない)

フェイト達と自分達を繋げる道は、ブレアしかない。
ブレアに自分達の間に入ってもらい誤解を解くのだ。それがおそらく唯一の方法。
先程見た首輪探知機の反応によれば、ブレアは平瀬村方面に向かったはずだった。
彼女が今もまだ平瀬村に居るかは分からないが、行くしかない。

クロードは森を駆け抜けた。
いつしか地面の傾斜も急になり、本格的な山中へと入り込んでいたが、それでもペースを落とさない。
無意味な憎しみ合いを一刻も早く終わらせる為に。この島を脱出する為に。
平瀬村に希望の光を見据えながら、クロードは森を駆け抜けていった。


【E-05/早朝】

【クロード・C・ケニー】[MP残量:???%]
[状態:右肩に裂傷(応急処置済み、大分楽になった)。背中に浅い裂傷と打撲(多少回復)。左脇腹に裂傷と打撲(多少回復)。全身に軽い痛み]
[装備:エターナルスフィア、スターガード@SO2、エネミー・サーチ@VP、首輪探知機@BR]
[道具:セイクリッドティア@SO2、昂魔の鏡@VP、荷物一式×2(水残り僅か)、アヴクール@RS(刀身に亀裂)、アシュトン、アルベル、レオンのデイパック]
[行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す]
[思考1:安全な場所まで移動し、アシュトンの手当てを行いたい]
[思考2:平瀬村でブレアと合流し、フェイト達の誤解を解いてもらう]
[思考3:プリシスを探し、誤解を解いてアシュトンは味方だと分かってもらう。他にもアシュトンを誤解している人間がいたら説得する]
[思考4:レザードを倒す、その為の仲間も集めたい]
[備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません]
[備考2:チェスターの事は『ゲームには乗ってないけど危険な人物』として認識しています]
[備考3:アシュトンの衣服のポケットから首輪探知機を回収しています。
     また、アシュトン、アルベル、レオンのデイパックと落ちていた剣を回収しています。
     アシュトンの荷物=無稼働銃、物質透化ユニット@SO3、首輪×4、荷物一式×2
     アルベルの荷物=木材×2、咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP、ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界、
             ????(3)、????(5)、鉄パイプ@SO3、荷物一式×7(一つのバックに纏めてます)
     レオンの荷物=どーじん、小型ドライバーセット、ボールペン、裏に考察の書かれた地図、????(1)、????(2)、荷物一式
     回収した荷物はデイパックと落ちていた剣のみで、装備していた服などはそのままの状態です]
[備考4:どのデイパックが誰の物なのかの判断が付くか付かないかは次の書き手さんに一任します]
[備考5:活人剣で自らの怪我の治療を行い続けています。
     どの程度MPを消費し、どの程度体力を回復するまで続けるかは次の書き手さんに一任します]

【アシュトン・アンカース】[MP残量:30%(最大130%)]
[状態:気絶中。ギョロ、ウルルン消滅。袈裟懸けの深い裂傷(応急手当済み)。体のところどころに傷・左腕に軽い火傷・右腕打撲。激しい怒り、焦り。疲労大]
[装備:ルナタブレット@SO2、マジックミスト@SO3]
[道具:なし]
[行動方針:プリシスの1番になってからプリシスを優勝させる]
[思考1:クロードには自分がマーダーだとは絶対に知られたくない]
[思考2:チェスターとソフィアを殺してギョロとウルルンの仇を討つ]
[思考3:プリシスのためになると思う事を最優先で行う]
[思考4:ボーマンを利用して首輪を集める]
[思考5:プリシスが悲しまないようにクロードが殺人鬼という誤解は解いておきたい]
[備考1:袈裟懸けの深い裂傷は応急手当はしましたが、それだけでアシュトンが動けるようになるかどうかは後の書き手さんに一任します]

【現在位置:E-05北部】

【残り18人+α?】




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第126話 ソフィア 第134話
第126話 フェイト 第134話
第126話 ブラムス 第134話
第126話 アルベル 第134話
第126話 レオン 第134話


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