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第4月1日② 時空剣士ェマリあ!



「プリシス……」

轟々と燃える民家達。
その中心で、少女――プリシス・F・ノイマンは佇んでいた。
呆然と、一人の青年を見つめる。

「アシュトン……」

どうしても会いたかった人なのに、足が言うことを聞かない。
どうしても止めたかった人なのに、うまく口が動いてくれない。
愛しい人の血塗れの姿が、もう元には戻れないことを示してるようで。

「僕を殺しに来なよ――それで全てが終わる」

そう言って、アシュトンは去っていく。
追いかけることは、出来なかった。
あまりの死闘に、誰もが満身創痍だったのだ。

「……待ってるよ」

そして、その時誰もが理解した。
もうアシュトンは、引くことが出来ないのだと。
彼を殺すことでしか、この島からマーダーを駆逐することは出来ないのだと――――



そして、時間は少々跳躍する。
















                      【7年後】
















「ねぇねぇ、ホントに大丈夫なの?」

ここはリンガ。
惑星エクスペルにある数多の街のひとつである。
人通りの少ない深夜、愛くるしい幼女とショタが二人っきりで歩いている。
幼女の方がショタの袖をぎゅっと握り締めているが、そこに愛情の様子は見て取れない。
純粋に、恐怖からくるものだろう。

「大丈夫だって。コトダマオバケなんてやっつけてやる」

そう言うと、ショタは手にした鉄パイプを大きく振るう。
ぶうん、と空を切る音が辺りに響いた。

「でも……あんまり遅くに出歩いてたらお母さんに怒られちゃうし……」
「大丈夫だって。それに、エリスだって親父さんみたく英雄になりたいだろう?」

英雄。
エリスと呼ばれた幼女の父は、かつてそう呼ばれていた。
この星に降り立った救世主・光の勇者様の仲間として、魔族を滅ばしてくれたのだ。

「だから、俺達でやるんだ。その、お化け退治を」

そのことへのコンプレックスだろう。
エリスと、彼女に思いを寄せるショタは、二人だけで夜中に家を抜けだした。
今街を騒がせている、『コトダマオバケ』を対峙するためだ。
コトダマオバケは不思議な言葉で待機を凍らせ、人を霜焼けにして回っているという。

「でも……本当に出るのかなあ?」

エリスは、本当なら出なければいいと思っている。
エリスとしては、父のように偉大な人になりたいと思ってはいても、リスクを侵すつもりはないのだ。
より安全な手段を選ぶ――
かつて殺戮の島で彼女の父がそうしたように、彼女もまたそのような生き方を選択していた。

「出るさ、絶対。だから、俺が必ず――!!」

ショタがそう言い満面のドヤ顔を炸裂させたまさにその時。
背後に、黒い影が立った。
影のように塗りつぶされているため色までは分からないが、マントに甲冑、それにタイツという服装の人間タイプの魔族に見える。
「危ない」とエリスが言おうとしたときには、既に影はショタの背中にまとわりつき耳元で囁いていた。

「必ず、いつかならず者を成敗してやる」

耳元で影がそう囁いた途端、ショタの体に悪寒が走る。
強烈な寒気。
思わず腕を交差させ、自身の二の腕を擦る。
それ程までに強烈な寒気だった。

「あんまり寒い寒い言うと、怒ーるど」
「っぎ!」

寒気が一層強くなり、ショタの頭からエリスのことが一瞬消える。
その隙を逃さないと言わんばかりに、呆然と立ち尽くしているエリスの元へと影が飛んだ。

「呆然としているだけじゃ、希望全然持てないよ?」

エリスの剥き出しの足に、すさまじい鳥肌が立つ。
これほどまでの寒気を、エリスは経験したことがない。
年中半袖ミニスカートで雪山でもこのファッションを貫いていたエリスですら、屈しそうなほどの寒気。
それを、コトダマオバケは平然と繰り出してくる。

「ネギを値切らないで」

勝てない。
それが、エリスの至った思考だった。
相手は、正真正銘の化物。
たかだかちょっと格闘技を齧っただけの自分にどうこうできるほど、甘い相手じゃなかったのだ。

「こ、こここ来ないでぇ!」

足が動かない。
精一杯の虚勢を張るも、影は止まってくれなかった。

「君の名前、椎名ちゃん? やかま椎名、なんつって」

寒気はどんどん強くなる。
これが、数多の住人を夏なのに高熱の風邪に引きずり込んだコトダマオバケ――!!

「裕奈ちゃんなら何もゆーな(言うな)」

ふと、視線を下げてみる。
階段でも中が見えぬよう計算されたミニスカートの縁に、何かがぶら下がっていた。

(嘘……つらら――!?)

小さいけれど、それは確かに氷柱である。
コトダマオバケの発生させるあまりの冷気が身体のみならず衣服にまで干渉し、氷柱を発生させたのだ。

「アキラちゃんならもう諦めなよ」

ひらひらと風に揺れていたスカートが、今は完全に沈黙している。
氷柱の重石によるものではない。
スカート自体が、凍りついて来ているのだ。
エリスはもう、寒さで声も上げられない。

「長瀬ちゃんなら、軽く流せ」

動けない。声も出せない。
上唇と下唇が張り付いている。
肌に触れる衣服も、もはやカチコチのプレートみたいなものだった。

「もしかして美空ちゃん? 若い身空で大変な目にあっちゃったねえ」

パキパキパキ、と何かにヒビが入る音がする。
目線を下げると、あまりの急激な冷却に耐え切れず、衣服にヒビが入っていた。
顔面が蒼白になる。
このままだと――自分自身も氷のオブジェに成り下がった末砕かれてしまうのでは、と。

「円ちゃん? あらまあ、どーかしたの?」

音を立てて衣服が砕けた。
外気に晒された私服のみならず、インナーまで破壊する相手の冷気に戦慄する。

「やだ、ついに脱衣?」

大げさなリアクションで、コトダマオバケは驚いてみせる。
よく見ると、エリスだけでなくショタの方も脱がされていた。

「その裸体、あら平ら」

このやろう、一発ぶん殴ってやる。
そう思うのに、体が全く動かない。

「君の名前、結局何なのかな。美砂ちゃんかな。これ以上裸を見させるのも申し訳ないよね」

何が可笑しい。
ケラケラと笑うコトダマオバケに、屈辱から怒りがふつふつと湧いてくる。
次いで、動けない自分自身に腹が立つ。

「僕はそろそろ撤退するよ。僕に聞いた最高のギャグを皆に伝えてあげるといい」

ほっと、した。してしまった。命が助かるということに。
英雄の娘の自分が、不覚にもほっとしてしまったのだ。
そのことに、涙が出てきそうになる。

「ああ、反ギャグ(反逆)しない方がいいよ。放っておけば氷は溶けるから」

そう言うと、コトダマオバケはふわりと浮く。
およそ5メートルくらいだろうか、上空高く飛んでから、言った。

「それじゃあさよちゃん、さよーならー」

最後に冷気だけ残して、コトダマオバケは消えていった。
氷漬けで動けない裸体の児童二人に対し、屈辱と羞恥を残して。

「……わ、悪い……大、丈夫?」

それから何分経っただろうか。
エリスより一足先に解凍出来たショタが、エリスの方へと歩み寄ってきた。
自分から誘ったのに何も出来なかったことへの後ろめたさが彼から元気を奪っている。

「……大丈夫じゃない……あんなこと、されて……服まで奪われて……」

エリスは、歯を食いしばった。
泣いては、ダメだ。泣いて俯いていても、何も解決はしない。
エリスは、安全に生きるつもりだった。
けれどもそれは、隅っこで蹲って泣いてるだけの人生を意味しない。

「……悔しいけど……俺じゃ、何もできそうにない……エリスだって……」
「分かってる……私達は、弱い」

だけど、逃げない。
ただ座って泣いているだけで助かるほど、人生は甘くはないのだよと知っているから。
保身に走って後ろ向きに生きるとしても、後ろ向きに全力疾走してこその人生だ。
立ち止まってやるもんか。

「だから――頼ろう。プリシスさんに」

プリシス。
エリスの父と、かつてこの星を救うべくとある大陸に旅立って行った少女の名だ。
もっとも今では少女などという歳ではないが。

「え……た、確かにあの人も英雄だけど……だったらエリスの親父さんの方がいいんじゃ……」

しかしながら、プリシスは街の人から敬遠されつつあった。
惑星を救ったあと、消息不明になっていたのだ。
それが惑星外留学だと知る者は大変少なく、この街ではエリスの両親くらいである。
そして留学から帰るなり怪しい機械を乱発させるプリシスのことを、街の皆は変人扱いしていた。
されど英雄の一人故に迫害することも出来ず、腫れ物のように放っておかれてるのだ。

「お気に入りの服がダメにされました、なんて言って、二人で裸で帰れると思う?」

提案しようと振り返りかけたショタの頬をガシッと掴む。
いくらなんでも異性に裸を見られることに抵抗のある年齢だ。
路地裏をこそこそ移動している今もショタを先行させて、決して振り向かせまいとしている。
行き先は、エリスの一言でプリシスの家に決まった。

「発明品見せてもらってたら服ダメにされちゃった、お風呂入ってる間に汚れが酷いからって棄てられちゃった――
 ああ、発明品で汚れを落とそうとされたら破られちゃった、でもいいか。
 とにかく、プリシスさん家から連絡したら、服なくしたのも自然にごまかせるでしょう?」
「な、なるほど……」

エリスは、頭がよく回った。
それは、腹黒さと紙一重なものではあったが。

『ふぁみふぁみふぁみま~ふぁみふぁみま~』

自動で開く謎の発明品ドアを無断で潜ると、警報装置なのか謎の音が響き渡った。
わたわたする二人の視界の隅っこで、もそもそもと何かが動いた。

「ふわ~あ……なに? こんな時間にお客さん?」

機械の下から、煤だらけの女性が姿を現した。
ポニーテールのその女性こそ、英雄が一人プリシス・F・ノイマンである。

「って何!? 全裸!? その歳で人様の家でそーいうことはよくないと思うけど……」

うわあと露骨にドン引きするプリシス。
エリスの方もその発想に若干ドン引きするものの、そんな場合ではないため早急に話を切り出した。

「違います! これは、今話題のコトダマオバケにやられたんです!」

コトダマオバケが出現するのは夜中の間。
のんびりしていたら今日の出現時間が終わってしまう。

「コトダマオバケ……?」
「え、知らないんですか!? 今あんなに騒ぎになっているのに!?」

目を細め、プリシスは記憶を隅々まで探す。
それでもそんな奇怪なものに聞き覚えなんてなかった。

「うーん……最近は外にも出てなかったから……」
「新聞にも……って、あああ、こんなに溜め込んで……」

言ってから、郵便受けから紙束が溢れているのに気が付いた。
この人、ダメな大人だ――エリスはそう思った。
父親もズボラな方だが、この人はそれを遥かに上回っている。

「な、なんか、言葉で冷気を操ってきて……何人も高熱を出してるんです」
「ふぅん……言葉で冷気を……」
「は、はい……影みたいに真っ黒で、正体もよくわからなくて……」

ショタが必死で説明する。
その間、エリスは視線を動かして研究所内を見渡していた。
散乱する郵便物に、謎の機械郡。
体を隠せそうな布は、特に見当たらなかった。

「オッケオッケ。つまり君たちはそれを私に倒してほしいわけだ」
「はい……悔しいですけど、英雄であるプリシスさんくらいにしか倒せそうにないので」
「いいよ、案内して。
 ……ああ、ちょっと待ってて、君達の服を取ってくるから」

胡麻擂りが功を奏したか分からぬが、プリシスはあっさりと了承した。
それどころか、服も貸してくれるらしい。
ちょっとばかり、変人扱いしていたことに良心が痛んだ。

「はい、これ」

もっとも、引きちぎってきたカーテンを渡されて、そんな気は消え失せたけども。

「……さーて、出てきなよ、ナンタラオバケさん」

先程エリスが襲われた辺りへと行き、声をかけるプリシス。
見学と称してついてきた二人を背後に隠し、虚空へと声をかけた。

「それともこう呼ぶべきかしら?
 ――時空剣士のナレノハテ、と」
「へえ、僕の事、知ってるんだ」

その言葉に反応して、すうっと影が現れた。
変わらずおちょくるような口調であるものの、どこか緊張が見て取れる。

「おや、君が援軍を呼んだのかい?
 風香ちゃんだっけ? 事件を風化させないようにしたのかな?」

再び冷気が辺りを包む。
プリシスはというと、子供二人がカーテンレールだけなのに自分はコートを着込んできていた。

「そっちは忘れてても――こっちはアンタを忘れてないからね!」

言うが早いか、プリシスは鞄からむじんくんを取り出した。
――全長10メートルほどの。

「過去の遺産――――四次元デイパックアターック!!!」

ズシンと音が響き渡る。
紙一重で避けた影は、ひゅうと口笛を吹いた。

「余りの大きさに、ちょっとビッグリしたよ!」

パキパキパキ。
薄いカーテンが既に氷つき始めた。
エリスもショタも、早くもパニックになりかける。

「避けたね、クレス。つまりアンタは、オバケだなんだ言われてても、物理攻撃が有効なんだ」

プリシスだけは、そんな中でも冷静だった。
プリシスは、冷静であることの大切さを知っている。
考えることで切り開ける道があると知っている。
だからこそ、常に冷静であろうとするのだ。

「悪いけど、倒させてもらうよ!」
「夏美ちゃぁ~ん、僕にどんな罪があるって言うんだよぉ」

既に相当温度は低下しているが、厚着のプリシスは行動ができる。
カーテンだけの子供二人はもはや凍り付いているが――それはプリシスの狙いだった。
子供二人が傷ひとつないところを見るに、敵に体を傷つける意図はない。
服が破壊された時点で攻撃が止むのなら、下手に厚着させ恐怖の時間を長引かせる必要もない、というのが考えである。

「君、五月ちゃん? すごい殺気ー」

音を立てて、プリシスのコートが割れる。
同時に、カーテンも粉々になった。
それでも悲鳴は上がらない。
エリスの口は、既に冷気で固定されていた。

「あやかちゃんかな? だとしたら、その凄さにあやかりたいね!」

ズボンが、上着が、次々凍りついていく。
何とか援護しようと、エリスは唇を下でこじ開ける。
ショタも、何とか動こうとモガイていた。

「それか君の名前、ネカネじゃねーか? ねえ?」
「プリシスさん、上ェ!」

エリスが声を上げる。
コトダマを投げかけながらふわふわ飛び回るコトダマオバケの現在地を、プリシスへと伝えた。
プリシスは自家製ジェットブーツを点火して、空高く飛び出した。
上を取り、メガトンパンチでぶん殴る。

「うがっ……痛いと言いたい!!」
「やかましい!」

地面に落下したコトダマオバケに膝から突撃をかますプリシス。
たまらずコトダマオバケは咳き込んだ。

「プリシスさん、左に逃げました!」
「おっけおっけ!」

エリスとのコンビネーションが発動し、次々に攻撃が入るようになる。
だがしかし、その影塗れの影はにやりと笑みを形作った。

「愛衣ちゃん、無駄な抵抗はやめい!」

バキバキバキ、と再び衣服が凍りつく。
プリシスの顔が、そこでようやく驚愕に染まる。
明らかに、打撃ダメージが通っていない。

「ぷ、プリシスさん!」

プリシスの上着が砕ける。
残る着衣も少なくなった。
このままではまた全員が全裸にされて逃げられる。

「ははは、少年。君も必死だね。平らなボディを見たいらしーね」
「誰が平らなボディだ、誰が!」

プリシスのむじんくんスーパービームが発動。
コトダマオバケはそのまま地面に吹き飛ばされるがすぐに立ち上がる。
しっかりとガード体勢を取っていたのを、プリシスは見逃さなかった。

「そいつさっきも平ら平ら言ってました! 乙女の敵です!」
「よーしぶっ飛ばす!!」

四次元デイパックから巨大なむじんくんの群れを繰り出す。
野次馬を防ぐために音は立てたくなかったが、仕方あるまい。

「当たらないよ!」
「当てる気ないしね!」

ジェットブーツ最大火力でコトダマオバケに肉薄する。
そこで、コトダマオバケは気が付いた。
ぶちまけられたむじんくんは、周囲を囲むバリケードになっていることに。

「包囲するとは……ほう、いい作戦だ!」

ガシャンと派手な音を立てて、プリシスのスポーツブラが砕ける。
そこには――――

「何ィ!? 胸にモンスターボール!?」
「むじんくんだっての!!」

胸の周りに光が集まる。
小手で顔面をカバーしようとするコトダマオバケの腕を掴み、プリシスはにやりと笑う。

「むじんくん入りの胸は……痛かろう……ふっ」

むじんくんスーパービームの眩い光がリンガを包む。
光が止むと、黒焦げの鎧だけがガシャンと地面に落下した。
ふう、と溜息をついて、プリシスはエリス達に近づく。
しかし――

「プリシスさん! 後ろォ!!」

胸を隠していた右手を、背後から掴まれる。
黒い腕。影の腕。
その正体は、勿論――――

「亜子ちゃんかい? あー怖かった」

バキン、と音を立て、プリシスのぱんつが砕ける。
これで、衣服は全て消え去った。
今までの傾向から言うと、これでコトダマオバケは消える。
消えてしまう。

「見るな!」

エリスがショタの目を覆う。
プリシスが引きつけたおかげで動けるようにはなった。
だがしかし、もうどうしようもないだろう。
プリシスの機械も凍り、すっかり打つ手がなくなった。
もう、体を凍らされ直すのを待つだけだ。

「時空剣士乙」

しかし――謎の声が聞こえると共に、視界に化物が飛び込む。
コトダマオバケとは違う、恵方巻きのような化物。
それがバクリとコトダマオバケの首を食べてしまったのだ。

「大丈夫? プリシス……」

現れた謎の影の正体は?
次回、感動の最終回――――!!



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