秋も深まり、枯葉も殆ど落ち切ってしまった頃のとある夜。
寒々しい荒れ野の真ん中で、一人の少女と一匹の怪物が焚き火を囲んでいた。
少女の見た目は十代半ば頃。灰色のコートを羽織っていて、金色の髪を少し短めに揃え、整った顔立ちに青い瞳をしていた。
一方、怪物は結構大きめで、中にその少女が二人分入れそうなほどの体躯をしていた。
全身銀と灰色の装甲で覆われ、大きな胴体からは四つの脚が生えている。身近な生き物では、クモが一番形が似ていた。
「ねえタオル」
焚き火にあたりながら、少女が呟くように怪物に話しかけた。
「なあに、セリア」
焚き火の側で脚を下ろし、大地に胴体を着けて静かにしていた怪物が、すぐにその少年のような声で少女に返事をした。
少し間があいて、少女が揺れる炎を瞳に映しながら続けた。
「この世界で生き延びるためには、何より誰よりも、まず自分を愛さなければならない。それがたとえどんな状況でも。……そう教えてくれたのは、タオルだったよね」
「そうだよ、確かに言った。覚えてる」
軽い口調で当たり前のように断言した怪物は、やはり微動だにしないまま返した。
少女は怪物のほうを見ないまま、やはり炎を見つめながら続けた。
「もし、この先……タオルと私が二人とも危ない目に遭って、どちらかが助からないような状況になった時……」
「……」
「……私はきっと、タオルを見捨てる。そうでなきゃ、自分が死んでしまうから」
「……」
「タオルのことはなんだかんだで嫌いじゃないけど、それでも私はきっと見捨ててしまう。自分のことだから解る」
「……」
「……タオル?」
怪物の反応がなかったせいか、そこで少女は顔を少し動かし、怪物をちらりと見た。
怪物は、さっきと何も変わらずにそこに座って、静かに炎にあたり続けていた。
少し後悔したような色を顔に映すと、少女は膝に顎をのせて再び揺れる炎を再び見つめ始めた。
……しばらくして静寂を破ったのは、怪物の声だった。
「正しい判断だと思うよ」
まったく迷いのない、それでいて優しい声が、炎に僅かに照らされた夜の闇に響いた。
「それで良いんだ、ボクの教えた通り。それでこそ旅人だよ、セリア」
「……タオルは、良いの?」
「ぶっちゃけ良くないけど、セリアが死ぬよりはほんのちょびっとだけマシかな。それに何より、ボクは一度死んでるしね」
「……」
そこで怪物は、くす、と一度だけ静かに吐息で笑うと、暖を取りながら柔らかい口ぶりで言った。
「だから、いつかその日が来るまでは、側にいさせてね」
少女からの返事は、返って来なかった。
その代わり、少女は座っていた切り株から立ち上がり、怪物に近づくと、その硬い背中に倒れこむような形で抱きついた。
「くすぐったいよ、セリア」

ぱちぱちと焚き木が焼けて跳ねる音だけが、夜の闇に木霊していた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年05月18日 08:56