「ん」ふたりのダブルベッドの上、タンクトップ姿のメリーに私が突き出したのはかなりきわどいビキニ。
「はい!着ますね!お姉さまも水着着てください!」
「なんで私まで」
「これがいいです!」彼女がバッグから取り出してきたのも結構きわどいビキニだった。
この際なんでバッグからいきなりビキニが出てきたかは問うまい。
まず、この場合はなんでかなんとなく知っていたし。だってこのビキニには見覚えがあったから。
私はこの水着を着たメリーの写真を見たことがある。あの子が部屋に置いて行った週刊誌の表紙。それでなんだかものすごく独占欲を傷つけられてしまって、この子にそれよりきわどいビキニを着せようとしている。
メリー・ストロベリーはグラビアアイドルで、水着なんて着慣れていて、魅せるのはもっと慣れていて、けれど私の恋人。
あんまり考えたことがなかったけれど、そういえばそうか。あの子は多くの男の欲情を誘って、なんて、多分考えないようにしていたんだろう。
ともかく、出会って五年、指輪を渡してからで言えば二年経って、やっとそんなそんな当たり前のことに気が付いて機嫌を損ねているのだった。

「大丈夫ですよお姉さま、撮影の時はニップレスをつけてますから」この子はいつも人の話を聞かずに勝手に話す。
「いいえ」
「んもう。じゃあお姉さまが剝がしてください」いつのまにか着替え終わったメリーが自分の水着を浮かせてニップレスを見せつけてくる。さすがはプロの早業。
「そういうことじゃないでしょう」私の水着を着る手つきはとてもたどたどしかった。そもそも、このバカ乳女の水着なんて私が着て格好がつくだろうか。私は世界一かわいいし胸もあるけど、これと比較するとどうも自信を失う。
心配しているとそのバカ乳の持ち主は私の肩を両の手でそっと包み込み、首筋にキスをしながら背中に手をやって水着の紐を結んだ。

「ごめんなさいお姉さま。私がもっといい子だったらきっと、お姉さまがやきもちを焼かないお仕事でお姉さまを養ってあげられたんですけど」
「――いいわよ、別に。やきもちなんてやいてないし」
「だけどせめてお姉さまが不自由しないようには稼ごうと思うので、続けさせてください!」
「別にいいって」
「あ、それからお姉さま!心配はいりません!いい男も女も関係なく私が好きになる人は後にも先にもお姉さまだけです」
「そ、そ、それはそうよ。あなたはこれから私に看取られるまで私のことしか考えられないんだから」
「お姉さま、私はお姉さまに看取ってもらわなくてもいいですよ。私が看取ってあげます」
珍しく言葉に対してしっかりと返事が返ってきてしまい驚いた。
「いいえ、それは絶対にないわ」それだけを言い放つ。乱暴に。けれどしっかりと。
「だったら、一緒に終わりたいですね。そしたら、どちらも泣かずに済みます」
「そう」
そういって私は舌を突き出した。メリーはとろんとした目で顔を寄せ、私の真っ赤な舌を優しく、けれどしっかりと噛んで、それから自分の舌を使って器用にピアスを外した。

こんな会話には意味がないと思って、行為に移った。
両の手の指を絡ませあって、お互いの指輪を確認しあう。

この子は知らなくていい。私はこの子を看取るまでの何十年かで、何億年分の恋を――と、この時はそんな風に思っていた。

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最終更新:2016年10月15日 16:23