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ゴーゴーメガネ! ゲイナーくん - (2021/09/17 (金) 12:41:39) のソース
**ゴーゴーメガネ! ゲイナーくん ◆C0vluWr0so 第二回放送から三十分……累計すると一時間もの長きに渡って、僕はこの体を縛る憎き縄と格闘している。 まったく、何故こんなことになったのか……。 まぁ、それの原因の殆どは僕の過失やら詰めの甘さなんだから仕方が無いと言えば仕方がないのかもしれない。 だがしかし、だ。 今僕が凍えているこの状況は、おおよそ八割方はレヴィさんの性格に起因しているだろう。 なんだって服まで脱がせるんだよ、あの人は。 冷えた身体を震わすと、僕は小さなくしゃみをした。 くしゅん。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ゲイナー少年がパンツ一枚という全裸寸前、その上縄によって緊縛中という格好で放置されているのは、決して彼の性癖に因るものではないと、彼の名誉のために言わせてもらおう。 そう、彼が人に言えない少々特殊な性癖を持っているだとか、そういったことでは断じてないのだ。人に見られて困る格好であることは否定しようがないが。 酒瓶で殴られた頭部の痛みも引き、自らの身体を縛る縄をどうにかしようと少年が行動を開始したのがおおよそ一時間前。 彼はこの縄を断つために、痛快な音と共に彼の頭を叩き、そのまま割れてしまった酒瓶の欠片を探した。 ガラス片でこの縄を切ることが可能であるかという心配も無くはなかったが、レヴィという前例もある。さほど時間もかからずにこの緊縛から逃れることが出来るだろうとゲイナーは高をくくっていた。 だが彼はとんでもない事実を目の当たりにすることになるのだ。 「もっ……、もがが!?(訳:なっ、ガラス片なんてどこにも無いぞ!?)」 ああ、レヴェッカ嬢はなんと酷い仕打ちをなさるのだろうか。 ゲイナーの近くには、縄を切れるだけの大きさを持った酒瓶の欠片など、一つたりとも存在しなかった。懇切丁寧なことに、レヴィが大きい破片だけを持っていってしまったのである。 ゲイナーの手元には小指の先ほどの大きさの破片しか無く。これで縄を切ろうとするのなら何時間かかることやら……。 「もがががっ(訳:大人ッてのはいつもこうだ!)」 「もがががが(訳:僕らには酷い仕打ちばかり!)」 ゲイナー少年の憤りももっともである。だがおそらく、まともな大人ならばこんなことはしまい。 相手が悪かった、ということだ。おそらくはレヴィにとってもお互いに。 とは言うものの、なんにせよ脱出は最優先事項。いつまでもこの格好でいるわけにもいかないと、渋々縄を切る作業を開始したということである。 そして放送が始まり、終わった。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 僕はロープを切る作業と平行しながら考え事をしていた。勿論先ほどの放送についてである。 新たに呼ばれた死者の名は九つ。……知っていた名前は一つ。 朝比奈みくる。僕が話した顔も知らない少女は死んでしまった。原因は電話中に起きたらしい何らかの騒動――おそらくは殺戮者のホテルへの乱入――だろう。思った通り、市街地はかなりの激戦区になっているらしい。 そこへ向かったなのはちゃん達の安否も心配だが、クーガーさんもカズマさん同様かなりの戦闘能力を備えているようだった。今は二人を信じることしかできない。 ゲインもまだ生きている。まぁあの請負人がそう簡単に殺されるとは思っちゃいないけどさ。 それでも既に全体の三分の一が死んでしまっているこの現状。ゲインにも、もちろん僕にもいつ殺戮者が襲いかかってくるかも分からない。 (考えろ、ゲイナー) 今生きのびている人間は『力』なり『仲間』なり『頭脳』なり、死んでいった人たちが持たなかった『何か』を持っているはずだ。 僕にはカズマさんやレヴィさんのような『力』は無い。 なのはちゃんにとってのクーガーさんのような、頼れる『仲間』もいない。 なら僕はどうすればいい? 『考えろ』 『頭を使え』 それが僕に出来る唯一のことだ。 そして……さしあたっての問題点。これが一番厄介で、死に直接関わってくる問題だ。 僕のいるこのF-8が禁止エリアに指定された。この首輪がその効果を発揮するまでに残された時間は四時間強。おそらく、それまでにはこの縄を解くことも不可能では無いだろう。 だがそれよりも恐れていることは、ここに殺戮者が来ることだ。 ギガゾンビは放送の中でこう言った。『禁止エリアに動けない人間がいる。好きにしろ』と。 冗談じゃない。善意で助けに来てくれる人間ならまだしも、明確な殺意を持った人間が来たとき、僕は為す術もなく嬲り殺されることになるだろう。『無力』で『仲間』もいない僕は。 だから――『考えろ』 このピンチを乗り越えるために。生きてエクソダスを続けるために。 大丈夫さ、僕はチャンプだ。こんな修羅場、いくつも乗り越えてきた。その経験が教えてくれる。今重要なのは情報。 そしてその鍵は――この頭の中に刻まれた名簿にある。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 【ゲイナー・サンガによる名簿に関する考察】※名簿を片手に読むことを推奨します。 まず、わかりやすくするために名簿の頭から順に番号を振ってみる。1番キョン、2番涼宮ハルヒ、……80番平賀=キートン・太一といった具合にだ。 僕とゲインがそうであるように、元からの知り合いは前後して並べられているということは、なのはちゃんとの情報交換、レヴィさんやカズマさんの言葉の端々から確定と見て間違いないだろう。 『名簿は知人同士が固まって記載されている』 この前提を元に、分かる範囲で参加者を分けてみる。 ・1番~6番(なのはちゃんが接触した鶴屋さんの証言より) ・12番~16番(カズマさん、かなみさん、クーガーさんの面識より) ・37番~41番(なのはちゃんの友達一同) ・47番~48番(レヴィさんとの会話よりロックという人物と知人だということは確定) ・76番~77番(僕とゲイン) 少なくとも5つのグループを確認。どうやら元々の知り合いの数にもバラツキがあるらしい。 そして、知人の数が多いほど、名簿のはじめの方に記載される傾向が見られる。これは参加者名簿を暗記したときにも感じたことでもある。 なんというか……名簿の後半になるにつれて、名前の表記形式や印象というものがコロコロと変わっている気がするのだ。 まぁ、なのはちゃん達のように元々の友達同士でもバラバラな例もあるんだし、そういう傾向があるかもしれないという程度で頭に留めておこう。もう少し情報が集まればこれについても確定できるんだろうが、今はそこまでは望めない。 『名簿は知人同士が固まって記載されている』ことを把握しておけば、例えばカズマさんのように知人の死を知り、興奮や逆上、その他感情の昂ぶりを見せている相手がここに来ても、少しはマシな接触が出来るはずだ。 それに、こちらが人を捜すときにも、上手く名簿を使えば効率的に情報を集められるだろう。 例えばこの忌々しい首輪に関してだ。いずれ解除か無効化をしなきゃいけなくなるだろう。 そのとき参加者一人一人に首輪に関する知識の有無を確認していたら、とてもじゃないが間に合わない。だが、グループ単位で考えれば? 機械技術の発達した世界や、魔法という全く別の技術体系を持つ世界から来たグループを特定すれば、対象は個人から集団へと変わり、技術者の発見も容易になる。 そして、これがこの名簿から得られ、今の僕にもっとも必要な情報かもしれない。 今まで二回の放送で呼ばれた死者……それの『偏り』だ。 より分かりやすくするために、十人単位で区分けして考えてみよう。 ・1番~10番→3人(4番、6番、10番) ・11番~20番→3人(11番、14番、15番) ・21番~30番→1人(29番) ・31番~40番→5人(31番、32番、35番、36番、39番) ・41番~50番→4人(42番、45番、49番、50番) ・51番~60番→5人(51番、52番、55番、59番、60番) ・61番~70番→5人(61番、62番、65番、67番、69番) ・71番~80番→2人(78番、80番) 明らかな偏り。これが意味するところとは? ただの偶然か? いや、違う。『名簿は知人同士が固まって記載されている』のだ。これはそのままグループ毎の生存率、さらには単純な生き残るための力、戦闘能力を表しているのではないか? 例えば、カズマさんやクーガーさんの能力。例えば、なのはちゃん達の魔法。例えば、レヴィさんの戦闘技術。いずれも一般人、ただのピープルとは無縁のものなのだ。 『その世界の人間は強い』と認識しろ。16番~28番。他と比べてあまりにも人が死んでいない。単純に『強い』のだ。 49番~52番、59番~62番。人死にが続きすぎている。『弱い』のだ。 見極めろ、強さを。情報を。それが自らの生存率を高めるのだから。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「へ……へぶっ」 突然鼻からむず痒さが広がり、僕は我慢出来ずにくしゃみをする。さるぐつわのせいで音まで間抜けだ。 いけないいけない、少しばかり考えるのに熱中しすぎて縄を切る手を止めてしまっていた。 今一番にすべきことはこの緊縛を解くこと。名簿から情報を得るなんてことはあくまで保険だ。 優先順位を間違えて、いつ来るのか、その前に来るのかどうかもあやふやな相手の対策を練っているうちに首輪がドカンだなんて、洒落にもならない。 (しかしまぁ、これからのこと――考えなくちゃいけないかもしれないな) 死者は増え続け、僕もまた危険な状況にあるんだ。相棒の消息もようとして知れない。 脱出に向け、具体的な策を考えなきゃ。ゲインも動いているはずだ。 むざむざと市街地に向かって殺される気はないけど、積極的に他の参加者と接触をとる必要はある。 (中心部を避けながら、避難している参加者を集めるか……) 力が無ければ、数で対抗すればいい。いずれゲインとも合流出来るはずだ。 そう、気を引き締めるが――不意に僕の身体を悪寒が襲う。そう言えばなんだかさっきから熱っぽい感じも…… (風邪、ひきかけてるな……) 確かA-8には温泉があったはずだ。ガウリ隊長には天然のお風呂だと聞いている。まさかこんな形で隊長のヤーパン知識が役に立つなんて思ってもいなかったな。 ひとまずこの緊縛から自由になったなら、温泉でじっくり身体を暖めるのも悪くない。 というかこのままじゃホントに風邪をひいてしまうだろう。 誰か僕に服を下さい。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ かくしてゲイナー少年は未だ半裸のまま、もぞもぞと縄と格闘している。 貧弱な肉体を露わにし、不格好な動きをするその姿はひどく滑稽ではあったが――少年の瞳は、決意と意志とで輝いて見えた。 【F-8・森林/1日目/日中】 【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】 [状態]:風邪の初期症状(寒気、くしゃみ、微熱など)、頭にたんこぶ、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い [装備]:パンツ一丁、ロープ、さるぐつわ [道具]:支給品一式 [思考・状況] 1:……寒。暖まりたい……。 2:なんとかしてこの状況の打破。出来れば誰にも見つからない内に。 3:温泉で暖まり、少しでも風邪の進行をくい止めたい。 4:首輪解除手段を手に入れる。 5:もう少しまともな人と合流したい(この際ゲインでも可)。 6:さっさと帰りたい。 [備考] ※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。 ※手首と足首をロープで縛られ、最低限の身動きしか取れません。口にはさるぐつわを嵌められ、喋ることも出来ません。 ※ゲイナーの周囲には、ロープの残骸、手錠、割れた酒瓶(大きな破片は無く、ほとんど粉々)、ゲイナーの衣服、防寒服が散らばっています。 ※ロープはこのまま作業を続ければ三時間ほどで切ることが可能です。 *時系列順で読む Back:[[Boys don't cry]] Next:[[嘘800]] *投下順で読む Back:[[Boys don't cry]] Next:[[嘘800]] |153:[[「借りは返す」]]|ゲイナー・サンガ|189:[[鉄の鎧纏った僕を動かしてく Going on]]|