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失われた時を求めて - (2007/02/22 (木) 16:43:10) のソース
**失われた時を求めて ◆k97rDX.Hc. 彼は、駅前の雑居ビルの3Fにその場所を見つけた。 人影のないカウンターの前を通り過ぎ、左右にたくさんのドアが並んだ廊下に踏み込む。 固いノブを捻ってそうしたドアの1つを押し開けると、そこはソファの並んだ小部屋になっていた。 彼は後ろ手にドアを閉めると、奥のソファに座り込んだ。 右の拳を固めて、テーブルにたたきつける。その上に載せられていた灰皿が衝撃ではねるが、 それだけだった。 彼は痛む拳を解くと、頭を抱えてうずくまった。 いつもの交差点。学校への道。他愛のないおしゃべり。 人々の集められた部屋。仮面の男。爆発音。 無人の街。誰もいないビル。この部屋にただ1人の自分。 永遠に失われた平穏な日々と今。あの惨劇の前後ですべてが変わってしまっていた。 だが、その前に戻るすべがあるのだとしたら…… テーブルにおいてあるリモコンをぼんやりと眺めていた彼の瞳が、決意を帯びたものへと変わる。 それを手にとってボタンを押す。すると、部屋の隅にしつらえられたモニターに光がともった。 彼はその機械を使ったことはなかったが、勘と画面を頼りにリモコンを操作する。 ある儀式の準備を整えるためだ。 彼にとっては本来、その儀式はこんなときに行うべきものではない。 だが、 喪われた友を悼むために。自らを奮い立たせ、前へと進むために。 今は、それが必要なときだった。 一心不乱に画面を見つめる彼は気づかなかった。 きちんとロックできていなかったドアが、内側へと薄く開いていることに。 ○ 「まったく、これじゃしょうがねーです。」 彼女は、自分の前に立ちふさがるドアを前に、腕組みをしてため息をついた。 ドアノブは彼女が精一杯手を伸ばし、それでもぎりぎり届かない位置にある。 「ギガ……なんだか知らんですが、少しは気を利かせてもっとましな場所に飛ばしやがれです。 どれ、なにを入れたか見てやるです」 そう文句を言ってソファの上のデイパックのところまで戻ると、彼女はその中に手を突っ込んだ。 このゲームが始まってからというもの、彼女はこの部屋に閉じ込められたまま動けずにいた。 人工精霊が呼びかけにこたえない以上、彼女1人で何とかするしかない。 鼻歌を歌いながら中身をまさぐり、当たったものをつかんで勢いよく引き出した。 「じゃじゃ~ん……!?」 自分の手に握られたものを見て彼女は一驚した。 慌ててテーブルの上にそれをおくと、今度は参加者の名簿を取り出し、一心不乱に目を動かす。 時折見知った名を見かけるがそのまま作業を続け、最後に、1つの名前のところで指が止まった。 「……蒼星石」 呟いて、テーブルの上に目を落とす。 華麗な装飾が施された金色のもち手。剪定を行うためのしっかりとした刃。 それこそ、 戦いの中でローザミスティカを奪われ、ただの人形になってしまった薔薇乙女の第四ドール。 彼女の失われた半身。 ただ1人の双子の妹――蒼星石の持つ庭師の鋏に違いなかった。 それをじっと見つめる彼女の瞳に映っているのは鋏なのか、それともかつての日々の残滓なのか。 しばらくの間そうしてからソファを飛び降りる。 彼女は名簿をしまって鋏をつかむと、この場に立ちふさがる障害――部屋のドアをにらみつけた。 ○ モニターに映し出された“それ”を彼はまじまじと見つめた。 “それ”がここに存在することはありえない。少なくとも、彼がそのことを知らないはずがない。 そこまで考えて、彼はかぶりを振って頭の中から疑問を追い出した。 この儀式には“それ”がもっともふさわしい。その事実の前にすべては無意味だったからだ。 彼は震える指でリモコンのスイッチを押した。 すると、画面が切り替わり……室内に、軽妙なイントロが流れだした。 ○ 「この姉に会うまで無事でいるですよ。蒼星石。」 彼女は庭師の鋏――結局これでドアを開けたらしい――を右手に握り締め、廊下へと一歩踏み出した。 と、突然その表情が緩む。なにやらにやにやしながら誰にともなくしゃべり始めた。 「まあ、そのついでにチビ人間のことも探してやらんことはないです。 あくまで“ついで”ですけど……」 そこまで言ったところで、彼女は前方の一室から何かの曲が流れ出しているのに気づき、 そして、衝撃がきた。 ○ ♪俺はジャイアン様だ 作詞:剛田武 作曲:剛田武 俺はジャイアン ガキ大将 天下無敵の男だぜ のび太スネ夫は目じゃないよ 喧嘩スポーツ どんとこい 歌もうまいぜ まかしとけ 「ってどこがですかぁ!! 今すぐその口閉じやがれです!!」 突然、個室のドアが勢いよく開かれた。 突きつけられた指をぽかんと見つめる剛田武――ジャイアンに向かって乱入者――翠星石は叫ぶ。 「これじゃ静かに物思いにもふけられねぇです!! うなるなら翠星石の迷惑にならない場所でやればいいのです!!」 と、そこまで言って自分のうかつさに気づいたのか、翠星石の表情が凍りついた。 沈黙。 あっけにとられたままのジャイアンと固まったままの翠星石。 カラオケの伴奏だけが響く室内で、互いに見詰め合ったまま動けない。 にらみ合うことしばし。 2回ほどループして曲が終わると、今度こそ本当に静寂が訪れてジャイアンはうつむいた。 視線が外れた隙に、部屋の外へと後ずさりする翠星石を声が追いかけてくる。 「……そうだよなあ。迷惑だよなあ」 ぽつりと呟くと、ジャイアンは面を上げた。その形相が一変している。 「んなろ~!! 俺様の歌を、馬鹿にしやがって~!! ぶっ……」 『殺して』 限界だった。 振り上げた拳を力なく下ろすと、ジャイアンはその場にがっくりとひざをついた。 【E-6駅前商店街 1日目 深夜】 【剛田武@ドラえもん】 [状態]:健康だが、しずかの死にかなり動揺 [装備]:カラオケ店備え付けのマイク(店の外では使用不可) [道具]:支給品一式(まだ中身を確かめていない) [思考・状況] 第一行動方針:ドラえもん、のび太、スネ夫を探す。 基本行動方針:? 【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】 [状態]:若干頭がくらくら。目の前の状況にちょっと困惑 [装備]:庭師の鋏(※本来の持ち主である蒼星石以外にとっては単なる鋏) [道具]:支給品一式(庭師の鋏以外に特殊な道具があるかは不明) [思考・状況] 第一行動方針:とりあえず、目の前でうずくまっている人間をどうにかする 第二行動方針:蒼星石を捜して鋏をとどける 第三行動方針:チビ人間(桜田ジュン)も“ついでに”捜す 基本行動方針:蒼星石と共にあることができるよう動く ※本人が本調子でなかったことと防音設備のため、ジャイアンリサイタルは ビルの外へは“あまり”響いていないようです。 *時系列順で読む Back:[[北方の少年と南方の娘]] Next:[[勝利すべき黄金の剣]] *投下順で読む Back:[[奥様は6インチの魔法少女!]] Next:[[勝利すべき黄金の剣]] |剛田武|64:[[彼女の死を乗り越えて]]| |翠星石|64:[[彼女の死を乗り越えて]]|