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もう一度/もう二度と――なまえをよんで/なまえはよばない - (2021/12/20 (月) 19:54:04) のソース
*もう一度/もう二度と――なまえをよんで/なまえはよばない ◆LXe12sNRSs 血と混沌。闇と祝宴。狂気と深淵。贄と儀式。神と魔。 『誕生だ……』 異形を成す化物共の群集。その視線に見守られながらの降臨、否、生誕。 5人目の福王にして新たなる魔王は、巨腕の中で静かなる鳴動を繰り返し、男の怒り、恨みを一身に受けながら新生した。 『ボイド、スラン、ユービック、コンラッド――我らに連なりし魔名を冠する新しき眷族』 幾多の触媒から糧となる命を得て、仲間だった者の嘆きと悲しみを敢えて流し。 黒卵に眠りし鷹は、誇り高き白の翼を捨てた――そして新たに生やした翼の色は、漆黒。 『闇の翼――フェムト』 親友を売り、それどころか利用し、新生した魔王は人間としての生を終えるべく、外道に。 愛、憎悪、苦痛、快楽、生、死。 儀式の中で紡がれる数多の感情と負は、女の心を破壊し、男の心を深く突き落としていった。 5人目の天使は誕生してしまった――時はもう止められない。 邪が聖を、幻想が唯物を、怨念が希望を、憎悪が愛を、死者が生者を。 あらゆる闇が光を凌駕する時代。そう……日の光を月影が覆い隠すかのように。 鷹が国を目指し、雄雄しく翼を広げていた時代はもう戻ってこない。 『黄金時代』はここに終わりを告げた。後にやってくる新時代を、人はこう呼ぶだろう。 ――――――『暗黒時代』と。 ……しかし。 これは紡がれるはずであった歴史であり、今はもう紡ぎようのない歴史でもある。 最大の糧であった男と女は消え、鷹の心に変化を齎した。 これから先の未来、鷹は魔に落ち冥界を行くのか、それとも誇りを取り戻し覇道を進むのか。 国を手にいれる――友に捧げた別れの言葉は、どんな意味を持つ。 鷹は、今のグリフィスは――どんな色の翼を生やしているのだろうか。 ◇ ◇ ◇ 『オレはオレの国を手に入れる。お前はオレのために戦え。お前の死に場所は、オレが決めてやる』 かつて、グリフィスがガッツに言った言葉だ。今はもう意味を成さない。 ガッツは死んだ。キャスカも死んだ。――――剣だけが残った。 これは何を意味し、何を示すというのか。 「……剣は、武器だ。そして、オレにとってはそれだけじゃあない。ガッツにもキャスカにも……剣を握り生きてきた者には、誰にだって同じことだ」 虚ろな視線は、疲労から来る身体の悲鳴に違いない。 戦争跡地となった巨城、ホテル周辺で宿を取る間も、断末魔を含める騒音は休みなく聞こえてきた。 誰かがどこかで戦っている。昼だろうと夜だろうとお構いなしに。それが、この世界の現実。 ……ここからどうしようか。 睡魔に打ち負けたグリフィスは、夢の狭間でそんなことを思った。 ホテル近くにはまだ人がいる。優勝を目指すなら、そいつらを殺してみようか。 方法はどんな手段を用いるのが適切だろうか。夜というアドバンテージを活かすなら、闇討ちがいいかもしれない。 味方を装い、内部から混沌を齎すというのも悪くはない。狐の皮を被るのは昔から得意だった。 間違っても、ガッツのような力任せに突っ込む手法は取らない。勝利というのは、相手の戦力を知りえなければついてこないからだ。 目覚めたら、明日が待っている。 やることはただ一つ、栄光への努力だ。 『――おめでとう! ついに1日目の終了だ。死体を枕に迎える夜はどうかね?』 朝を知らせる小鳥の囀りには程遠いが、元凶である主催の定時放送は、グリフィスの目覚まし代わりとして機能した。 これまでと同様の流れで、新たな禁止エリアと死亡者が告げれていく。 (ミス・ヴァリエールは死に絶えたか) ホテルへ差し向けた、愛欲の魔女ルイズ。その長い名前はしっかりとギガゾンビが告げ、思惑通り脱落したことを示していた。 もとより消耗品としか思っていなかった、捨て駒が死んだだけのこと。感傷は無に等しい。 ガッツ、キャスカ、かつての同胞が確かに死亡したことを確認できた今、この会場内でグリフィスの素性を知る人間などほんの一握りの数。 せいぜい遊園地で言葉を交わしたカズマくらいのものだろう。 暗躍するにはもってこいの環境が整った。完全とは言えないが傷も癒えた今、動かない理由はない。 「手を拱いていては、栄光など掴めはしない。立ち止まらず、進み続けなければいけないんだ……そうだろう、ガッツ」 ふと、自ら断ち切ったはずの絆を手繰ろうとしていることに気がついた。 ガッツはもういない――もう呼ぶ必要のない名だ。 グリフィスはその名を胸中にしまい込み、進む。 もう、永遠にその名を呼ぶことはないのだろう……。 ◇ ◇ ◇ 高町なのは。 タチコマ。 文字数にして九、言葉にするにあたっては、たった十一回口を開け閉めするだけで紡がれる、大切な人たちの名前。 その名前を、ギガゾンビは軽々しく口にする。死亡した人間を知らせるという名目で。 それが、たまらなく許せなかった。 『……Sir』 「だいじょうぶ……大丈夫だよ、バルディッシュ」 名前を呼ぶ、という行為は、単純でいてそれでとても重要な意味を持っている。 相手の側で呼べば自分の存在に気づいてもらえるし、親しみを持って呼べばそれだけで交友関係を深めることが出来る。 アリサやすずか、クロノやユーノ、色んな人の名前を呼んできた。 全て、今は亡きなのはが教えてくれたことだった。 放送で再度思い知らされた、親友の死。 今は俯いている場合じゃない。分かってはいるのに、気持ちは上を向いてくれない。 レヴィやゲイナー、現実に向き合うあの二人が側にいてくれたらまた違ったのかもしれないが、 バルディッシュと二人きりの夜は、どうしようもなく寂しかった。 第四放送を聴き終え、晴れて二日目を迎えることとなったフェイト。 日付の変わるその瞬間を迎えても彼女は肉体を酷使し続け、休息を取ろうとはしなかった。 ――彼女はまだ、矛先を見失っているのかもしれない。 親友と呼べる存在と、親友になったばかりの存在。相次いだ喪失。 涙はもう十分なほどに流した。気を引き締める意味での叱咤激励も貰った。 あとはただ、進むだけなのだ。 フェイトの目的は脱出。その足掛かりとなるものを探して、暗い夜道をひた歩く。 その、視線の奥。 フェイトは微かに感じた空気の変化と、バルディッシュからの警告に身を構えた。 視界は闇に染まっていて役に立たない。だが気配として、フェイトの前方に何者かが潜んでいることが感じ取れた。 突然の邂逅――フェイトはその正体が殺気であるということに気づき、飛んだ。 咄嗟の飛翔により身をかわしたフェイトは、数秒前まで自分が立っていた地点を銃弾が通り抜ける様を確認する。 前方に潜んでいた何者かが、発砲してきた。即座の理解に魔力を集中させ、その能力を行使する。 「フォトンランサー……ランサーセット」『Get set』 フェイトの周囲に発現した、三つの光球。 雷によって形を成しているそれは、暗闇を照らす灯りとなって、襲撃してきた者の正体を知らしめる。 相手も正体が露見するのを恐れたのだろう。雷の光から身を隠すようにその場を離れ、駆け出していく。 フォトンランサーはそれを追尾し、襲撃者の長身、ウエーブ掛かった銀髪、銃の所持という情報を明るみに晒していった。 この時点で、相手の狙いであろう闇討ちは失敗に終わったことになる。 「ファイア!」『Fire』 フェイトとバルディッシュの声が重なり、三つの光球は逃げる襲撃者を攻め立てた。 三者三様の複雑な軌道を描く光球だったが、襲撃者は市街地という戦場の特性を活かし、建物の中へ避難を試みる。 誘導されるようにその後をフェイトが追おうとするも、深追いは危険と判断し、一旦気持ちを落ち着かせた。 突然の襲撃は驚くべきものだったが、子供が一人で夜道を歩いていれば、むしろ当然の事態とも取れる。 フェイトは襲撃者が逃げ込んだ建物の外で細心の注意を払い、守りの態勢に入った。 ◇ ◇ ◇ (オレはいったい……何をやっているんだ?) フェイトの心配をよそに、グリフィスは自ら襲撃したとは思えぬ後悔の念に苛まれていた。 それというのも、頭ではあの襲撃が愚策であると認めていたからである。 相手の素性も力量も分からない。周囲に誰が潜んでいるかも分からない。勝率が不明確。 脳はそこまで襲撃の無謀性を提示していたというのに、それよりも先に身体が動いてしまった。 相手が子供だったから――相手が一人だったから――辺り一帯は暗闇で、自分は銃を所持していたから? そんな状況だけの優位など、この世界では無意味に等しいということは分かりきっていたのに。 (何故、気持ちが急いた? オレがこれまでに焦りを見せたことなどあったか? あったとすれば……一度だけ) もう呼ぶことはないあの名――『 』が去った翌日、グリフィスはこれまでの成功を無にする失敗を犯してしまった。 今のグリフィスは、あの時と同じなのだろうか。『 』がこの世からいなくなったから、だから気持ちが急いているのだろうか。 (……らしくない。らしくないなぁ、グリフィス) あいつなら、『 』なら、恨みの念を込めてそう言ったかもしれない。 グリフィスが襲った少女は、ルイズと同種の力を扱う厄介極まりない人種である。 我武者羅な攻めは通用しない。倒すなら、ちゃんとした策を練る必要があった。 ……そう。いつだって冷静沈着に物事を見つめるのが彼の性分であり、成果を求めるあまり展開を急くなど、常のグリフィスなら絶対にしない。 今のグリフィスは、見る者が見れば本当に『らしくない』。 仲間を切り捨て、改めて栄光への覇道を歩む決意をした彼が、こんな有様では。 「笑われてしまうな、『あいつ』に」 名前を呼ぶ、という行為は、単純でいてそれでとても重要な意味を持っている。 相手の側で呼べば自分の存在に気づいてもらえるし、親しみを持って呼べばそれだけで交友関係を深めることが出来る。 しかしグリフィスはもう――『 』の名前を呼ぶことはない。 それは決別であり、新生の証でもある。 グリフィスと『ガッツ』は、なのはとフェイトのような生温い関係ではないのだ。 「勝つぞオレは。そして、オレはオレの国を手に入れる――かつて言ってのけた通りにだ」 ◇ ◇ ◇ 数十分待っても、件の襲撃者が再び姿を見せることはなかった。 逃げ込んだ建物の中を調べてみても、結果は同様。バルディッシュと相談をした上で、敵は大人しく退いたものと判断した。 「敵は、まだいるんだね」 戦闘の終結を迎えたフェイトは、夜空を見上げながらそんなことを呟いた。 残り人数はあっという間に過半数を切り、わずか29人……その中で、フェイトの敵たる人物は何人いるのだろうか。 ゲイナーやレヴィ、話に聞くゲインやカズマやトグサ、そして八神はやての死によりどうなったかすら分からないシグナム。 味方と呼べるような心強い人間も多い。だが先ほどの襲撃者のように、フェイトの『大切な人』を危険に晒す敵はまだいる。 敵が一人でもいるというのなら、フェイトは身を休めることはできない。 これ以上、大切な人が悲しまないように。全力全開で迅速な行動を―― 『…………』 「……バルディッシュ?」 決意の中、手に握ったデバイスが僅かに震えた。 その反動で気づく。握り手に必要以上に力を込めていたことと、手の平が酷く汗ばんでいたことに。 「……うん、そうだね。大丈夫、無理はしないから」 フェイトはその振動を、相棒のぶっきら棒な優しさとして受け取り、深く深呼吸をした。 S2Uは言った――友達を信じろ、と。 意志を持たないストレージデバイスであるS2Uの言葉は、今思えば幻聴以外の何ものでもなかったのかもしれない。 それでも、あの時の励ましはリンディがかけてくれたような、母の暖かさがあった。 カルラは言った――名前を呼んであげなさい、と。 彼女と誓った、再会するべき友達はもういなくなってしまったけれど、これからもその名を呼ぶ機会は大いにある。 あの優しかった女傑に恥じぬため、もう一度涙を拭おう。 タチコマは言った――君が出来ることは非常に多い、と。 親友と一緒に生還するという最大の願いは打ち崩されたけれど、それでもやっぱり選択肢は残っている。 自身の力が首輪の解除や会場からの脱出にどれだけ貢献できるかは未知数だが、それでも何もしないままでいるつもりはない。 そして、なのはは言った―― 『――なまえをよんで。初めはそれだけでいいの。君とかアナタとか、そういうのじゃなくて、ちゃんと相手の目を見て、はっきり相手の名前を呼ぶの』 なのはに尋ねた、友達になる方法。 今でも思い出せる、あの手の暖かさ。あの笑顔。 あのとき貰った、掛け替えのない大切なもの。それは失ってなんかいない。 フェイトと『なのは』は、ガッツとグリフィスのような切羽詰まった関係ではないのだ。 (少し分かったことがある……友達が泣いていると、同じように自分も悲しいんだ。だから、なのはが俯く私を見て悲しまないように――) フェイトはぴしゃんと頬を叩き、その瞳に魂を宿らせた。 「生きよう! バルディッシュ! みんなが向こうで心配しないように、前を向いて、全力全開で!」 『Yes, sir!』 ――悲しみも、絶望すらも乗り越えて、フェイトはようやく完全に立ち上がった。 もう二度と、俯きはしない。 また笑って、友達の名前を呼べるように。 【D-6/2日目/深夜】 【グリフィス@ベルセルク】 [状態]:魔力(=体力?)消費(中) 、全身に軽い火傷、打撲 [装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、耐刃防護服 [道具]:マイクロUZI(残弾数6/50)、やや短くなったターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×7(食料のみ三つ分) オレンジジュース二缶、破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ、ハルコンネンの弾(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾4発 劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING [思考・状況] 1:一旦ホテル近辺のエリアから離れる。 2:参加者を襲う場合は確かな勝算を得てから。 3:ゲームに優勝し、願いを叶える。 【D-6/2日目/深夜】 【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】 [状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、背中に打撲、魔力大消費、バリアジャケット装備 [装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム、残弾5/6)@魔法少女リリカルなのは、双眼鏡 [道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、タチコマのメモリチップ [思考・状況] 基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。 1:ゲームの脱出に役立つ参加者と接触する。 2:朝六時にE6駅でゲイナー達と合流。 3:無理ならその時に電話をかける。 4:カルラの仲間やトグサ、桃色の髪の少女の仲間に会えたら謝る。 [備考]:襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。 *時系列順で読む Back:[[第四回放送]] Next:[[闇照らす月の標]] *投下順で読む Back:[[第四回放送]] Next:[[岡島緑郎の詰合]] |224:[[黄金時代(後編)]]|グリフィス|252:[[『転』]]| |233:[[破滅と勇気と]]|フェイト・T・ハラオウン|250:[[自由のトビラ開いてく]]|