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『転』 - (2022/01/09 (日) 13:14:57) のソース
*『転』 ◆2kGkudiwr6 ◆LXe12sNRSs 両断された列車。主催者への反逆。 それを、しっかりと目で捉えていた者がいた。 (――全く、派手なことをする) その名はグリフィス。鷹の目は標的を鋭く見通し逃さない。 そう。彼はずっとフェイトを付けまわし、観察していたのだ。 いくら住宅街とはいえ、一歩間違えば自分の身を危機に晒しかねない愚行。 だが、それをうまくやってのけるのがグリフィスである。 もっとも、そろそろ日が出る時間帯。観察もそろそろ打ち切りにすべきだと彼は判断し始めた頃合いだったが…… ここに来て、大きな動きがあった。 (先ほど男としっかり会話をしていたのを見る限り、ミス・ヴァリエールのように狂っているわけではないはず。 ならば、あの行為も何かしらの理由がある) フェイトが飛び去っていくのを確認し、グリフィスは素早く車内に侵入した。 切れ味などをじっくり観察しながらも、彼は元・電車だった物の内部を探索していく。 (見事なまでに真っ二つだな。 まともに戦うと危険だ……それが分かっただけでも十分だが) 「どこでもドア~ギガ……っておうわ!?」 「更に調べがいのある物が存在するようだな」 グリフィスは音の発信源へと、躊躇いなく歩き出して扉を開けた。 そこにいたのは、ツチダマが二体。正確に言えば、五体満足なツチダマと頭部を撃ち抜かれたツチダマがそれぞれ一体ずつ。 その後ろにはかの有名などこでもドアが立っている。 「ギ、ギガ!? あんた何したギガ! これをやったのはあんたギガか!?」 「お前はなぜここにいる? さっき現れたばかりと言った風情だが」 「えっと、ちょうど今は運転手役を交代する時間で…… って、そんなことこそどうでもいいギガ! 質問を質問で返す奴はテスト0点ギガ!」 思わずグリフィスの凄みに圧倒されながらも、ツチダマは何とか虚勢を張る。 もっともこの虚勢は、仲間を破壊した相手がグリフィスならば自分もただではすまないかもしれないという恐怖に基づくものだ。 そんなものでは彼は動じない。 「あいにくだが、違う。 電車を破壊した者ならちらりと見たが、中でお前の仲間を破壊した者は違うようだ」 「……本当ギガか?」 「ゲームの様子を見ている貴様らなら分かるだろう。 オレにこんなことをする理由は無い」 「そ、それはそうギガが……」 口ごもりながらも、ツチダマはスパイセットを再起動させた。 いつでも首輪を爆破してもらえるよう準備するためだ。 目や耳を象った物体が浮かび上がる様はある種不気味だが、やはりグリフィスに臆した様子は無い。 「オレからも質問させてもらう。お前は主催者の手先で間違いないな?」 それどころか、参加者の身でありながらツチダマへの質問を開始した。 その態度に戸惑いながらも、哀れな下僕はそれを肯定する。 「まあ……作ったのはギガゾンビ様だからそうなるギガ」 「つまり、お前は主催者の部下であり。 そしてそのお前達に攻撃を仕掛けた参加者がいる。そういうことか?」 「……そ、それは確かギガ。 で、でもお客さん一体何を……」 「オレが求めるのは『契約』だ」 ツチダマの動きが止まる。いったい何を言いたいのか分かっていない様子だ。 もっともグリフィスの口は止まらない。止まらずに、ツチダマに、空気に響いていく。 「恐らくお前達は何らかの手段で参加者を監視しているはずだ。 ならば、オレがこの殺し合いに乗っていることも分かるはず。 しかし、一部には殺し合いを良しとしない参加者もいる……」 グリフィスの言葉は完全に推測だが、完全に的を射ている。 もっとも、これくらいは少し考えれば分かることだ。 しかし、それを踏まえてグリフィスがした行動は、常人からかけ離れていた。 「その参加者を駆逐する役割を俺が請け負おう。 報酬はオレが勝ちやすくなるような装備の追加。 但し、まず最初に前払いで何か貰う」 そう。彼は主催者・ギガゾンビと取引しに来たのだ。 ゲームを破壊されるのが怖いならば自分に力を貸せ、と。 これは賭けであったが、分の悪い賭けではない。 この程度で首輪を爆破されるならば、あの魔女の首輪はとっくの昔に爆破されている。 ツチダマは考え込んでいたものの、しばらくして答えを返してきた。 「……支給品の追加は駄目ギガ」 「どうしてもか」 「きっとギガゾンビ様の許可が下りないギガ」 「聞いてみる気は」 「ないギガ」 その言葉に、グリフィスの舌打ちが漏れる。 だがまだ終わりではない。ちらりと彼はツチダマの後ろのドア……どこでもドアを見やった。 「ならば、直接ギガゾンビに謁見しよう」 「ちょ!?」 「見る限り、その扉を使ってお前はここに来たのだろう?」 「まままま待つギガ! そんなことされればギガの責任問題に!」 「なるほど、警告をしない辺りオレが首輪を吹き飛ばされる恐れは無いというわけか」 「い、いや違うギガ! 首輪吹っ飛ばされるギガ!」 「もう遅い」 「ギガァ!?」 迷いながらもひとまず止めようとするツチダマを強引に押しのけ、グリフィスはどこでもドアのノブに手をかける。 そして亜空間へと繋がる扉を開け――叫んだ。 「――ギガゾンビよ! 先ほどまでの会話は聞こえていたか! そしてオレのこの声が聞こえているか!? オレの意志を反逆とみなし、首輪を爆破させるのもいい! だがその前に一つ、俺の我侭を叶えて欲しい! どうせ死ぬ命、王として粋な計らいを見せる気はないか!?」 ――それは、あまりにも恐れ多い『主催者への挑発』だった。 恐怖で身を竦めながらも、ツチダマはグリフィスに対して言葉を上げる。 「え、謁見とかいうのは嘘だったギガか……?」 「嘘ではない。 聞こえているのならば今ここにその姿を現し、オレと謁見するのは不可能ではないはずだ。 貴様にはそれだけの力がある。違うか、ギガゾンビよ!!!」 そうして声を張り上げるグリフィスの頭には、「勇猛」と「計算」が同居していた。 さすがに主催者の居城までに襲来すれば、ギガゾンビと言えど許してはおくまい。 だからこそ、ここに留まって挑発する。ここから、主催者との交渉を開始する。 この扉越しには聞こえていなくとも構わない。どの道ツチダマ経由で聞こえているのだろうと分かっている。 道具の効力を勘違いしたピエロと見なされるのもよかろう。恥辱の分、力を手にすればよいだけだ。 それがグリフィスの結論。恐れを知らぬ無謀な行為でありながら、同時に死を恐れた計算高き行為。 故に、だからこそ。 『その願い、叶えてやろうではないか!』 ギガゾンビはグリフィスの狙い通りに、その姿を眼前に披露したのである。 ◇ ◇ ◇ 「なに! それは本当か!?」 ――グリフィスがギガゾンビへのアプローチを図る少し前。舞台の裏側では想定外のアクシデントが発生していた。 怪しげな空気を漂わせる悪の根城にして座標不明の異空間世界。その王室。 中央に置かれた玉座に座るのは、此度のバトルロワイアル主催責任者である精霊王ギガゾンビだ。 会場内で今も行われている死闘、惨劇、騙し合いを楽しむための巨大モニターは忙しなく映像を送り続け、それを管理するツチダマたちも緊急事態にどよめきを見せる。 『本当ですギガ~。第四放送を境に、G-8モールからの監視映像がプッツリ途絶えてしまいましたギガ~。 その後数時間待ちましたが現在も復旧の目処は立っておらず、担当のモールダマとも通信不能。亜空間破壊装置の状況も不明ですギガ~』 「ええい、何をやっているのだこの無能共が! もしモール内の装置が破壊されたとなれば、6つある内の半分が破壊されたことになるのだぞ! 今も既に空間の歪みは広がってしまっている。このまま装置の破壊が続けば、いずれはタイムパトロールに気づかれてしまうではないか!」 『ギガゾンビ様はアオダヌキたちや派手なバトルばっかり見てるから、隅で何が起こってるか把握できないんだギガ~』 『まったくだギガ~。そのくせ「私が施した禁止エリアのブラフは完璧だ!」なんて過信してるしギガ~』 『困ったご主人様ギガ~』 「ええい貴様等、聞こえているぞ!」 『ギガ~!?』 ひそひそ囁かれる小言に腹を立てたギガゾンビは、反抗意志を見せるツチダマたちに容赦なく制裁を加えていく。 「まったく、高度な管理能力を求めるあまり自己再生機能を犠牲に知能と個性を向上させるよう改良したはいいが、 どうにも反抗的な態度の奴が多くてかなわん。貴様等の主人は誰だと思っているのだ」 民衆は、傲慢な独裁者には従わないものである。 これらバトルロワイアルの監視運営を行っているツチダマたちには、状況に応じた対処と複雑な機械類も扱えるよう改良を加えている。 その代償として自己再生機能を失ったが、ギガゾンビの命令がない非常時でも適切な行動が行えるようになった。 が、個々の人格を強めすぎたせいか、どうにもギガゾンビに対し反抗的な輩が出回っているようで困る。 そういった連中は片っ端から制裁を加えてやっているが、その傲慢な支配体制ゆえに、反乱分子の数が全体の5割を越すことには気づいていない。 『ギガ~! 大変ですギガゾンビ様~!』 「今度はなんだ!?」 『交代のため会場に向かった運転士ダマが参加者番号73番グリフィスと接触しましたギガ~』 巨大モニター一面に運転士ダマとグリフィスの映像がピックアップされ、ギガゾンビの直接監視下に置かれる。 どうやらグリフィスは運転士ダマがギガゾンビの手下であるということを知り、情報を聞き出そうとしているようだった。 そして運転士ダマとグリフィスのすぐ側で、決して無視することのできない惨状が広がっていることに気づく。 「おい、電車が破壊されているぞ! 取り付けておいた亜空間破壊装置はどうなった!?」 『分かりませんギガ~』 「分かりませんで済むか馬鹿者め! しかしなんということだ。まさか、このグリフィスが亜空間破壊装置の仕掛けに気づいたとでも言うのか……?」 『報告しますギガ~』 「今度はなんだ!?」 !? 『参加者番号73番グリフィスが、ギガゾンビ様へ向けて何か喋っているようですギガ~』 ツチダマの報を受けるや否や、どこでもドア越しに叫ぶグリフィスの姿が映し出された。 同時に、ギガゾンビに向けメッセージが伝えられる。 『――ギガゾンビよ! 先ほどまでの会話は聞こえていたか! そしてオレのこの声が聞こえているか!? オレの意志を反逆とみなし、首輪を爆破させるのもいい! だがその前に一つ、俺の我侭を叶えて欲しい! どうせ死ぬ命、王として粋な計らいを見せる気はないか!?」 その内容は、下賎な民が王に意見するよりもおこがましい、大胆極まりないものだった。 やれ武器を遣せだのやれ情報を遣せだの、普通なら逆鱗にも触れかねない図々しい物言いではあったが、その王をも恐れぬ度胸が逆にギガゾンビの興味を惹いた。 「ククク……言いよるわ」 『ど、どうしますギガ~? ギガゾンビ様』 監視を担当していたツチダマに返事をすることはなく、ギガゾンビは徐に手元にあったコンソールキーを弄り出す。 すると、目の前に通信用のマイクらしい機具が現れ、それを通して高らかに喋り出した。 『その願い、叶えてやろうではないか!』 途端、モニターの中に立体映像で構成されたギガゾンビが現れた。 ◇ ◇ ◇ 『我が名は精霊王ギガゾンビ! 貴様等の命を握る、絶対君臨者だ!』 「……これはこれは。その姿、果たして実態ですかな?」 二度目の邂逅。突然現れたギガゾンビはグリフィスの剣の間合いに立っていたが、闘争はすぐには生まれなかった。 『ホログラム……といっても分からんか。なに、未来の技術を使った単なる虚像だ。剣を振っても意味はないぞ』 「さすがは王を名乗るだけのことはある。私のような愚者の考えることなどお見通しですか」 嘲笑と高笑い。向かい合う二者の間には何とも言えぬ空気が流れ、近くにいたツチダマはすっかり蚊帳の外だった。 グリフィスの願いとはなんなのか。それは誰にも分かりえない。 『一つ訊こう、参加者番号73番グリフィスよ。幾多の亜空間破壊装置を潰して回っていたのは貴様か?』 「……アクウカンハカイソウチ、とはこの物体のことでしょうか?」 グリフィスは視線を傍らの電車に向けるが、鉄道などとは無縁の世界を生きてきた彼にとっては、仕方のない勘違いであった。 ギガゾンビはそれを肯定するでも否定するでもなく、返答を待たずにグリフィスが言葉を続ける。 「あいにく、私がここに踏み込んだのはまったくの偶然。 これが損壊した現場は目撃しましたが、この人形にも述べましたとおり犯人の姿は暗闇で不明確でした」 フェイトの情報は、あえて与えない。 質問の意図が飲み込めぬ以上、不用意に答えを喋っては相手に利用される恐れがある。 『そうか、つまらぬことを聞いたな。では再度訊こう、グリフィスよ。お前の「我が侭」とはなんだ?』 その問いに、グリフィスは静かに微笑んだ。 ギガゾンビにも分からないほど小さく、また自嘲気味の笑みというわけでもない。 確かなる、暗躍者の笑みだった。 「私めを、あなたの家臣に加えていただきたい」 『……ほう!』 立体映像に跪き、ミッドランドの王に見せたものと同様の振る舞いを見せるグリフィス。 即ち、忠誠の態度。ギガゾンビはその行動を素直に「面白い!」と評し、会話を続ける意志を見せた。 「私は主を持たぬ騎士ゆえ、仕える主人というものをずっと探し求めていました。そして、此度の余興であなた様という絶対の力を持つ支配者にめぐり会えた」 『首に輪を繋がれた駄犬の分際で、このギガゾンビの家来になりたいというか! ククッ……愚かなり。愚かすぎて笑いが止まらんわ!』 「恐れながら、力を持つ者に惹かれるのは男の性です。あなた様の所業は私の世界にいた英雄達のどれと比較しても釣り合わない。 その神とも称せる力の恩恵を、ぜひ私めに分け与えて頂きたいのです」 跪いた状態のまま、頭を下げる。絶対服従のポーズ。 グリフィスの行いにギガゾンビの高笑いは留まる様子を見せず、一頻り笑ったところで更なる言葉を紡いだ。 『グリフィスよ! お前は実に面白い! その忠誠を見込み、一度だけチャンスを与えようではないか!』 「――チャンス、とは?」 『なに、簡単なことだ。そこで壊れている物体だが、それはこの余興を続けるのに大切なものでな。 同様の意味を持つ施設が会場内に計六つあるのだが、度重なる戦闘でそれも残り二つとなった。お前にその施設の防衛を任せたいのだ』 「容易いことです。恥ずかしながら、私には幾多の戦場を渡り、数々の砦を守り抜いた実績があります。 しかしながら、それは頼れる兵がいたからこその結果。この戦場では、私など及びもつかない力を保持した者がごまんといましょう。 願わくば、お力添えを頂きたい。ギガゾンビ様のその、絶対的な力の――」 『……力が欲しい。そう申すかこのいやしんぼめ! いいだろう、いいだろう! その願い叶えてやる!』 グリフィスの提案に相変わらずの高笑いで応えたギガゾンビは、その空間に一つ、不思議な宝石を落とした。 「……これは?」 『私が「ある世界」で調達した魔の宝石だ。一度その宝石に力が欲しいと願えば、お前の身はこれまでと比べ物にならない力を得ることだろう。 だが、それがお前の手に負えるものとは限らんぞ? 使うと言うならば、ここぞという時に使うのだな! 手駒となる兵が欲しいというなら、そこにいる運転士ダマと寺にいる住職ダマ、温泉にいる番頭ダマをよこそう! 個々の戦闘能力はイマイチだが、お前の手腕ならば有意義に扱えるだろうな!』 「ありがたき幸せ――」 グリフィスは授かった宝石を身に抱き寄せ、心の底でギガゾンビ以上の高笑いをしていた。 すべては計画通り……偶然が運んでくれた不測の事態。だがそれは、グリフィスの漆黒の脳細胞によって確実に好転しつつある。 『貴様が向かうべき場所へは、そこの運転士ダマが導くことだろう! 他の参加者の眼を欺くため、次の放送からは死亡の扱いにしてやる! お前は死にながらに活動を続ける影の兵士として、このギガゾンビを守るのだ! ――だが、忘れるな! 貴様はどこまでいっても首輪で繋がれた犬に過ぎん! 少しでも反抗的な態度を見せればどうなるか……分からぬわけはなかろうな!?ことでしょう。 つまらぬ死をお見せする気はありません。どうかその玉座を離れず、高みの見物をお楽しみください」 『……フッ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! ! グリフィスよ、貴様は本当に面白いな! よかろう! 見事施設の防衛を果たし、他の参加者を始末した上で最後の一人となったならば――その時は改めて、精霊王の側近として迎えてやる!』 「その時を夢見て、精進することにいたします……」 ――ギガゾンビの高笑いが、グリフィスの耳を延々と跋扈する。 その虚像が消えるまで、グリフィスが顔を上げるまで、不快な声は響き続けた。 ◇ ◇ ◇ 『通信、切れましたギガ~』 「……フン、あの若造め!」 再び悪の根城に戻り、仮面の王ギガゾンビはグリフィスの思わぬ動向に身を震わせていた。 『ギガゾンビ様~、あんなこと言っちゃっていいギガか~? あいつ、きっと裏切る気満々ギガ~』 「裏切る? 何を馬鹿なことを! 所詮奴は首輪付きの飼い犬、あとでどうにでもできるわ! だが奴を面白いと言ったのは紛れもない真実だ。どうせならその身が朽ちるまで、この私が利用してやろうではないか!」 『あんな奴使わなくても、寺と温泉に近づく奴の首輪を片っ端から爆破していけば、残りの装置は守れますギガ~』 「確かにな。だがそれでは私が面白くない! 私が見たいのは人間共の醜い血肉と狂気、その喰らい合いだ! 逆らわぬ限りは遠隔爆破などというつまらぬ真似もせんわ。ゲームというのは、ルールを守って楽しくが円満に続けていくコツだからな! だからグリフィスよ……このギガゾンビを怒らせぬ範囲で、せいぜい悪巧みに励むがいい。 フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ~!!!」 ◇ ◇ ◇ 『それでは、グリフィス様一名、椎七寺までご案内しますギガ~』 運転士ダマの先導を受け、グリフィスはどこでもドアを越えてC-7に位置する寺に辿り着いた。 その懐には禁忌の宝石を宿し、その腹は主催者の及びがつかないほどに黒く、鷹は裏方に回る。 (首輪で繋がれた駄犬か……確かにな。だが、それでも生き抜く術があるのだとしたら、その待遇も甘んじて受け入れよう。 生き残りさえすれば、この先奴を出し抜く機会は必ず訪れる。それに、奴の力に興味を持ったのは事実だしな) あらゆる世界を繋ぎ、隔離するギガゾンビの所業は、グリフィスの知るどんな王にも成し得ないものだった。 国を手に入れるという野望は、ギガゾンビの力を利用すれば容易く達成できる。 いや、国どころではない。空間を操る技術を用いれば、世界すら手に入れることが容易だろう。 (そして、俺は目論見どおり力を手に入れた。この宝石に眠る力がどんなものかは知らないが……こんなもので俺を利用できると思うなよ) 風流な感性を与える日本寺院を前にして、グリフィスは託された宝石をじっと見つめる。 その宝石から蔓延する悪質な雰囲気を瞳に宿し、寺の全景を睥睨しながら運転士ダマに尋ねた。 「一つ尋ねたい。この映像は今もギガゾンビ様の目に映っているな?」 『当たり前だギガ~。少しでもおかしな真似をすれば首が吹き飛ぶと思ったほうがいいギガ~』 運転士ダマへの確認を取ると、グリフィスは僅かに微笑み、腰に下げている剣を抜いた。 その刃の切っ先は、守るべき拠点に向ける。 「――ギガゾンビ様、私の声が聞こえるでしょうか!? 恐れながら、これから私が働く無礼をどうか静観してお許し頂きたい!」 高らかに叫び、スパイセットを通してギガゾンビへ伝える。 それは勘違いをして早まった行動を取らないで欲しいという旨であり、これからやらかすことへの弁明でもあった。 グリフィスの意図がまるで理解できない運転士ダマは、その細い瞳をしどろもどろさせるだけしかできない。 傍らで挙動不審な態度を取る人形には目もくれず、グ!!?リフィスは懐の宝石に手を翳し―― 『ぎ、ギィガ~ァ~~~~~!!?』 ――次の瞬間、グリフィスの全身が青白く発光し、解き放たれた魔力の波動が運転士ダマを吹き飛ばす。 荒れ狂う暴風の中心に立つグリフィスは、これまでは知らなかった、知る由もなかった力の存在に身を震わせ、その変化を受け入れていく。 次第に収まっていく魔力の波の向こうで、運転士ダマは露になっていくグリフィスの姿を見た。 ――鷹だ。鷹がそこにいた。 傭兵時代に彼が愛用していた、鷹を模す甲冑にも似た風格溢れる姿――しかしてその色は、対極に位置する漆黒。 フルフェイスの兜から覗く眼光は未知の力にも動じる様子を見せず、自身の確かな変化に歓声を上げている。 変身とも、進化とも形容しがたい身体の変革。グリフィスは今、念願だった力を手に入れた。 また、今の彼の姿をかつての旧友が見たならば、こう称すことだろう。 ――闇の翼、フェムト。 それは本来彼が手に入れるはずだった姿であり、歴史の変わった今では得ようにない姿でもあった。 『あ、あぁ~……ギガゾンビ様にここぞっていう時に使えって言われてたのに、どうしていきなり使っちゃうんだギガ~?』 「オレの生きた時代では、己の腕と信頼できる武器、そしてそれらを操る頭脳こそが力だったからな。 願うだけで力が手に入る宝石などというものを渡されても、眉唾物に感じてしまうのは仕方のないことなのさ。 しかしこれは……なるほど。確かに素晴らしい『力』だ」 黒き鷹と化したグリフィスは、寺に向けていた剣の切っ先を雄々しく振り上げて、なんの躊躇いもなしに振り下ろした。 あの時と同様に、騎士剣に秘められた真名を解放する。 「約束された勝利の剣」 短く言い放った言葉は刃に宿る光を増長させ、切っ先の向こう側にあった寺を容易く飲み込んでいく。 光の洪水に襲われた、とでも言えばいいだろうか。 エクスカリバーの力の奔流は古ぼけた建築物なぞ一瞬で破壊してしまい、周囲に轟音が響き渡った。 しかし真名を解放したグリフィス本人に、あの時のような疲労の色はない。 業者に解体される豚を眺めるような眼で、消え滅びていく寺を見つめていた。 (かつてのような疲労感はないな……だが、それ故に『底が見えない』。ギガゾンビが警告していた通り、ヒトが乱用するには過ぎた力ということか……) ――慣れない武器に命を預けるものじゃない……強力な武器であるならなおさらのことだ。 故ウォルター・C・ドルネーズの教え通り、『願うだけで手に入った力』などに頼りきるのは愚の骨頂。 それが、自分を利用しようと企むギガゾンビから与えられたものだということを考えれば、尚のこと。 エクスカリバーは強力な『剣』ではあるが、それ以外の要素を過度に信頼する気にはならなかった。 『ぎがががが……あああんたた! いったいなんてことしてくれたんだギガ!? 裏切るにしてもちょっと早すぎじゃないかギガ!?!?』 「裏切る? 違うな。これは理論に基づいた上での戦略。我らが主ギガゾンビ様も、それが理解できているからこそオレの首輪を爆破しない」 落ち着いた物腰でいるグリフィスの言う通り、首輪に変化は見られない。 守れと言われた拠点を早々に破壊するというとんでもない反逆行為を行ったにも関わらず、ギガゾンビはそれを静観していた。 「ギガゾンビ様。私の声が聞こえますでしょうか? 私が防衛を命じられた拠点はここと、ここより北に位置する二つ。 戦の定石に従うならばまずこの地に陣を引き、将はさらに山奥に位置する拠点にて防衛線を張るのが最良と言えましょう。 しかしながら、今の環境ではそれを満足に行えるほどの兵が足りず、どうしても不本意な結果を想定せざるを得なくなる。 ギガゾンビ様のこれまでの話によるならば、六つあるという拠点は既に四つが破壊されたとのこと。 ならば、今さら一つ減ったところで支障はありますまい。ここより北に位置するもう一方を死守すればいいのですから。 少ない人員で防衛戦を行うというならば、守るべき拠点は一つに絞った方が守りやすい。そう考えての結果です。 …………私が反逆者として処分されないところから推測しますと、今述べた戦略を理解して頂けたと取って構いませんかな? フッ、さすがは精霊王。私のような若造が出しゃばる必要もありませんか」 ギガゾンビに言葉が届いたのか否かは不明だが、今も生存しているグリフィスを考えれば、この行為は反逆と見なされてはいないのだろう。 事が終わった後も、グリフィスの姿に目立った変化は見当たらない。 漆黒の鷹は依然として健在であったし、その精神が何者かに支配されるようなこともなかった。 願いどおり力を手に入れ、その存在はフェムトではなく、あくまでもグリフィスとして君臨している――――今は、まだ。 『ギィガ~、酷い目にあったギガ~』 『あぁ……ギガたちのお寺が壊れてしまったギガ~』 完璧な損壊を見せる寺の脇の方で、嘆きの声を上げる遮光器土偶の姿が二体見られた。 どうやら、寺内にいた住職ダマの生き残りらしい。 『ちょっとアンタ! 話は聞いていたけど、警告もなしに寺ぶっ壊すなんて酷いじゃないかギガ!』 『おかげで二十一体いた住職ダマも、ギガたち二体を残してみんな壊れちゃったギガ!』 「それはすまないことをした。だが、過ぎたことに文句を言い続けてもギガゾンビ様の怒りに触れるだけだぞ。 お前たちにはこれからオレの部下として働いてもらう。生き残った者を含めて三人……北の拠点にいる者も含めると四人か」 『運転士ダマと住職ダマAと住職ダマBと、温泉にいる番頭ダマだギガ~』 「呼びにくいな……」 三体並んだツチダマたちの顔を眺め、グリフィスはしばし考え込む。 統率を図るなら、手駒となる者の力量と性格は把握しておきたい。その上で、個々の名前というものはとても重要になってくる。 ならば、命令の出しやすいよう新たな名前を付ける必要があるだろう。 部下となる四人のコードネーム……すぐに思いついたのは、ジュドー、リッケルト、コルカス、ピピンといった、旧鷹の団の親しい面々の名だった。 しかしその名は既に捨てたもの。『 』、そして『キャスカ』と一緒に。 必要なのは、新生鷹の団を結成する上での新たな呼び名だ。昔への未練などではない。 思案を重ね、やがてその四つの名前は導き出された。 「……ボイド」運転士ダマには、偽りの魔名を。 「……スラン」住職ダマAにも、偽りの魔名を。 「……ユービック」住職ダマBにも、偽りの魔名を。 「残りの一人は、コンラッド」まだ見ぬ番頭ダマにも、偽りの魔名を。 『ギガ~、なんかコードネーム格好いいギガ~』 『他のツチダマたちが泣いて喜ぶようなイカした名前ギガ~。あとで自慢してやるギガ~』 『しかし番頭ダマは番頭ダマのままでもいい気がするギガ~』 何故それらの名前が思いついたかは分からない。 もちろん今のグリフィスには、それらの名前が四人のゴッドハンドのものであることなど知り得ない。 偶然の上での神秘、いや運命とでも言おうか。グリフィスは深い意味もなく、部下となるツチダマたちに新たなる名を与えた。 時代は暗転しようとしているのかもしれない。引き返すことの許されぬ道は、グリフィスに新たな決意と野望を抱かせる。 (これは戦だ。戦場に観覧席など存在しない。戦場で死ぬのは王族でも貴族でも平民でもない――敗れた者が死ぬんだ。 それが分からぬようでは精霊王……お前は大した器ではないさ) ギガゾンビから与えられた、異界の産物――『ジュエルシード』という名の、願いを叶える宝石。 それはどこか、あの『覇王の卵』にも似た印象を感じ、グリフィスの懐で鳴動を続けている。 それが彼の手に負えるものかどうかは、誰にも分からない。 ◇ ◇ ◇ 「――あやつめ、やりおったわ!」 残り二つの亜空間破壊装置――それを寺ごと破壊するというグリフィスの暴挙を目の当たりにし、ギガゾンビはこれまでにない喜びの表情を見せていた。 「力を与えた早々にこれとは……グふふふっ、予想以上に楽しめそうだわ! だが、全て思い通りにいっていると過信するのは危険だなぁ……今は大人しくしているが、果たしてその力が貴様の手に負えるものかどうか……」 ギガゾンビがグリフィスに与えた魔の宝玉――ロストロギア『ジュエルシード』。 全21個とされるそれは、時空管理局が封印した12個とプレシア・テスタロッサが自らの野望のために使用した際に失われた9個に分けられる。 それを何故ギガゾンビが持っていたのかは分からないが、グリフィスの手に渡ったジュエルシードは、決して贋物とは言えないほどの膨大な魔力を秘めていた。 もっとも、この『願いを叶える宝石』は……人の手に負えるものなどではない。 今現在はグリフィスの力として働いているが、いつ暴走するとも限らぬ第一級危険物であることは変わりなかった。 ギガゾンビの言うとおり、ジュエルシードの輝きがグリフィスに幸を齎すかは……まだ、誰にも分からない。 一人の戦士が表舞台から退き、主催側に回る。 憩いの湖を最後の砦とし、鷹はその守り手につく。 いずれ訪れるであろう勇敢な戦士たちの希望を阻むため、そして自らの野望を果たすため。 ここに、バトルロワイアル最大の『転機』が訪れる。 【C-7・寺跡地/2日目/早朝】 【新生鷹の団】 【グリフィス@ベルセルク】 [状態]:魔力全快?、全身に軽い火傷、打撲 [装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、耐刃防護服、ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、フェムトの甲冑@ベルセルク [道具]:マイクロUZI(残弾数6/50)、やや短くなったターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×7(食料のみ三つ分) オレンジジュース二缶、破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ、ハルコンネンの弾(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾4発 劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING [思考・状況] 1:温泉へ向かい、亜空間破壊装置の防衛。近づく参加者は始末する。 2:ジュエルシードの力を過信、乱用しない(ギガゾンビが何らかの罠を仕掛けていると考えている)。 3:そして―― 【運転士ダマ(ボイド)、住職ダマA(スラン)、住職ダマB(ユービック)、番頭ダマ(コンラッド)】 [思考・状況] 1:グリフィスの手駒として働く。 2:グリフィスが何かしようものなら即ギガゾンビ様に密告。 【???/2日目/早朝】 【ギガゾンビ@ドラえもん】 [思考・状況] 基本:ゲームを楽しむ。 1:グリフィスの監視は徹底して行う。 2:基本、首輪の遠隔爆破は行わない。反乱分子はグリフィスに始末させる。グリフィスが敗れた場合は、その限りではない。 3:もちろんグリフィスが何か不審な行動を取ろうものなら、首輪を爆破する。 &color(red){【寺の亜空間破壊装置 機能停止】} &color(red){【住職ダマ×19@ドラえもん 機能停止】} &color(red){【グリフィス@ベルセルク 死亡『扱い』】} &color(red){[残り22人]} ※グリフィスの名前は次の放送で呼ばれます。 ※隔離された空間にかなりの歪みが生じています。『魔法』による手段を用いれば、あるいは外部との連絡も可能かもしれません。 ※電車と寺のスパイセットは機能していません。補充要員のツチダマも派遣される予定はなし。 ※ジュエルシードについて。 グリフィスに齎したものは、身体能力と魔力の向上、フェムトの甲冑のみです。原作に基づく能力等は一切ありません。 現在は特に異変はありませんが、暴走する可能性は十分に孕んでいます。 また、封印されたものか既に失われたものか詳細がハッキリせず、そもそも本物か贋物かも不明確なため、ギガゾンビが何か仕掛けを施していないとも限りません。 ※『約束された勝利の剣』について。 現在のグリフィスは魔力の向上により再度エクスカリバーの力を引き出す事を可能としていますが、威力は前回使用したものとなんら変わりません。 消耗に関してもやや効率が良くなった程度ですが、グリフィスはその変化量を見定められておらず、また警戒して乱用を避ける思考にあります。 *時系列順で読む Back:[[自由のトビラ開いてく]] Next:[[Macabre in muddled rabbithutch(前編)]] *投下順で読む Back:[[過去の罪は長く尾を引く]] Next:[[ひめられたもの(1)]] |239:[[もう一度/もう二度と――なまえをよんで/なまえはよばない]]|グリフィス|263:[[Solemn Simulacrum]]|