「FATE」(2022/02/19 (土) 09:25:31) の最新版変更点
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*FATE ◆lbhhgwAtQE
「……ふぅっ! ここらへんなら問題無さそうだな……」
激戦の続く病院を出てからしばらく。
凛とドラえもんを運んできたトグサは、道路沿いにあった普通の民家よりもやや豪勢な雰囲気の漂う住宅――世間で言うところの豪邸――へと足を踏み入れていた。
そして、彼はその豪邸の一室に入ると、ドラえもんをソファに横にし、次いで凛をベッドの上に寝かせた。
「さて、どうするかね、と」
トグサは目を閉じたままの凛を見ながら、一考する。
セラスと劉鳳が言うには、彼女はあの銀髪の人形に唆されているだけとのことだ。
それは、人形と決別して戦っている姿を目撃したこともあって、限りなく事実に近い話だろう。
だが、自分がそう思っていても目の前の彼女が自分に対して今どのような感情を抱いているかは分からない。
自分が善意でここまで運んできたことなど、運ばれている間ずっと気絶していた彼女が知る由もないだろうし、彼女目掛けて銃弾を撃ち込んだ事実もある。
突然目覚めて、自分の姿を見た瞬間に襲われる――などという可能性も大いにある。
「怪しいとなると、こいつをどうするかも問題になってくるが……」
そう言ってデイパックから取り出したのは、気絶している間も凛が握っていたピンクの柄に金色の金具、赤の宝玉というファンシーな色彩の杖。
トグサは、これこそが自分を追い詰める程の砲撃を放っていた武器と推測していた。
そしてその推測を正しいとするならば、この杖は凛に不用意に使われないように遠ざけておく必要があった。
(しかし、こんな杖のどこにあんなレーザー顔負けの砲撃を行う機構が取り付けられてるっていうんだ……)
自分に支給された技術手袋といい、ギガゾンビを映し出す巨大ホログラムといい、長門やセラスのような強化義体といい、ここには自分にとって未知のものが多すぎる。
杖から砲撃など、娘の見る魔法少女アニメだけで十分なように思いたかったのだが……
『待ってください』
突如、どこからともなく大人の女性の声が聞こえた。
トグサはその声に驚き、声の出所を探そうとあたりを見渡すが、ここにいる3人以外に人の気配などしない。
……そして、何より声はすぐ間近――そう手元から聞こえてきたわけで……
「まさかこの杖が……?」
『はい、そうです』
「おいおい、一体どんなAI積んだらこんなに流暢に――」
『私の名前はレイジングハート。魔法発動の補助を行うインテリジェントデバイスです。そして彼女、遠坂凛は私の――』
「あ~、ちょっと待ってくれ!」
トグサがレイジングハートの言葉を遮る。
「俺はこの義体を修理し次第、すぐに病院に戻るつもりなんだ。だから、面と向き合って話を聞いてる暇は無い。……話はこいつを修理しながらの片手間になるが、構わないか?」
『構いません。どうぞ仕事を続けてください』
「そりゃ、どうも、っと」
声の調子から察するに、このレイジングハートという杖には剥き出しの敵意はない。
凛の攻撃手段であるだろう杖がこの様子ならば、まず目覚め一発で砲撃を喰らって死亡という事は無さそうだ。
トグサはそう判断し、レイジングハートをそばの壁に立てかけると、技術手袋をドラえもんに近づけ、彼の修理を開始した。
それから少しして。
修理を続けるトグサは、レイジングハートから今まで彼女が見聞き(?)した情報や魔法の概念についての大まかな説明を聞き終えた。
「なるほどな。要するにお前さんと凛は、その水銀燈っていう人形型の義体にまんまと騙されてたって訳だ」
『はい。悔しいですが事実です』
「となると、最初に俺達を襲った時もきっかけは水銀燈が作ったと考えるのが適当か……」
全てを見てきたという彼女が言うならば、間違いはないだろう。
つまりセラスと劉鳳の仮説は正しかったことになる。
ならば、こちらが凛に敵対する理由はもう完全になくなったという事だ。
「だったら、後はお姫様が目覚めてから、だな」
『大丈夫です。マスターならきっとそんな短気は起こさないはずです。……もし何かあっても私が説得してみせます』
「はは、頼もしいな」
口では笑うが、トグサの目には焦りの表情が浮かんでいた。
とはいっても別に、凛の事について焦っているのではない。
問題は、レインジングハートの話を聞きながら並行していたドラえもんの修理だ。
この修理は、トグサの予想以上に時間を食う作業であった。
それもそのはずで、このドラえもんはトグサがいた時代よりももっと未来、それこそ技術手袋と同じ年代に製造された未知の技術がふんだんに使われたロボットなのだ。
そして、その修理を行うのだから時間が掛かっても仕方がなかった。
(……クソッ。こうしてる間にも劉鳳が窮地に立たされてるのかもしれないっていうのに……)
自分達を逃がすべく水銀燈の前に立ちはだかった少年はあまりに傷つきすぎていた。
あのままでは負けて――死んでしまうかもしれない。
それだけはなんとか避けたいと、彼はただひたすらに早く修理が終わることを祈る。
すると……。
『マスター!』
突如、横から聞こえてきたそんなレイジングハートの声に、彼女が“マスター”と呼ぶ少女の方を振り向く。
するとそこには、ベッドの上で上半身を起こした凛の姿があった。
「う、うぅん……頭がガンガンするぅ…………ってあれ? ……あれ?」
凛はどうやら自分がいる場所がベッドの上であることに違和感を覚えているようで首をせわしなく動かす。
そうして動かしているうちにその視線は、ドラえもんの修理を続けるトグサを捉えることになり――
「やぁ、お目覚めかい?」
とりあえずトグサは、自分なりに親しげな調子でそう声を掛けた。
◆
頭を押さえながら目覚めた凛が目にしたのは、自宅並に豪奢な部屋とその片隅の壁に立てかけてあるレイジングハート、そしてソファの横になるドラえもんとそれに何やら手をかざしている男の姿。
いきなり大量に入る真新しい情報に彼女はこれを夢だと思うが、その頭に僅かに残る鈍痛や身に纏うバリアジャケットがまだ自分が血塗られたゲームに参加中であることを否が応にも教えてくれた。
「……ここはどこ?」
「病院から西に少し行ったところにある民家の一室だ」
「あんたは一体誰なの?」
「俺はトグサ。警察関係者だ。一応参加者ってことになってるが、俺にはまったくそのつもりはない」
凛の問いに、目の前の男――トグサは一つ一つ答えてくれた。
彼女は、彼が先ほどまで対峙していた男であることは既に分かっている。
だが、水銀燈が自分を姦計に陥れようとしていたことが分かった以上、彼がゲームに乗っている一味の一人だという彼女の話の信憑性も限りなくゼロに近いものになった。
そして、それに加えて、自分が意識を失う直前に見た劉鳳と一緒にいる姿と先ほどの彼の言葉や今までの行動を鑑みるに導かれる答えは――
「……それじゃ要するに、私があなたと敵対する理由はもうないわけね」
「ま、そういうことだ」
『流石、マスター。理解が早いですね』
どこかレイジングハートだけは自分を小馬鹿にしているような気がしないでもなかったが、深くは考えない。
「で、病院にいた他の連中はどうしたの?」
「劉鳳は水銀燈の相手をしている。セラスも同様に甲冑の騎士の相手をな。俺はセラスと劉鳳の二人に気絶していた君らを遠くに逃がすように頼まれた」
「……のび太君はどうしたの?」
「彼は……………………殺されたよ。甲冑の騎士に剣で首を刎ねられてね」
のび太が視界に入らなかった時点でしていた嫌な予感は的中した。
しかも最悪な経緯を経て。
「そう……。教えてくれてありがと」
すると凛は、完全に起き上がり床に足をつけると、そのまま壁に立てかけてあったレイジングハートを掴み、そばに置いてあったデイパックを拾い上げる。
トグサはドラえもんの修理をしながら、驚いた表情でそんな彼女の方を向いた。
「お、おいおい。まさかとは思うが、そんな起きたばっかりの体で動くつもりか?」
「……水銀燈とのパスが途絶えたのよ。あいつ、また何か悪巧みを考えてるのかもしれないし確かめに行かないと……」
「待て。だったら俺もついてい――」
「ダメよ。だって、あなたにはそれよりも先にやるべきことがあるでしょ?」
凛は、そう言って未だ気を失ったままで修理を受けている猫型ロボットを一瞥する。
「彼……ドラえもんはあのギガゾンビの持つ科学技術についてを知る最後の生き残り。……いわばギガゾンビに対抗する為の切り札って言っても過言じゃないわ」
「あぁ。それは分かってるさ」
「……だったら、あなたは彼の修理に専念していて。私達は彼という脱出の切り札を手放すわけにはいかないんだから」
確かに凛の言う通りだ。
トグサ自身は現在、ドラえもんの修理中であり、ここから離れるという事はその修理を中断してしまうことになる。
「……どうしても行く気なんだな?」
「水銀燈を今までのさばらせていたのは私の責任だし、それにセイバーの方も気になるしね」
この様子では、無理に止めようとすれば、何をされるか分かったものではないだろう。
トグサは、自分が知り合う人間の度重なる無謀な決断に頭を抱えつつも、最後は頭を縦に振る。
「分かった。……だが、無茶はするなよ。お前もレイジングハートもまだ……」
『大丈夫です。凛は私がコントロールしてみせます』
「――って、ちょっと何であなたが私をコントロールするわけよ! 逆でしょ、逆!」
凛はレインジングハートのそんな言葉に反論する。
だが、トグサからしてみれば、一通り話した中でレイジングハートの聡明さを理解していた為、その言葉はあながち正論に聞こえていた。
「よし、それじゃ頼んだぞ、レイジングハート」
『All right』
「――って、あなたまでっ…………。まぁ、いいわ。それじゃ、彼の事は頼んだわよ」
「任せておいてくれ。俺も修理が終ったらそっちへ向かうからな」
凛はトグサの言葉に頷くと、部屋を飛び出していった。
残るのは、依然気を失ったままのドラえもんとそれを修理するトグサのみ……
「さて、こっちも早めに仕上げないとな」
◆
トグサ達が豪邸にいる頃。
彼らが気にかけていた病院には、満身創痍になりつつもまだその目をギラつかせた少年カズマが到着していた。
「どーなってやがる……。ここで何があった……?」
照明の落ちた薄暗い廊下を歩き、その周囲の無残な光景を見ながらカズマは呟く。
元々、いくつかの戦闘の痕跡のあったこの建物であったが、カズマが最後に見たときよりも明らかにその見た目は外観、室内ともに酷くなっていた。
――それは明らかに、新たな戦闘がここで行われた痕跡。
「クソッ!! 次から次へと俺のいないところでドンパチしやがって…………」
ここで大規模な戦闘があったことが確実である以上、最も気がかりなのはここに残してきた少年とロボットのこと。
二人が戦闘を得意としない弱者であることを彼は知っていたし、それ故にその戦闘に巻き込まれたらひとたまりもないことも分かっていた。
「あいつら一体どこに行きやがっ――――おうわっ!!!」
そして、周囲を警戒しつつそんな二人を探していると、不意に足を滑らせ転倒した。
「――っつつ…………。何だ何だ? 足元が急にヌルヌルしやが……って………………」
尻餅をついたまま、足を滑らせた原因を見ようと床を見たカズマは、そこで気付いた。
床には粘性のある赤い液体が撒き散らされており、その液体の中心には首と胴体の分かれた少年の遺体があることに。
そして、その少年の服装に彼は見覚えがあったわけで……。
「お、おい…………冗談……だよな?」
カズマは、その光景に半信半疑でありつつも起き上がると少年の首の正面へと回り込む。
すると、そこには正真正銘、彼の知る野比のび太の呆然とした表情が張り付いており――――
「く……くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
彼はそのアルター化した拳を目一杯床に叩きつけた。
「チクショウ! お前まで死んじまってどうするんだよ、のび太……」
アルルゥに次ぎ、のび太もまた自分のいないところで死んでいってしまった。
だが、そこで自分の無力さを嘆き、立ち止まっている暇など彼にはない。
――立ち止まっている暇があるなら、のび太やアルルゥ、それにかなみや君島、ヴィータ、太一といった仲間を殺していった連中を叩き潰して、ついでに気に入らないギガゾンビも最終的には潰す!
そう彼は心に決めていたのだ。
「誰だ……一体誰がやりやがった……」
のび太の首と胴体を廊下の端に寄せながら彼は、その断面を見る。
すると、その断面は骨まで綺麗に切断されており、昨日見た少女の首の断面を切断したようなナイフよりももっと鋭利な刃物で斬られた事が分かる。
そして、これだけ出血している以上、生きている時に切断が行われたことも。
ということは、即ちのび太を殺害した相手は、首を刈る素振りを直前まで見せずに一瞬のうちに凶行に至ったという事になる。
そのような早業を誰もが出来るわけもなく、出来るとするならば恐らくは今は亡きヴィータと共に立ち向かったあの甲冑の剣士くらいの実力を持った人物くらいだろう。
――と、そこまで思考をめぐらせたその時。
――カツン、カツン、カツン…………
彼は背後で聞こえる足音に気づいた。
その足音は、徐々にこちらに近づいている。
当然だが、足音を聞いただけではカズマには、一体どんな人物が近づいているのかは全く分からない。
だが、ここにのび太の死体がある以上、まだここにその犯人がいる可能性は大いに考えられる。
そして、足音の主がその犯人であるならば、カズマが行うべきことは唯一つ。
「――!!!」
そう意気込んで彼は後ろを振り返ってみたが、そこにいたのは太一を殺しヤマトを連れ去った女でも例の甲冑剣士でもなく、長い金髪を二つに分けた小さな少女だった。
「……な、ガキか?」
一瞬気を緩めるカズマであったが、アルター能力者に歳は関係ない上にヴィータのような実例もある。
子供といえど、力量に関して油断は出来ない。
すぐに拳に力を入れなおし、少女を見据える。
「一体どこのどいつは分からねぇが、それ以上近づく前に一つ聞きたいことがある」
「あ、あの私は……」
「つべこべ言う前に答えろ。いいか? まずは――」
すると、その時少女は何かを思いついたような顔になる。
「あの……もしかしてあなたはカズマさん……ですか?」
◆
――学校には誰もいなかった。
それを確認したフェイトは、早々に探索を切り上げ、病院へ向かった。
ゲインやゲイナーらとの合流時間にはまだ早いものの、病院内を先に調べておきたい気持ちがあったのだ。
そうしてフェイトは病院についたわけだが……
「これは……」
彼女もカズマ同様にまずその酷く損壊した外観に呆然とした。
「明らかに人の手で破壊された痕跡だけど……誰か中にいるのかな」
『内部に一人分の生体反応があります』
「一人…………か」
バルディッシュの答えを聞いて、フェイトは病院の内部へと入ってゆく。
これだけ崩壊している以上、内部にいる人間がその破壊に関わっている可能性は大いにある。
しかし、だからといって彼女は逃げるわけにはいかない。
むしろ、何かしらの悪意を以って破壊を行っているのだとすれば、それを止めなければならなかったのだから。
「……どっちの方にいる?」
『この先の廊下を左方に曲がった先約50ヤード、依然その場に留まっています』
バルディッシュの指示に従いながら、薄暗い廊下をフェイトは進む。
――すると、その先にいたのは目をギラつかせた一人の少年であり…………
「ほぉ、お前があの女とゲイナーの仲間だったのか」
「はい。レヴィ達とは12時にここで合流することになっています」
フェイトが出会った少年の身体的特徴は、ゲイナーが教えてくれたカズマという少年の物と一致していた。
それに気付いた彼女は、咄嗟に彼の名を呼び、レヴィとゲイナーの名前を出し、自分の素性を明かした。
その結果、カズマは拳を収め、彼女との会話に応じ、今に至っているのである。
……いや、それだけではカズマは素直に話を聞かなかったかもしれない。
彼が話を聞く気になった最大の理由、それは――
「それにしても、お前があのフェイトだったとはな……」
フェイトがカズマの事を伝え聞いていたように、彼もまた彼女の名前を高町なのはとヴィータというフェイトにとっては亡くなってもなお大切な二人の仲間から伝え聞いていたのだ。
「なのはとカズマさんが一緒だったことはゲイナーから聞きましたが……ヴィータとも一緒だったんですね」
「短い間だったけどな。……あんなちっこい体してるガキの癖に大した奴だったよ」
聞けば、ヴィータはカズマとともにとても強大な力を持つ襲撃者に立ち向かい、そして消えていったのだという。
消えた――という言葉にフェイトは一瞬違和感を持つが、彼女が夜天の書が魔力から作り出したプログラムであり、その体を構成する魔力を全て使い果たしたという事にすぐうに気付いた。
――何故、同じ守護騎士なのに、シグナムとヴィータでこれ程にも異なる道を歩んでしまっただのだろう。
自分の知らないうちに道を違え、それぞれ散っていった二人の事を思い、フェイトは胸を詰まらせる。
すると今度は、カズマがフェイトの髪を束ねる片方のリボンを見ながらそんなフェイトに尋ねる。
「そのリボンをしてるってことは……お前もなのはには会えたんだよな?」
「……はい。これはなのはの大切な形見です」
「………………そうか」
そこまで聞くとカズマは、再びその顔をフェイトへと向ける。
「で、お前はどうするんだ? こんなところまで来て、一体どうする気だ?」
「勿論、なのはやヴィータ、それにカルラさんやタチコマの為にも、私は何としてもこれ以上の犠牲を無くして皆でここを脱出する手立てを探します。その為なら、私は力を使うことも厭いません。……カズマさんも協力してくれませんか?」
レヴィやゲイナーから聞いたところによると、カズマもまた相当の実力の持ち主という。
ならば、協力を仰ぎたいのがフェイトとしての本音だった。
だが……
「俺は誰かに指図されて動くなんてまっぴらだね。俺は俺の好きなようにやるさ」
「そう、ですか……」
フェイトは顔を暗くするが、これ以上言い寄ることもなかった。
そして、そんなフェイトの顔を見ると、カズマは足元に転がる少年の遺体を見やりながら言葉を続けた。
「……ま、でも、お前らがあの仮面ヤローみたいな気に食わない奴らと戦うってんなら、そん時は俺も参加させてもらうぜ。俺にも、太一やアルルゥ……それにこいつの仇を討たなきゃ気がすまないからな。それでいいなら……」
これは、つまり肯定と捉えていいのだろう。
素直でないカズマのそんな態度にフェイトは笑みを浮かべる。
「はい。ありがとうございます、カズマさん」
それから。
カズマはのび太と太一の埋葬すると言い出したことによって、二人は別行動をとる事となった。
本来、フェイトも二人の少年の埋葬を手伝おうと名乗り出たのだが――
「――これは俺の仕事だ。お前はお前のやることを先にやっておけ」
カズマがその申し出を断ったのだ。
既に、彼は毛布に包んだのび太と別の部屋に安置していた太一の遺体を抱え、二人を埋葬すべく外へと出ていってしまっている。
そして、残されたフェイトはといえば――
「……ここで合ってるの?」
『はい。彼女の体の傍から魔力を関知できます』
彼女は院内捜索中にバルディッシュに告げられた“付近から無視できない量の魔力反応がある”との知らせに従い、その発生源を調べに病院のとある地点へと向かっていた。
そこは、既に病院“内部”と言うべきかどうか微妙な――病院の壁を突き破ったその先であり、瓦礫や抉れた樹木に混じって、二人の男女が息絶え倒れていた。
一人は、白と青、そして血の赤に染められた服を身に纏った少年。
もう一人は、白と黒のゴシックドレスをこれまた血の赤に染めた状態で倒れている少女……を象った人形。
この酷く損壊した人形こそが魔力の発生源らしかったのだ。
「でも何で人形がこんなところに……」
よく見ればその首には自分に付けられたのと同じ首輪がついている。
つまりこの人形――彼女もまた、参加者の一人ということのようだ。
そして、体の上には小さな光が浮いているのを見ると、彼女はそれを手に取ってみる。
「もしかして、これが魔力を出しているの?」
『その通りです。魔力の反応、極めて大です。……それに体の下からも大きな反応があります』
「服の下から?」
バルディッシュの報告に訝しげになりつつも、確認したい気持ちが強いフェイトは「ごめんなさい」と一言言って人形の体をゆっくり持ち上げる。
すると、そのうつ伏せになった体の下敷きになるように何かが挟まっているのを見つけ――
「これは――!!」
それを拾ったフェイトは酷く驚いた。
なぜなら、それはかつて自分となのはで破壊したはずの融合型デバイス――闇の書だったのだから。
――何故、消滅したはずのデバイスがここにあるのか?
その疑問に関しては答えはすぐに出る。
ギガゾンビが何らかの時空干渉を行い、不正に入手したのだろう。
今疑問なのは、“持ち主であるはずのはやて亡き今、何故転移せずにこの場に存在するのか”という点だった。
守護騎士の件といい、この空間には自分のまだ知りえない未知の技術やまだ使われているらしい。
「でも、こんなものまであるってことは……」
何故、闇の書がこの銀髪の人形の下敷きになっていたのかは分からない。
何故、人形と少年が相打ちになるような形で息絶えているのかも分からない。
ただフェイトが分かっていることはただ一つ。
闇の書が極めて危険なアイテムであるという事だ。
彼女は思い出す。
かつて、はやてを飲み込み暴走を開始した闇の書――正確には闇の書の防御プログラム――の凄まじい魔法の力を。
もし、時空管理局のような組織のバックアップ無しにこの場で融合事故が発生してそのような暴走を起こされたりしたら、手に負えなくなってしまう。
(これを……早くどうにかしないと)
管制人格リィンフォースが応答をしない以上、いつどんな災厄を及ぼすとも分からない。
最悪の場合、ギガゾンビが手を下すまでもなく書が暴走して全滅などというシナリオすらも描かれかねない。
しかし、だからといって自分ひとりであの時の儀式のように完全に破壊できるかどうかも分からない。
そんな危機感を抱きつつ、フェイトはその対処法を見つけるまでの間の処置として、その闇の書を、正体不明の魔力の塊である光球ともども自らのデイパックで保管することにした。
「よぉ、病院の中の捜索はもう終tt――――って、おい。これはどういう……」
カズマがフェイトに声を掛けたのは、まさにそんな2種類のアイテムをデイパックにしまっていたその時だった。
◆
「……こんなもんか」
外に出たカズマが病院横の庭で二人の少年の埋葬を終わるまでには、そう時間は掛からなかった。
かなみの時同様の、音を全く気にしない拳を使った穴掘りが時間を大幅に短縮したのだ。
「せっかく俺が墓を作ってやったんだ。二人一緒の穴で狭いとかっちゅう文句は受けつねーからな」
二人を埋めた上に小高い山を作り、その前にはのび太のものと思われるデイパックから取り出したうちわを刺す。
――そんな物言わぬ質素な墓にカズマは一言言うと、その墓に背を向ける。
見てみれば、病院の庭には二人の墓以外にも、いくつかの墓がある。
その内の三つの並んだ墓は、まさに今埋めたのび太がドラえもんとともに作ったものであり……。
「テメーまでここに埋まってちゃ話にならないってんだよ……」
拳を強く握り、カズマは再び悔しさを露にする。
そして、そのイラついた顔で周囲を改めて見渡すと、瓦礫や倒木が散乱する奥の方で金髪の少女を見つけた。
それは、つい先ほど出会ったばかりのフェイトという少女であり、院内を捜索していたはずだった。
「あいつ、何しに外になんか……」
もう院内は調査し終わったのだろうか――埋葬を終え手持ち無沙汰になったカズマはとりあえず彼女の方に近づいて見ることにした。
そして――
「よぉ、病院の中の捜索はもう終tt――――って、おい。これはどういう……」
フェイトに声を掛けていた最中に彼は気づいてしまった。
彼女の傍に転がる二人の死体の存在に。
双方ともに知っている顔であった。
一人は、ドラえもん達と病院へ向かう途中で出会ったいけ好かない喋り方をする人形。――名前は水銀燈だったか。
そして、もう一人はロストグラウンドで幾度となく戦い、そしてこの地でも一度顔を合わせた宿敵の……
「劉鳳だと……!? おい、なんでこいつがこんなところに……」
誰に言うでもなくカズマが呟くと、それを聞いていたフェイトは首を振って答えた。
「私がここに来た時にはもう二人は……。…………この人は劉鳳さんと言うのですか?」
「あぁ。こいつは俺たちの敵、ホーリーの劉鳳。……絶影の劉鳳さ……」
そう言うとカズマは膝をつき、倒れたまま何も言わない劉鳳の髪を掴み、持ち上げる。
「カ、カズマさん!? 何を……」
「おい、劉鳳。こんなところで寝てんじゃねーよ。まだ勝負の決着がついてねーだろ、あぁ? なのに何でこんなところで寝てるんだよ。なんとか言ってみろよ……なぁ!」
カズマは叫ぶが、劉鳳は目を閉じたまま何も答えない。
「お前が何も言わないんじゃ分からねーだろ? テメーがのび太やアルルゥを殺したのかどうかも、お前がどーして寝てたのかもよぉ……」
既にカズマにも分かっている。
劉鳳はもう死んでしまっているのだ。
森の中で倒れていたかなみのように。病院前で見つけた車椅子の少女のように。廊下で見つけたのび太のように。
そして、ダース部隊との戦いの後、共にかなみの元に帰った後の君島のように。
「ふざけんじゃ……ねーよ……」
宿敵である劉鳳の死に対しては、悲しみはこみ上げない。
変わりに湧き出てくるのはもう二度と戦えない、叩き潰せないことへの悔しさと苛立ち。
劉鳳の髪から手を離し、項垂れるカズマをフェイトは呆然と見ているしかできなかった。
……だが、次の瞬間。
『Sir,病院に何者かが近づいてきています』
バルディッシュの声がフェイトの目を覚ました。
「……誰かが来てる?」
『はい。……それも、魔力反応を伴っています』
「魔力……」
その言葉に自分以外の未知の魔導師の存在の可能性を覚え、フェイトは緊張をする。
――だが、カズマは違った。
「上等じゃねぇか。誰が来ようと俺は構わないぜ……。気に入らねぇ奴だったらボコる……ただそれだけなんだからよぉ」
先ほどまでの姿からは一転、立ち上がったカズマはそう言って目をギラつかせると拳を構える。
そう、のび太が死のうと、劉鳳が死のうと、彼の意志は決して変わらない。
相手が誰であれ、今の状況がどうであれ、今の彼のの意志を曲げることは不可能なのだ。
『……距離60ヤード。……そろそろ目視できるはずです!』
「さぁ、誰だ? 誰なんだ? 一体誰が来るってんだぁ?」
緊張の面持ちのフェイトと興奮気味のカズマ。
その二人の前に姿を現したのは――。
◆
「……本当に2人いるのね?」
『間違いありません。2人とも近い位置にいるようで、一方からは魔力の反応もします』
病院に向かいながら、凛は念を押すようにレイジングハートに話していた。
トグサ曰く、自分達が病院を離れた後にそこに残っていたのはセラスとセイバー、そして劉鳳と水銀燈の4人。
ということは、少なくともその内2人は何かしらの理由があってその場からいなくなったということだ。
何らかの理由――それは戦闘の場を移動したのかもしれないし、生存者として反応しないだけかもしれない。
生存者として反応しない――それは即ち死亡してしまったということであり……
「……ダメね。弱い考えなんか持っちゃ」
想像する最悪の事態のイメージを頭から払拭すると、レイジングハートを握る手に力をこめる。
……魔力反応を伴う生存者の反応。
劉鳳とセラスがどうなったかは別としても、それがあるのは確かな事実。
そして、それに該当する参加者として、真っ先に思いつくのは他ならないリィンフォース形態の水銀燈のみ。
その彼女が自分とのパスを断ち、別の参加者といるのだとしたら、考えられる理由は一つ。
――新たなカモを見つけたのだろう。
「パスを断ったかと思ったら……そういうことなのかしらね」
『まだ確定したわけではありませんが、注意することに越したことはありません』
「分かってるって。……さて、もうすぐそこね……」
白塗りの病院の姿が大きくなってゆく。
そして、その病院の横にある庭に二人の参加者はいるのだ。
相手が誰であれ、油断は出来ない。
凛は、静かにその場所へと向かう。
そして――――
◇
Fate。
運命の名を冠し、決して運命に背を向けないと誓った少女が一人。
運命の名を嫌い、その壁を叩き潰そうと意気込む反逆者の少年が一人。
運命の名の元に、いいように翻弄され続けた少女が一人。
三者三様の様相だが、主催に反旗を翻す意志は同じ。
今、その三人が顔を合わせる。
それは運命か、はたまた…………。
【D-3・病院横の庭/2日目/午前】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、魔力消費(中)/バリアジャケット装備
[装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム、残弾4/6)魔法少女リリカルなのはA's、双眼鏡
[道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはA's、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
:ルルゥの斧@BLOOD+、ルールブレイカー@Fate/stay night、闇の書@魔法少女リリカルなのはA's
:ローザミスティカ(水銀燈)@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。
1:接近してくる参加者を警戒。
2:病院にてゲイナー、トグサ等との合流を待つ。
3:ゲームの脱出に役立つ参加者と接触する。
4:闇の書への対処法を考える。
5:カルラの仲間やトグサ、桃色の髪の少女の仲間に会えたら謝る。
6:人形から入手した光球の正体について知りたい。
[備考]:襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。
:首輪の盗聴器は、ルイズとの空中戦での轟音により故障しているようです。
【カズマ@スクライド】
[状態]:中程度の疲労、全身に重度の負傷(一部処置済)、西瓜臭い
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-1)、翠星石の首輪、エンジェルモートの制服
[思考・状況]
基本:気にいらねぇモンは叩き潰す、欲しいモンは奪う。もう止まったりはしねぇ、あとは進むだけだ!
1:接近する参加者を警戒。
2:変装ヤローを見つけ次第ぶっ飛ばす!
3:べ、別にドラえもんが気にかかっていないわけじゃねぇぞ!
4:気にいらねぇ奴はぶっ飛ばす!
5:レヴィにはいずれ借りを返す!
[備考] :いろいろ在ったのでグリフィスのことは覚えていません。
:のび太のデイパックを回収しました。
【D-3・病院横の庭付近/2日目/午前】
【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]:魔力中消費、中程度の疲労、全身に中度の打撲 ※気絶中の休養でやや回復しました。
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(カートリッジ残り三発・修復中、破損の自動修復完了まで数時間必要)@魔法少女リリカルなのは
バリアジャケットアーチャーフォーム(アーチャーの聖骸布+バリアジャケット)
デバイス予備カートリッジ残り28発
[道具]:支給品一式(食料残り1食。水4割消費、残り1本)、ヤクルト一本
エルルゥのデイパック(支給品一式(食料なし)、惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん、
五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に
市販の医薬品多数(胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc)、紅茶セット(残り2パック)
[思考]
基本:レイジングハートのマスターとして、脱出案を練る。
1:庭にいると思われる参加者を警戒。
2:1の参加者が水銀燈ならば、今度こそ倒す。
3:劉鳳、セラスと合流。トグサ&ドラえもんともいずれ。
4:変な耳の少女(エルルゥ)を捜索。
5:セイバーについては捜索を一時保留する。
6:自分の身が危険なら手加減しない。
[備考]:
※リリカルなのはの魔法知識、ドラえもんの科学知識を学びました。
※水銀燈の正体に気付きました。
[推測]:
ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い(推測)
膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能(推測)
首輪には盗聴器がある
首輪は盗聴したデータ以外に何らかのデータを計測、送信している
[全体備考]
※野比のび太と八神太一が埋葬されました。二人の墓には「風神うちわ@ドラえもん」が刺さっています。
※水銀燈の人間形態は死亡後、自動的に解除された模様です。
◆
一方その頃。
「……ふぅ、ようやく終ったか」
ドラえもんの修理を終えたトグサは、手袋を外し、大きく伸びをしながら時計を見やった。
あの病院からの脱出から既に随分と時間が経過している。
「これで何の収穫も無しだったら、喜劇にもなりゃしないな、本当に……」
そう言いながら、トグサは自らの拳銃に弾を装填しておく。
大分遅れてしまったが、今からでも病院に向かえば凛のサポートは出来るはずだ。
それに劉鳳やセラスの様子も気になる。
トグサとしては少しでも早く、病院に戻りたいところであったが――――
「う、う~ん…………」
そんな時に限って、予想外の出来事は起るものである。
「あ、あれ、ここは…………のび太君…………ん? あれれ?」
起き上がったそのまん丸ボディのロボットは周囲を見ながら、困惑の表情を浮かべる。
(……やれやれだな)
起きてしまった以上、放置することは出来ない。
彼はドラえもんの方へ向き直ると、面と向かって凛にしたのと同じような言葉を口にした。
「……調子はどうだい? ドラえもん」
◇
そして。
ここでもまた、運命を左右する切り札になりうる男とロボットが再起動しようとしていた。
【D-2・豪邸/2日目・午前】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、特に足には相当な疲労。SOS団団員辞退は不許可
[装備]:S&W M19(残弾6/6発)、刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、マウンテンバイク
[道具]:デイバッグと支給品一式×2(食料-4)、S&W M19の弾丸(28発)、警察手帳(持参していた物)
技術手袋(使用回数:残り15回)@ドラえもん、首輪の情報等が書かれたメモ1枚(内部構造について追記済み)
解体された首輪、フェイトのメモの写し
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1:ドラえもんに事情を説明する。
2:1の後、病院へ直行。
3:ハルヒや魅音など、他の人間はどこにいったか探す。
4:機械に詳しい人物、首輪の機能を停止できる能力者及び道具(時間を止めるなど)の探索。
5:ハルヒからインスタントカメラを借りてロケ地巡りをやり直す。
6:情報および協力者の収集、情報端末の入手。
7:エルルゥの捜索。
[備考]
※風、次元と探している参加者について情報交換済み。
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ(修理によりやや回復)、頭部に強い衝撃、強化魔術による防御力上昇
[装備]:虎竹刀
[道具]:支給品一式(食料-1)、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする。
1:状況を把握したい。
[備考]
※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました。
※凛とハルヒが戦ってしまったのは勘違いに基づく不幸な事故だと思っています。
偽凛については、判断を保留中。
*時系列順で読む
Back:[[請負人Ⅲ ~決意、新たに~]] Next:[[最初の過ちをどうか]]
*投下順で読む
Back:[[請負人Ⅲ ~決意、新たに~]] Next:[[ひぐらしのなくころに(前編)]]
|261:[[「ゲインとゲイナー」(後編)]]|フェイト・T・ハラオウン|273:[[銃撃女ラジカルレヴィさん(前編)]]|
|260:[[運命に反逆する―――――――!!]]|カズマ|273:[[銃撃女ラジカルレヴィさん(前編)]]|
|264:[[正義の味方Ⅲ]]|遠坂凛|273:[[銃撃女ラジカルレヴィさん(前編)]]|
|264:[[正義の味方Ⅲ]]|トグサ|273:[[銃撃女ラジカルレヴィさん(前編)]]|
|264:[[正義の味方Ⅲ]]|ドラえもん|273:[[銃撃女ラジカルレヴィさん(前編)]]|
*FATE ◆lbhhgwAtQE
「……ふぅっ! ここらへんなら問題無さそうだな……」
激戦の続く病院を出てからしばらく。
凛とドラえもんを運んできたトグサは、道路沿いにあった普通の民家よりもやや豪勢な雰囲気の漂う住宅――世間で言うところの豪邸――へと足を踏み入れていた。
そして、彼はその豪邸の一室に入ると、ドラえもんをソファに横にし、次いで凛をベッドの上に寝かせた。
「さて、どうするかね、と」
トグサは目を閉じたままの凛を見ながら、一考する。
セラスと劉鳳が言うには、彼女はあの銀髪の人形に唆されているだけとのことだ。
それは、人形と決別して戦っている姿を目撃したこともあって、限りなく事実に近い話だろう。
だが、自分がそう思っていても目の前の彼女が自分に対して今どのような感情を抱いているかは分からない。
自分が善意でここまで運んできたことなど、運ばれている間ずっと気絶していた彼女が知る由もないだろうし、彼女目掛けて銃弾を撃ち込んだ事実もある。
突然目覚めて、自分の姿を見た瞬間に襲われる――などという可能性も大いにある。
「怪しいとなると、こいつをどうするかも問題になってくるが……」
そう言ってデイパックから取り出したのは、気絶している間も凛が握っていたピンクの柄に金色の金具、赤の宝玉というファンシーな色彩の杖。
トグサは、これこそが自分を追い詰める程の砲撃を放っていた武器と推測していた。
そしてその推測を正しいとするならば、この杖は凛に不用意に使われないように遠ざけておく必要があった。
(しかし、こんな杖のどこにあんなレーザー顔負けの砲撃を行う機構が取り付けられてるっていうんだ……)
自分に支給された技術手袋といい、ギガゾンビを映し出す巨大ホログラムといい、長門やセラスのような強化義体といい、ここには自分にとって未知のものが多すぎる。
杖から砲撃など、娘の見る魔法少女アニメだけで十分なように思いたかったのだが……
『待ってください』
突如、どこからともなく大人の女性の声が聞こえた。
トグサはその声に驚き、声の出所を探そうとあたりを見渡すが、ここにいる3人以外に人の気配などしない。
……そして、何より声はすぐ間近――そう手元から聞こえてきたわけで……
「まさかこの杖が……?」
『はい、そうです』
「おいおい、一体どんなAI積んだらこんなに流暢に――」
『私の名前はレイジングハート。魔法発動の補助を行うインテリジェントデバイスです。そして彼女、遠坂凛は私の――』
「あ~、ちょっと待ってくれ!」
トグサがレイジングハートの言葉を遮る。
「俺はこの義体を修理し次第、すぐに病院に戻るつもりなんだ。だから、面と向き合って話を聞いてる暇は無い。……話はこいつを修理しながらの片手間になるが、構わないか?」
『構いません。どうぞ仕事を続けてください』
「そりゃ、どうも、っと」
声の調子から察するに、このレイジングハートという杖には剥き出しの敵意はない。
凛の攻撃手段であるだろう杖がこの様子ならば、まず目覚め一発で砲撃を喰らって死亡という事は無さそうだ。
トグサはそう判断し、レイジングハートをそばの壁に立てかけると、技術手袋をドラえもんに近づけ、彼の修理を開始した。
それから少しして。
修理を続けるトグサは、レイジングハートから今まで彼女が見聞き(?)した情報や魔法の概念についての大まかな説明を聞き終えた。
「なるほどな。要するにお前さんと凛は、その水銀燈っていう人形型の義体にまんまと騙されてたって訳だ」
『はい。悔しいですが事実です』
「となると、最初に俺達を襲った時もきっかけは水銀燈が作ったと考えるのが適当か……」
全てを見てきたという彼女が言うならば、間違いはないだろう。
つまりセラスと劉鳳の仮説は正しかったことになる。
ならば、こちらが凛に敵対する理由はもう完全になくなったという事だ。
「だったら、後はお姫様が目覚めてから、だな」
『大丈夫です。マスターならきっとそんな短気は起こさないはずです。……もし何かあっても私が説得してみせます』
「はは、頼もしいな」
口では笑うが、トグサの目には焦りの表情が浮かんでいた。
とはいっても別に、凛の事について焦っているのではない。
問題は、レインジングハートの話を聞きながら並行していたドラえもんの修理だ。
この修理は、トグサの予想以上に時間を食う作業であった。
それもそのはずで、このドラえもんはトグサがいた時代よりももっと未来、それこそ技術手袋と同じ年代に製造された未知の技術がふんだんに使われたロボットなのだ。
そして、その修理を行うのだから時間が掛かっても仕方がなかった。
(……クソッ。こうしてる間にも劉鳳が窮地に立たされてるのかもしれないっていうのに……)
自分達を逃がすべく水銀燈の前に立ちはだかった少年はあまりに傷つきすぎていた。
あのままでは負けて――死んでしまうかもしれない。
それだけはなんとか避けたいと、彼はただひたすらに早く修理が終わることを祈る。
すると……。
『マスター!』
突如、横から聞こえてきたそんなレイジングハートの声に、彼女が“マスター”と呼ぶ少女の方を振り向く。
するとそこには、ベッドの上で上半身を起こした凛の姿があった。
「う、うぅん……頭がガンガンするぅ…………ってあれ? ……あれ?」
凛はどうやら自分がいる場所がベッドの上であることに違和感を覚えているようで首をせわしなく動かす。
そうして動かしているうちにその視線は、ドラえもんの修理を続けるトグサを捉えることになり――
「やぁ、お目覚めかい?」
とりあえずトグサは、自分なりに親しげな調子でそう声を掛けた。
◆
頭を押さえながら目覚めた凛が目にしたのは、自宅並に豪奢な部屋とその片隅の壁に立てかけてあるレイジングハート、そしてソファの横になるドラえもんとそれに何やら手をかざしている男の姿。
いきなり大量に入る真新しい情報に彼女はこれを夢だと思うが、その頭に僅かに残る鈍痛や身に纏うバリアジャケットがまだ自分が血塗られたゲームに参加中であることを否が応にも教えてくれた。
「……ここはどこ?」
「病院から西に少し行ったところにある民家の一室だ」
「あんたは一体誰なの?」
「俺はトグサ。警察関係者だ。一応参加者ってことになってるが、俺にはまったくそのつもりはない」
凛の問いに、目の前の男――トグサは一つ一つ答えてくれた。
彼女は、彼が先ほどまで対峙していた男であることは既に分かっている。
だが、水銀燈が自分を姦計に陥れようとしていたことが分かった以上、彼がゲームに乗っている一味の一人だという彼女の話の信憑性も限りなくゼロに近いものになった。
そして、それに加えて、自分が意識を失う直前に見た劉鳳と一緒にいる姿と先ほどの彼の言葉や今までの行動を鑑みるに導かれる答えは――
「……それじゃ要するに、私があなたと敵対する理由はもうないわけね」
「ま、そういうことだ」
『流石、マスター。理解が早いですね』
どこかレイジングハートだけは自分を小馬鹿にしているような気がしないでもなかったが、深くは考えない。
「で、病院にいた他の連中はどうしたの?」
「劉鳳は水銀燈の相手をしている。セラスも同様に甲冑の騎士の相手をな。俺はセラスと劉鳳の二人に気絶していた君らを遠くに逃がすように頼まれた」
「……のび太君はどうしたの?」
「彼は……………………殺されたよ。甲冑の騎士に剣で首を刎ねられてね」
のび太が視界に入らなかった時点でしていた嫌な予感は的中した。
しかも最悪な経緯で。
「そう……。教えてくれてありがと」
すると凛は、完全に起き上がり床に足をつけると、そのまま壁に立てかけてあったレイジングハートを掴み、そばに置いてあったデイパックを拾い上げる。
トグサはドラえもんの修理をしながら、驚いた表情でそんな彼女の方を向いた。
「お、おいおい。まさかとは思うが、そんな起きたばっかりの体で動くつもりか?」
「……水銀燈とのパスが途絶えたのよ。あいつ、また何か悪巧みを考えてるのかもしれないし確かめに行かないと……」
「待て。だったら俺もついてい――」
「ダメよ。だって、あなたにはそれよりも先にやるべきことがあるでしょ?」
凛は、そう言って未だ気を失ったままで修理を受けている猫型ロボットを一瞥する。
「彼……ドラえもんはあのギガゾンビの持つ科学技術についてを知る最後の生き残り。……いわばギガゾンビに対抗する為の切り札って言っても過言じゃないわ」
「あぁ。それは分かってるさ」
「……だったら、あなたは彼の修理に専念していて。私達は彼という脱出の切り札を手放すわけにはいかないんだから」
確かに凛の言う通りだ。
トグサ自身は現在、ドラえもんの修理中であり、ここから離れるという事はその修理を中断してしまうことになる。
「……どうしても行く気なんだな?」
「水銀燈を今までのさばらせていたのは私の責任だし、それにセイバーの方も気になるしね」
この様子では、無理に止めようとすれば、何をされるか分かったものではないだろう。
トグサは、自分が知り合う人間の度重なる無謀な決断に頭を抱えつつも、最後は頭を縦に振る。
「分かった。……だが、無茶はするなよ。お前もレイジングハートもまだ……」
『大丈夫です。凛は私がコントロールしてみせます』
「――って、ちょっと何であなたが私をコントロールするわけよ! 逆でしょ、逆!」
凛はレインジングハートのそんな言葉に反論する。
だが、トグサからしてみれば、一通り話した中でレイジングハートの聡明さを理解していた為、その言葉は正論に聞こえていた。
「よし、それじゃ頼んだぞ、レイジングハート」
『All right』
「――って、あなたまでっ…………。まぁ、いいわ。それじゃ、彼の事は頼んだわよ」
「任せておいてくれ。俺も修理が終わったらそっちへ向かうからな」
凛はトグサの言葉に頷くと、部屋を飛び出していった。
残るのは、依然気を失ったままのドラえもんとそれを修理するトグサのみ……
「さて、こっちも早めに仕上げないとな」
◆
トグサ達が豪邸にいる頃。
彼らが気にかけていた病院には、満身創痍になりつつもまだその目をギラつかせた少年カズマが到着していた。
「どーなってやがる……。ここで何があった……?」
照明の落ちた薄暗い廊下を歩き、その周囲の無残な光景を見ながらカズマは呟く。
元々、いくつかの戦闘の痕跡のあったこの建物であったが、カズマが最後に見たときよりも明らかにその見た目は外観、室内ともに酷くなっていた。
――それは明らかに、新たな戦闘がここで行われた痕跡。
「クソッ!! 次から次へと俺のいないところでドンパチしやがって…………」
ここで大規模な戦闘があったことが確実である以上、最も気がかりなのはここに残してきた少年とロボットのこと。
二人が戦闘を得意としない弱者であることを彼は知っていたし、それ故にその戦闘に巻き込まれたらひとたまりもないことも分かっていた。
「あいつら一体どこに行きやがっ――――おうわっ!!!」
そして、周囲を警戒しつつそんな二人を探していると、不意に足を滑らせ転倒した。
「――っつつ…………。何だ何だ? 足元が急にヌルヌルしやが……って………………」
尻餅をついたまま、足を滑らせた原因を見ようと床を見たカズマは、そこで気付いた。
床には粘性のある赤い液体が撒き散らされており、その液体の中心には首と胴体の分かれた少年の遺体があることに。
そして、その少年の服装に彼は見覚えがあったわけで……。
「お、おい…………冗談……だよな?」
カズマは、その光景に半信半疑でありつつも起き上がると少年の首の正面へと回り込む。
すると、そこには正真正銘、彼の知る野比のび太の呆然とした表情が張り付いており――――
「く……くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
彼はそのアルター化した拳を目一杯床に叩きつけた。
「チクショウ! お前まで死んじまってどうするんだよ、のび太……」
アルルゥに次ぎ、のび太もまた自分のいないところで死んでいってしまった。
だが、そこで自分の無力さを嘆き、立ち止まっている暇など彼にはない。
――立ち止まっている暇があるなら、のび太やアルルゥ、それにかなみや君島、ヴィータ、太一といった仲間を殺していった連中を叩き潰して、ついでに気に入らないギガゾンビも最終的には潰す!
そう彼は心に決めていたのだ。
「誰だ……一体誰がやりやがった……」
のび太の首と胴体を廊下の端に寄せながら彼は、その断面を見る。
すると、その断面は骨まで綺麗に切断されており、昨日見た少女の首を切断したようなナイフよりももっと鋭利な刃物で斬られた事が分かる。
そして、これだけ出血している以上、生きている時に切断が行われたことも。
ということは、即ちのび太を殺害した相手は、首を刈る素振りを直前まで見せずに一瞬のうちに凶行に至ったという事になる。
そのような早業を誰もが出来るわけもなく、出来るとするならば恐らくは今は亡きヴィータと共に立ち向かったあの甲冑の剣士くらいの実力を持った人物くらいだろう。
――と、そこまで思考をめぐらせたその時。
――カツン、カツン、カツン…………
彼は背後で聞こえる足音に気づいた。
その足音は、徐々にこちらに近づいている。
当然だが、足音を聞いただけではカズマには、一体どんな人物が近づいているのかは全く分からない。
だが、ここにのび太の死体がある以上、まだここにその犯人がいる可能性は大いに考えられる。
そして、足音の主がその犯人であるならば、カズマが行うべきことは唯一つ。
「――!!!」
そう意気込んで彼は後ろを振り返ってみたが、そこにいたのは太一を殺しヤマトを連れ去った女でも例の甲冑剣士でもなく、長い金髪を二つに分けた小さな少女だった。
「……な、ガキか?」
一瞬気を緩めるカズマであったが、アルター能力者に歳は関係ない上にヴィータのような前例もある。
子供といえど、力量に関して油断は出来ない。
すぐに拳に力を入れなおし、少女を見据える。
「一体どこのどいつは分からねぇが、それ以上近づく前に一つ聞きたいことがある」
「あ、あの私は……」
「つべこべ言う前に答えろ。いいか? まずは――」
すると、その時少女は何かを思いついたような顔になる。
「あの……もしかしてあなたはカズマさん……ですか?」
◆
――学校には誰もいなかった。
それを確認したフェイトは、早々に探索を切り上げ、病院へ向かった。
ゲインやゲイナーらとの合流時間にはまだ早いものの、病院内を先に調べておきたい気持ちがあったのだ。
そうしてフェイトは病院についたわけだが……
「これは……」
彼女もカズマ同様にまずその酷く損壊した外観に呆然とした。
「明らかに人の手で破壊された痕跡だけど……誰か中にいるのかな」
『内部に一人分の生体反応があります』
「一人…………か」
バルディッシュの答えを聞いて、フェイトは病院の内部へと入ってゆく。
これだけ崩壊している以上、内部にいる人間がその破壊に関わっている可能性は大いにある。
しかし、だからといって彼女は逃げるわけにはいかない。
むしろ、何かしらの悪意を以って破壊を行っているのだとすれば、それを止めなければならなかったのだから。
「……どっちの方にいる?」
『この先の廊下を左方に曲がった先約50ヤード、依然その場に留まっています』
バルディッシュの指示に従いながら、薄暗い廊下をフェイトは進む。
――すると、その先にいたのは目をギラつかせた一人の少年であり…………
「ほぉ、お前があの女とゲイナーの仲間だったのか」
「はい。レヴィ達とは12時にここで合流することになっています」
フェイトが出会った少年の身体的特徴は、ゲイナーが教えてくれたカズマという少年の物と一致していた。
それに気付いた彼女は、咄嗟に彼の名を呼び、レヴィとゲイナーの名前を出し、自分の素性を明かした。
その結果、カズマは拳を収め、彼女との会話に応じ、今に至っているのである。
……いや、それだけではカズマは素直に話を聞かなかったかもしれない。
彼が話を聞く気になった最大の理由、それは――
「それにしても、お前があのフェイトだったとはな……」
フェイトがカズマの事を伝え聞いていたように、彼もまた彼女の名前を高町なのはとヴィータというフェイトにとっては亡くなってもなお大切な二人の仲間から伝え聞いていたのだ。
「なのはとカズマさんが一緒だったことはゲイナーから聞きましたが……ヴィータとも一緒だったんですね」
「短い間だったけどな。……あんなちっこい体してるガキの癖に大した奴だったよ」
聞けば、ヴィータはカズマとともにとても強大な力を持つ襲撃者に立ち向かい、そして消えていったのだという。
消えた――という言葉にフェイトは一瞬違和感を持つが、彼女は夜天の書が魔力から作り出したプログラムであり、その体を構成する魔力を全て使い果たしたという事にすぐに気付いた。
――何故、同じ守護騎士なのに、シグナムとヴィータでこれ程にも異なる道を歩んでしまったのだろう。
自分の知らないうちに道を違え、それぞれ散っていった二人の事を思い、フェイトは胸を詰まらせる。
すると今度は、カズマがフェイトの髪を束ねる片方のリボンを見ながらそんなフェイトに尋ねる。
「そのリボンをしてるってことは……お前もなのはには会えたんだよな?」
「……はい。これはなのはの大切な形見です」
「………………そうか」
そこまで聞くとカズマは、再びその顔をフェイトへと向ける。
「で、お前はどうするんだ? こんなところまで来て、一体どうする気だ?」
「勿論、なのはやヴィータ、それにカルラさんやタチコマの為にも、私は何としてもこれ以上の犠牲を無くして皆でここを脱出する手立てを探します。その為なら、私は力を使うことも厭いません。……カズマさんも協力してくれませんか?」
レヴィやゲイナーから聞いたところによると、カズマもまた相当の実力の持ち主という。
ならば、協力を仰ぎたいのがフェイトとしての本音だった。
だが……
「俺は誰かに指図されて動くなんてまっぴらだね。俺は俺の好きなようにやるさ」
「そう、ですか……」
フェイトは顔を暗くするが、これ以上言い寄ることもなかった。
そして、そんなフェイトの顔を見ると、カズマは足元に転がる少年の遺体を見やりながら言葉を続けた。
「……ま、でも、お前らがあの仮面ヤローみたいな気に食わない奴らと戦うってんなら、そん時は俺も参加させてもらうぜ。俺にも、太一やアルルゥ……それにこいつの仇を討たなきゃ気がすまないからな。それでいいなら……」
これは、つまり肯定と捉えていいのだろう。
素直でないカズマのそんな態度にフェイトは笑みを浮かべる。
「はい。ありがとうございます、カズマさん」
それから。
カズマがのび太と太一の埋葬すると言い出したことによって、二人は別行動をとる事となった。
本来、フェイトも二人の少年の埋葬を手伝おうと名乗り出たのだが――
「――これは俺の仕事だ。お前はお前のやることを先にやっておけ」
カズマがその申し出を断ったのだ。
既に、彼は毛布に包んだのび太と別の部屋に安置していた太一の遺体を抱え、二人を埋葬すべく外へと出ていってしまっている。
そして、残されたフェイトはといえば――
「……ここで合ってるの?」
『はい。彼女の体の傍から魔力を関知できます』
彼女は院内捜索中にバルディッシュに告げられた“付近から無視できない量の魔力反応がある”との知らせに従い、その発生源を調べに病院のとある地点へと向かっていた。
そこは、既に病院“内部”と言うべきかどうか微妙な――病院の壁を突き破ったその先であり、瓦礫や抉れた樹木に混じって、二人の男女が息絶え倒れていた。
一人は、白と青、そして血の赤に染められた服を身に纏った少年。
もう一人は、白と黒のゴシックドレスをこれまた血の赤に染めた状態で倒れている少女……を象った人形。
この酷く損壊した人形こそが魔力の発生源らしかったのだ。
「でも何で人形がこんなところに……」
よく見ればその首には自分に付けられたのと同じ首輪がついている。
つまりこの人形――彼女もまた、参加者の一人ということのようだ。
そして、体の上に小さな光が浮いているのを見ると、彼女はそれを手に取ってみる。
「もしかして、これが魔力を出しているの?」
『その通りです。魔力の反応、極めて大です。……それに体の下からも大きな反応があります』
「体の下から?」
バルディッシュの報告に訝しげになりつつも、確認したい気持ちが強いフェイトは「ごめんなさい」と一言言って人形の体をゆっくり持ち上げる。
すると、そのうつ伏せになった体の下敷きになるように何かが挟まっているのを見つけ――
「これは――!!」
それを拾ったフェイトは酷く驚いた。
なぜなら、それはかつて自分となのはで破壊したはずの融合型デバイス――闇の書だったのだから。
――何故、消滅したはずのデバイスがここにあるのか?
その疑問に関しては答えはすぐに出る。
ギガゾンビが何らかの時空干渉を行い、不正に入手したのだろう。
今疑問なのは、“持ち主であるはずのはやて亡き今、何故転移せずにこの場に存在するのか”という点だった。
守護騎士の件といい、この空間には自分の知りえない技術がまだ使われているらしい。
「でも、こんなものまであるってことは……」
何故、闇の書がこの銀髪の人形の下敷きになっていたのかは分からない。
何故、人形と少年が相打ちになるような形で息絶えているのかも分からない。
ただフェイトが分かっていることはただ一つ。
闇の書が極めて危険なアイテムであるという事だ。
彼女は思い出す。
かつて、はやてを飲み込み暴走を開始した闇の書――正確には闇の書の防御プログラム――の凄まじい魔法の力を。
もし、時空管理局のような組織のバックアップ無しにこの場で融合事故が発生してそのような暴走を起こされたりしたら、手に負えなくなってしまう。
(これを……早くどうにかしないと)
管制人格リィンフォースが応答をしない以上、いつどんな災厄を及ぼすとも分からない。
最悪の場合、ギガゾンビが手を下すまでもなく書が暴走して全滅などというシナリオすらも描かれかねない。
しかし、だからといって自分ひとりであの時の儀式のように完全に破壊できるかどうかも分からない。
そんな危機感を抱きつつ、フェイトはその対処法を見つけるまでの間の処置として、その闇の書を正体不明の魔力の塊である光球ともども自らのデイパックで保管することにした。
「よぉ、病院の中の捜索はもう終わっt――――って、おい。これはどういう……」
カズマがフェイトに声を掛けたのは、まさにそんな2種類のアイテムをデイパックにしまっていたその時だった。
◆
「……こんなもんか」
外に出たカズマが病院横の庭で二人の少年の埋葬を終わるまでには、そう時間は掛からなかった。
かなみの時同様の、音を全く気にしない拳を使った穴掘りが時間を大幅に短縮したのだ。
二人を埋めた上に小高い山を作り、その前にはのび太のものと思われるデイパックから取り出したうちわを刺す。
「せっかく俺が墓を作ってやったんだ。二人一緒の穴で狭いとかっちゅう文句は受けつねーからな」
――そんな物言わぬ質素な墓にカズマは一言言うと、その墓に背を向ける。
見てみれば、病院の庭には二人の墓以外にも、いくつかの墓がある。
その内の三つの並んだ墓は、まさに今埋めたのび太がドラえもんとともに作ったものであり……。
「テメーまでここに埋まってちゃ話にならないってんだよ……」
拳を強く握り、カズマは再び悔しさを露にする。
そして、そのイラついた顔で周囲を改めて見渡すと、瓦礫や倒木が散乱する奥の方で金髪の少女を見つけた。
それは、つい先ほど出会ったばかりのフェイトという少女であり、院内を捜索していたはずだった。
「あいつ、何しに外になんか……」
もう院内は調査し終わったのだろうか――埋葬を終え手持ち無沙汰になったカズマはとりあえず彼女の方に近づいて見ることにした。
そして――
「よぉ、病院の中の捜索はもう終わっt――――って、おい。これはどういう……」
フェイトに声を掛けていた最中に彼は気づいてしまった。
彼女の傍に転がる二人の死体の存在に。
双方ともに知っている顔であった。
一人は、ドラえもん達と病院へ向かう途中で出会ったいけ好かない喋り方をする人形。――名前は水銀燈だったか。
そして、もう一人はロストグラウンドで幾度となく戦い、そしてこの地でも一度顔を合わせた宿敵の……
「劉鳳だと……!? おい、なんでこいつがこんなところに……」
誰に言うでもなくカズマが呟くと、それを聞いていたフェイトは首を振って答えた。
「私がここに来た時にはもう二人は……。…………この人は劉鳳さんと言うのですか?」
「あぁ。こいつは俺たちの敵、ホーリーの劉鳳。……絶影の劉鳳さ……」
そう言うとカズマは膝をつき、倒れたまま何も言わない劉鳳の髪を掴み、持ち上げる。
「カ、カズマさん!? 何を……」
「おい、劉鳳。こんなところで寝てんじゃねーよ。まだ勝負の決着がついてねーだろ、あぁ? なのに何でこんなところで寝てるんだよ。なんとか言ってみろよ……なぁ!」
カズマは叫ぶが、劉鳳は目を閉じたまま何も答えない。
「お前が何も言わないんじゃ分からねーだろ? テメーがのび太やアルルゥを殺したのかどうかも、お前がどーして寝てたのかもよぉ……」
既にカズマにも分かっている。
劉鳳はもう死んでしまっているのだ。
森の中で倒れていたかなみのように。病院前で見つけた車椅子の少女のように。廊下で見つけたのび太のように。
そして、ダース部隊との戦いの後、共にかなみの下に帰った後の君島のように。
「ふざけんじゃ……ねーよ……」
宿敵である劉鳳の死に対しては、悲しみはこみ上げない。
変わりに湧き出てくるのはもう二度と戦えない、叩き潰せないことへの悔しさと苛立ち。
劉鳳の髪から手を離し、項垂れるカズマをフェイトは呆然と見ているしかできなかった。
……だが、次の瞬間。
『Sir,病院に何者かが近づいてきています』
バルディッシュの声がフェイトの目を覚ました。
「……誰かが来てる?」
『はい。……それも、魔力反応を伴っています』
「魔力……」
その言葉に自分以外の未知の魔導師の存在の可能性を覚え、フェイトは緊張をする。
――だが、カズマは違った。
「上等じゃねぇか。誰が来ようと俺は構わないぜ……。気に入らねぇ奴だったらボコる……ただそれだけなんだからよぉ」
先ほどまでの姿からは一転、立ち上がったカズマはそう言って目をギラつかせると拳を構える。
そう、のび太が死のうと、劉鳳が死のうと、彼の意志は決して変わらない。
相手が誰であれ、今の状況がどうであれ、今の彼の意志を曲げることは不可能なのだ。
『……距離60ヤード。……そろそろ目視できるはずです!』
「さぁ、誰だ? 誰なんだ? 一体誰が来るってんだぁ?」
緊張の面持ちのフェイトと興奮気味のカズマ。
その二人の前に姿を現したのは――。
◆
「……本当に2人いるのね?」
『間違いありません。2人とも近い位置にいるようで、一方からは魔力の反応もします』
病院に向かいながら、凛は念を押すようにレイジングハートに話していた。
トグサ曰く、自分達が病院を離れた後にそこに残っていたのはセラスとセイバー、そして劉鳳と水銀燈の4人。
ということは、少なくともその内2人は何かしらの理由があってその場からいなくなったということだ。
何らかの理由――それは戦闘の場を移動したのかもしれないし、生存者として反応しないだけかもしれない。
生存者として反応しない――それは即ち死亡してしまったということであり……
「……ダメね。弱い考えなんか持っちゃ」
最悪の事態のイメージを頭から払拭すると、レイジングハートを握る手に力をこめる。
……魔力反応を伴う生存者の反応。
劉鳳とセラスがどうなったかは別としても、それがあるのは確かな事実。
そして、それに該当する参加者として、真っ先に思いつくのは他ならないリインフォース形態の水銀燈のみ。
その彼女が自分とのパスを断ち、別の参加者といるのだとしたら、考えられる理由は一つ。
――新たなカモを見つけたのだろう。
「パスを断ったかと思ったら……そういうことなのかしらね」
『まだ確定したわけではありませんが、注意することに越したことはありません』
「分かってるって。……さて、もうすぐそこね……」
白塗りの病院の姿が大きくなってゆく。
そして、その病院の横にある庭に二人の参加者はいるのだ。
相手が誰であれ、油断は出来ない。
凛は、静かにその場所へと向かう。
そして――――
◇
Fate。
運命の名を冠し、決して運命に背を向けないと誓った少女が一人。
運命の名を嫌い、その壁を叩き潰そうと意気込む反逆者の少年が一人。
運命の名のもとに、いいように翻弄され続けた少女が一人。
三者三様の様相だが、主催に反旗を翻す意志は同じ。
今、その三人が顔を合わせる。
それは運命か、はたまた…………。
【D-3・病院横の庭/2日目/午前】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、魔力消費(中)、バリアジャケット装備
[装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム、残弾4/6)魔法少女リリカルなのはA's、双眼鏡
[道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはA's、エクソダスと首輪解除に関して纏めたメモ
ルルゥの斧@BLOOD+、ルールブレイカー@Fate/stay night、闇の書@魔法少女リリカルなのはA's
ローザミスティカ(水銀燈)@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。
1:接近してくる参加者を警戒。
2:病院にてゲイナー、トグサ等との合流を待つ。
3:ゲームの脱出に役立つ参加者と接触する。
4:闇の書への対処法を考える。
5:カルラの仲間やトグサ、桃色の髪の少女の仲間に会えたら謝る。
6:人形から入手した光球の正体について知りたい。
[備考]:襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。
首輪の盗聴器は、ルイズとの空中戦での轟音により故障しているようです。
【カズマ@スクライド】
[状態]:中程度の疲労、全身に重度の負傷(一部処置済)、西瓜臭い
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料-1)、翠星石の首輪、エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
基本:気にいらねぇモンは叩き潰す、欲しいモンは奪う。もう止まったりはしねぇ、あとは進むだけだ!
1:接近する参加者を警戒。
2:変装ヤローを見つけ次第ぶっ飛ばす!
3:べ、別にドラえもんが気にかかっていないわけじゃねぇぞ!
4:気にいらねぇ奴はぶっ飛ばす!
5:レヴィにはいずれ借りを返す!
[備考] :いろいろ在ったのでグリフィスのことは覚えていません。
のび太のデイパックを回収しました。
【D-3・病院横の庭付近/2日目/午前】
【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]:魔力中消費、中程度の疲労、全身に中度の打撲 ※気絶中の休養でやや回復しました。
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(カートリッジ残り三発・修復中、破損の自動修復完了まで数時間必要)@魔法少女リリカルなのは
バリアジャケットアーチャーフォーム(アーチャーの聖骸布+バリアジャケット)
デバイス予備カートリッジ残り28発
[道具]:支給品一式(食料残り1食。水4割消費、残り1本)、ヤクルト一本
エルルゥのデイパック(支給品一式(食料なし)、惚れ薬@ゼロの使い魔、たずね人ステッキ@ドラえもん
五寸釘(残り30本)&金槌@ひぐらしのなく頃に
市販の医薬品多数(胃腸薬、二日酔い用薬、風邪薬、湿布、傷薬、正露丸、絆創膏etc)、紅茶セット(残り2パック)
[思考]
基本:レイジングハートのマスターとして、脱出案を練る。
1:庭にいると思われる参加者を警戒。
2:1の参加者が水銀燈ならば、今度こそ倒す。
3:劉鳳、セラスと合流。トグサ&ドラえもんともいずれ。
4:変な耳の少女(エルルゥ)を捜索。
5:セイバーについては捜索を一時保留する。
6:自分の身が危険なら手加減しない。
[備考]:
※リリカルなのはの魔法知識、ドラえもんの科学知識を学びました。
※水銀燈の正体に気付きました。
[推測]:
ギガゾンビは第二魔法絡みの方向には疎い(推測)
膨大な魔力を消費すれば、時空管理局へ向けて何らかの救難信号を送る事が可能(推測)
首輪には盗聴器がある
首輪は盗聴したデータ以外に何らかのデータを計測、送信している
[全体備考]
※野比のび太と八神太一が埋葬されました。二人の墓には「風神うちわ@ドラえもん」が刺さっています。
※水銀燈の人間形態は死亡後、自動的に解除された模様です。
◆
一方その頃。
「……ふぅ、ようやく終ったか」
ドラえもんの修理を終えたトグサは、手袋を外し、大きく伸びをしながら時計を見やった。
あの病院からの脱出から既に随分と時間が経過している。
「これで何の収穫も無しだったら、喜劇にもなりゃしないな、本当に……」
そう言いながら、トグサは自らの拳銃に弾を装填しておく。
大分遅れてしまったが、今からでも病院に向かえば凛のサポートは出来るはずだ。
それに劉鳳やセラスの様子も気になる。
トグサとしては少しでも早く、病院に戻りたいところであったが――――
「う、う~ん…………」
そんな時に限って、予想外の出来事は起るものである。
「あ、あれ、ここは…………のび太君…………ん? あれれ?」
起き上がったそのまん丸ボディのロボットは周囲を見ながら、困惑の表情を浮かべる。
(……やれやれだな)
起きてしまった以上、放置することは出来ない。
彼はドラえもんの方へ向き直ると、面と向かって凛にしたのと同じような言葉を口にした。
「……調子はどうだい? ドラえもん」
◇
そして。
ここでもまた、運命を左右する切り札になりうる男とロボットが再起動しようとしていた。
【D-2・豪邸/2日目・午前】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、特に足には相当な疲労。SOS団団員辞退は不許可
[装備]:S&W M19(残弾6/6発)、刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、マウンテンバイク
[道具]:デイバッグと支給品一式×2(食料-4)、S&W M19の弾丸(28発)、警察手帳(持参していた物)
技術手袋(使用回数:残り15回)@ドラえもん、首輪の情報等が書かれたメモ1枚(内部構造について追記済み)
解体された首輪、フェイトのメモの写し
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1:ドラえもんに事情を説明する。
2:1の後、病院へ直行。
3:ハルヒや魅音など、他の人間はどこにいったか探す。
4:機械に詳しい人物、首輪の機能を停止できる能力者及び道具(時間を止めるなど)の探索。
5:ハルヒからインスタントカメラを借りてロケ地巡りをやり直す。
6:情報および協力者の収集、情報端末の入手。
7:エルルゥの捜索。
[備考]
※風、次元と探している参加者について情報交換済み。
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ(修理によりやや回復)、頭部に強い衝撃、強化魔術による防御力上昇
[装備]:虎竹刀@Fate/stay night
[道具]:支給品一式(食料-1)、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする。
1:状況を把握したい。
[備考]
※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました。
※凛とハルヒが戦ってしまったのは勘違いに基づく不幸な事故だと思っています。
偽凛については、判断を保留中。
*時系列順で読む
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