「陽が落ちる(2)」(2022/05/04 (水) 08:58:22) の最新版変更点
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**【18:24】 「終着に向けて!」
レントゲン室より離れたトグサは、あの部屋よりいくつか通路を隔てた場所にあるリネン室の中にいた。
薄暗く狭い部屋の中、床に腰を下ろし作業に没頭している。
彼の傍らにはノートPC、そして目の前にはツチダマの中の反逆者――ユービックがいる。
”……どうだ?”
”問題はない”
繋がった電脳通信に互いが満足し頷く。
トグサの手には技術手袋が嵌っており、ユービックにはそれまでになかった孔とスロットが増設されていた。
二人はトグサのうなじから伸びた線により結線されている。
”よし。じゃあ、作業に入る。もう少しだけ協力してくれ”
トグサは技術手袋を床の上に置くとノートPCへと向き直った。
そこには先程の喜緑江美里との対話とは別に、もう一つのウィンドウが開いている。
そこに表示されているログは、レントゲン室で交わされた――本当の会話の内容だ。
いかにしてギガゾンビの裏をかくか、どうやって首輪をはずすのか、またその他の問題をいかにしてクリアするか。
短い時間しかなかったが、彼らは話し合った。エクソダス計画を立てたあの時のように、再び。
そして、それぞれに課せられた仕事をするために動き出したのだ。
彼らのうちの誰かが「もう、終わりだ……」と呟いた。
そう。彼らはもうこれを終わらせるつもりだ。――自らの勝利をもって。
今まで生き残った十人。
――涼宮ハルヒ、ドラえもん、フェイト、遠坂凛、野原しんのすけ、ロック、レヴィ、トグサ、ゲイナー、ゲイン。
何故ここにいるのか。どうやって生き残ったのか。何を失い、何を得て、この先何を求めるのか。
それは、それぞれに、言葉通り十人十色に違う。何もかもが、ありとあらゆるものに違いがある十人だ。
しかし、それでも共通項を見つけるならば――、
それは――屈しないということだ。
家族や仲間、想い人……、それらを失った時、または戦いに傷ついた時。もう何度も膝を折ってきた。
この熾烈な二日足らずの間に、一度ならず彼らは屈した。だからこそ――、
だからこそ。彼らはもう屈しないのだ。
力及ばないことがあるかもしれない。でもそれでももう屈しはしない。
彼ら十人にはそれぞれに背負ったものがある。または、背中の後ろに置いて来たものがある。
それらのために進む。前へと進むだけだ。ただ全力で。それぞれの十人が。
(ギガゾンビとその僕。リインフォースと闇の書。TPに情報統合思念体。――そして俺達。
最も優秀なスタンドプレーを演じられた者が、この事件の勝敗を左右しそうだな。
そして、まずは俺だ――)
トグサは静かに両眼を閉じると、未だ未知の23世紀の電子の海へと飛び込んだ――。
**【18:25】 「魔力と魔力と魔力と魔力……?」
「これが、水銀燈のローザミスティカ……?」
遠坂凛とフェイト、涼宮ハルヒの三人の少女はレントゲン室から離れずその場に留まっていた。
後の二人は動きたくても身体の不調がそれを許さなかったからだが、遠坂凛は違う。
この後に予定されている闇の書との一戦に向けて、そこに集められていた支給品の中から
使えるものがないかを探しているのだ。
今、遠坂凛の手の上には一つの光を纏った宝石が乗せられている。そして傍らには同じ物がさらに二つ。
最初の一つは、フェイトが水銀燈の亡骸から直接発見した物。
後の二つはゲインが集めた荷物の中に紛れていたものだ。
荷物の中に別の人形の亡骸があったことから、おそらくそれはその人形の物だったろうとも推測できた。
「……どうですか凛さん。魔力としては十分なものだと思うのですが、使えそうですか?」
ベッドの上からのフェイトの問いに、遠坂凛はふぅむと唸る。
それが極めて大きな魔力を持っているのは分かる。問題はそこに込められた魔力が使えるかだが……。
遠坂凛の世界の魔力。フェイトの世界の魔力。若干の違いはあったものの、それは許容範囲内であった。
それは魔力の操作に長けた遠坂凛だっただからこそとも言える。
して、水銀燈の世界の魔力――ローザミスティカはどうだろうか?
魔力の性質としては一番異質だと思える。遠坂凛が水銀燈から聞いている情報からだと、
ローザミスティカは単純な魔力の塊ではなく――各薔薇乙女のためにカスタマイズされたもので、
それぞれに固有の能力が与えられ、また統合することでその能力を併用できるようにもなるという。
そして、薔薇乙女は契約者より魔力を得る。
つまり、ローザミスティカはエネルギーと言うよりも、データという側面が強い。しかも専用のコード付きのだ。
「……体内に取り込めば、それなりに魔力として働くとは思うけど。
それがどれくらいの量になるか、そしてデバイスに通るかは、やってみないとなんとも言えないわ。
彼女達が有していた固有の能力については期待しないほうがいいと思う」
そういう慎重な判断を遠坂凛は下した。
感触としては、ゼロの状態から一気に全快の状態まで回復しても余りある量が期待できるが、過信は禁物だ。
「そう言えば、コレもどうにかならないかって思っていたのよね」
そう言いながら遠坂凛が自分の鞄から取り出したのは、石化した劉鳳の腕だ。
「リインフォースは同じアルター使いなら……って言ったんだけど」
残念ながら、その同じアルター使いであるカズマは先程の放送で名前を呼ばれてしまった。
初見であったフェイトはそれが何かを尋ねるが、遠坂凛の答えを聞くと目を丸くして絶句した。
「あ、いや。……まぁ、彼には悪いと思ったんだけど、その、カートリッジもないしね」
改めて考えても非常識なことだが、今は藁にも縋りたい状態である。使えるものは使うのが遠坂凛の信条だ。
とは言え、彼女の手にも余る物でもあるのだが……。
「……起爆式を仕込んで、いや、……直接。……駄目かな」
遠坂凛を見るフェイトの顔色は、その容態のせいか心なしか青い。
石化しているとはいえ、人の腕を手に独り言を呟くのだからやはり他から見れば不気味だ。
ふむ……と、溜息をつくと遠坂凛は手にしていた劉鳳の腕を鞄に仕舞い込んだ。
彼女が考えていたのは、魔力にできないのなら、いっそ直接爆弾とすることはできないかということだ。
その発想は、彼女がよく知る紅衣の男が得意とする「壊れた幻想」からのものである。
劉鳳の腕に起爆式を仕込み、魔力の連鎖的な解放により爆弾とする。それは可能かと言うことなのだが……、
そもそも劉鳳の腕に閉じ込められた力――それを遠坂凛はよく解っていない。
爆薬の正体が判らなければ、挿すべき信管の種類もまた判らないということになる。
と、言うことで遠坂凛は劉鳳の腕に対する処置を保留にした。破棄しないのはやはりもったいないからだ。
そして、今度はレントゲン室の片隅、邪魔にならない位置に集められている支給品へと手を出した。
それから一分も経たない内に、狭い室内に凛の大声が響き渡った。
横になってまどろんでいたフェイトとハルヒも、その声に何がと慌てて身体を起こす。
「……こ、こんなものがあったんなら、誰か教えてくれてもよかったのに」
遠坂凛が支給品の山から見つけ出したのは、予備弾薬セット。
そして、その中に混ざっていた四十発もの魔力の篭ったカートリッジだった。
**【18:27】 「潜行」
トグサがダイブして、まず最初に辿り着いたのは、あのツチダマ掲示板が置かれていたサーバだ。
テキスト形式の掲示板と、僅かな管理システムだけが置かれていただけのサーバ。
どれほどの物かと思っていたが――、
”とんでもない容量だな……。さすがに二世紀以上も先だと、常識が通用しない”
ダイブしたトグサの目の前にあるのは、視覚化された大容量の、それも九課の電脳システムを
まるごと展開したとしてもそれが数十は入るであろう、広大な電子の箱だった。
”だが、都合がいい”
トグサは早速、自らに課せられた仕事に取り掛かる。
彼に課せられた仕事は、メインコンピュータに進入してデータベースから首輪に関する情報を抜き出す――ではない。
それではもう間に合わない。なので、難度が跳ね上がるがより短時間で済み、また効果的な方法を取る事になった。
首輪のシステムの根幹を成すもの、それは電波だ。ゲイナーや他の検証によりそれは判明している。
今までのやり方は、それを首輪の側から解決するというものだった。そして、新しい方法はその逆。
つまり、操作する権利を持つギガゾンビ側のシステムを――落とす。少なくとも通信システムを……ということである。
”再起動完了~♪ ……って、トグサ君じゃないかぁ”
ユービックに差し込まれた、タチコマのバックアップメモリからのデータ転送が終了し、そこにタチコマのAIが現れた。
さらにトグサからのコマンドによってタチコマは複製され、その声が電子の世界にリフレインする。
一瞬にして領域内に数十機のタチコマが現れ、それらはトグサの号令の元に幾何学模様の陣を組んだ。
”トグサ君、おひさしぶり~♪” ”ここはどこぉ? もしかして天国だったり” ”広~い。けどなんにもないねぇ”
”死んだ後も仕事だんなてAI使いが荒いなぁ” ”タチコマは滅びぬ! 何度でも蘇るサ!”
”ところでフェイトちゃんは~?” ”あ、そうだ。フェイトちゃん” ”ボクも気になる” ”どうなったんだろう?”
あっと言う間に空間内がフェイトちゃんコールに満たされた。
相変わらずなところにトグサは苦笑するが、仕事に関しては任せられる連中だ。
フェイトの無事と、後三十分で仕事を終えないと、彼女と残った全員が死ぬことを教えてタチコマ達を震えさせると、
トグサはタチコマ達にコマンドを送ってそれぞれに仕事を宛がった。
トグサの命令が届くと、たちまちタチコマ達は電子の海に散らばった。
まずは、サーバの中にハッキングに必要なシステムが組まれ始めた。言うならばこれは橋頭堡だ。
トグサの電脳にも例のノートPCにも、スペックと容量の両面から見て、これから行われるハッキングには力不足だ。
なので、初手として本格的な侵攻を行うための礎が、サーバの中に電子の砦として築き上げられていく。
”ここと同様のシステムを他にも発見しました~。数は6。生きているのは3です”
斥候の役割を課していたタチコマ達が戻ってくる。
――数は6。
おそらくは、このサーバの本来の使用目的は亜空間破壊装置の制御、観測なのであろう。
そうトグサは推測した。そうでなければ、こういったコンピュータを別途用意している理由が説明できない。
攻めるにあたり砦の数は多いに越したことはない。トグサは戻ってきたタチコマに再び命令を与えた。
”一台は独立解析機。もう一台はおとりに使う。多層防壁迷路を組んでデコイアレイを展開しろ”
らじゃ~♪ とおどけた返事をしてタチコマ達は再び散開する。
時間は少ない。そして敵の能力は未知数。その上でトグサが選んだ戦略は奇襲だ。
選んだというよりはそれ以外に方法がなかったとも言える。時間が無く、敵の実力が未知数である以上
最大戦力による一撃――これに賭けるしかなかった。言い換えればカミカゼだ。
”ウィルスアレイ及び、システムデータ、その他全データの展開終了しました”
同サーバ内で作業を行っていたタチコマから報告が入る。
宛がっていた仕事は、長門有希が人知れず用意していたデータの解凍作業だ。
”展開が終了したら各データを解析。用途別にリスト化して、各所に配分。更新できるものはそうさせろ”
は~い♪ と声を合わせて返すとタチコマ達は早速新しい作業に取り掛かる。
長門有希が用意したのは城を落とすための武器だ。それによって、トグサ達は武装する。
それらは、彼等が知るものより遥かに高度な技術によって組上げられているたのだったが、
九課へと宛先があったとおり、トグサ達が使うシステムに適合させられてあり、使用には問題なかった。
”コレ見て見て♪” ”構造解析~♪ 構造解析~♪” ”うわ~、こんなのありえないね”
まるで新しい玩具を与えてもらった子供のようにタチコマ達がはしゃぐ。
21世紀の技術レベルから見れば、与えられた物はまさに超兵器だ。はしゃぐのも無理はない。
こうして、トグサの仕事――ギガゾンビ城への電脳を介した侵攻は動き出した。
**【18:39】 「兵共が夢の跡――出立」
トグサが今の道へと至る出発点となったのが此処だった。
セラスと出会い、一時は拳を交わしまた共に戦ったのが此処だった。
獅堂光が、ガッツが、クーガーが、高町なのはが、キャスカが、さらに幾人も、幾人も、幾人もが此処に辿り着いた。
ある者は通り過ぎ、またある者は戦い、そしてまたある者は此処で死んだ。
野原みさえが死んだのも此処だった。
――そして、ゲイン・ビジョウがエクソダスの、その最初の一歩を踏み出したのが此処だった。
ゲイン・ビジョウは灰色の中に立っている。
彼が最初に此処を訪れた時、此処には地味ではあるが気品を感じさせる彩があった。
だが、今は灰色だ。簡単には語りつくせぬほど色々なことが此処であったが、やはりもう灰一色だ。
本当に様々なことがあったのだ。ならば、此処の風景はもっと雄弁でもいい。そう思っても、そこは残酷なほど灰色だった。
――唯一点、灰色でない場所がある。
ゲインの目の前、すでに命を――生命の彩を失った者達が眠る墓。そこだけは灰がよけられ赤い地面をあらわにしている。
ゲイン・ビジョウ、ロック、そして野原しんのすけの三人は、最初はホテルが建っていたその跡地にいる。
目的はトグサが交信した相手――喜緑江美里が求めた条件の一つであるTFEI端末、つまりは長門有希の遺体の回収だった。
もう一人のTFEI端末である、朝倉涼子がどこで死んだのかは誰も知らなかったので、必然的にこちらが選択されることになった。
そしてそれはもう成されている。ゲインの目の前にある墓の一つは暴かれ、空虚な穴を晒していた。
彼女の遺体は、病院から乗って来た救急車の中だ。そしてその運転席にはロックがいた。
残りの一人、野原しんのすけはゲインの隣、野原みさえ――母親の墓の前に立っている。
ゲインはそれを見て想う。野原みさえを――彼の依頼人を。彼にエクソダスと息子の命を託した母親を。
彼女を埋葬してくれたのは、今は亡きキョン、トウカ、園崎魅音の三人だという。
救うことが出来なかった三人。彼らが倒れた場所には、未だ野ざらしのままの者もいる。
ならば、今度は自分達が彼らを弔うのが道理だろう。
今はまだできないが……、全てが終われば必ずそうしよう。そう、ゲインはそれを固く心の中で誓った。
しんのすけの前にあるのは、赤い土を盛った小さな山だ。
この下に自分の母親が眠っているとしんのすけは聞かされた。ゲインが言ったのだから本当だ。
目の前にかーちゃんがいる。そのかーちゃんに向かい、しんのすけは一人語りかけ始めた。
「……オラ、オラもう、お寝坊はしないゾ。朝ごはんだって残さないし、お片付けだってする。
おやつも食べすぎたりしないし、TVもがまんする。毎日、ちゃんと歯みがきをして寝る。
幼稚園にも毎朝バスに乗って行くし、ひまわりの面倒だって忘れない。
おりこうにするし、シロの世話だって絶対忘れない。
……いっぱい、食べて、勉強して、イイ学校に行って、……とーちゃんみたいなとーちゃんよりすごい男になる!
ひまわりだって、かーちゃんみたいなかーちゃん以上のイイ女になる!
だから……、だから!
かーちゃんは心配しなくていいゾ! 全然心配しなくてイイ!
オラも、ひまわりも……大丈夫、だから。心配しなくても大丈夫だからっ!
だから、かーちゃんは、……そこで、寝ててもいいゾ。
オラ……、もう……、かーちゃんに面倒、見てもらわなくても……大丈夫だから。
だから、ずっと、そこで寝ててもいい……」
赤色の地面にポタリ、ポタリと雫が落ちた。ポタリ、ポタリととめどなく落ちた。大粒の雫がいくつも落ちた。
肩が、膝が、握り締めた拳が、噛み締めた歯が、なにより心が震えていた。でも、我慢した。
――しんのすけは男の子だから。
「オラ……、お仕事が、あるから……、もう行くゾ。
みんなで、しなくちゃならないことがあるから……。
遅くなるかもだけど、帰ってくるから。
絶対! 絶対! 絶対! 絶対! 帰ってくるからっ!」
だから……、だから……、
「 ――行ってきます 」
**【18:36】 「雪、無音、窓辺にて。」
広大な電脳の海の中、一人トグサはそこに漂っていた。
その眼下にあるのは、巨大な電子の城だ。
円形に配置されたデータを、さらに円環状に並べた電子の曼荼羅図。
さらにその曼荼羅が積み重なり、うねりを持った螺旋を描いて巨大な電子の塔となっている。
そして、高さの異なる電子の塔が幾重にも並び立つ異形――それがギガゾンビの城だった。
”全くデタラメだな。デカトンケイル級をも遥かに超えているじゃないか”
トグサは一人ごちる。
彼我の戦力差は比べるべくもない。だが、だからと言って諦めるわけにもいかなかった。
攻城戦は戦力差だけが全てではない。いかに開城させるかの勝負だ。開きさえすれば攻める方が有利になる。
ギガゾンビの城に繋がる三つのサーバ。そこから城に向けて何かが送られていた。
未だ生きている、亜空間破壊装置の状態情報を取得するための監視システム。
そこに、その情報に偽装した結合型ウィルスをタチコマ達が今せっせと流している。
”進捗は?”
”現在89%まで送信完了しています。終了までは後72秒かかる予定となってます”
”完了するまで気取られるなよ。隠密性を優先だ”
”らじゃ♪”
トグサの中に緊張が高まる。後一分ほどで戦争が始まり、それは十数分後には決着しているだろう。
勝てば、彼らは首輪の呪縛から解放される。逆に負ければ、その場で全員が命を失うだろう。双肩にかかった責任は重い。
”タチコマ#036から#059までは、俺の電脳防壁設定が正しく機能しているかを常に検証”
”了解しました。120毎秒回数でチェックします”
”タチコマ#60から#156までは、ハッキングが始まったらレベル6でこちら側の走査と記録を開始。
時限式、結合式のウィルスを含んだ文字列が書き込まれていないか監視しろ”
”アイサー。全タチコマ、一丸となって取り組みま~す”
”対逆探知措置、対迎撃措置スタンバイ”
”もうやってる。……今のイシカワさんの真似ですけど、似てました?”
ウィルスを送信しているタチコマから連絡が入る。――送信完了まで、後10秒、……9秒、……8秒、……、
”まずはデコイを先行させるぞ。相手の攻性防壁には気をつけろ”
”は~い♪”
電脳空間中のトグサの周辺に、姿を隠していた無数のタチコマが姿を現す。その数――六千騎。
残り……7秒、……6秒、……5秒、……4秒。
……3秒、……2秒。
……1秒。
”送信完了しました。起動します”
長門有希が用意した一種のウィルスが、ギガゾンビの城の中で結合し起動する。
その様は、電脳内での現象を視覚化しているトグサに、ある自然現象を思い起こさせた。
それは――、
”……雪?”
トグサの目の前。音も、星の光もない、電脳の真っ暗な空。そこに、淡く白い雪が降っていた。
*時系列順に読む
Back:[[陽が落ちる(1)]]Next:[[陽が落ちる(3)]]
*投下順に読む
Back:[[陽が落ちる(1)]]Next:[[陽が落ちる(3)]]
|293:[[陽が落ちる(1)]]|涼宮ハルヒ|293:[[陽が落ちる(3)]]|
|293:[[陽が落ちる(1)]]|ドラえもん|293:[[陽が落ちる(3)]]|
|293:[[陽が落ちる(1)]]|野原しんのすけ|293:[[陽が落ちる(3)]]|
|293:[[陽が落ちる(1)]]|フェイト・T・ハラオウン|293:[[陽が落ちる(3)]]|
|293:[[陽が落ちる(1)]]|遠坂凛|293:[[陽が落ちる(3)]]|
|293:[[陽が落ちる(1)]]|レヴィ|293:[[陽が落ちる(3)]]|
|293:[[陽が落ちる(1)]]|ロック|293:[[陽が落ちる(3)]]|
|293:[[陽が落ちる(1)]]|トグサ|293:[[陽が落ちる(3)]]|
|293:[[陽が落ちる(1)]]|ゲイナー・サンガ|293:[[陽が落ちる(3)]]|
|293:[[陽が落ちる(1)]]|ゲイン・ビジョウ|293:[[陽が落ちる(3)]]|
|293:[[陽が落ちる(1)]]|住職ダマB(ユービック)|293:[[陽が落ちる(3)]]|
|293:[[陽が落ちる(1)]]|ホテルダマ(フェムト)|293:[[陽が落ちる(3)]]|
|293:[[陽が落ちる(1)]]|ギガゾンビ|293:[[陽が落ちる(3)]]|
*陽が落ちる(2) ◆S8pgx99zVs
**【18:24】 「終着に向けて!」
レントゲン室より離れたトグサは、あの部屋よりいくつか通路を隔てた場所にあるリネン室の中にいた。
薄暗く狭い部屋の中、床に腰を下ろし作業に没頭している。
彼の傍らにはノートPC、そして目の前にはツチダマの中の反逆者――ユービックがいる。
”……どうだ?”
”問題はない”
繋がった電脳通信に互いが満足し頷く。
トグサの手には技術手袋が嵌っており、ユービックにはそれまでになかった孔とスロットが増設されていた。
二人はトグサのうなじから伸びた線により結線されている。
”よし。じゃあ、作業に入る。もう少しだけ協力してくれ”
トグサは技術手袋を床の上に置くとノートPCへと向き直った。
そこには先程の喜緑江美里との対話とは別に、もう一つのウィンドウが開いている。
そこに表示されているログは、レントゲン室で交わされた――本当の会話の内容だ。
いかにしてギガゾンビの裏をかくか、どうやって首輪をはずすのか、またその他の問題をいかにしてクリアするか。
短い時間しかなかったが、彼らは話し合った。エクソダス計画を立てたあの時のように、再び。
そして、それぞれに課せられた仕事をするために動き出したのだ。
彼らのうちの誰かが「もう、終わりだ……」と呟いた。
そう。彼らはもうこれを終わらせるつもりだ。――自らの勝利をもって。
今まで生き残った十人。
――涼宮ハルヒ、ドラえもん、フェイト、遠坂凛、野原しんのすけ、ロック、レヴィ、トグサ、ゲイナー、ゲイン。
何故ここにいるのか。どうやって生き残ったのか。何を失い、何を得て、この先何を求めるのか。
それは、それぞれに、言葉通り十人十色に違う。何もかもが、ありとあらゆるものに違いがある十人だ。
しかし、それでも共通項を見つけるならば――、
それは――屈しないということだ。
家族や仲間、想い人……、それらを失った時、または戦いに傷ついた時。もう何度も膝を折ってきた。
この熾烈な二日足らずの間に、一度ならず彼らは屈した。だからこそ――、
だからこそ。彼らはもう屈しないのだ。
力及ばないことがあるかもしれない。でもそれでももう屈しはしない。
彼ら十人にはそれぞれに背負ったものがある。または、背中の後ろに置いて来たものがある。
それらのために進む。前へと進むだけだ。ただ全力で。それぞれの十人が。
(ギガゾンビとその僕。リインフォースと闇の書。TPに情報統合思念体。――そして俺達。
最も優秀なスタンドプレーを演じられた者が、この事件の勝敗を左右しそうだな。
そして、まずは俺だ――)
トグサは静かに両眼を閉じると、未知の23世紀の電子の海へと飛び込んだ――。
**【18:25】 「魔力と魔力と魔力と魔力……?」
「これが、水銀燈のローザミスティカ……?」
遠坂凛とフェイト、涼宮ハルヒの三人の少女はレントゲン室から離れずその場に留まっていた。
後の二人は動きたくても身体の不調がそれを許さなかったからだが、遠坂凛は違う。
この後に予定されている闇の書との一戦に向けて、そこに集められていた支給品の中から
使えるものがないかを探しているのだ。
今、遠坂凛の手の上には一つの光を纏った宝石が乗せられている。そして傍らには同じ物がさらに二つ。
最初の一つは、フェイトが水銀燈の亡骸から直接発見した物。
後の二つはゲインが集めた荷物の中に紛れていたものだ。
荷物の中に別の人形の亡骸があったことから、おそらくそれはその人形の物だったろうとも推測できた。
「……どうですか凛さん。魔力としては十分なものだと思うのですが、使えそうですか?」
ベッドの上からのフェイトの問いに、遠坂凛はふぅむと唸る。
それが極めて大きな魔力を持っているのは分かる。問題はそこに込められた魔力が使えるかだが……。
遠坂凛の世界の魔力。フェイトの世界の魔力。若干の違いはあったものの、それは許容範囲内であった。
それは魔力の操作に長けた遠坂凛だったからこそとも言える。
して、水銀燈の世界の魔力――ローザミスティカはどうだろうか?
魔力の性質としては一番異質だと思える。遠坂凛が水銀燈から聞いている情報からだと、
ローザミスティカは単純な魔力の塊ではなく――各薔薇乙女のためにカスタマイズされたもので、
それぞれに固有の能力が与えられ、また統合することでその能力を併用できるようにもなるという。
そして、薔薇乙女は契約者より魔力を得る。
つまり、ローザミスティカはエネルギーと言うよりも、データという側面が強い。しかも専用のコード付きのだ。
「……体内に取り込めば、それなりに魔力として働くとは思うけど。
それがどれくらいの量になるか、そしてデバイスに通るかは、やってみないとなんとも言えないわ。
彼女達が有していた固有の能力については期待しないほうがいいと思う」
そういう慎重な判断を遠坂凛は下した。
感触としては、ゼロの状態から一気に全快の状態まで回復しても余りある量が期待できるが、過信は禁物だ。
「そう言えば、コレもどうにかならないかって思っていたのよね」
そう言いながら遠坂凛が自分の鞄から取り出したのは、石化した劉鳳の腕だ。
「リインフォースは同じアルター使いなら……って言ったんだけど」
残念ながら、その同じアルター使いであるカズマは先程の放送で名前を呼ばれてしまった。
初見であったフェイトはそれが何かを尋ねるが、遠坂凛の答えを聞くと目を丸くして絶句した。
「あ、いや。……まぁ、彼には悪いと思ったんだけど、その、カートリッジもないしね」
改めて考えても非常識なことだが、今は藁にも縋りたい状態である。使えるものは使うのが遠坂凛の信条だ。
とは言え、彼女の手にも余る物でもあるのだが……。
「……起爆式を仕込んで、いや、……直接。……駄目かな」
遠坂凛を見るフェイトの顔色は、その容態のせいか心なしか青い。
石化しているとはいえ、人の腕を手に独り言を呟くのだからやはり他から見れば不気味だ。
ふむ……と、溜息をつくと遠坂凛は手にしていた劉鳳の腕を鞄に仕舞い込んだ。
彼女が考えていたのは、魔力にできないのなら、いっそ直接爆弾とすることはできないかということだ。
その発想は、彼女がよく知る紅衣の男が得意とする「壊れた幻想」からのものである。
劉鳳の腕に起爆式を仕込み、魔力の連鎖的な解放により爆弾とする。それは可能かと言うことなのだが……、
そもそも劉鳳の腕に閉じ込められた力――それを遠坂凛はよく解っていない。
爆薬の正体が判らなければ、挿すべき信管の種類もまた判らないということになる。
と、言うことで遠坂凛は劉鳳の腕に対する処置を保留にした。破棄しないのはやはりもったいないからだ。
そして、今度はレントゲン室の片隅、邪魔にならない位置に集められている支給品へと手を出した。
それから一分も経たない内に、狭い室内に凛の大声が響き渡った。
横になってまどろんでいたフェイトとハルヒも、その声に何がと慌てて身体を起こす。
「……こ、こんなものがあったんなら、誰か教えてくれてもよかったのに」
遠坂凛が支給品の山から見つけ出したのは、予備弾薬セット。
そして、その中に混ざっていた四十発もの魔力の篭ったカートリッジだった。
**【18:27】 「潜行」
トグサがダイブして、まず最初に辿り着いたのは、あのツチダマ掲示板が置かれていたサーバだ。
テキスト形式の掲示板と、僅かな管理システムだけが置かれていただけのサーバ。
どれほどの物かと思っていたが――、
”とんでもない容量だな……。さすがに二世紀以上も先だと、常識が通用しない”
ダイブしたトグサの目の前にあるのは、視覚化された大容量の、それも九課の電脳システムを
まるごと展開したとしてもそれが数十は入るであろう、広大な電子の箱だった。
”だが、都合がいい”
トグサは早速、自らに課せられた仕事に取り掛かる。
彼に課せられた仕事は、メインコンピュータに侵入してデータベースから首輪に関する情報を抜き出す――ではない。
それではもう間に合わない。なので、難度が跳ね上がるがより短時間で済み、また効果的な方法を取る事になった。
首輪のシステムの根幹を成すもの、それは電波だ。ゲイナーや他の検証によりそれは判明している。
今までのやり方は、それを首輪の側から解決するというものだった。そして、新しい方法はその逆。
つまり、操作する権利を持つギガゾンビ側のシステムを――落とす。少なくとも通信システムを……ということである。
”再起動完了~♪ ……って、トグサ君じゃないかぁ”
ユービックに差し込まれた、タチコマのバックアップメモリからのデータ転送が終了し、そこにタチコマのAIが現れた。
さらにトグサからのコマンドによってタチコマは複製され、その声が電子の世界にリフレインする。
一瞬にして領域内に数十機のタチコマが現れ、それらはトグサの号令の下に幾何学模様の陣を組んだ。
”トグサ君、おひさしぶり~♪” ”ここはどこぉ? もしかして天国だったり” ”広~い。けどなんにもないねぇ”
”死んだ後も仕事だんなてAI使いが荒いなぁ” ”タチコマは滅びぬ! 何度でも蘇るサ!”
”ところでフェイトちゃんは~?” ”あ、そうだ。フェイトちゃん” ”ボクも気になる” ”どうなったんだろう?”
あっと言う間に空間内がフェイトちゃんコールに満たされた。
相変わらずなところにトグサは苦笑するが、仕事に関しては任せられる連中だ。
フェイトの無事と、後三十分で仕事を終えないと、彼女と残った全員が死ぬことを教えてタチコマ達を震えさせると、
トグサはタチコマ達にコマンドを送ってそれぞれに仕事を宛がった。
トグサの命令が届くと、たちまちタチコマ達は電子の海に散らばった。
まずは、サーバの中にハッキングに必要なシステムが組まれ始めた。言うならばこれは橋頭堡だ。
トグサの電脳にも例のノートPCにも、スペックと容量の両面から見て、これから行われるハッキングには力不足だ。
なので、初手として本格的な侵攻を行うための礎が、サーバの中に電子の砦として築き上げられていく。
”ここと同様のシステムを他にも発見しました~。数は6。生きているのは3です”
斥候の役割を課していたタチコマ達が戻ってくる。
――数は6。
おそらくは、このサーバの本来の使用目的は亜空間破壊装置の制御、観測なのであろう。
そうトグサは推測した。そうでなければ、こういったコンピュータを別途用意している理由が説明できない。
攻めるにあたり砦の数は多いに越したことはない。トグサは戻ってきたタチコマに再び命令を与えた。
”一台は独立解析機。もう一台はおとりに使う。多層防壁迷路を組んでデコイアレイを展開しろ”
らじゃ~♪ とおどけた返事をしてタチコマ達は再び散開する。
時間は少ない。そして敵の能力は未知数。その上でトグサが選んだ戦略は奇襲だ。
選んだというよりはそれ以外に方法がなかったとも言える。
時間が無く、敵の実力が未知数である以上最大戦力による一撃――これに賭けるしかなかった。言い換えればカミカゼだ。
”ウィルスアレイ及び、システムデータ、その他全データの展開終了しました”
同サーバ内で作業を行っていたタチコマから報告が入る。
宛がっていた仕事は、長門有希が人知れず用意していたデータの解凍作業だ。
”展開が終了したら各データを解析。用途別にリスト化して、各所に配分。更新できるものはそうさせろ”
は~い♪ と声を合わせて返すとタチコマ達は早速新しい作業に取り掛かる。
長門有希が用意したのは城を落とすための武器だ。それによって、トグサ達は武装する。
それらは、彼等が知るものより遥かに高度な技術によって組み上げられているのだったが、
九課へと宛先があったとおり、トグサ達が使うシステムに適合させられてあり、使用には問題なかった。
”コレ見て見て♪” ”構造解析~♪ 構造解析~♪” ”うわ~、こんなのありえないね”
まるで新しい玩具を与えてもらった子供のようにタチコマ達がはしゃぐ。
21世紀の技術レベルから見れば、与えられた物はまさに超兵器だ。はしゃぐのも無理はない。
こうして、トグサの仕事――ギガゾンビ城への電脳を介した侵攻は動き出した。
**【18:39】 「兵共が夢の跡――出立」
トグサが今の道へと至る出発点となったのが此処だった。
セラスと出会い、一時は拳を交わしまた共に戦ったのが此処だった。
獅堂光が、ガッツが、クーガーが、高町なのはが、キャスカが、さらに幾人も、幾人も、幾人もが此処に辿り着いた。
ある者は通り過ぎ、またある者は戦い、そしてまたある者は此処で死んだ。
野原みさえが死んだのも此処だった。
――そして、ゲイン・ビジョウがエクソダスの、その最初の一歩を踏み出したのが此処だった。
ゲイン・ビジョウは灰色の中に立っている。
彼が最初に此処を訪れた時、此処には地味ではあるが気品を感じさせる彩があった。
だが、今は灰色だ。簡単には語りつくせぬほど色々なことが此処であったが、やはりもう灰一色だ。
本当に様々なことがあったのだ。ならば、此処の風景はもっと雄弁でもいい。そう思っても、そこは残酷なほど灰色だった。
――唯一点、灰色でない場所がある。
ゲインの目の前、すでに命を――生命の彩を失った者達が眠る墓。そこだけは灰がよけられ赤い地面をあらわにしている。
ゲイン・ビジョウ、ロック、そして野原しんのすけの三人は、最初はホテルが建っていたその跡地にいる。
目的はトグサが交信した相手――喜緑江美里が求めた条件の一つであるTFEI端末、つまりは長門有希の遺体の回収だった。
もう一人のTFEI端末である、朝倉涼子がどこで死んだのかは誰も知らなかったので、必然的にこちらが選択されることになった。
そしてそれはもう成されている。ゲインの目の前にある墓の一つは暴かれ、空虚な穴を晒していた。
彼女の遺体は、病院から乗って来た救急車の中だ。そしてその運転席にはロックがいた。
残りの一人、野原しんのすけはゲインの隣、野原みさえ――母親の墓の前に立っている。
ゲインはそれを見て想う。野原みさえを――彼の依頼人を。彼にエクソダスと息子の命を託した母親を。
彼女を埋葬してくれたのは、今は亡きキョン、トウカ、園崎魅音の三人だという。
救うことが出来なかった三人。彼らが倒れた場所には、未だ野ざらしのままの者もいる。
ならば、今度は自分達が彼らを弔うのが道理だろう。
今はまだできないが……、全てが終われば必ずそうしよう。そう、ゲインはそれを固く心の中で誓った。
しんのすけの前にあるのは、赤い土を盛った小さな山だ。
この下に自分の母親が眠っているとしんのすけは聞かされた。ゲインが言ったのだから本当だ。
目の前にかーちゃんがいる。そのかーちゃんに向かい、しんのすけは一人語りかけ始めた。
「……オラ、オラもう、お寝坊はしないゾ。朝ごはんだって残さないし、お片付けだってする。
おやつも食べすぎたりしないし、TVもがまんする。毎日、ちゃんと歯みがきをして寝る。
幼稚園にも毎朝バスに乗って行くし、ひまわりの面倒だって忘れない。
おりこうにするし、シロの世話だって絶対忘れない。
……いっぱい、食べて、勉強して、イイ学校に行って、……とーちゃんみたいなとーちゃんよりすごい男になる!
ひまわりだって、かーちゃんみたいなかーちゃん以上のイイ女になる!
だから……、だから!
かーちゃんは心配しなくていいゾ! 全然心配しなくてイイ!
オラも、ひまわりも……大丈夫、だから。心配しなくても大丈夫だからっ!
だから、かーちゃんは、……そこで、寝ててもいいゾ。
オラ……、もう……、かーちゃんに面倒、見てもらわなくても……大丈夫だから。
だから、ずっと、そこで寝ててもいい……」
赤色の地面にポタリ、ポタリと雫が落ちた。ポタリ、ポタリととめどなく落ちた。大粒の雫がいくつも落ちた。
肩が、膝が、握り締めた拳が、噛み締めた歯が、なにより心が震えていた。でも、我慢した。
――しんのすけは男の子だから。
「オラ……、お仕事が、あるから……、もう行くゾ。
みんなで、しなくちゃならないことがあるから……。
遅くなるかもだけど、帰ってくるから。
絶対! 絶対! 絶対! 絶対! 帰ってくるからっ!」
だから……、だから……、
「 ――行ってきます 」
**【18:36】 「雪、無音、窓辺にて。」
広大な電脳の海の中、一人トグサはそこに漂っていた。
その眼下にあるのは、巨大な電子の城だ。
円形に配置されたデータを、さらに円環状に並べた電子の曼荼羅図。
さらにその曼荼羅が積み重なり、うねりを持った螺旋を描いて巨大な電子の塔となっている。
そして、高さの異なる電子の塔が幾重にも並び立つ異形――それがギガゾンビの城だった。
”全くデタラメだな。デカトンケイル級をも遥かに超えているじゃないか”
トグサは一人ごちる。
彼我の戦力差は比べるべくもない。だが、だからと言って諦めるわけにもいかなかった。
攻城戦は戦力差だけが全てではない。いかに開城させるかの勝負だ。開きさえすれば攻める方が有利になる。
ギガゾンビの城に繋がる三つのサーバ。そこから城に向けて何かが送られていた。
未だ生きている、亜空間破壊装置の状態情報を取得するための監視システム。
そこに、その情報に偽装した結合型ウィルスをタチコマ達が今せっせと流している。
”進捗は?”
”現在89%まで送信完了しています。終了までは後72秒かかる予定となってます”
”完了するまで気取られるなよ。隠密性を優先だ”
”らじゃ♪”
トグサの中に緊張が高まる。後一分ほどで戦争が始まり、それは十数分後には決着しているだろう。
勝てば、彼らは首輪の呪縛から解放される。逆に負ければ、その場で全員が命を失うだろう。双肩にかかった責任は重い。
”タチコマ#036から#059までは、俺の電脳防壁設定が正しく機能しているかを常に検証”
”了解しました。120毎秒回数でチェックします”
”タチコマ#60から#156までは、ハッキングが始まったらレベル6でこちら側の走査と記録を開始。
時限式、結合式のウィルスを含んだ文字列が書き込まれていないか監視しろ”
”アイサー。全タチコマ、一丸となって取り組みま~す”
”対逆探知措置、対迎撃措置スタンバイ”
”もうやってる。……今のイシカワさんの真似ですけど、似てました?”
ウィルスを送信しているタチコマから連絡が入る。――送信完了まで、後10秒、……9秒、……8秒、……、
”まずはデコイを先行させるぞ。相手の攻性防壁には気をつけろ”
”は~い♪”
電脳空間中のトグサの周辺に、姿を隠していた無数のタチコマが姿を現す。その数――六千騎。
残り……7秒、……6秒、……5秒、……4秒。
……3秒、……2秒。
……1秒。
”送信完了しました。起動します”
長門有希が用意した一種のウィルスが、ギガゾンビの城の中で結合し起動する。
その様は、電脳内での現象を視覚化しているトグサに、ある自然現象を思い起こさせた。
それは――
”……雪?”
トグサの目の前。音も、星の光もない、電脳の真っ暗な空。そこに、淡く白い雪が降っていた。
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