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d_va

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803201 土場国立ホール 大ホールにて

 静かにテロップが流れて緞帳が開く。記念式典ということもあって、壇上では笑顔で契約書が交わされ判が押されていた。
 白い服の藩王に、ケガをした第一王子がその隣につきそう。王子との年齢差はほとんどない。
 養子という名目で引き取ったからだ。
 証書にサインが交わされ、レムーリア代表との握手の瞬間会場に割れんばかりの拍手の音が鳴り響いた。

 笑顔で、別れ、ひとつ高い壇上に藩王が立つ。
 白い服に銀の髪が揺れた。

「きょう、このひを 迎えられたことを大変うれしく思います。」

 会場を眺めるように眼を細める。深い呼吸のあと、話が続けられた。

「ほんの1年前とその半年前、私たちはレムーリアに行き戦闘を行いました。避けられぬ戦いだったと、私たちが生き残るための戦いであったと皆が言います。」
 少し首をかしげる。
「けれど、本当にそうだったのでしょうか。
 あの戦いで戦った者たち、緑オーマなどとは本当に戦うしか手がなかったのでしょうか。
 私たちは今、手を取り合っています。世界を超えて、手をとりあえました。
 こうやって、小さいけれども大きな一歩を踏み出しました。
 あの時、なぜ同じことができなかったのでしょうか。

 1つ、皆さんに、お願いがあります。
 どうか「疑ってください」世界を、正義を、理を、王を、法律を、あなたの身の回りにあるものを少しでもいいので疑ってください。

 自分が正義として掲げるもの、それは本当に正しいのかどうか。
 あなたが本当にそれを「正義」と信じているのかどうか。
 誰かに言われるまま、受け取ってしまったものではないか。疑ってください。
 第七世界人とか、ニューワールドとかレムーリアとか絢爛世界、式神世界、ガンパレードとか、ドラゴンとかありとあらゆる世界の人間がここにいます。
 だから疑ってください。あなたの正義を、常識を。

 私も自分にいつも問いかけます。これは正しいのかどうか。現実的に行動できるものなのかどうか。
 この手を取ることは、ここで戦うことは正しいのか、それとも間違っているのか。

 こういうことを言うと、何を信じればいいのかわからなくなるかもしれません。
 私たちは何を信じ、何を見て生きていけばいいのかと思う人もいるでしょう。

 でもよく考えてください。疑って、疑って、疑った先のことを。
 たとえば、家に帰ってみる家族の笑顔。子供の笑い声、あなたが本当に大切なもの。
 疑った先にそれでも疑い切れずに残るものがあるはずです。
 それが絆であり想いです。
 私にとって大切なもの、あなたにとって大切なものそれを守るために、私たちはつながっています。
 か細い糸のようなもので、この糸は断ち切ることは簡単です。だけど切ってしまったらつなぐには大変な労力がかかるものです。そして、この誰かとあなたをつなぐ糸はあなた自身を支える糸です。

 重い枷は人を苦しめますが、枷なくして人は生きることはできません。
 人が人として生きていくために。

 今日、戻ったら、あなたの一番大事な人を抱きしめてあげてください。
 それが我らの一歩です。
 そして、自分を大事にしてください。
 【汝、己自身を愛するがごとく、汝の隣人を愛せよ】この言葉を最後に、私の挨拶とさせていただきます。

 今日はこの式典のためにわざわざお越しくださり、ありがとうございました。あなたに、幸せがありますように。

 ぺこりと頭を下げて壇上から降りる。
 とりあえず中身が缶なのに、まともに長いセリフを話しているのを初めて見たものは、驚いた顔をしていた。

ビデオはここで終わっている。

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