療養所をめぐる物語り

 

 

 ★初めての療養所~利用者の立場から (文:きみこ)

  今日は、初めてこの療養所に診察を受けに来た。
  まあ、ちょっと宇宙空間で作業中にデブリにぶち当たってから、体のどこかでヘンな音がするというだけの事で、普段ならおまじないですますところだ。しかし折角立派な病院施設ができたのだから行ってみようと思ったわけだ。
  外観は、古式蒼然。いかにも東国風。正直ちょっと不安になる。見た目通りの医療レベルだったらどうしよう。なんたら庵先生とかがすりこぎで薬草つぶしてたりとか…。
  ところがぎっちょん。【編注:死語です】
宇宙港の医務室よりよっぽど立派で、みるからに最新設備といった感じのサイボーグメンテナンス機器が揃ってるじゃないか。これはびっくり。おかげで素早く異常部分を発見し、処置してもらえた。これなら安心だ。

 

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  今日は、初めてこの療養所で手当を受けた。というか、目が覚めたら療養所だった。自分は持病の発作で心停止して、療養所に運び込まれて蘇生されたと言うことだった。知らない間に死んでいたというのは妙な気分だ。ほんとなら目覚めた時にいるのはあの世だったのに、復活できたのは本当にラッキーだった。緋色の制服に身を包んだ特級看護婦さんが、にこやかに世話をしてくれる。手術の経過は良好、今後は漢方薬と湯治を併用して、しばらく入院・療養することになるとのこと。おそらくここなら、快適な療養生活が送れるだろう。ありがたいことだ。

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  今日は、初めてこの療養所に見舞いに来た。
  友人が事故で死にかけたのだが、ここの治療で命を取り留めたらしい。らしいっていうか、まあ、生きてるってすばらしい。
  今までは、重症患者は他国に頼るしか無かった。しかしこの療養所ができてからは、国内で誰もが高度な治療を受けられるようになった。何とも有りがたいことだ。身近に頼りになる医療施設があるってのは、ものすごく安心できる。近所の人達も口々にそう言ってる。
「こんにちはー。調子はどう?」
  柔らかな光の満ちた、おちついた感じの病室で、友人は微笑んでいた。またこの笑顔を見られて、本当によかった。

 

 ★漢方医療と薬草園 (文:天河宵)

1.薬草園
  こんにちわ、お見舞いの方ですか?え?あぁ、新しい薬剤師さんですか。はい、上からうかがっております、申し訳ありません、委員長がただいま多忙でして、しばらくお待ちいただくことになるのですが、よろしいでしょうか?
  はい、1時間ほどかかると思いますが、えぇ、診療所の中を? もちろんよろしいですよ。でも、、この診療所はちょっとやそっとの広さではありません。薬草園を含めるとちょっとした山ほどもあるのですから、たいへんですけどねえ。

  こちらにどうぞ、まずは薬草園をご案内します。療養所の患者棟から見える薬草園は、薬として使うものの他に患者さんたちのセラピーのための花壇もありますので、そういうところからは緊急事態でない限り薬草を引っこ抜かないでくださいね。はい? あぁ、結構リハビリになるんですよ、地面をさわったり、世話をしたりすることって。我々も結局は土のある場所で生まれたものですからね、重力には逆らえないのかもしれません。

  この辺の薬草は傷薬として使うものですね、もうすぐ咲きそうなそこのあたりが山梔子です。本来なら山にあるものなんですが、花の香りも大変よろしいですし、実のほうもうちの国だと良く使うのでそこに植えなおしてあります。

  はい? あぁ、先生はこういうお薬はあまり使ったことがないんですか。うちの国でも合成したお薬はもちろんつかいますよ。使えるもんはなんでもつかいます。我国の国是は目の前の物は全部助ける、ですから。
  しかし、普段のちょっとした傷や骨折などはできるだけこういった自然の薬草を使うようになっています。体への負担どうこうというより、まぁ、国民的にこちらのほうがなれているんですね。

  梔子(クチナシ)は秋に実がなりますので、それを乾燥させて煎じ、服用します。概要として使う場合には粉状にしてから塗布することになりますね。主に打撲や切り傷、擦り傷なんかに効くので、結構この粉状にした包みを持ち歩いてるんですよ。酒飲みもたまに持ち歩きます。肝臓の不調に効くからってねぇ? まぁ、整腸作用や、解熱、鎮静作用、消炎作用があるのはたしかなんですが。

  先生、こっちです、あぁ、そこも薬草園なんで踏まないでください、蓬畑なんです。九月ごろから花が咲き始めます。やはり止血、鎮静作用がありますが、持ち歩くにはちょっと不便ですね。内服する分には良いんですが、切り傷や擦り傷に対しては生葉をよくもんで貼り付けるのがいいですから。

  まぁ、ちびっこたちが最初に覚える薬草でもありますね。道っぱたにいっぱいあるんですよ、だから遊んでるうちに転げたりすると、まず水で傷口を洗ってもんだ葉をぺたんとくっつける。それでそのまま遊び出しちまえばもうチビ達は怪我なんて忘れてます。まぁ、抗菌さようもありますから、ちょっとした怪我なんかはこれ一枚で十分なんです。面白いことに、張れば止血、飲めば血行促進増血と大変便利な薬草でもあります。

  うちの国は血気盛んですからねぇ、先生。血の足りなさそうなやつらにはどんどん食わせてやってください。レバーがやだってやつらには丁度いい…

  おっと、先生そっちは水場なんで足元に気をつけてください。はい、池があるんですよ、霊峰から下る水がいつも懇々と湧いている池です。水が綺麗じゃないと駄目なものがあるんですよ、山葵(わさび)です。

  ……あ!!こらああ、ちびたち、池のそばにはロイド君がいないと近づいちゃ駄目だろ、そっちのちび川のほうにいけーー!!!……元気なのはいいけどチビたちは目が離せないな…って、おっと。先生何か仰いました?

  山葵の薬効ですか?そうですねぇ。根をすりおろし手料理と共に食すのは当たり前ですが、刺激物のわりには健胃作用があって、消火器系の不調に適応してくれます。食欲不振や下痢なんかにも効きますね。
  食べすぎはもちろんいけませんが、あぁ、摩り下ろした物を幹部に張ることで、神経痛を和らげてもくれるんですよ。もちろん傷口に直で張ったらえらいことになりますけど。抗菌作用もありますし、何より食中毒を防ぐには一番頼りになるんですよねぇ。こうじめじめして日差しが強いと、その辺が一番怖いですから。

  あ、先生あっちの池を見てください、蓮(はす)です。いや、レンコン採るためだけじゃないですってば。たしかにこの薬草園には野菜植えてあるところもありますけど。うちのモットーは自給自足ですけど、蓮も立派な薬草の一つですよ。あれも止血に使うんです。蓮の実を乾燥させて煎り、粉末にしたものをつかうんです。つぼみがいっぱいあるから咲くときは綺麗ですよ。
  けど早朝は要注意です、はすの葉っぱをちょん切るべく酒飲みの親父達が暗躍してる場合がありますから。まったく、入院しているときくらい禁酒すればいいものを。あぁ、もし先生が見つけたときは容赦なく婦長さんに教えてください。きゅ!、とやってくださいますから。  
  まぁ、この辺はどっちかというと産婦人科の領域ですかね、流産や早産の予防のために蓮の実を食べたり、おしべをお茶にいれて服用してるので。まどろっこしいとおもいますか?たしかにこのやり方は即効性はありませんけど、その分弱っている人に対しても負担が少ないんです。

  何より、自分が病んでいるとか、弱っている、とかあまり突きつけられない気がするんですよね。この辺にあるものってうちの国だと普段の食卓にものったりしますし。やっぱり、自分は病気なんだ、と知っていることは大切なんですけど、それに惑わされると治りが遅くなっちゃいますからね。

  ふう、暑いですねぇ、先生。けど、先生はよっぽどこういう生薬を使わないところからきたんですね。そんなに珍しいですか、療養所の薬草園って。まるで薬草なんて触ったこともないみたいですよ。はははそんなわけないですよね、すみません。

  あれ? ロイド君どうしたのさ。……あぁ、先生その足元にいるちっこいのが我が国のお手伝いロボットのロイド君です。正式名称はカカシロイド、ついでにいうと彼はカンゴロイドで個体名称としては槿(ムクゲ)君。あぁ、手が届かないのか、笊かして。いつも一緒にいる蓬君はどうしたんだい。

  は? お使い? ふうん、よっと、これで良いかな、枝の方はいいの? あぁ、水虫に使うわけじゃないからいいって? はいはい、じゃあ落とさないように気をつけてね。ついでに向こうの池のほう見回って戻ってくれる? ちびたちが山葵池のあたりで遊んでたから、ちびたちが池の周囲50センチ以内に足を踏み入れないように注意していてね。

 

  はい。カカシロイドくんたちは便利なお手伝いさんですが、機能限定している分だけ融通がきかないので先生も用事を頼むときは気をつけてくださいね。具体的に指示しないとダメですよ。単に「手伝って」ではなく、何をどうしたら良いか細かく指示してもらわないと動きませんよ。

  先生、蕾をつんでいいのかって顔してますね。いいんですよ、アレは蕾のまま採集して乾燥させ、煎じて内服するためのものですから。やっぱり健胃作用と抗菌作用があって、胃腸炎や下痢、胃腸の不調なんかに効くんです。幹や枝の方は外に塗る為の物を作るんですね。まぁ、あっちは皮膚科の管轄かなぁ。

  この花を見ると夏ー、という感じがしますね。見てください、この柔らかな花弁の中心だけがほのかに赤いでしょう。他の部分はハレーションを起すほどに白くて柔らかで、この花を見るたびに夏の強烈な日差しを感じるんです。部屋の中から晴れた空の下でこの花を見ると特にですね、夏なんだなーって。

  あ、あっちのほう、強烈な赤い花が見えるでしょう? アレは、ハイビスカスです。このムクゲと同属で、夏バテ防止の為にお茶にしてよくのみますね。あぁ、気管支炎なんかにも効きますし、目の洗浄や腫れ物にもいいんですよ。

  先生、薬草園を見て一瞬、花壇と間違ったでしょう? でもねぇ、ここにあるものは何一つとして薬にならないものはないんですよ。もっとも、裏薬草園よりはるかに安全な物しか置いてはないですけどね。子どもたちが散歩コースにしてますしね。

 

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  さて、日差しが強くなってきましたね、急ぎましょうか。先生こっちです。病棟から少々はなれますよ。こちらの方は入院患者は近づいちゃいけないんです。裏薬草園というのは、毒草としての側面が強い物が集められています。

  もちろん、毒草とて使い方を誤らなければ立派な薬となります。しかし、危険は危険ですからね、薬草園とは別に裏薬草園として独立しているんですよ。

 

2.裏薬草園
  さて、このゲートをくぐると裏薬草園にはいります。はい? ゲートなんて何処にあるって? ここにあるじゃないですか、ほら、立派な楡の樹が2本。ふふ、先生お忘れじゃありません? 我国は帝国有数の宇宙国家でもあるんですよ。隠蔽偽装はお手の物です。

  さて、まずは道なりにいきましょうか。多分ここに来るまでの田んぼで散々見たとは思いますが、まずは彼岸花です。これも毒なのかって? えぇ、球根に特に多く含まれているんですけど、リコリンといって、アルカロイドです。まぁ、鱗茎は石蒜(セキサン)と称して催吐、去痰に用いるんですけど、その薬効はそれに基づいた物になります。毒抜きすると食用にもなりますけど、まぁ、手強いんで食べるのは難しいんですよね。

  えぇ、毒抜きが難しいのもありますけど、まず見回りとかもやってもらってるし、巨大だし……なんですか先生、別に暑さでおかしくなってないですよ、さ、いきましょう、どうせなら禁薬草園まで案内したいですしね。

  あ、先生そこの茂みには近づかないほうがいいですよ……と、遅かったですね。ご愁傷サマです。それ、ヤマウルシの木なんです。葉や枝に触るとかぶれます。ま、まぁ、指先だけで良かったですよね、ほら先生かぶれに効く軟膏あげますから、そうべそかかないで。あ、指だからって舐めちゃ駄目ですからね。

  えーと、あっちにあるのがハシリドコロで、実を食べると名前の通り走り回ります、幻覚症状もでるので注意、そこの妖しいまでに毒々しい赤い実がなっているのはドクウツギ、綺麗な色の実ですけど触らないほうがいいですよ。それ、猛毒植物ですから。食べると嘔吐、全身の硬直、だけでなく痙攣まで引き起こしますから。

  あ、足元に注意してください、それトウダイグサです。いや、そんな飛び跳ねなくてもいいですよ爆発するわけじゃあるまいし。誤って食べると消化器官の粘膜がただれるだけですよ。よくオオイヌノフグリなんかと一緒に咲いてるんでちびっこたちが遊びに使うんでアブないんですよねぇ。

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  ちょっと日陰をあるきましょうか、ほらそこに鈴蘭の塊が。花は綺麗なんですけどねぇ。うっかりコップなんかにさしておいて、その水を口にしたりすると心不全起す場合があるので注意です。

  先生、その辺の草は触らないほうがいいですよ、キツネノボタンと、キンポウゲです。どっちも可愛らしい名前ですけど、草の汁が肌につくと炎症を起すし、食べれば消化器官をただれさせる毒性があります。いや、だからそこまで飛び跳ねなくてもいいですってば。

 

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  さて、先生も多分ここでの生活に落ち着かれたら山歩きなさると思いますので、これは覚えてください。チビたちが遊んでいたりもすると思うんで、そのときには注意してみていてくださいね。

  ヨウシュヤマゴボウです。葡萄みたいーってチビたちが良く潰して指を染めたりして遊んでるでしょう?これ、一応毒草なんですよ。絶対に食べたりしないように見張ってくださいね。嘔吐剤として使われたりするものですから、大変なことになっちゃいます。
  
  あ、ドクゼリなんかにも気をつけてくださいね。この前セリが好きだからってたっぷり浸しにして食べたらドクゼリだったって患者さんが飛び込んできて大変だったんですよ。あれって、腹痛や嘔吐、痙攣だけじゃなくて神経錯乱を起すから体を押さえ込むのに苦労したんですよね。又その食べた患者さんってのが機甲侍だったものだから尚大変でしたよ。まぁ、いざとなったときの師長さんの一撃で大人しくなったからよかったですけど。

  先生なんでそんなに離れて歩くんですか、師長さんがこわい? いや、そんなに怖い方ではないですってば、えぇ、多分、きっと、そうだといいなぁ、という希望を込めて。……冗談ですって、そんな小動物みたいにピルピルしないでくださいって。

 ……冗談、冗談ですから、木に張り付かないで、それ漆の木ですよ。あ、落ちた……先生、本当に薬剤師なんですか? ふむふむ、研究所所属の、あぁ、室内のお仕事ばっかりだったんですね。うちでは薬剤師さんは山にも詳しくないとやってけないですから頑張ってください。
  ほら逃げない逃げない。さー、先生行きますよ、次は禁薬草園です。そんな売られていく子牛のような目をしない。薬草園は患者さんが世話してるスペースとかもありますし、裏薬草園はカンゴロイド君たちが世話してますけど、これから行く禁薬草園は薬剤師さんたちしか世話ができないんですから、ホラ行きますよ。

3.禁薬草園
  さて、沙羅双樹の木が見えますね、あそこを越えると禁薬草園になります。禁薬草園にあるのは、そうですね、先生たちが金庫で管理するような薬剤の元です。盗まれたりしたら一大事なものばかりですので、気をつけてくださいね。金庫に入れとけばいいじゃないかって?金庫にいれとくにしたって精製してからしか入れられないでしょう。精製するのはまず材料がなくてはいけないし、それに、うちはサイボーグ技術も持つ国ですからね、必要なんですよ、こういう薬も。

  さ、いきますよ。ここにも門番君はいますからね、ここの門番君は手強いですから、けっして挨拶せずに入っちゃいけませんよ。
  ……沙羅双樹の木に登らないでくださいよ。あぁ、門番君、彼は新しい薬剤師の先生だよ、薬草園と裏薬草園の案内が終ったから禁薬草園の案内をしたいんだけど許可はおりてる?うん、リンクをつなぐよ、よし、じゃあ入らせてもらうね。先生降りてきてくださいってば、もう。

  はい?あぁ、さっきの?さっきのはカカシロイドの門番バージョンですよ。ここではぴったり後ろをついてきてくださいね。道をはずれないように。

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   ……さて、これは見ればわかると思いますが、芥子です。もちろん医薬品のために植えられたものなんですが、たまーに盗みに入るやつがいるんですよね。…困ったもんです。大抵は門番君が蹴散らしてくれるんですけど…って、俺に登らないでくださいよ先生。

  力持ちだね?……えぇ、まぁ、一応役目上。先生しっかり見てください、この芥子畑を。これらの芥子から作られるのはモルヒネが大半ですが、少量の阿片も作られます。あとから薬草倉庫に案内もしますけど、扱いには十分注意してくださいね。1グラムでも書類提出ですよ。まぁ、わかってますよね、そのへんは。

  …… 花は綺麗なんですけどねぇ。医療用品として大事なものなのは重々承知しているんですが、まぁ、俺もこわいですよ。ちょっと前までは本当に酷い戦争状態だったから、この辺も、ものすごく、大変だったんです。たくさんの人がサイボーグになる為に麻酔が必要でしたし、これからは減るといいんですけどね。

  先生こちらはコカです。コカインの元になる植物なのはご存知ですね、主に粘膜麻酔や、局部麻酔として使われます。釈迦に説法だとは思いますけど、推理小説なんかにも出てきますね。シャーロック・ホームズが使っていた麻薬としても有名なんじゃないでしょうか。

  隣は麻です。まぁ、こちらはソフトドラッグに属するらしいですけど、それでも好ましいものじゃないですからね。この禁薬草園に植えられてます。他にも向精神剤用のものなどがたくさん植えられてます。みな、薬剤師の皆さんで世話をなさっています。先生も世話をすることになると思いますので、1つだけ注意を。
  泥棒などが畑にいても先生だけで追いかけようとしないでくださいね。門番君に聞こえるように悲鳴を上げるか、リンクをつなぐか……多分リンクのほうが手っ取り早いです…、泥棒を、あの生垣のほうに逃げるように誘導するか、です。あの生垣のむこうですか?

  ……それは秘密です。

 

4.薬草倉庫

  では、療養所最深部にある薬草倉庫に案内しますよ。危険はありませんってば。しがみつかない!

  薬草園を歩き、裏薬草園を越えて、禁薬草園を踏み越えたここ、この離れにも似た建物が、我が療養所を支える薬草倉庫になります。危険なものはもちろんここに全ておさめられていますので、必ず2人以上できてくださいね。さ、いきますよ。

  ここの警備システムは城にある警備システムと連動しています。禁薬草園で会った門番君の兄弟が、ずらりと壁に収納されて眠っています。何かあったら、タイムラグコンマで飛び出してきます。融通が利かない子たちですけど、与えられた任務には忠実ですよ。

  まぁ、まずこの第一の扉からどうにかしないといけないんですけど。

  第一の扉、先生、もう所属登録はしてあるんですよね、はい了解しました。ここに立って下さい、網膜パターンをスキャンで検索しますから。10秒じっとする!んで、ここに一言、ひらけごまって、……言いたいことはわかりますけど、院長の趣味なんです、この合言葉。

  第二の扉、ここでは指紋ですね。先生はサイボーグじゃないですよね、なら大丈夫、手をどうぞ。反応しない場合は、少し手をこすって温めて再挑戦してください。
  
  第三の扉、ええと、十数桁の数字、そう、それです。それ、口には出せないように鍵がかかってるでしょう?えぇ、他の人には教えないでくださいね、先生のロック番号になりますから。

  第四の扉(略)

  第五の扉(略)

  第六の扉(略)

  第七の扉、先生これで最後だから寝ない。鍵穴?ないですよそんなもん。これは扉全体が寄木細工になってます。これを全て解けると中に入れるようになりますから…っと
……
……
……院長が呼んでますね。
  じゃあ、ここの開け方はまた今度ですね、先生行きますよ。

  では、先生。われらがFVBの百華療養所にようこそ、ですね。これからもよろしくおねがいしますよ。
  七不思議とか教えてあげますから。

  ……だから、先生、俺に登らないでくださいよ、戻りますよ。
 

 

 ★林間散策 (文:光儀)

  それは夏の暑い日の話

 「という訳で、林間散策です。」
  いきなりカメラ目線で話し始める少年がいた。

 「…お前は誰に向かって話してるんだ?」
  毎度の電波に違いないが、一応ツッコミを入れる車椅子に乗った少年の叔父。

 「まーそんな事はどうでもいいじゃん!それよりも散歩散歩、今度こそ自然薯見つけるんだ!楽しみだねー。」

  内心、それはこの辺にはいないだろう、それに仮にいたとしても療養所にいる警備員達が、患者達には少し厳しい植物を狩ってると思うんだが…と思いながら。
 「まっ、今度はいる事に期待しよう。」
 「うん!藩王様のように自然薯倒すんだ!来るならこいだー!」
 「…ではいくかい。」


庭園

 「しかしいつ来ても綺麗な庭園だな…」
  叔父はいつきても飽きないこの庭園が好きだった。
  色とりどりの花や草木、訪問者を飽きさせないために植木職人たちが苦心した作品が、私の心を捕らえて離さない。素晴らしい、素晴らしいぞー!
 … いきなり心の声を叫び始めた叔父。
 (相変わらずだなー、よし!他人の振り他人の振り)叫び始めた叔父を無視し、大輪のヒマワリをつっついては遊ぶ少年。
  さて、そんなこんなで散策コースの一番奥まった所にある神社につきました。

 「ここきた事ないね。なんの神社だろ?」

 「んっ確か、大国主の神を奉った神社だ。」
 「大国主?」
 「出雲神話に登場する神。天の象徴であるアマテラスに対し、大地を象徴する神格でもある。…まー凄い神という事だ。」
 「他にも国造りの神、農業神、商業神、医療神などとして信仰されている。」
 「後は…因幡の白兎 と言う話にも登場してるな。」
 「ふーん、つまりなんかわからんがもの凄い神様なんだね!」
 「んじゃっ!せっかくだからお祈りして来よう。」
 「えーと、おじーが早く治りますように!」
 ……その願いが叶ったかは、わからないが叔父にとってはすごく嬉しい言葉だったと言う話だ。

 

 

 ★ようし、やつらを教育してやろう!

  『魔法の看護師ナースホルンSOS』

  白衣の天使の角笛が轟くとき、病魔退散!滅菌破病!ナースホルンが降臨する。

  百華診療所がスポンサーとなり、製作にも協力した広報用アニメ番組。この番組に登場するキャラクターおよび設定は架空のものであり、実在の人物・団体・アイドレス設定とは関係ありません。

 

★温泉とカカシロイド(文:曲直瀬りま)

 「森の湯行きのバスが出ますよー」

  ロビーで声をかけてきた看護師さんの声に、私は慌てて車椅子を走らせた。

 「はい、はーい。乗りまーす!」

 「慌てなくて良いですよ」

  看護師さんが微笑みながら迎えてくれ、運転手さんに手伝ってもらって、私をリフトで小さな電気バスに車椅子ごと乗せてくれた。

 「では出発します」

  運転手さんは、本当に滑らすようにバスを発進させた。

  シロウトとプロの運転手の差はこういうところに出るのだろう。いくら静かな電気自動車とはいえ、この運転なら床に酒をなみなみと注いだ杯を置いたとしてもこぼれはすまい。

  バスは10分ほどで温泉に到着した。

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  今度はわらわらと寄ってきたカカシロイドによってバスから降ろされる。

   カカシロイドというのは、FVBが農作業の補助用に開発したアンドロイド、自動機械だ。ころっころの二頭身で、機能そのものは高くはないが、用途を限定することで逆に普及することになり、今では農作業補助だけでなく、戦闘の介添え役から病院の看護師まで幅広く投入されている。

  温泉用カカシロイド「さんすけ君」に案内されて、浴場へと向かう。

  戦闘で負傷し、代わりの義体が完成するまで車椅子無しでは移動することが困難だが、FVBの人間であれば毎日の入浴は諦められない。国民としての性である。産湯以外は風呂に入らずシャワーやサウナだけで生きていけるなどとは信じられないのが我々である。

  ずらりと全身マッサージ機が並ぶロビーを通過し、(これはこれで捨てがたいのだが)岩盤浴エリアも素通りし、大浴場の手前でくるりと右折して小浴場へと向かう。俗にいう家族風呂である。自分としては大浴場でもかまわないのだが、介護が必要な身では他の湯治客の迷惑になりかねないので我慢しよう。

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  ゆっくりと湯船につかる。
  痒いところに手が届く、さんすけ君が背中を流してくれる。背中から耳の後ろや足の指の間まで、身体を痛めないよう丹念に磨き上げてくれる。洗髪まで完璧だ。

  FVBの至宝、それは温泉とさんすけ君の組み合わせに他ならないのではないか?

  身体の血行が良くなり、新陳代謝が活発になるのが手に取るように分かる。目から鱗が三枚くらい落ちた感じ……といえば、わかってもらえるだろうか? (わかるかな? わかんないだろーなー)

 

 

※カットとSSは関係ありません。 

 

★病院の怪談 (文:光儀)

  ここは百華療養所、最近国に出来た、わんわんの最先端の医療施設。
  その中で最初期に入った長期入院患者のお話です。

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  日差しがきつく、蝉が鳴き始めた夏のある日。

  ベットに寝っ転びながらマンガを見てる少年がいた。まるで自分の家にいるみたいにゆったりとくつろぎながら……
「…てっ、お前なー、いくら空いてるからといって勝手にベットを使うな!」
  少年の隣のベットには歳の頃は50代ぐらいのおじさんが寝てました。
「どうせ空いてるじゃん。それにわざわざ見舞いに来たのにヒドイ、ヒドイワ!」
   いきなり女言葉を使う少年の言葉をスルーしながら。
「見舞いて言うのは、果物持ってくるとか、一人で寂しい俺とおしゃべりトークするとか」
「あっはっはっ!、おじーは糖尿病で果物食べれないじゃないか、それによく看護師さん達と話してるじゃん!」
「ヒドイ、ヒドイワ!本当に寂しい私の願いを聞いてくれないなんて!」
  今度は叔父が女言葉を使い始めるが、少年もスルーしながら。
「んじゃ、なんの話をする?……そうだ!この前聞いた七不思議以外の怖い話がいい!」
「怖い話ね…」
  さて弱ったそうそう、そんな話がある訳が……
「あー、一つあるな」
「あるの?! じゃーそれで!」少年は瞳をキラキラさせて叔父の話をまった。
「仕方がないな、…これは最近体験した話だ……」

  その日は今日見たいに蒸し暑い日だった……いくら空調が効いてても、こう暑くては中々寝付けなかった。
  それでも寝ようとして、目をつぶり羊が一匹とか取り留めのない事を考えてたら、ようやく意識がまどろんできたんだが…
  そんな時だ……
  カチャッ

  部屋の扉が開いたような音が聞こえたような気がした

  ヒタヒタヒタヒタ

  誰かが近づいて来る音が…
  俺はまどろんでいるのであまり気にしなかった。

  ギシッ!

  誰かがベットに上がったような…
  俺はまどろんでいるのであまり気にしなかった。

  急に身体が重くなった。
  俺は少しだけ意識を取り戻し始めた。

  急に息苦しくなった…
   誰か、が首を…絞めてる?!

  俺は落ちようとする意識を必死に繋ぎ止めながら目を開けた。そこには…

  髪をざんばらにした一人の老婆が俺の首を絞めていた!
  俺は必死に抵抗しようとした。だが、身体が動かなかった…金縛りと言う奴だろう
そして、俺は意識がなくなった……。

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「それで、どうなったの?死んだ!」
「阿呆、それじゃ俺が生きてないじゃないか!」
「でもその後どうなったの?」
「あーその後気付いたら朝だった。…ただ」
「ただ?」
「ただ……俺と同じように長期療養している婆さんがその晩亡くなったそうだ」

……その後、少年はしばらく夜トイレに行けなくなったそうだ。

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  それを聞いた叔父は「そういうのが怖いくせに、聞くからだ!」
と、笑いながらそう言ったそうだ。

 

 

 

 

 

 

最終更新:2008年11月30日 21:59