卵からふ化したひな鳥が、いつか成長して旅立つのは自然のなりゆきである。
そして、大空を飛び回るようになった鳥が、その巣を守るために戦うのもまた自然な有り様であろう。
宇宙をめざしたFVBの民が、あまたの戦いを乗り越え、「美少女による銀河帝国」など星の民と接触していく中で、帝國の盾として、ニューワールドの護り手として存在するよう己を鍛錬していくのも、そうした自然な流れの中での発展だった。
それが「星の護り人」である。
基本の容姿は東国人の形質を受け継いでいるが、宇宙線に対応して肌は浅黒くなっており、従来よりは耐性がつき、回復力が早くなっている。その容貌はさながら南洋の漁師のようであるが、体格はどちらかといえば華奢で全体的にほっそりして繊細な雰囲気である。
『おかえりなさい、星の世界へ』 長距離移動システムから降りて宇宙港にはいると、コンピュータボイスと共に 宇宙港管理官が出迎えるが、もちろん彼らのほとんどは「星の護り人」だ。 色は浅黒く、宇宙だというのに浜辺の漁師や船乗りたちを見るようだ。いわゆ る宇宙焼けとは違って、宇宙線に適応した地グロなのだそうだ。よく見ればどこ となくひょろっとしていて、がっしりした地上の船乗りたちとはまた少し感じが 違う。 役人に限らず、周囲には「星の護り人」が多く見られるが、私服の彼らはいか にも東国人らしい和服のようなスーツを羽織り、腰のベルトで止めているが、そ の素材や色使いからベースが和服であることに気づかない者は多い。
空間認識能力は高く、上下左右の感覚のない宇宙空間であっても自己の位置を見失うことはなく、時間と空間に関する周囲の情報を迅速かつ適切に処理できる、生まれながらの宇宙船乗りである。
宇宙船内では狭いコクピットに長時間押し込められることもあるし、船外活動として無限に広がる宇宙空間に放り出されることもあるが、閉所恐怖症も広所恐怖症も「星の護り人」には無縁の感情なのだ。
ただし、筋力はさほど強くなく、人工重力があるため地上に降りたときに不自由することはないが、地上で生まれ育った民と比べると白兵戦力で大きく劣ることになる。
「おーい、待てよお!」 笑いながら、私の横を飛ぶように追いこしていくのはFVBの子供たちだ。 無邪気な笑顔だが、無重量エリアでの身のこなしはプロの船外オペレーターさ ながらだ。通りかかった大人の「星の護り人」が客人がいるんだぞと穏やかに叱 責すると、壁や天井に張りついた姿のまま「ごめんなさい」と頭を下げた。 私も笑って「なんでもないよ」というように手を振ると、彼らはぺこりと頭 を下げ、前よりはおとなしいスピードで先に進んだ。 案内の「星の護り人」は、まだ宇宙に上がるのを許されたばかりなので、すぐ にはしゃいでしまうのですと説明した。やはり、成長期の子供は体内のカルシウ ムやホルモンのバランスが狂ったりするので地上で育てられるのだという。 許されたばかりとはどのくらいかと訊ねると、手元の端末を一瞥し、今日の第 一便で到着したのだと答えた。今日で2回目の宇宙実習なのだそうだ。あの水を 泳ぐ魚のような動きをもう身につけているのかと思うと驚くべき事だ。
宇宙船乗りは、宇宙船という閉鎖空間に長期間、他の乗員と共に寝起きすることが当たり前であり、その中で人間関係のトラブルを起こしても逃げることもできないし、交替を申し出ることができるケースもほとんどない。
そのため、「星の護り人」のコミュニケーション能力は高くなり、誰とでもすぐ仲良くなり、互いの感情を傷つけることなく交流する術に長けている。
FVBは星をめざす国であり、移民として加わった新しい民も含めて、国民の大半は宇宙の民である。
しかし、それは地上との決別を意味しているのではない。「星の護り人」にとって大地とは守るべきものであり、いつか還るべき聖地である。
そこにいるのは守るべき子供たちであり、子供を育てる役割を担った母親であり、保育士であり、教師であり、宇宙活動を支援する基地の要員であり、現役を引退した祖父母・曾祖父母たちであり、いずれも大切な、かけがいのない存在である。
FVBの民は子供を愛し、配偶者を愛し、祖先を敬い、そして航海者として軍人として後方兵站地や補給拠点、後方支援の重要性を認識している。だから星を護る人となった。それぞれがやるべきことをやるだけなのだ。
天は大地によって支えられているのだ。
「子供たちは地上の緑に包まれて育ち、いつか星の世界へ行く日を夢見て育ちま す」 そう語った星の護り人はスクリーンに映し出されるテラをちらりと見、そして 穏やかに微笑むと言葉を続けた。 「そして大人は星の海を漂いながら、あの緑の星にいつか還る日のことを考える のです」
FVBは半世紀近くにわたり一貫して「宇宙への帰還」を掲げる国であったが、その歴史の中で幾度も滅亡の危機と栄華の時期を繰り返しつつ乗り越えてきた。そうした歴史の流れの中で移民としてFVBに定着した者も少なくないため、FVBには人種や出自といったものに対してよく言えばおおらか、悪く言えばいい加減な気風があり、「星の護り人」もそれを受け継いでいる。
どこから来たのか?は重要ではなく、今何をしているのかが重要であり、これからどうなろうとしているのかが大切なのだ。宇宙の船乗りとしての誇りを持つ彼らであるが、それは決して狭量であることを意味しない。
「星の護り人」は宇宙プラントの管理や宇宙造船などにも従事することが多いが、基本的に生まれながらの宇宙船乗りである「星の護り人」にとって“船を操る”ことが生き甲斐である。
それゆえ宇宙戦艦に乗り込み、母星を守って戦うことは「星の護り人」の誉れであり憧れである一方、星間運輸や交易はもっとも適職とされる職業だろう。
そのため、「星の護り人」には生来の語学センスがあり、また積極的に異国の言葉を学ぼうという意志が強く表れる。だが、全員が語学の達人というわけではなく、特に交易を専門とするもの以外は、その能力の程度はてんでばらばらである。
「冥王星往きの便の発車まで1時間ほどありますが、いかがしますか?」 案内役の「星の護り人」はどこかで食事をするか、弁当を手配するかと訊いて きた。 簡単で良いから、この国らしい食事をしてみたいと応えた私のリクエストで連 れていかれたのは、観光客用のレストラン街から外れた、外れの方の店舗だった。 小さな店だが、作業員用ゲートが近く、利用者は宇宙港の職員や宇宙船クルー が主なようだ。注文で出てきたのは、どんぶり一杯の白飯に野菜の塩漬けピクル ス、そして大どんぶりにたっぷりの豚汁。これは豚肉や刻んだ根菜などが味噌ス ープで煮込まれた料理だ。 「これで足りなければ、そこのショーケースから総菜を自由に取って下さい。料 金はそこの帳場で精算します」 案内役の女性は、そういってチェッカー機械を指さした。 そして彼女は自分の分として、さらにアボガドサラダとハムエッグを追加した。 東国人風の食事の中に、他国の料理がアレンジされて取り込まれているのが面白 い。 食事は終始にぎやかな中で進んだ。 最後に搭乗ゲートをくぐるときに、手みやげとして握り飯の包みを渡された。 これは冷めても美味しく食べられるし、無重力空間でも料理が空間に飛び散らな いで食べられることから、FVBでは携行食として定番メニューらしい。 「それではお気をつけて。あなたの旅に成功がありますように」 そして私は星の海に出た……。
今では使用されることはほとんどないが、建国当初は犬忍者やお庭番は重要な職業アイドレスであり、その中心に「犬妖精」があった。
その第一の特徴は、犬耳と犬の尻尾。FVBでは付け犬耳と付けしっぽを装着して犬妖精の能力を発揮していたが、これは犬耳としっぽに力があったというより、パートナーである犬士たちの姿を借りるということ自体に意味があったように思われる。それくらいFVBの民は、犬士たちを信頼していたし好きだったのだ。犬士のコスプレをすると必要以上に張り切ってしまうくらい……。
それは今も変わらない。星の護り人たちも犬士が好きであり、犬士1人を相棒に長期間の単独(?)航海に出る者も少なくない。
文・設定:曲直瀬りま,光儀,
アキラ・フィーリ・シグレ艦氏族
絵:曲直瀬りま
L:星の護り人 = {
t:名称 = 星の護り人(人)
t:要点 = 無限知覚,感応能力,宇宙服
t:周辺環境 = 世界の終わり
t:評価 = 体格2,筋力1,耐久力2,外見4,敏捷2,器用2,感覚9,知識1,幸運0
t:特殊 = {
*星の護り人の人カテゴリ = 汚染種族アイドレスとして扱う。
*星の護り人は一般行為判定を伴うイベントに出るたびに食料1万tを消費する。
}
t:→次のアイドレス = 危機回避(技術),宇宙の意識との接触(イベント),廃人(職業),星虫付(職業)
}