王様の剣 ◆RhuwIVoq9A


ダメージは深刻。
徹底的に刻まれた両肩は特に酷く、肘を上げる程度の運動も思うようにならない。
爆風も浴びた。あの手の爆薬の主たる殺傷力である、破片の直撃は免れたが、身代わりに鎧が裂けている。
さらに吹き飛ばされての落下衝撃が体の芯に響き、全身を控えめな裂傷と火傷の満遍ないデコレーション。
開戦直後から、随分な惨状だ。
疲労分のダメージが癒えたところで、立ち上がる。
傷が塞がるまで待っていられない。ただでさえ、屋外での休息は危険なのだ。それに傷の治りが妙に遅い気がした。
いや、あるいは遅いどころではないかもしれない。未だに僅かずつ血が流れ続けているのだから。
慣れた剣を腰に佩き、荷物をどうにか背に負った。
バッグが肩に重さを乗せるたびに、鎖骨を抉られるような痛みが走るが、物資は戦の要。捨て置くわけには行かない。
鉈は使い道がない上、この状況では拾うための体力も馬鹿にならない。捨てていく。
身を隠すということなら、近くの林で物音を立てなければそれが一番いい。だが、それは奇襲を仕掛ける場合の話。
回復となると、きちんとした設備を利用するほうがよい。
環境もよく、条件によっては視界を限らせ、また射線や行動範囲を制限する等の、防御側に有利な要素が多く期待できる。
せめて納屋でもと、雨垂れの様な出血をおして南下していたところ、派手な彩色の布をまばらに張った、石の館が現れた。
「……これは」
何の建物だろうか。鉄枠で括った布には、派手な文字と真に迫った人の姿が染め抜かれている。見たこともない質感の布だった。
随分息が詰まりそうな印象を与えるが、ここの片隅にいれば誰かが来てもやり過ごせるかもしれない。
こちら側は建物の裏側らしい。外周を回れば、出入り口が見つかるだろう。
太陽が頭を覗かせようとしていた。
空気はまだ冷たいが、それでも地平線から漂い来る、いくらかの暖かさが傷に少しだけ心地よい。
建物に右肩を預けるように歩き、そろそろ建物の角というところで、何かの話し声を聞いて足を止めた。
こちらの停止を聞いたのか、話し声も止まる。
「キョン殿、お待ちを」
やや抑えめの女の声が小さくはっきりと聞こえる。
あと少し早く気づいていれば、引き返してやり過ごすこともできただろうか。
「何者か!」
張りのある声。素人でもなければ、苦戦は必死だ。
「こちらに敵意はない! 姿を現されたい!」
馬鹿正直な、正面からの誰何だった。
さて、どうする。
戦いの経験のなさそうな者であれば、今の傷でも戦える。問題なく殺せる。
だが、それなりに研鑽を積んだ戦士なら、おそらく太刀打ちできないだろう。
外見で判断するにも、相手の姿は見えない。こちらの姿も見られていないというアドバンテージは、掴んでおく価値は十分にある。
逃げられれば、逃げてしまうのが一番いい。
「出てきませんよ?」
「あれ、そんなはずは……」
どこか浮いているような男の声に押され、女の気配が不十分な警戒のまま隠れた角へ近づいてくる。
あまりの状況に、刹那だけ思考が止まった。
好機である。しかも、海岸で探していた砂金粒を本当に見つけてしまうほどの。
「あの、トウカさん?」
「いや、確かに誰かの気配が消えるのを感じたのだ。今某が確認に……」
「いやいや、あの……」
会話に合わせ、カリバーンをそっと引き抜く。
必殺を期すべきか、体力の温存を心がけるべきか。
宝具なら、建物の壁材もろとも相手を切り払うことができるだろう。
だが、今は剣を持つ腕が腰より上に上がらない状態だった。
不完全な発動では、攻撃力へ絶対の信頼を寄せるわけにはいかない。
そして先刻に続く連続使用は、残りの全体力を使い潰すことになる。
力尽きたところで別の参加者が出てくればそれまで。
万に一つ、討ち漏らした場合も同様だ。
無想を念じながら、剣を腰へ引き付ける。多少の高さまでなら、振る勢いで斬り上げることができるはずだ。
細く長く息を吐く。小さく太く息を吸う。
腰の回転に乗せ、カリバーンをそのまま打ち出した。
輝く剣が、角から頭を出した影の眉間に食い込む。
手応えあり……では、なかった。
布と綿を切り裂いたに留まる剣は、建物に跳ね返って切っ先を地に埋める。
眼前には、額を割られたぬいぐるみを投げ捨てながら飛び下がる男と、袖を引かれるまま愕然と下がる女。
「そ……某のうさぎが……!」
「それどころじゃないじゃないですよ! やっぱり危なかったじゃないですか!?」
「そ、そうであった! 某としたことが!」
剣を振り抜いた瞬間に、肩口から血と肉が噴き出したのを感じた。神経束もねじれたか、激痛が走る。
奥歯に噛み付いて、かろうじて声が出るのを防ぐ。
二人が間合いをとる姿はどうにも隙だらけだが、こちらに追いすがる余裕はなかった。
「おのれ、何者か!」
結果、剣士らしい女に体勢を整える時間を与えてしまった。

思ったとおりの二人組だった。
男は、焦りを浮かべつつも口を半開きにしたまま戦いに備えるでもなく、女の陰に隠れる形で突っ立っている。
そして剣士の女は、腰に構え柄に手をかけた居合の構え。
片刃曲剣ならではの、待ちの高速剣だ。
鞘に収められたままの得物は、通常の両手剣の倍はあるのではないだろうか。
腰から抜き放つには長すぎる代物だが、構えに躊躇はない。
抜けるのだろう。
こちらの剣を当てるには、入った瞬間に斬られる死の間合いを、さらに一歩踏み込まねばならない。
「あの、トウ……」
不用意に声をかけた男のお陰で、居合の鉄壁に綻びが生じる。
先手。
「勝利すべき――――」
「くっ!?」
剣士が柄を取り、鯉口が光る。だが遅い。
「黄金の――!?」
柄が滑った。手から剣が抜けそうになる。
集中が途切れた刀身から、魔力が霧散していく。
無理だ。宝具は中断し、敵の居合を防がなければ。
――そう思った瞬間には、既に抜刀が体を通り抜けた後。それが居合であった。

はずなのだが、両断されていなかった。
不審に思って警戒しつつ上目遣いの睨みを投げると、両腕をいっぱいに伸ばして大汗をかいている剣士の姿。
超長剣が抜ききれなかったらしい。
「だから言おうと……」
男の声。
苦労して鞘を払おうとしている姿を、つい見守りそうになる。
「……はっ!?」
ようやく、剣士が盛大に隙を晒していることに気がついた。
前に流れた上体を引き戻す代わりに、さらに踏み込むのが定石。
前の足に体重を乗せたところで、まだ剣に鞘がひっかかったままの剣士が体勢に入った。
「ッ!?」
「ふっ!」
やや流れた返し刃を、剣士は半ば刀身が納まったままの鞘で受け止めた。
鍔迫り合いとなる。
肩傷が悲鳴を上げたが、相手の腰が伸びきっているのに比べ、こちらは重心が落ちている。条件は悪くない。
ここを押し切れば、勝てる。
剣士の瞳が、降りてきていた。
「そなたには、他人を殺してでも成し遂げたい望みがおありか?」
わかってもらおうとは思わない。
過去に潰えた、自分の国。
自分が王であったばかりに滅んだ、民草の記憶。
それはもはや既に歴史となってしまった。
「私の、望み……」
剣士にも、そしてこれから先の誰にも語ることのないその望み。
史書に記されるであろう騎士王アーサーの名を、歴史から永久に消すこと。
アーサーなどという王は、どこにも存在しなかった。
アーサーに関わった無数の民は、それがために訪れた死の運命に出会わずに、生き続けることができる。
わかってもらえるとも思わない。
だが、相手の瞳に了解の色が浮かんでいた。
「トウカさん!」
男が荷物から何かを取り出した。
噛み合った相手の剣を払い、投げつけられるそれを避ける。
闘拳用の手袋。
こちらが離れた隙に、剣士は今度こそ超長剣を抜き放った。
「それが罪なき人々であっても?」
否とは言えない。
偽る気もない。
結局は、抜き合わせなければならない相手だった。
「ならば」
以後の言葉は不要であった。
「某はエヴェンクルガのトウカ。いざ尋常にお立ち合いあれ」
「故あって名は名乗れないが、私はセイバーのサーヴァント。受けて立とう」
同時に、間合いを取った。
抜き身を居合いに擬したトウカに対し、再び腰溜めに聖剣を構える。
もう力が残っていない。
肩の傷が決定的な深さまで開いたか、腕に力がない。肘先を支えきれず、剣が見苦しいまでに震えている。
悪いことに、あの剣の異常射程に抗するためには、宝具あるいは風王結界の飛刃に頼らなければならない。
剣の魔力を投げつけるのは、振り抜いてから命中までのタイムラグがある。使うわけにはいかない。
二度目が不発とはいえ、実質三度目の宝具に肩が耐えられるとは到底考えられないが、貫き通す意地と誇りがある。
だが、この張り詰めた空気に意識が割けるか。
腕を固めることに気をとられ、無造作な居合に対応しきれない危険性もある。
例えば今この瞬間、思考の虚を打たれれば……
不意にトウカが気を外した。
「何を……」
「御身の腕前を持ってすれば、先刻の某の醜態、隙を突こうと思えば突けたはず。その節義に報いよう。
 ……この勝負、しばし預ける」
弄言か、と防御反撃に集中した意識の隙に、トウカはさらに一歩引く。
これで、カリバーンの通常剣撃の間合いから完全に逃れたことになる。
そこから、さらに居合の構えを崩した。
「いずれ雌雄を決しよう。その時まで健勝に、サァバンド殿」
背を向ける。
こちらが追いすがって斬りかかってくるなどとはまったく考えていないのか。
振り向きざまに斬り捨てる自信があったのか、こちらがそうしないであろうことを知っているのか。
連れの男は、立ち合いの気に呑まれていたらしい。茫洋としていた意識がやっと目を覚ましたのか、荷物を掴んで慌ててトウカを追う。
男越しに、トウカが振り返った。
「もし叶うなら、その時まで斬らざるべきを斬らぬよう……」
納刀の動作で抜き身の鍔元を素手で握り、当然のように流血した。
おぼつかなくなった手元で男が持ってきた鞘をひったくり、鞘を取った左手に剣の先端を刺した。
トウカと連れが視界から消えるまでおよそ4分。
三人とも、何者かの奇襲を受けなかったのが奇跡であった。


再び、一人。
とりあえず、建物に避難しよう。
彼女のような使い手にもう一度遭遇すれば、今度は命がある保証はない。
ふと、左手側を見た。
うさぎのぬいぐるみが落ちていた。
先程のトウカの言葉を思い出す。
『某のうさぎが……!』
うさぎは頭を目元まで斬り割られており、脳漿のようにはみ出した中綿で髪が生えたように見えなくもない。
つぶらな瞳が、虚ろにこちらを見上げている。
「すまなかったな」
いずれ再び見える相手だ。届けてやろう。
そう思って、傷が痛むのを押して持ち上げた時、手に不快な感触が伝わった。

このうさぎ、なんか湿っている。


【B-4 映画館外周 初日 早朝】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:なんかすっげ疲れた
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、わすれろ草@ドラえもん
[思考・状況]
1:火災現場(C-3図書館)に向かう
2:トウカと共に仲間の捜索
3:ハルヒ達との合流
4:朝倉涼子には一応、警戒する
基本:殺し合いをする気はない

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:左手に切り傷
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
1:火災現場(C-3図書館)に向かう
1:キョンと共に仲間の捜索
2:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す
3:ハクオロ等との合流
基本:無用な殺生はしない
※セイバーを、サァバンドという偽名を使うセイバー族の人だと思っています。
【B-4映画館外周、けんかてぶくろ@ドラえもん 投棄】


【B-4 映画館内部 初日 早朝】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:全身に裂傷とやけど、両肩を大きく負傷、鎧に裂け目、極度の疲労。
[装備]:カリバーン
[道具]:支給品一式、なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん
[思考・状況]
1:傷を治す
2:優勝し、王の選定をやり直させてもらう
3:エヴェンクルガのトウカに、見逃された借りとうさぎを返し、預けた勝負を果たす。
※うさぎは頭が湿っており、かつ眉間を割られています。


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75:洗濯⇔選択 キョン 107:武人の本懐
75:洗濯⇔選択 トウカ 107:武人の本懐
64:無題 コこロのアリか セイバー 133:幕間 - 『花鳥風月~VSアサシン0』





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