戦争準備~事の発端・藩王たくまサイド~

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 わんわん帝国ビギナーズ王国首都中央は王国政庁。
 雪がやんで、空が覗いている。国内全ての施政の頂点である政庁は城のような佇まい
にまだ溶けぬ雪化粧をまとい、光の反射がまぶしい。
とは逆に、政庁の防弾耐衝撃耐圧処理のされた上階の窓の一つの向こう側は、
光がどこかへ吸収されて行くような重い空気であった。
照明は十分に施され磨かれた床がそれを反射させている程であるのに、暗い。
 ここは、藩王の執務室である。窓の近くに端末とバイタルチェックを組み合わせたデスクが置かれ、
そこに座して懸命にタイプに励んでいるのが、青年藩王たくまであった。
まだ幼い顔を力一杯しかめて眼鏡の向こうのモニタに浮かび消える文字列と取っ組み合いをしている。
『f(x+1) - f(x) = x^2 ... (a)
f(0) = 1 ... (b)
を満たす関数は?』
 彼の口が動いた。何だっけ、と声に出さずに呟いたのだった。手が止まった。
 試験、があった。若くして藩王となった、いやならざるを得なかった、たくまは、
未だ終えていない王としての教育課程を施政の傍ら受けているのであった。
政務を摂政と執権にまかせ、今日と明日とは試験の為に執務室というよりは
勉強部屋に詰めているのである。決して学ぶ事が嫌いではないとはいえ試験は嫌いで
ある上に、良い加減尻が痛くなってきた彼の傍らに背筋を伸ばし、
だが目を伏せたメードが控え、デスクの前にはバインダー型の端末にタッチペンを
持った男女の教師が二人、澄まし顔で藩王の解答をモニタリングしている。

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空気が重いと感じているのはたくまである。手が止まった彼を見て女性教師が素っ気ない調子で学生に問うた。
「エリートとは? たくま様」
「エリートとは……」
 と繰り返しながらたくまは考えている。
「何が良いのか認識と判断力を持った存在の事」
と返して試算を始めた。関数関数……と、口が動く。はい、と教師が言ったが
たくまは聞いていない。という様子を見て、また質問が飛ぶ。
「供給インフレーションを分類して下さい。たくま様」
 たくまは答えない。モニタに釘付けであった。女性教師のふちの尖ったフレームの眼鏡がかすかに揺れた。
その下の眉が少しばかりつり上がる。
「たくま様、供給インフレーションを分類して下さい」
 あ、と口を開けてたくまは顔を上げた。
「輸出と、輸入と、」
 と呟く様に言ってああ、と息を漏らした。思い出すのが発言に間に合わなかったのだった。
「猫の弱点は? たくま様」
 今度問うたのは男性の教師である。
「のど」
「たくま様、数学の問題が途中です。手を止めないで下さい。マルチタスクは王に求められる能力の一つです」
 たくまは悔しそうな顔をした。彼は、素直であった。
 その時。モニタに赤い文字で最高緊急事態が点滅した。警告音が鳴る。デスクはバイタルチェックを改めて作動、
座っているのがたくま藩王本人である事を確認してから画面に戦時動員令が帝国より発令、の文字をモニタに浮かべた。
 戦時、の文字を見た彼は即座に臣下の事、帝国の民の事を想い、それから敬愛するプリンセス・ポチの事を想った。
彼は素直で、まず他人を想う事が出来る青年だった。
 たくまは立ち上がった。
「たくま様! 勉強中です! 今は摂政と執政に政務は任せてくださいませ!」
 と、教師が声をあげた。それは聞かずに眼鏡をしまいたくまは机を飛び越えた。
目指すつもりなのは摂政の執務室である。
緊急に対策を練らなければならない、とはつまり彼は素直で優しくてそして熱血なのである。
 驚き戸惑う二人の教師を突き飛ばさんばかりの勢いで長い裾を翻し彼は走りだした。
「たくま様! お戻り下さい!」
 追うように手を差し出す教師に、
「体育の練習だ!」
 と叫び返して若き藩王は部屋を出た。

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