ビギナーズ王国は雪深い地である。
また山がちの地勢であり、急な川が多いので良い水が大量に使える。
酒造りの条件が揃っているのだ。
当然ながら王国の名産は酒である。
有名どころでは辛口の「大忠義」、甘口ながらさっぱりした後口で飲ませる「酔犬」などがあり、
国の重要な財源のひとつとなっている。
さて、そうなるとやはり国民にも酒好きは多くなる道理。
ここにひとり、今日の晩酌を探しに来た男がいる。
ニーズホッグ。王国技族として出仕している。
アイドレス「トモエリバー」設計コンペに出品したが落選し、少々落ち込んでいた。
気分を変えるためにいい酒をいただこう、
と考えてちょっと高めの酒を置いている酒屋さんに現れたのだ。
「けっこうがんばったんだけどな~。まあ、締め切り少し過ぎてたし仕方なかったかねぇ。」
いや、順当な結果だと思うよ。冬の京のID凄かったもん。
「今日は酒くらって寝よう。どれにしようかな・・・。」
暗めの照明の店内を物色する。日本酒は長時間光に当たると変質するため、
わかっている店では紙包みのまま並べ、照明も直接当たらないように、
かつ抑え目のものを用意する。
あんまり明るい量販店では、特に高い酒は買わない方がよろしい。
「大忠義も悪くないんだが、今日は高いヤツを飲みたい気分・・・少年王か犬天使はないか・・・お?」
店の少し奥。ほかの酒ビンのあいだに隠れるように1本だけ異彩を放つビンが。
「こ・・・これは・・・『雪ぽち』!」
蔵元のあまりのこだわりのため極端に生産量が少なく、予約して1年2年待ちも珍しくないという幻の銘酒「雪ぽち」。
それが1本だけここにあった!
「おやっさん、これ・・・本物?」
ニーズホッグは店主に尋ねる。
本物だ、とのことだった。予約されていた分が急にキャンセルになり、見つけたものに売るつもりで隠しておいた、とか。
ふざけた店主だがありがたい。「雪ぽち」なら少々値がはってもそれだけの価値はある。
そう考えて手を伸ばしたそのとき。横から伸びるもう1本の手。
「タルクさん!」
背の高い北国人の中でも骨太な印象を与える体格。目つきも鋭い。一言で言ってごつい男。この間文族に加わったタルクである。
こんななりだが話してみるとけっこうつきあいやすい。見た目で損しているタイプと言える。
「・・・ニーズさん。『雪ぽち』とあっては僕も一人の酒飲みとして譲るわけにはいきません。これは僕が買います!」
なんだか怖い笑顔を浮かべるタルク。
「君、登場していきなりナレーションを裏切ってるぞ。」
「そんなことはどうでもいいんです!僕はっ、このお酒のためにこの国に来たようなものだっ!!(マテ」
「セルフ突っ込みしながら確保に入るかっ!」
隙をついて酒ビンを手に取るタルク。追いすがるニーズホッグ。
足を取られてこける。それでもビンを割らないように抱えるのはさすがだ。
そして酒屋の床でじたばたする酒飲みふたり。最低の光景である。
あ、歯止めが効かなくなったか、つかみ合いになってる。
なんとか無事に転がり出てくる「雪ぽち」。
その「雪ポチ」をフードをかぶった小柄な人影が抱え上げ、レジへ運ぶ。
「ありがとうございましたー。」
ようやく気づく酒飲みズ。
「「ちょっと待てぇ!」」
きれいにハモッた。
とりあえず協力して人影を追いかける。
あわてて逃げる人影。
タルクが追いつき、フードをひっかけてはずす。そこにいたのは・・・
「「藩王っ!!」」
またハモッた。
「雪ぽち」をかっさらったのは藩王たくま本人だったのだ。ちなみに未成年。
「あんた試験は?」
「いやメードや家庭教師軍団はどうしたんですか?」
「試験はもう終わったよ。俺だって試験明けでぱーっとやりたいんだよー。いいじゃんちょっとくらい飲んだって!」
「だめですよ未成年!」
「それ以前に酒の味知らないヤツに飲ませるにはもったいない!」
「なんだよそれ!黒服軍団巻いてきた今しか俺の自由はないんだぜ!」
また山がちの地勢であり、急な川が多いので良い水が大量に使える。
酒造りの条件が揃っているのだ。
当然ながら王国の名産は酒である。
有名どころでは辛口の「大忠義」、甘口ながらさっぱりした後口で飲ませる「酔犬」などがあり、
国の重要な財源のひとつとなっている。
さて、そうなるとやはり国民にも酒好きは多くなる道理。
ここにひとり、今日の晩酌を探しに来た男がいる。
ニーズホッグ。王国技族として出仕している。
アイドレス「トモエリバー」設計コンペに出品したが落選し、少々落ち込んでいた。
気分を変えるためにいい酒をいただこう、
と考えてちょっと高めの酒を置いている酒屋さんに現れたのだ。
「けっこうがんばったんだけどな~。まあ、締め切り少し過ぎてたし仕方なかったかねぇ。」
いや、順当な結果だと思うよ。冬の京のID凄かったもん。
「今日は酒くらって寝よう。どれにしようかな・・・。」
暗めの照明の店内を物色する。日本酒は長時間光に当たると変質するため、
わかっている店では紙包みのまま並べ、照明も直接当たらないように、
かつ抑え目のものを用意する。
あんまり明るい量販店では、特に高い酒は買わない方がよろしい。
「大忠義も悪くないんだが、今日は高いヤツを飲みたい気分・・・少年王か犬天使はないか・・・お?」
店の少し奥。ほかの酒ビンのあいだに隠れるように1本だけ異彩を放つビンが。
「こ・・・これは・・・『雪ぽち』!」
蔵元のあまりのこだわりのため極端に生産量が少なく、予約して1年2年待ちも珍しくないという幻の銘酒「雪ぽち」。
それが1本だけここにあった!
「おやっさん、これ・・・本物?」
ニーズホッグは店主に尋ねる。
本物だ、とのことだった。予約されていた分が急にキャンセルになり、見つけたものに売るつもりで隠しておいた、とか。
ふざけた店主だがありがたい。「雪ぽち」なら少々値がはってもそれだけの価値はある。
そう考えて手を伸ばしたそのとき。横から伸びるもう1本の手。
「タルクさん!」
背の高い北国人の中でも骨太な印象を与える体格。目つきも鋭い。一言で言ってごつい男。この間文族に加わったタルクである。
こんななりだが話してみるとけっこうつきあいやすい。見た目で損しているタイプと言える。
「・・・ニーズさん。『雪ぽち』とあっては僕も一人の酒飲みとして譲るわけにはいきません。これは僕が買います!」
なんだか怖い笑顔を浮かべるタルク。
「君、登場していきなりナレーションを裏切ってるぞ。」
「そんなことはどうでもいいんです!僕はっ、このお酒のためにこの国に来たようなものだっ!!(マテ」
「セルフ突っ込みしながら確保に入るかっ!」
隙をついて酒ビンを手に取るタルク。追いすがるニーズホッグ。
足を取られてこける。それでもビンを割らないように抱えるのはさすがだ。
そして酒屋の床でじたばたする酒飲みふたり。最低の光景である。
あ、歯止めが効かなくなったか、つかみ合いになってる。
なんとか無事に転がり出てくる「雪ぽち」。
その「雪ポチ」をフードをかぶった小柄な人影が抱え上げ、レジへ運ぶ。
「ありがとうございましたー。」
ようやく気づく酒飲みズ。
「「ちょっと待てぇ!」」
きれいにハモッた。
とりあえず協力して人影を追いかける。
あわてて逃げる人影。
タルクが追いつき、フードをひっかけてはずす。そこにいたのは・・・
「「藩王っ!!」」
またハモッた。
「雪ぽち」をかっさらったのは藩王たくま本人だったのだ。ちなみに未成年。
「あんた試験は?」
「いやメードや家庭教師軍団はどうしたんですか?」
「試験はもう終わったよ。俺だって試験明けでぱーっとやりたいんだよー。いいじゃんちょっとくらい飲んだって!」
「だめですよ未成年!」
「それ以前に酒の味知らないヤツに飲ませるにはもったいない!」
「なんだよそれ!黒服軍団巻いてきた今しか俺の自由はないんだぜ!」
走るたくま。追うタルクとニーズホッグ。
雪道に3つの足跡は消えてゆく。
雪道に3つの足跡は消えてゆく。
(了)