すばらしき新世界(後編) ◆WwHdPG9VGI
■
「……なんだこりゃ?」
レヴィは呻いた。
世界は、静謐と灰色に満たされていた。
風の音すらしない。夕日に照らされて赤く染まっていた空が、木々が、灰褐色に色を変えている。
「太陽が……ありやがらねぇ……」
沈まんとしていた太陽まで消滅している。
せわしなく辺りを見回しながら、レヴィは手がかりを求め、狂おしい視線を凛に向けた。
「……こ、固有結界……?」
凛の表情にも驚愕があった。
キョロキョロと周囲を見渡しては、体を動かすたびに傷が疼くらしく、顔をしかめている。
(アイツにもわからねえのか……)
レヴィが思い切り舌打ちしたその時。
世界は、静謐と灰色に満たされていた。
風の音すらしない。夕日に照らされて赤く染まっていた空が、木々が、灰褐色に色を変えている。
「太陽が……ありやがらねぇ……」
沈まんとしていた太陽まで消滅している。
せわしなく辺りを見回しながら、レヴィは手がかりを求め、狂おしい視線を凛に向けた。
「……こ、固有結界……?」
凛の表情にも驚愕があった。
キョロキョロと周囲を見渡しては、体を動かすたびに傷が疼くらしく、顔をしかめている。
(アイツにもわからねえのか……)
レヴィが思い切り舌打ちしたその時。
「……そっか……やっぱりあの夢……」
響いた声はほがらかで、少女の瞳に浮かんでいるのは歓喜だった。
「おい! てめぇ、何か知ってんのか!?」
レヴィは怒声を発した。
「ええ! 勿論よ!」
レヴィの怒声に反応してハルヒが振り返った。
先ほどまでとはうってかわって、その瞳には生気と自信が満ちていた。
「この世界は、あたしが作ったんだもの!」
「……作っただぁ?」
昨日から色々常識ハズレの代物を見てきた。
だが、幾らなんでもあまりにもぶっ飛びすぎだ。
苛立たしげに髪をかき混ぜながら、レヴィは改めて辺りを注視した。
(そういや確かに、似てやがんな……)
町並みが日本に似ている。
ハルヒが自分の町に似せるように世界を作ったのだとしたら――。
「あぁっ!! クソっ!!」
思考を停止させ、レヴィは地面を蹴飛ばすと、鋭い視線をハルヒに叩きつけた。
「オーライ、分かった」
考えるのは得意分野ではないし、なにをどうしたかなどこの際どうでもいい。
肝心なことは一つ。
「あたしらを閉じ込めてどうする気だ?」
ハルヒが、ムッとしたように腕組みをした。
「閉じ込めてなんかいないわよ! 失礼しちゃうわね!」
レヴィの目が細められ、眼光に殺気が宿り始めた。
(ンだぁ? このガキは)
いきなり分けのわからない所に自分達を引き込んでおいて、まるで悪びれている様子がない。
「じゃあ、とっと出しやがれ! こんなトコでぐずぐずしてる暇なんざ――」
「ちょっと待って!」
「あぁ!?」
ハルヒに言葉を遮られ、レヴィはハルヒを遠慮会釈なく睨みつけた。
しかしハルヒはレヴィに反応することなく、一点を見つめている。
レヴィの額に困惑と怒りの皺が刻まれた。
(このあたしをシカトこくたぁ、いい度胸じゃねえか)
状況の不可解さに対する苛立ちとハルヒの不遜ともいえる態度によって、レヴィの心は既にメルトダウン寸前であった。
レヴィの手がすっと腰のソードカトラスに伸びた。
「おい! てめぇ、何か知ってんのか!?」
レヴィは怒声を発した。
「ええ! 勿論よ!」
レヴィの怒声に反応してハルヒが振り返った。
先ほどまでとはうってかわって、その瞳には生気と自信が満ちていた。
「この世界は、あたしが作ったんだもの!」
「……作っただぁ?」
昨日から色々常識ハズレの代物を見てきた。
だが、幾らなんでもあまりにもぶっ飛びすぎだ。
苛立たしげに髪をかき混ぜながら、レヴィは改めて辺りを注視した。
(そういや確かに、似てやがんな……)
町並みが日本に似ている。
ハルヒが自分の町に似せるように世界を作ったのだとしたら――。
「あぁっ!! クソっ!!」
思考を停止させ、レヴィは地面を蹴飛ばすと、鋭い視線をハルヒに叩きつけた。
「オーライ、分かった」
考えるのは得意分野ではないし、なにをどうしたかなどこの際どうでもいい。
肝心なことは一つ。
「あたしらを閉じ込めてどうする気だ?」
ハルヒが、ムッとしたように腕組みをした。
「閉じ込めてなんかいないわよ! 失礼しちゃうわね!」
レヴィの目が細められ、眼光に殺気が宿り始めた。
(ンだぁ? このガキは)
いきなり分けのわからない所に自分達を引き込んでおいて、まるで悪びれている様子がない。
「じゃあ、とっと出しやがれ! こんなトコでぐずぐずしてる暇なんざ――」
「ちょっと待って!」
「あぁ!?」
ハルヒに言葉を遮られ、レヴィはハルヒを遠慮会釈なく睨みつけた。
しかしハルヒはレヴィに反応することなく、一点を見つめている。
レヴィの額に困惑と怒りの皺が刻まれた。
(このあたしをシカトこくたぁ、いい度胸じゃねえか)
状況の不可解さに対する苛立ちとハルヒの不遜ともいえる態度によって、レヴィの心は既にメルトダウン寸前であった。
レヴィの手がすっと腰のソードカトラスに伸びた。
「えっ……?」
凛が発した頓狂な声が、レヴィの行為を中断させた。
胸に込み上げる激情を一度ねじ伏せ、レヴィは凛の視線の先へと目線を移した。
レヴィの瞳が一気に拡大した
(ロック!? さっきのガキも)
薄い膜の向こうに沈痛な面持ちでロック達が歩いているのが見える。
「おい、ロック!!」
反射的にレヴィ叫んでいた。
次の瞬間、眉間に刻まれたレヴィの困惑の皺が深さを増した。
二人ともまったく反応しない。声が届かない距離ではないのに。
「ロック! ふざけてんじゃねえぞ!」
駆け寄りながら怒鳴る。
それでもロックは勿論、しんのすけとかいう子供もまったくリアクションをしない。
「ちょっと待っ――」
「るっせぇっ!!」
ハルヒの静止を跳ね除け、レヴィは透明な壁をぶち割らんと思い切り拳を叩きつけた。
胸に込み上げる激情を一度ねじ伏せ、レヴィは凛の視線の先へと目線を移した。
レヴィの瞳が一気に拡大した
(ロック!? さっきのガキも)
薄い膜の向こうに沈痛な面持ちでロック達が歩いているのが見える。
「おい、ロック!!」
反射的にレヴィ叫んでいた。
次の瞬間、眉間に刻まれたレヴィの困惑の皺が深さを増した。
二人ともまったく反応しない。声が届かない距離ではないのに。
「ロック! ふざけてんじゃねえぞ!」
駆け寄りながら怒鳴る。
それでもロックは勿論、しんのすけとかいう子供もまったくリアクションをしない。
「ちょっと待っ――」
「るっせぇっ!!」
ハルヒの静止を跳ね除け、レヴィは透明な壁をぶち割らんと思い切り拳を叩きつけた。
悪寒がレヴィの身体を走り抜けた。
異様極まる、今までに味わったことのない違和感そのものといった感覚が腕からつたわってくる。
(かまうか!)
透明な壁の向こうに自分の手がつきぬけ、ロックの服を掴んでいる。
ロックが幽霊でも見ているような顔でこっちをみている。
その異様な光景にたじろぐものを感じつつも、その感情を踏みにじり、
「おらっ!!」
力任せに引っ張った。
一瞬の間があって、
「うわぁっ!!」
「な、なんだぁ?」
「でぇ……」
二つの混乱に満ちた声音と一つの悪態が空間に響いた。
数秒ほど時が流れ、
「……重ぇ」
不愉快さを圧縮しきった唸り声とほぼ同時に、
「わ、悪い!」
「おねぇさん、ゴメンね」
ロックが顔面蒼白でレヴィの上から跳びすさり、飄々としんのすけが立ち上がった。
無言で思いきりロックを殴りつけた後、レヴィはハルヒに視線を戻した。
「慌てすぎよ! ロックとしんちゃんは、ちゃんと招待するつもりだったのに」
無言でレヴィはカトラスを弄った。
レヴィの瞳には、凍てつくような殺意が浮かび始めていた。
(かまうか!)
透明な壁の向こうに自分の手がつきぬけ、ロックの服を掴んでいる。
ロックが幽霊でも見ているような顔でこっちをみている。
その異様な光景にたじろぐものを感じつつも、その感情を踏みにじり、
「おらっ!!」
力任せに引っ張った。
一瞬の間があって、
「うわぁっ!!」
「な、なんだぁ?」
「でぇ……」
二つの混乱に満ちた声音と一つの悪態が空間に響いた。
数秒ほど時が流れ、
「……重ぇ」
不愉快さを圧縮しきった唸り声とほぼ同時に、
「わ、悪い!」
「おねぇさん、ゴメンね」
ロックが顔面蒼白でレヴィの上から跳びすさり、飄々としんのすけが立ち上がった。
無言で思いきりロックを殴りつけた後、レヴィはハルヒに視線を戻した。
「慌てすぎよ! ロックとしんちゃんは、ちゃんと招待するつもりだったのに」
無言でレヴィはカトラスを弄った。
レヴィの瞳には、凍てつくような殺意が浮かび始めていた。
――殺すか?
ナチュラルにそんな思考が浮かんでくる。
レヴィの危険極まる雰囲気を察したロックは痛みをこらえて立ち上がり、ハルヒに視線を注いだ。
(……どうしたんだ?)
ロックは自分の眉の角度が急激にあがるのを感じた。
レヴィの危険極まる雰囲気を察したロックは痛みをこらえて立ち上がり、ハルヒに視線を注いだ。
(……どうしたんだ?)
ロックは自分の眉の角度が急激にあがるのを感じた。
――浮かれきっている。
ありていに言ってそう見える。
自分の心の水面が泡立つのをロックは感じた。
(なるほど……。これじゃレヴィがイラつくのも無理ないな)
あまりにもハルヒの顔は場違いすぎる。
「ようこそ! 歓迎するわ! ロック、しんちゃん」
胸を張ってハルヒが言った。
内心の揺れを表に出さないようにと努力しながら、
「歓迎するってのはどういう意味だい? ハルヒちゃん。君はこの場所について何か――」
「作ったんだとよ……。このガキが」
妙に淡々とした声がロックの鼓膜を震わせた。
こういう状態のレヴィは危険だということを、経験上ロックは知っていた。
けれど、今回はレヴィの発した声音より内容に対する驚きが勝った。
「ハルヒちゃんが!? この世界を!?」
「ええ、そうよ!」
ハルヒには嘘をいっているようなそぶりは微塵もなかった。
「驚いたな……」
どんな表情を浮かべていいのか分からず、ロックは何とかそれだけを口から搾り出した。
いつからこんなことが出来るようになったのか。この力はどんな力なのか。
色々と聞きたいことはある。混乱もしている。
だが、取り敢えずしなければならないことは分かっている。
「なんと言うか、興味深いと思うし色々聞きたいとも思うんだけど、
全ては病院に入って他の人たちと合流して――」
ロックは首輪をトントンと叩いた
「コレをなんとかしてからだ」
こんな世界でノンビリしている暇はない。
一分一秒でも早く首輪を外し、ギガゾンビを倒すか助けを呼ぶかして、この糞タレな世界から脱出すること。
それが死んでいった者達に報いることだ。一番やらなくてはならないことだ。
(どうしちまったんだ? 一体)
ハルヒの顔からは、今朝感じた眩いばかりの決意が、死者に対する悲しみが、
自分の責に対する悔恨が、ギガゾンビに対する怒りすら、感じられない。
ただ浮かれている。新しい玩具をもらってはしゃぎまわる子供のように。
(どうしちまったんだ? 本当に)
心の中に込み上げてくる苛立ちを吐息と共に吐き出そうとしながら、
「とにかく病院へ急ごう。病院にいる人達もやきもきしてるに違いないんだ」
ゲインには6時には戻ると約束したのに、このままでは6時をすぎてしまう。
「平気よ!」
「……何が平気なんだい?」
「だってこの場所、時間の進み方ゆっくりにしてあるもの。
ここで何時間すごしても、外では数分も立ってないわ」
沈黙が満ちた。
(ちょっと待て……。ちょっと待ってくれ……)
頭痛のようなものを感じて、ロックは額に手を当てた。
自分の心の水面が泡立つのをロックは感じた。
(なるほど……。これじゃレヴィがイラつくのも無理ないな)
あまりにもハルヒの顔は場違いすぎる。
「ようこそ! 歓迎するわ! ロック、しんちゃん」
胸を張ってハルヒが言った。
内心の揺れを表に出さないようにと努力しながら、
「歓迎するってのはどういう意味だい? ハルヒちゃん。君はこの場所について何か――」
「作ったんだとよ……。このガキが」
妙に淡々とした声がロックの鼓膜を震わせた。
こういう状態のレヴィは危険だということを、経験上ロックは知っていた。
けれど、今回はレヴィの発した声音より内容に対する驚きが勝った。
「ハルヒちゃんが!? この世界を!?」
「ええ、そうよ!」
ハルヒには嘘をいっているようなそぶりは微塵もなかった。
「驚いたな……」
どんな表情を浮かべていいのか分からず、ロックは何とかそれだけを口から搾り出した。
いつからこんなことが出来るようになったのか。この力はどんな力なのか。
色々と聞きたいことはある。混乱もしている。
だが、取り敢えずしなければならないことは分かっている。
「なんと言うか、興味深いと思うし色々聞きたいとも思うんだけど、
全ては病院に入って他の人たちと合流して――」
ロックは首輪をトントンと叩いた
「コレをなんとかしてからだ」
こんな世界でノンビリしている暇はない。
一分一秒でも早く首輪を外し、ギガゾンビを倒すか助けを呼ぶかして、この糞タレな世界から脱出すること。
それが死んでいった者達に報いることだ。一番やらなくてはならないことだ。
(どうしちまったんだ? 一体)
ハルヒの顔からは、今朝感じた眩いばかりの決意が、死者に対する悲しみが、
自分の責に対する悔恨が、ギガゾンビに対する怒りすら、感じられない。
ただ浮かれている。新しい玩具をもらってはしゃぎまわる子供のように。
(どうしちまったんだ? 本当に)
心の中に込み上げてくる苛立ちを吐息と共に吐き出そうとしながら、
「とにかく病院へ急ごう。病院にいる人達もやきもきしてるに違いないんだ」
ゲインには6時には戻ると約束したのに、このままでは6時をすぎてしまう。
「平気よ!」
「……何が平気なんだい?」
「だってこの場所、時間の進み方ゆっくりにしてあるもの。
ここで何時間すごしても、外では数分も立ってないわ」
沈黙が満ちた。
(ちょっと待て……。ちょっと待ってくれ……)
頭痛のようなものを感じて、ロックは額に手を当てた。
――ありえない。
幾ら何でも突拍子もなさすぎる。
ロックはこういう非常識なことに対して、自分より遥かに知識を有しているであろう凛に視線を送り――
ズタボロなその姿を見て硬直した。
異常事態の連続で今の今まで気づかなかったが、どうみてもかなりの大怪我だ。
「凛!? 君、一体どうしたんだ?」
「色々あったのよ」
顔をしかめつつも、なんでもないという風に手を振りながら凛が答えてくる。
「色々って……」
「今はそんなことにかかずらってる時じゃないでしょ!」
ロックの問いを圧殺し、凛は言葉を続けた。
「彼女の言ってること本当よ。固有結界……簡単に言うと術者の意のままになる世界のことだけど、
この中では基本的に何でも術者の思うがままだから」
ロックはこういう非常識なことに対して、自分より遥かに知識を有しているであろう凛に視線を送り――
ズタボロなその姿を見て硬直した。
異常事態の連続で今の今まで気づかなかったが、どうみてもかなりの大怪我だ。
「凛!? 君、一体どうしたんだ?」
「色々あったのよ」
顔をしかめつつも、なんでもないという風に手を振りながら凛が答えてくる。
「色々って……」
「今はそんなことにかかずらってる時じゃないでしょ!」
ロックの問いを圧殺し、凛は言葉を続けた。
「彼女の言ってること本当よ。固有結界……簡単に言うと術者の意のままになる世界のことだけど、
この中では基本的に何でも術者の思うがままだから」
――この世界が固有結界だとしたらだけど。
と、凛は心の中で続けた。
自分の知識を無理矢理当てはめればというだけだ。
この世界が固有結界かどうかすら分からない。ハルヒが言うほど無茶が効くものかどうなのかも。
でも、ただでさえ混乱気味のレヴィやロックの精神の均衡をさらに乱すようなことは言いたくなかった。
それにしても仮に固有結果だとして、長時間これほどの規模の空間を制御するとは、一体ハルヒはどれだけの魔力を――。
「魔力とかで維持してるわけじゃないもの。
作っちゃえばこの世界って維持しなくてもいいみたい」
思わず凛はハルヒをねめつけた。
「私の心を、読んだわね……」
歯をかみ鳴らす凛とは対照的に、
「少しだけよ少し。人のプライバシーに立ち入る気なんてないわ」
得意そうにハルヒが言う。
<マスター。落ち着いてください>
レイジングハートが念話で語りかけてくる。
<分かってるわよ>
舌打ちしながら凛は念話で応じた。
ハルヒの浮わつきぶりと周りの見えてなさ加減からして、自分の力を完璧に把握しているとは思えない。
(漫画じゃないのよ、まったく)
いきなり『覚醒』した、としか考えられない。
自分の知識を無理矢理当てはめればというだけだ。
この世界が固有結界かどうかすら分からない。ハルヒが言うほど無茶が効くものかどうなのかも。
でも、ただでさえ混乱気味のレヴィやロックの精神の均衡をさらに乱すようなことは言いたくなかった。
それにしても仮に固有結果だとして、長時間これほどの規模の空間を制御するとは、一体ハルヒはどれだけの魔力を――。
「魔力とかで維持してるわけじゃないもの。
作っちゃえばこの世界って維持しなくてもいいみたい」
思わず凛はハルヒをねめつけた。
「私の心を、読んだわね……」
歯をかみ鳴らす凛とは対照的に、
「少しだけよ少し。人のプライバシーに立ち入る気なんてないわ」
得意そうにハルヒが言う。
<マスター。落ち着いてください>
レイジングハートが念話で語りかけてくる。
<分かってるわよ>
舌打ちしながら凛は念話で応じた。
ハルヒの浮わつきぶりと周りの見えてなさ加減からして、自分の力を完璧に把握しているとは思えない。
(漫画じゃないのよ、まったく)
いきなり『覚醒』した、としか考えられない。
――危うい。
核爆弾の連射装置をマニュアルも読まずに操作しているようなものだ。
――とにかく、静観するしかない。
下手に刺激して暴走されてはたまらない。
歯噛みしつつ、凛はハルヒを睨んだ。
歯噛みしつつ、凛はハルヒを睨んだ。
「……う~ん、オラ何がなんだか分かんないゾ~」
それまで黙って話を聞いていたしんのすけが、我慢できずに戸惑いの言葉を発したその時、レヴィが一歩前に出た。
「オーライ……。 てめぇがガリヤラの湖上を歩く男並のトリックスターだってのは、よぉく分かった。
分かったからさっさとここから出しな! んでとっとと、病院に行くぞ。
てめえをつれていかねぇ限り、あたしの仕事は終わらねぇんだ」
レヴィは吐き捨てた。
それまで黙って話を聞いていたしんのすけが、我慢できずに戸惑いの言葉を発したその時、レヴィが一歩前に出た。
「オーライ……。 てめぇがガリヤラの湖上を歩く男並のトリックスターだってのは、よぉく分かった。
分かったからさっさとここから出しな! んでとっとと、病院に行くぞ。
てめえをつれていかねぇ限り、あたしの仕事は終わらねぇんだ」
レヴィは吐き捨てた。
――終わったらそのニヤけたツラに容赦なくブチ込んでやる。
レヴィがプッツンするラインの瀬戸際で踏みとどまっているのは、「仕事」として受けたからだ。
身に染みこんだ慣習がレヴィの激発を何とか押しとどめていた。
(けど、そろそろ持ちそうにねぇなあ)
苛立ちのままに、レヴィはソードカトラスを手の中でクルリと回した。
「その必要はないわ!」
レヴィの視線が鋭さを増した。
「戻らなくたっていいじゃない! 戻ったって何にもいいことなんか何かないもの!」
身に染みこんだ慣習がレヴィの激発を何とか押しとどめていた。
(けど、そろそろ持ちそうにねぇなあ)
苛立ちのままに、レヴィはソードカトラスを手の中でクルリと回した。
「その必要はないわ!」
レヴィの視線が鋭さを増した。
「戻らなくたっていいじゃない! 戻ったって何にもいいことなんか何かないもの!」
レヴィは無言で銃を構えた。
(足に一発。それで大人しくなんだろ)
泣こうが喚こうが引き摺っていって、病院に放り込む。
それで仕事は終わりだ。
「れ、レヴィ!!」
「うるせぇ!」
レヴィの声からは彼女の憤怒の重層が露出していた。
泣こうが喚こうが引き摺っていって、病院に放り込む。
それで仕事は終わりだ。
「れ、レヴィ!!」
「うるせぇ!」
レヴィの声からは彼女の憤怒の重層が露出していた。
――こんな糞ッタレのメスガキのために。
自分は戦ったのか。カズマの野郎は金髪に突っ込んだのか。あのガキは死んだのか。
(浮かばれねぇぜ、あの小僧も)
感謝しろなどとトチ狂ったことを言うつもりはないが、自分達の行いに泥水をぶちまけられた気分だ。
イラつく。死ぬほどカンに障る。
「よせっ!」
「離しな! ロック。このガキだきゃぁ!」
「暴力で解決できねぇこともあるって、前に言ったろうがよ!」
ロックの燃えるような視線とレヴィの殺意で凍りついた視線が虚空で激突した。
そのまま両者はにらみ合い、しばらくして、レヴィの方から不承不承といった風に視線をそらした。
レヴィの凍りついた視線にわずかに熱が戻るのを見て取り、ロックは視線をハルヒに戻した。
(落ち着け……)
頭に上りかけた血を覚ますように、短く息を二、三回吐き出し、
「ハルヒちゃん、気持ちは分か……。いや、分かるわけないけど……」
ロックは必死で言葉を紡ごうとするが、語調は弱まっていき、やがて途切れた。
(浮かばれねぇぜ、あの小僧も)
感謝しろなどとトチ狂ったことを言うつもりはないが、自分達の行いに泥水をぶちまけられた気分だ。
イラつく。死ぬほどカンに障る。
「よせっ!」
「離しな! ロック。このガキだきゃぁ!」
「暴力で解決できねぇこともあるって、前に言ったろうがよ!」
ロックの燃えるような視線とレヴィの殺意で凍りついた視線が虚空で激突した。
そのまま両者はにらみ合い、しばらくして、レヴィの方から不承不承といった風に視線をそらした。
レヴィの凍りついた視線にわずかに熱が戻るのを見て取り、ロックは視線をハルヒに戻した。
(落ち着け……)
頭に上りかけた血を覚ますように、短く息を二、三回吐き出し、
「ハルヒちゃん、気持ちは分か……。いや、分かるわけないけど……」
ロックは必死で言葉を紡ごうとするが、語調は弱まっていき、やがて途切れた。
――どうすりゃいいんだ。
ハルヒは逃げようとしている。状況を受け入れようとせず、逃避しようとしている。
彼女は壊れかけている。必死に自分を守ろうと自分で作った世界に逃げ込んでしまおうとしている。
(何を言えばいい? 逃げずにちゃんと向き合え? 悲しみを乗り越えろ? ……陳腐すぎるぜ)
今彼女に必要なのは、一緒に泣いて悲しみを分かち合ってくれる人間だ。
しかしそれができる人間達は皆、死んでしまっている。
彼女は壊れかけている。必死に自分を守ろうと自分で作った世界に逃げ込んでしまおうとしている。
(何を言えばいい? 逃げずにちゃんと向き合え? 悲しみを乗り越えろ? ……陳腐すぎるぜ)
今彼女に必要なのは、一緒に泣いて悲しみを分かち合ってくれる人間だ。
しかしそれができる人間達は皆、死んでしまっている。
皆、死んだ。
ロックの苦悩の皺が深くなり、陰影をつくった。
数の問題ではないかもしれないが、おそらくこの世界でもっとも多くの喪失を味わったのは彼女だろう。
涼宮ハルヒは弱い人間ではない。
でも、傷ついていなかったはずがない。心が血を流していなかったはずがない。
それでも彼女が前を向いて歩き続けることができたのは、
(キョン、お前のお陰だったんだな)
あの少年は、涼宮ハルヒの心を支える代えのきかない支柱だったのだ。
数の問題ではないかもしれないが、おそらくこの世界でもっとも多くの喪失を味わったのは彼女だろう。
涼宮ハルヒは弱い人間ではない。
でも、傷ついていなかったはずがない。心が血を流していなかったはずがない。
それでも彼女が前を向いて歩き続けることができたのは、
(キョン、お前のお陰だったんだな)
あの少年は、涼宮ハルヒの心を支える代えのきかない支柱だったのだ。
――俺は、無力だ。
誰も守れない。何一つ悲しみを止められていない。
(だけど、諦めるわけにはいかないよな……。エルルゥ、君のためにも)
彼女の墓前で誓ったのだ。悲しみを止めるために努力すると。
(力を、貸してくれ……)
死んでいったあの子の優しさが、あの包み込むような暖かさが10分の1でも自分にあればと思う。
「……キョン君は、その……満足して死んでいったと、思う。だから、その……」
言葉に出して自身の言葉の陳腐さとありきたりさに、ロックは半分絶望しかけた。
絶望しつつもロックが気力を奮い起こしたその瞬間、
「キョンが死んだのは……私のせいよ」
「それは違う! 悪いのは君じゃない!
あの女騎士と、そもそもこんな馬鹿げたことを計画したギガゾンビの野郎だ!」
思わずロックは叫んでいた。
「でもっ!!」
絶叫でロックの言葉は遮られた。
先ほどまでの明るさはどこかに消し飛び、ハルヒの表情には深い影があった。
「あたしがあの時キョンと一緒に逃げてたら、キョンは死なずにすんだ!
だからキョンが死んだのは、あたしのせい……」
そういってハルヒは一度目を伏せ、すぐに傲然と顔を引き起こした。
「間違いはたださなくちゃならないわ! 正されなくちゃならない……。
そうよ……。キョンが死ぬなんて間違ってるもの。キョンだけじゃないわ!
みくるちゃんも、有希も、鶴屋さん、アルちゃんも、ヤマトも、ルパンも、トウカさん、
魅音も、沙都子ちゃん……」
何かに憑かれたようにハルヒは死者の名前を挙げていく。
「みんな、みんな……。こんなとこで死ぬような人達じゃなかった。
こんな所で死んでいい人達じゃなかった! 間違いなのよ! ここで起きたことは全部!」
「ウザってぇぞ、てめえ!!」
ハルヒの絶叫に倍するレヴィの怒号が轟いた。
「駄々こねてりゃ、死人が生き返んのか!? くたばっちまった奴等はそこで終わりだ。
死んじまえばただのモノに成り下がって墓の下で虫に食われるしかねえ!
四の五の言ったところで誰にもそれを覆すことなんざ――」
(だけど、諦めるわけにはいかないよな……。エルルゥ、君のためにも)
彼女の墓前で誓ったのだ。悲しみを止めるために努力すると。
(力を、貸してくれ……)
死んでいったあの子の優しさが、あの包み込むような暖かさが10分の1でも自分にあればと思う。
「……キョン君は、その……満足して死んでいったと、思う。だから、その……」
言葉に出して自身の言葉の陳腐さとありきたりさに、ロックは半分絶望しかけた。
絶望しつつもロックが気力を奮い起こしたその瞬間、
「キョンが死んだのは……私のせいよ」
「それは違う! 悪いのは君じゃない!
あの女騎士と、そもそもこんな馬鹿げたことを計画したギガゾンビの野郎だ!」
思わずロックは叫んでいた。
「でもっ!!」
絶叫でロックの言葉は遮られた。
先ほどまでの明るさはどこかに消し飛び、ハルヒの表情には深い影があった。
「あたしがあの時キョンと一緒に逃げてたら、キョンは死なずにすんだ!
だからキョンが死んだのは、あたしのせい……」
そういってハルヒは一度目を伏せ、すぐに傲然と顔を引き起こした。
「間違いはたださなくちゃならないわ! 正されなくちゃならない……。
そうよ……。キョンが死ぬなんて間違ってるもの。キョンだけじゃないわ!
みくるちゃんも、有希も、鶴屋さん、アルちゃんも、ヤマトも、ルパンも、トウカさん、
魅音も、沙都子ちゃん……」
何かに憑かれたようにハルヒは死者の名前を挙げていく。
「みんな、みんな……。こんなとこで死ぬような人達じゃなかった。
こんな所で死んでいい人達じゃなかった! 間違いなのよ! ここで起きたことは全部!」
「ウザってぇぞ、てめえ!!」
ハルヒの絶叫に倍するレヴィの怒号が轟いた。
「駄々こねてりゃ、死人が生き返んのか!? くたばっちまった奴等はそこで終わりだ。
死んじまえばただのモノに成り下がって墓の下で虫に食われるしかねえ!
四の五の言ったところで誰にもそれを覆すことなんざ――」
「できる! できるわ! 今のあたしになら!!」
大気の粒子が動きを止めたように感じられた。
全員が耳を疑い、そしてハルヒの言葉の意味を理解すると同時に同じ結論に至った。
全員が耳を疑い、そしてハルヒの言葉の意味を理解すると同時に同じ結論に至った。
――狂ったか?
この世界はハルヒの思い通りになるらしいが、幾らなんでもそれは……。
悲しみの、或いは哀れみのこもった目でみつめられても、ハルヒはひるまなかった。
「本当よ! できるんだってば!
みんな生きてて、ちゃんと幸せに暮らしてる世界をあたしなら作れる!」
悲しみの、或いは哀れみのこもった目でみつめられても、ハルヒはひるまなかった。
「本当よ! できるんだってば!
みんな生きてて、ちゃんと幸せに暮らしてる世界をあたしなら作れる!」
――お前は神様みたいなもんで、何でも自由にできる力があるんだとよ。
キョンは確かにそう言った。
――あれは新たな世界を作るための儀式みたいなもんで、お前がやったことなんだそうだ。
その通りだった。
いつかみた夢――。否。夢だと思っていたあれは夢ではなかったのだ。
いつかみた夢――。否。夢だと思っていたあれは夢ではなかったのだ。
――お前が遊びたいって言ったから未来人も宇宙人も超能力者もいる。
自分が強く望めば、きっとみんな生き返る。
生き返って、絶望と悲しみに満ちた死ではなく、幸せな未来を掴むことができる。
そうあるべきだ。そうでなくてはならない。
「だから、戻る必要なんかないのよ! だってそうでしょ!?
元の世界に戻ったって、間違いは正されないままで、みんな……死んだままなのよ!?」
ハルヒは、目の前の人間達を順繰りに見渡した。
生き返って、絶望と悲しみに満ちた死ではなく、幸せな未来を掴むことができる。
そうあるべきだ。そうでなくてはならない。
「だから、戻る必要なんかないのよ! だってそうでしょ!?
元の世界に戻ったって、間違いは正されないままで、みんな……死んだままなのよ!?」
ハルヒは、目の前の人間達を順繰りに見渡した。
――どうして?
ハルヒの心に苛立ちの風が吹き荒れ始めた。
皆、表情はそれぞれだが、喜んでいるような顔は一つもない。
(そりゃ、信じられないのも無理ないけど……)
でも、自分にはできるのだ。
死んでいったみんなを生き返らせられることが。
間違いを正す事が。誰も泣かなくてすむ、幸せな世界を作ることが。
苛立ちを胸の井戸に沈めながら、ハルヒは辛抱強く返事を待った。
けれど、
「ほ~う、てめぇが夢の世界をつくってくださるってわけか?
そいつぁ、ありがてぇや。嬉しすぎて涙がでらぁ!」
ようやく返ってきた答えは嘲笑に満ちていた。
カッとハルヒの頭に血が上った。
「できるって言ってんでしょ!? 何で分からないのよ!!」
「ああそうかい」
わざとらしくレヴィは大仰に肩をすくめた。
「仮にてめぇにンな芸当ができるとしても、だ。あたしはンなとこはご免だ。
てめぇみたいな甘えきった小便タレの作る世界なんざ、反吐がらぁ!!」
「ああっ!! そうっ!!」
歯を軋らせてハルヒは叫んだ。
「アンタなんかこっちだってゴメンよ!
ここまで運んできてくれたお礼に、団員でもないアンタを特別に入れてあげようと思ったけど、
やっぱりやめるわ!」
「てめぇっ!!」
レヴィの体から怒気と殺気が迸った。
「何様のつも――」
「動くな!!」
レヴィの殺意が銃口から弾丸となって射出されるのに半瞬先んじて、ハルヒの絶叫が轟いた。
「……んだとっ」
レヴィは目を剥いた。
体が動かせない。不可視の枷でも嵌められたかのようだ。
「少し、大人しくしてなさい!」
「ざけんな、糞ガキ!」
「うるさい! 少し黙ってなさいよ!!」
吐き捨てるように言って、ハルヒはレヴィからぷいっと目を逸らした。
胸に満ちた怒りを吐き出そうと荒い呼吸を繰り返すハルヒに、
「せっかくのお誘いだけど、辞退させていただくわ」
眉根を寄せ、ハルヒは遠坂凛に視線を送った。
「……あんたもなの?」
「ええ」
凛の即答に、ハルヒは髪を乱暴にかき回した。
「どうしてなの!? アルちゃんだって生き返るっていってるじゃない!」
「……贋作が本物にいつも劣るとは限らないけど、やっぱり贋作は本物じゃないもの」
ハルヒの顔がしかめられた。
「何ですって!? もっと大きな声で言いなさいよ!! 聞こえないじゃない!!」
「独り言よ、気にしないで」
右手をひらひらとふって、凛は口を開いた。
「1つ、聞いていい?」
ハルヒは無言で先を促した。
皆、表情はそれぞれだが、喜んでいるような顔は一つもない。
(そりゃ、信じられないのも無理ないけど……)
でも、自分にはできるのだ。
死んでいったみんなを生き返らせられることが。
間違いを正す事が。誰も泣かなくてすむ、幸せな世界を作ることが。
苛立ちを胸の井戸に沈めながら、ハルヒは辛抱強く返事を待った。
けれど、
「ほ~う、てめぇが夢の世界をつくってくださるってわけか?
そいつぁ、ありがてぇや。嬉しすぎて涙がでらぁ!」
ようやく返ってきた答えは嘲笑に満ちていた。
カッとハルヒの頭に血が上った。
「できるって言ってんでしょ!? 何で分からないのよ!!」
「ああそうかい」
わざとらしくレヴィは大仰に肩をすくめた。
「仮にてめぇにンな芸当ができるとしても、だ。あたしはンなとこはご免だ。
てめぇみたいな甘えきった小便タレの作る世界なんざ、反吐がらぁ!!」
「ああっ!! そうっ!!」
歯を軋らせてハルヒは叫んだ。
「アンタなんかこっちだってゴメンよ!
ここまで運んできてくれたお礼に、団員でもないアンタを特別に入れてあげようと思ったけど、
やっぱりやめるわ!」
「てめぇっ!!」
レヴィの体から怒気と殺気が迸った。
「何様のつも――」
「動くな!!」
レヴィの殺意が銃口から弾丸となって射出されるのに半瞬先んじて、ハルヒの絶叫が轟いた。
「……んだとっ」
レヴィは目を剥いた。
体が動かせない。不可視の枷でも嵌められたかのようだ。
「少し、大人しくしてなさい!」
「ざけんな、糞ガキ!」
「うるさい! 少し黙ってなさいよ!!」
吐き捨てるように言って、ハルヒはレヴィからぷいっと目を逸らした。
胸に満ちた怒りを吐き出そうと荒い呼吸を繰り返すハルヒに、
「せっかくのお誘いだけど、辞退させていただくわ」
眉根を寄せ、ハルヒは遠坂凛に視線を送った。
「……あんたもなの?」
「ええ」
凛の即答に、ハルヒは髪を乱暴にかき回した。
「どうしてなの!? アルちゃんだって生き返るっていってるじゃない!」
「……贋作が本物にいつも劣るとは限らないけど、やっぱり贋作は本物じゃないもの」
ハルヒの顔がしかめられた。
「何ですって!? もっと大きな声で言いなさいよ!! 聞こえないじゃない!!」
「独り言よ、気にしないで」
右手をひらひらとふって、凛は口を開いた。
「1つ、聞いていい?」
ハルヒは無言で先を促した。
「この首輪、今すぐ外してみてくれない?」
首輪を指差しながら凛が言うと、ハルヒの瞳が揺れた。
「そっ……」
やっぱり、と凛は小さく息を吐いた。
「……気にしないで。できたらもうけものだと思っただけだから」
「ち、違うわよ!! 今はなんていうか、良く分からないからできないだけで……。
きっとできるようになるわよ!」
凛は淡々とした視線をハルヒに注いだ。
ハルヒの場合、『知った』ことが逆に働いていると凛は推測していた。
(時間を遅くするとか、心を読むとか、イメージしやすいことには強いみたいだけど……。
イメージすることに知識が必要なことは難しいみたいね)
「そっ……」
やっぱり、と凛は小さく息を吐いた。
「……気にしないで。できたらもうけものだと思っただけだから」
「ち、違うわよ!! 今はなんていうか、良く分からないからできないだけで……。
きっとできるようになるわよ!」
凛は淡々とした視線をハルヒに注いだ。
ハルヒの場合、『知った』ことが逆に働いていると凛は推測していた。
(時間を遅くするとか、心を読むとか、イメージしやすいことには強いみたいだけど……。
イメージすることに知識が必要なことは難しいみたいね)
――何たる偏った力か。
呆れながらも、凛は同時に納得もしていた。
感覚的にやっていたことを、意識して行うことは難しい。
天性のカンでバットを振っていたスラッガーほど、
一度スランプに陥るとなかなか抜け出せなくなるのと似たようなものだ。
自分でいうのもなんだが、天才と呼ばれるこの遠坂凛でさえ、
魔力というものを使いこなせるようになるのに10年かかったのだ。
それよりも遥かに大きな「世界を創造」できるという力を制御しきるのには、どれほどの歳月がいるのやら。
「……もういいわよ! 信じないっていうんなら! ……後になって後悔しても遅いんだから!」
凛の視線を馬鹿にした物と取って、癇癪を起こした子供のようにハルヒは喚いた。
もういい。仲間でもない人間に信じてもらおうと思った自分が馬鹿だった。
ハルヒは、ロックに半ば祈るような気持ちで視線を向けた。
感覚的にやっていたことを、意識して行うことは難しい。
天性のカンでバットを振っていたスラッガーほど、
一度スランプに陥るとなかなか抜け出せなくなるのと似たようなものだ。
自分でいうのもなんだが、天才と呼ばれるこの遠坂凛でさえ、
魔力というものを使いこなせるようになるのに10年かかったのだ。
それよりも遥かに大きな「世界を創造」できるという力を制御しきるのには、どれほどの歳月がいるのやら。
「……もういいわよ! 信じないっていうんなら! ……後になって後悔しても遅いんだから!」
凛の視線を馬鹿にした物と取って、癇癪を起こした子供のようにハルヒは喚いた。
もういい。仲間でもない人間に信じてもらおうと思った自分が馬鹿だった。
ハルヒは、ロックに半ば祈るような気持ちで視線を向けた。
――どうして?
ハルヒは自分の体がこわばるのを感じた。
ロックの目には怒りがあった。悲しみの色に混じって確かに怒りの色があった。
(何で? どうしてそんな目するのよ!?)
さっぱり分からない。
ロックの目には怒りがあった。悲しみの色に混じって確かに怒りの色があった。
(何で? どうしてそんな目するのよ!?)
さっぱり分からない。
――自分は間違っているのか?
慌ててハルヒは頭を振った。
(そんなことないわ。絶対そんなことない!
生き返る本人だって、みんなだって大事な人が生き返った方が嬉しいに決まってるもの!)
(そんなことないわ。絶対そんなことない!
生き返る本人だって、みんなだって大事な人が生き返った方が嬉しいに決まってるもの!)
――なのにどうしてみんな、ちっとも嬉しそうじゃないの?
ハルヒの心の水面に生じた波紋はいつしか波へと変わっていた。
焦燥と苛立ちの風に煽られ、その波は怒涛へと変わり、ハルヒの心の壁へと幾度なく押し寄せる。
揺れる心のままにせわしなく視線をさ迷わせていたハルヒの視線が一点に吸い寄せられた。
(しんちゃんまで……)
少年の黒い瞳にも喜びはなかった。
悲しそうに、でもどこか厳しい面持ちでこちらを見つめていて――。
ハルヒの心の水面に生じた波紋はいつしか波へと変わっていた。
焦燥と苛立ちの風に煽られ、その波は怒涛へと変わり、ハルヒの心の壁へと幾度なく押し寄せる。
揺れる心のままにせわしなく視線をさ迷わせていたハルヒの視線が一点に吸い寄せられた。
(しんちゃんまで……)
少年の黒い瞳にも喜びはなかった。
悲しそうに、でもどこか厳しい面持ちでこちらを見つめていて――。
――まてよ?
ハルヒはハタと膝を打った。
考えてみればしんのすけはまだ、父と母が死んだのを知らないはずだ。
知っていたらこんなに平静でいられるはずがない。
しっかりしているとはいえ、しんのすけはまだ子供なのだから。
(辛いことだけど……。ちゃんと教えてあげた方がいいわね)
ハルヒは息を吸い込んだ。
「しんちゃん――」
「ハルヒお姉さん! オラ、父ちゃんや母ちゃんと一緒にいたいけど……。
いいよ、生き返らせてもらわなくて」
声は震えていたが、少年の声音には強い意志が宿っていた。
ハルヒは息を呑んだ。
「しんちゃん……知って、たの?」
コクンとしんのすけは小さく頷いた。
「……どうして、なの?」
「オラ……。父ちゃんと母ちゃんに会いたいけど、
ひまもきっと、父ちゃんと母ちゃんがいなかったら泣くと思うけど……」
しんのすけの顔が歪んだ。
激しい痛みに耐えるように顔を大きく歪め、唇を震わせながら、しんのすけは言葉を紡いでいく。
「それでも……。お姉さんに、生き返らせてもらうのは、何か違う気がするんだゾ。
よく分かんないけど……。
お姉さんが作るっていってる世界にいるオラの父ちゃんと母ちゃんはきっと……」
しんのすけは顔を上げてハルヒを見た。
どこまでも真っ直ぐなその瞳に射抜かれ、ハルヒは硬直する。
「本物のオラの父ちゃんと母ちゃんじゃないって、思うから!!」
「本物よっ!! 言ってるじゃない! あたしは生き返らせることができるのよ!!」
ひび割れひっくり返った声でハルヒは絶叫した。
「死んだ人は生き返ったりしないよ!! お姉さんだって知ってるはずだゾ!!」
「だからっ!! あたしの作る世界では生き返るのよ!! 何で分からないのよ!!」
恐怖と絶望に駆られハルヒは声を張り上げた。
――認めるわけにはいかない。
考えてみればしんのすけはまだ、父と母が死んだのを知らないはずだ。
知っていたらこんなに平静でいられるはずがない。
しっかりしているとはいえ、しんのすけはまだ子供なのだから。
(辛いことだけど……。ちゃんと教えてあげた方がいいわね)
ハルヒは息を吸い込んだ。
「しんちゃん――」
「ハルヒお姉さん! オラ、父ちゃんや母ちゃんと一緒にいたいけど……。
いいよ、生き返らせてもらわなくて」
声は震えていたが、少年の声音には強い意志が宿っていた。
ハルヒは息を呑んだ。
「しんちゃん……知って、たの?」
コクンとしんのすけは小さく頷いた。
「……どうして、なの?」
「オラ……。父ちゃんと母ちゃんに会いたいけど、
ひまもきっと、父ちゃんと母ちゃんがいなかったら泣くと思うけど……」
しんのすけの顔が歪んだ。
激しい痛みに耐えるように顔を大きく歪め、唇を震わせながら、しんのすけは言葉を紡いでいく。
「それでも……。お姉さんに、生き返らせてもらうのは、何か違う気がするんだゾ。
よく分かんないけど……。
お姉さんが作るっていってる世界にいるオラの父ちゃんと母ちゃんはきっと……」
しんのすけは顔を上げてハルヒを見た。
どこまでも真っ直ぐなその瞳に射抜かれ、ハルヒは硬直する。
「本物のオラの父ちゃんと母ちゃんじゃないって、思うから!!」
「本物よっ!! 言ってるじゃない! あたしは生き返らせることができるのよ!!」
ひび割れひっくり返った声でハルヒは絶叫した。
「死んだ人は生き返ったりしないよ!! お姉さんだって知ってるはずだゾ!!」
「だからっ!! あたしの作る世界では生き返るのよ!! 何で分からないのよ!!」
恐怖と絶望に駆られハルヒは声を張り上げた。
――認めるわけにはいかない。
二度と生き返ることはないと認めてしまったら。
生き返る人間が本物でないと認めてしまったら。
生き返る人間が本物でないと認めてしまったら。
――間違いを正せない事になる。
――みんなを。キョンを、永遠に失ってしまう。
「父ちゃん、オラに言ったんだゾ。父ちゃんはオラの心の中にいるって。
だから……オラ……」
「分かんない!! 全然分かんない!!
生きてた方がいいに決まってるのに……。何でみんな、そんな、風に……」
いつしかハルヒの声には嗚咽が混じり始めていた。
悲しくないのか。辛くはないのか。
仲間が、短い間とはいえ心を通わせた仲間が生き返って欲しいとおもわないのか。
(あたしは嫌……)
だから……オラ……」
「分かんない!! 全然分かんない!!
生きてた方がいいに決まってるのに……。何でみんな、そんな、風に……」
いつしかハルヒの声には嗚咽が混じり始めていた。
悲しくないのか。辛くはないのか。
仲間が、短い間とはいえ心を通わせた仲間が生き返って欲しいとおもわないのか。
(あたしは嫌……)
――嫌だ。
みんなが死んだままなんて、絶対に嫌だ。
「……もう、いいわ……」
力なく虚ろな声を響かせ、ハルヒは立ち上がった。
「あたしと逆方向に進めば帰れるようにしておくから、勝手に……。勝手に帰りなさいよっ!!」
悲鳴じみた声で叫び、ハルヒは踵を返した。
「……どこへ行くんだ?」
「関係、ないでしょ……」
ロックの問いかけをハルヒは切り捨てた。
ついてくる気がないならそれでいい。誰もついてこなくてかまわない。
仲間が死んだままでも構わないと考える奴等なんか、大事な人が死んだままでも構わないと考える奴等なんか――。
(あたしの世界にはいらないわ)
こんな奴等なんかほっておいて、仲間達と楽しく生きられる世界を作ろう。
ハルヒは足を速めたのだった。
「……もう、いいわ……」
力なく虚ろな声を響かせ、ハルヒは立ち上がった。
「あたしと逆方向に進めば帰れるようにしておくから、勝手に……。勝手に帰りなさいよっ!!」
悲鳴じみた声で叫び、ハルヒは踵を返した。
「……どこへ行くんだ?」
「関係、ないでしょ……」
ロックの問いかけをハルヒは切り捨てた。
ついてくる気がないならそれでいい。誰もついてこなくてかまわない。
仲間が死んだままでも構わないと考える奴等なんか、大事な人が死んだままでも構わないと考える奴等なんか――。
(あたしの世界にはいらないわ)
こんな奴等なんかほっておいて、仲間達と楽しく生きられる世界を作ろう。
ハルヒは足を速めたのだった。
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱 バトルロワイアルのフィールドから消失】
[残り 9人]
[残り 9人]
【D-4・病院付近/2日目・夕方(放送直前)】
【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]:眠気と疲労、またもや鼻を骨折しました(今度は手当てなし)
[装備]:コルトガバメント(残弾7/7、予備残弾×38発)、マイクロ補聴器
[道具]:支給品一式、現金数千円、たずね人ステッキ(次の使用まであと2時間程度)、エクソダス計画書
[思考]
基本:力を合わせ皆でゲームから脱出する。出来ることならギガゾンビに一泡吹かせたい。
1:速やかに病院へ戻る。
2:君島の知り合いと出会えたら彼のことを伝える。
[備考]
※顔写真付き名簿に一通り目を通しています。
※参加者は四次元デイバッグに入れないということを確認しています。
※ハルヒ、キョン、トウカ、魅音、エルルゥらと詳しい情報交換を行いました。
※レヴィの趣味に関して致命的な勘違いをしつつあります。
[状態]:眠気と疲労、またもや鼻を骨折しました(今度は手当てなし)
[装備]:コルトガバメント(残弾7/7、予備残弾×38発)、マイクロ補聴器
[道具]:支給品一式、現金数千円、たずね人ステッキ(次の使用まであと2時間程度)、エクソダス計画書
[思考]
基本:力を合わせ皆でゲームから脱出する。出来ることならギガゾンビに一泡吹かせたい。
1:速やかに病院へ戻る。
2:君島の知り合いと出会えたら彼のことを伝える。
[備考]
※顔写真付き名簿に一通り目を通しています。
※参加者は四次元デイバッグに入れないということを確認しています。
※ハルヒ、キョン、トウカ、魅音、エルルゥらと詳しい情報交換を行いました。
※レヴィの趣味に関して致命的な勘違いをしつつあります。
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:脇腹、及び右腕に銃創(処置済み)、背中に打撲、左腕に裂傷。
頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、疲労(やや大)、全身に少々の痛み
[装備]:ソード・カトラス(残弾6/15、予備残弾×26発)、ベレッタM92F(残弾8/15)
[道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2、イングラムM10サブマシンガン(残弾15/30、予備弾倉30発×1)
グルメテーブルかけ(使用回数:残り16品……………………
[状態]:脇腹、及び右腕に銃創(処置済み)、背中に打撲、左腕に裂傷。
頭からバカルディを被ったため少々酒臭い、疲労(やや大)、全身に少々の痛み
[装備]:ソード・カトラス(残弾6/15、予備残弾×26発)、ベレッタM92F(残弾8/15)
[道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2、イングラムM10サブマシンガン(残弾15/30、予備弾倉30発×1)
グルメテーブルかけ(使用回数:残り16品……………………
「逃げるのか!?」
二つの声が重なった。
一つはどこか甲高い声。一つは押し殺した低い声。
だが、その二つの声は抑えきれぬ怒気を秘めているという点では共通していた。
思わず振り返るハルヒに、まずしんのすけが抑えきれぬ激情を叩きつけた。
「お姉さんがいったんだゾ!! みんなで元の世界に帰ろうって!!
そんで、オラ達みんなで一緒にエルルゥお姉さんとお約束したのに! なのに逃げるのか!?
キョンお兄さんが死んで悲しいからって、辛いからって、逃げちゃうのか!?
ロックお兄さんだって、トウカお姉さんだって、キョンお兄さんだって、
魅音お姉さんだって、さとちゃんだって、みんな……。
みんな、辛かったけど、悲しかったけど、我慢してお約束したんだゾ!!
約束したから……。トウカお姉さんも、キョンお兄さんも、さとちゃんも、魅音お姉さんも、
痛くても……あんなに血だらけに、なっても……」
しんのすけの頬を涙がつたった。
一つはどこか甲高い声。一つは押し殺した低い声。
だが、その二つの声は抑えきれぬ怒気を秘めているという点では共通していた。
思わず振り返るハルヒに、まずしんのすけが抑えきれぬ激情を叩きつけた。
「お姉さんがいったんだゾ!! みんなで元の世界に帰ろうって!!
そんで、オラ達みんなで一緒にエルルゥお姉さんとお約束したのに! なのに逃げるのか!?
キョンお兄さんが死んで悲しいからって、辛いからって、逃げちゃうのか!?
ロックお兄さんだって、トウカお姉さんだって、キョンお兄さんだって、
魅音お姉さんだって、さとちゃんだって、みんな……。
みんな、辛かったけど、悲しかったけど、我慢してお約束したんだゾ!!
約束したから……。トウカお姉さんも、キョンお兄さんも、さとちゃんも、魅音お姉さんも、
痛くても……あんなに血だらけに、なっても……」
しんのすけの頬を涙がつたった。
――大丈夫……しんのすけさんは、大丈夫……
苦痛の呻きをもらしながらも優しい声で励ましてくれた、自分を守ってくれた、北条沙都子。
――殺させは……しない。
深い傷を何箇所も負い血を流しながらも、戦って戦って死んでいった園崎魅音。
無残な有様で息絶えながらも、満足そうな笑顔を浮かべていたトウカ、そしてキョン。
彼らの顔が次々としんのすけの頭に蘇ってくる。
「みんな、最後まで頑張ったんだゾ!!」
彼らの命に報いるためにも、前に進まなくてはならない。
元の世界に帰らなくてはならない。
それなのに。
「なのに、なのに……。言い出したお姉さんが逃げるのか!?
今更逃げるなんて、許さないゾっ!!」
燃え盛る怒気を瞳に宿し、しんのすけは吼えた。
しんのすけが言い終えるのを待って、ロックが口を開いた。
「君の人生だ、好きにしたらいい。どう生きようと君の自由だ。
それをどうこういうつもりはないよ……」
ロックは一度言葉を切った。
(エルルゥのようにやるのは、やっぱり無理か)
彼女の優しさも包容力も持ち合わせていない自分に、彼女と同じことをやるのは無理だ。
「みんな、最後まで頑張ったんだゾ!!」
彼らの命に報いるためにも、前に進まなくてはならない。
元の世界に帰らなくてはならない。
それなのに。
「なのに、なのに……。言い出したお姉さんが逃げるのか!?
今更逃げるなんて、許さないゾっ!!」
燃え盛る怒気を瞳に宿し、しんのすけは吼えた。
しんのすけが言い終えるのを待って、ロックが口を開いた。
「君の人生だ、好きにしたらいい。どう生きようと君の自由だ。
それをどうこういうつもりはないよ……」
ロックは一度言葉を切った。
(エルルゥのようにやるのは、やっぱり無理か)
彼女の優しさも包容力も持ち合わせていない自分に、彼女と同じことをやるのは無理だ。
――俺にできるのは、ぶつかることだけだ。
それしかできない。
できるだけ怒りを吐き出そうと息を吐く。
「けどよ……」
だが、次に発せられたロックの声音には、隠しきれぬ怒りが染み出していた。
「君はさっき『間違いだ』といったな。それだけは、取り消していけ。
君に、みんなの生き様を『間違いだ』と断じる資格なんかありゃしない。
一度でも俺達の上に立った奴が、仲間だったやつが、仲間の生き様を否定する……。
俺にはそれが、我慢できねぇ!!」
ロックの咆哮が静謐な空間を震わせた。
できるだけ怒りを吐き出そうと息を吐く。
「けどよ……」
だが、次に発せられたロックの声音には、隠しきれぬ怒りが染み出していた。
「君はさっき『間違いだ』といったな。それだけは、取り消していけ。
君に、みんなの生き様を『間違いだ』と断じる資格なんかありゃしない。
一度でも俺達の上に立った奴が、仲間だったやつが、仲間の生き様を否定する……。
俺にはそれが、我慢できねぇ!!」
ロックの咆哮が静謐な空間を震わせた。
何も言う事ができなかった。
一言も発する事ができず、歩き去ることもできずハルヒはただ立ち尽くしていた。
二人の言葉は矢となってハルヒの心をぶち抜き、彼女をその場に縫いとめていた。
一言も発する事ができず、歩き去ることもできずハルヒはただ立ち尽くしていた。
二人の言葉は矢となってハルヒの心をぶち抜き、彼女をその場に縫いとめていた。
――逃げるな。
しんのすけの言葉に、全ての欺瞞をぶち抜かれた。
どんなに言葉を取り繕っても、自分のやろうとしていることは逃避でしかないと見抜かれてしまった。
どんなに言葉を取り繕っても、自分のやろうとしていることは逃避でしかないと見抜かれてしまった。
――否定するな。
彼らの死をなかったことにしてしまうことは、彼らの生き様を、想いを、踏みにじること。
なかったことにしてしまえば、彼らの生き様は、想いは、消えてしまう。
確かに理不尽としか思えない死に方もある。
けれど彼らは、人を殺す道を選ばなかった。ギガゾンビの思惑にのらず、苦難を行く道を選んだ者達だ。
悪魔の誘惑に負けてしまった者達と、そして挫けそうになる己が心と命の限り戦い続けた者達だ。
みんな、それぞれの誇りを、譲れないものを貫いて死んでいったのだ。
ルパンも、アルルゥも、ヤマトも、エルルゥも、園崎魅音も、北条沙都子も、トウカも、
鶴屋さんも、朝比奈みくるも、長門有希も、そして――。
なかったことにしてしまえば、彼らの生き様は、想いは、消えてしまう。
確かに理不尽としか思えない死に方もある。
けれど彼らは、人を殺す道を選ばなかった。ギガゾンビの思惑にのらず、苦難を行く道を選んだ者達だ。
悪魔の誘惑に負けてしまった者達と、そして挫けそうになる己が心と命の限り戦い続けた者達だ。
みんな、それぞれの誇りを、譲れないものを貫いて死んでいったのだ。
ルパンも、アルルゥも、ヤマトも、エルルゥも、園崎魅音も、北条沙都子も、トウカも、
鶴屋さんも、朝比奈みくるも、長門有希も、そして――。
――あいつも。
中途で道は途絶えたが、彼らの生き様を間違っていると断じる事など、だれにもできない。
誰にもさせない。
誰にもさせない。
――あたしが、させない。
自然と心の奥底から浮かび上がってくる思いに、ハルヒは打ちのめされた。
じゃあ、自分が正したいと願ったのは一体?
その答えはすぐに出た。
「私が弱くて、馬鹿だったから……。あたしのせいでみんなが……キョンが……」
正したいのは結局、自分の間違いだ。
「誰かがそう、君に言ったのかい?」
ロックの声は、先ほどとは打って変わって優しかった。
「そんなこと言うわけないじゃない! みんな、みんな優しいから……」
「キョン君は満足そうな顔をしてたよ……」
熱いものが込み上げてきて、ハルヒはしゃくりあげた。
「本当に満足そうな顔をしてた。彼は満足だったんだと思う。
大事な人を守る事ができて、ね」
「でも……。でも……」
ハルヒの嗚咽は止まらなかった。
キョンが満足して死んでいったとしても、やっぱり許せそうにない。
自分を。自分の間違いを。
「何かね……。今のあなたって……」
それまで黙っていた凛が口を開いた。
「似てるわ。私の知ってる子に」
独白するように凛は言葉を紡いでいく。
「その子は、ある国の王様だった。その子は必死で他国から国を守ろうとしたわ。
けど、時代が悪かったせいだと私なんかは思うんだけど……。
結局その子の国は滅んでしまった」
唐突とも言える話の内容に、ハルヒは思わず顔を上げてしまう。
「その子は後悔したわ。それこそ死ぬほど後悔して――。一つの決断をしたの」
凛は正面からハルヒを見据えた。
「その決断っていうのは、サーヴァントという存在になって願いをかなえること。
その願いとは、『なかったことにする』こと。
歴史を捻じ曲げて、自分が『王になったならなかった』世界を作ること。
全ては守るために。王として民を。国を守るために……」
「ちょっと待ってくれ! 凛、今君はサーヴァントって言ったけど……」
ロックが驚愕の声をあげた。
凛は首肯してみせた。
「そうよ。その子の名前は……。セイバー。あの金髪の騎士よ」
ハルヒの瞳が一気にその大きさを増し、見る見るうちにその体が小刻みに震え始めた。
(……嘘)
よりにもよってあの金髪の騎士と。キョンを殺したあの女と同じことを自分は……。
絶望の色が浮かぶハルヒの瞳を見て、凛は一瞬躊躇しそうになるが、かまわずに続けた。
「そんな余裕はなかったかもしれないけど……。
あなた達からみて、セイバーは心の底から自分のやってることが正しいと思ってやってるように、見えた?」
じゃあ、自分が正したいと願ったのは一体?
その答えはすぐに出た。
「私が弱くて、馬鹿だったから……。あたしのせいでみんなが……キョンが……」
正したいのは結局、自分の間違いだ。
「誰かがそう、君に言ったのかい?」
ロックの声は、先ほどとは打って変わって優しかった。
「そんなこと言うわけないじゃない! みんな、みんな優しいから……」
「キョン君は満足そうな顔をしてたよ……」
熱いものが込み上げてきて、ハルヒはしゃくりあげた。
「本当に満足そうな顔をしてた。彼は満足だったんだと思う。
大事な人を守る事ができて、ね」
「でも……。でも……」
ハルヒの嗚咽は止まらなかった。
キョンが満足して死んでいったとしても、やっぱり許せそうにない。
自分を。自分の間違いを。
「何かね……。今のあなたって……」
それまで黙っていた凛が口を開いた。
「似てるわ。私の知ってる子に」
独白するように凛は言葉を紡いでいく。
「その子は、ある国の王様だった。その子は必死で他国から国を守ろうとしたわ。
けど、時代が悪かったせいだと私なんかは思うんだけど……。
結局その子の国は滅んでしまった」
唐突とも言える話の内容に、ハルヒは思わず顔を上げてしまう。
「その子は後悔したわ。それこそ死ぬほど後悔して――。一つの決断をしたの」
凛は正面からハルヒを見据えた。
「その決断っていうのは、サーヴァントという存在になって願いをかなえること。
その願いとは、『なかったことにする』こと。
歴史を捻じ曲げて、自分が『王になったならなかった』世界を作ること。
全ては守るために。王として民を。国を守るために……」
「ちょっと待ってくれ! 凛、今君はサーヴァントって言ったけど……」
ロックが驚愕の声をあげた。
凛は首肯してみせた。
「そうよ。その子の名前は……。セイバー。あの金髪の騎士よ」
ハルヒの瞳が一気にその大きさを増し、見る見るうちにその体が小刻みに震え始めた。
(……嘘)
よりにもよってあの金髪の騎士と。キョンを殺したあの女と同じことを自分は……。
絶望の色が浮かぶハルヒの瞳を見て、凛は一瞬躊躇しそうになるが、かまわずに続けた。
「そんな余裕はなかったかもしれないけど……。
あなた達からみて、セイバーは心の底から自分のやってることが正しいと思ってやってるように、見えた?」
――見えなかった。
彼女は強く、威圧感も覇気も兼ね備えていた。
けれど。
けれど。
――私は武士でもなければ騎士でもない。王だ。それも愚鈍な
彼女はどこか自嘲しているようだった。どこか迷っているようだった。
「……私、セイバーは馬鹿だって思うのよ。だってそうでしょ? 守る守るって……。
自分だって本当は守ってもらいたがってたくせに……。意地張っちゃって。
それに、セイバーにはいたはずよ! 彼女のことを守ろうとしてた人が! 彼女を守ろうとして死んでいった人が!
彼女が気付こうとしなかっただけで、ね」
しゃべっているうちに腹が立ってきたのか、凛の声は大きさを増していく。
「王になる歴史を捻じ曲げちゃったら、そういう人の生の意味は、思いは、どこへいくわけ!?
その人達からしてみれば、失礼極まりないって思わない!?
それなのに二言目には、私は愚鈍だ、愚か者だって……。
じゃあその愚か者を気に入っちゃったり、人肌ぬいでやろうと思ったりした人間は何なのよ!? ウルトラ馬鹿者ってこと!?」
そこまで一気に言って、感情的になりすぎたことに気付き、凛はきまり悪げに咳払いをした。
「後悔は誰だってするし、過ちを後悔してそれを繰り返さないようにするのは大事だけど……。
きっと……。否定はしちゃいけないのよ。
自分の歩んできた道が間違いだったって思っちゃ駄目なんだ、って思う。
一緒に歩んだ人のためにも。歩みをとめさせられてしまった、私達が置き去りにするしかなかった人達のためにも……」
凛は柔らかい微笑を唇の端に浮かべた。
「なんて……。実は人の受け売りだったりするんだけど、ね」
凛の言葉はその優しい笑顔と共にハルヒの心にしみ込んでいった。
セイバーと同じだと遠まわしに言われた事を怒る気にはなれなかった。
だって、自分は危うくその騎士と同じ間違いを犯すところだったのだから――
「……私、セイバーは馬鹿だって思うのよ。だってそうでしょ? 守る守るって……。
自分だって本当は守ってもらいたがってたくせに……。意地張っちゃって。
それに、セイバーにはいたはずよ! 彼女のことを守ろうとしてた人が! 彼女を守ろうとして死んでいった人が!
彼女が気付こうとしなかっただけで、ね」
しゃべっているうちに腹が立ってきたのか、凛の声は大きさを増していく。
「王になる歴史を捻じ曲げちゃったら、そういう人の生の意味は、思いは、どこへいくわけ!?
その人達からしてみれば、失礼極まりないって思わない!?
それなのに二言目には、私は愚鈍だ、愚か者だって……。
じゃあその愚か者を気に入っちゃったり、人肌ぬいでやろうと思ったりした人間は何なのよ!? ウルトラ馬鹿者ってこと!?」
そこまで一気に言って、感情的になりすぎたことに気付き、凛はきまり悪げに咳払いをした。
「後悔は誰だってするし、過ちを後悔してそれを繰り返さないようにするのは大事だけど……。
きっと……。否定はしちゃいけないのよ。
自分の歩んできた道が間違いだったって思っちゃ駄目なんだ、って思う。
一緒に歩んだ人のためにも。歩みをとめさせられてしまった、私達が置き去りにするしかなかった人達のためにも……」
凛は柔らかい微笑を唇の端に浮かべた。
「なんて……。実は人の受け売りだったりするんだけど、ね」
凛の言葉はその優しい笑顔と共にハルヒの心にしみ込んでいった。
セイバーと同じだと遠まわしに言われた事を怒る気にはなれなかった。
だって、自分は危うくその騎士と同じ間違いを犯すところだったのだから――
唐突に、何の前触れもなく、世界が軋んだ。
それは異様な光景だった。
ダークグレー一色に染まった天頂に亀裂が入り、亀裂は瞬く間に世界を覆いつくしていく。
網の目は細かさを増し、蜘蛛の巣状に成長していく。
(これで、いいのよね? みんな)
ハルヒは心の中で呟いた。
最後にまた、今までで一番大きな間違いを犯してしまうところだった。
ほうっとハルヒはため息をついた。
その間も世界はひび割れていく。網の目は細かさをまし、既に黒い湾曲に近くなっている。
(よく、こんなの作れたもんね……)
もう一度作れといわれても無理だ。
何となくは分かるのだが、細かいところがどうにも掴めない。
当分の間、ヘタをすればもう二度と同じような空間を作るのは無理だ。
ダークグレー一色に染まった天頂に亀裂が入り、亀裂は瞬く間に世界を覆いつくしていく。
網の目は細かさを増し、蜘蛛の巣状に成長していく。
(これで、いいのよね? みんな)
ハルヒは心の中で呟いた。
最後にまた、今までで一番大きな間違いを犯してしまうところだった。
ほうっとハルヒはため息をついた。
その間も世界はひび割れていく。網の目は細かさをまし、既に黒い湾曲に近くなっている。
(よく、こんなの作れたもんね……)
もう一度作れといわれても無理だ。
何となくは分かるのだが、細かいところがどうにも掴めない。
当分の間、ヘタをすればもう二度と同じような空間を作るのは無理だ。
――無理。
その瞬間、ハルヒの心を恐怖の大波が襲った。
恐怖の大波はまたたく間に堰を打ち壊し、ハルヒの心を濁流で埋め尽くした。
恐怖の大波はまたたく間に堰を打ち壊し、ハルヒの心を濁流で埋め尽くした。
「やっぱり駄目!! 待って!!」
あらん限りの声でハルヒは叫んだ。
「ハルヒちゃん!?」
「……ごめんなさい」
ハルヒは喉から声を絞り出した。
「でも、やっぱり嫌なの! 一人で……。あたし一人で元の世界に帰ったって……。
あんな、何にもない、つまんない世界に戻ったって……意味なんかないもの!!」
帰ったところで待っているのは、鶴屋さんが、朝比奈みくるが、長門有希が、キョンがいない世界だ。
つまらない、灰色の世界。
やっぱり怖い。やっぱり逃げ出したい。戻りたくな――。
「ハルヒちゃん!?」
「……ごめんなさい」
ハルヒは喉から声を絞り出した。
「でも、やっぱり嫌なの! 一人で……。あたし一人で元の世界に帰ったって……。
あんな、何にもない、つまんない世界に戻ったって……意味なんかないもの!!」
帰ったところで待っているのは、鶴屋さんが、朝比奈みくるが、長門有希が、キョンがいない世界だ。
つまらない、灰色の世界。
やっぱり怖い。やっぱり逃げ出したい。戻りたくな――。
「舐めたこと言ってんじゃねぇっ!!」
その声が耳に届くのと右頬に衝撃を感じて吹き飛ばされるのは、ほとんど同時だった。
宙を飛んで、ハルヒの身体は地面を転がった。
耳鳴りがする。頬が痛いを通り越して熱い。
「れ、レヴィ……」
ロックの声がひび割れて聞こえた。
「……やっと自由になれたぜ」
車のテールライトの如く顔を赤く染め、レヴィは肩をいからせてハルヒに歩み寄った。
ハルヒに『黙れ』といわれた瞬間口が利けなくなり、身体は動かせないまま。
そのまま長時間放置され、レヴィの怒りは頂点を越えてとうに噴火していたのである。
レヴィの形相の凄まじさに、ロックも凛も口を差し挟むことができない。
「今のは、このあたしを身動きとれねーようにした分……」
胸倉を掴まれて引き起こされ、怒りを圧縮して詰め込んだような声が耳元でした――と思うの同時に左頬に痛みを感じた。
先ほどより加減されていたが、それでも強烈だった。
またも地面に叩きつけられ、気が遠くなった。視界が凄まじい勢いで旋回している。
「そんでこれは……」
また引き起こされた。意識が朦朧として体がどこにあるのかも分からない。
宙を飛んで、ハルヒの身体は地面を転がった。
耳鳴りがする。頬が痛いを通り越して熱い。
「れ、レヴィ……」
ロックの声がひび割れて聞こえた。
「……やっと自由になれたぜ」
車のテールライトの如く顔を赤く染め、レヴィは肩をいからせてハルヒに歩み寄った。
ハルヒに『黙れ』といわれた瞬間口が利けなくなり、身体は動かせないまま。
そのまま長時間放置され、レヴィの怒りは頂点を越えてとうに噴火していたのである。
レヴィの形相の凄まじさに、ロックも凛も口を差し挟むことができない。
「今のは、このあたしを身動きとれねーようにした分……」
胸倉を掴まれて引き起こされ、怒りを圧縮して詰め込んだような声が耳元でした――と思うの同時に左頬に痛みを感じた。
先ほどより加減されていたが、それでも強烈だった。
またも地面に叩きつけられ、気が遠くなった。視界が凄まじい勢いで旋回している。
「そんでこれは……」
また引き起こされた。意識が朦朧として体がどこにあるのかも分からない。
「クソ舐めたことほざいてあたしを激しくムカつかせた分だ!!」
きいんといって、聞こえなくなっているにも関わらず、その怒号はちゃんと聞き取れた。
鼻から頭の裏側に衝撃がつきぬけ、ハルヒは意識を失った。
鼻から頭の裏側に衝撃がつきぬけ、ハルヒは意識を失った。
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