青の厚志・芝村舞公募作品置き場


文族

高原鋼一郎(芝村舞設定文)

その少女は一匹の大きな犬と一緒にいたという。

西国人しかいないこの国で、黒い髪を後ろで束ねた少女は酷く目立った。。
だが何よりも目を引いたのは大きな犬を連れていたからである。
にゃんにゃん共和国において犬-わんわん帝国ではなく四本足で歩く生物学上の-を見る事はまず皆無であり、戦場に出向く者達はまだしも普通の生活を営む者達にとっては驚くに値する出来事だった。
(一度ゴロネコ藩国において例外はあったが)

木陰で休む少女と犬を遠巻きに何十人もの人達が恐る恐る見ている。
誰もが巨大な犬に恐れをなして近づこうとしない癖に、猫の性で興味を示さずにはいられないのであった。
そんな状況に置かれても少女は木にもたれ掛かったまま口を真一文字に結び、座っている。
やがて、一人の幼い子供が意を決したように少女の元へ近づいていった。
一匹の子猫を抱いたその子供は気配に気付いた少女と犬の視線に少し泣きそうに
なったが、ぐっと我慢しておずおずと話し掛けた。
「あの、その犬は何て名前なんですか」
ふむ、と一言言うと少女は答えた。
「名前はコガだ。あと犬ではなく正しくは雷電という」
「コガちゃん、ですか。とってもおっきいですね」
「人を背に乗せるのがこれの仕事だからな」
「どうしてお姉さんはコガちゃんと一緒にいるんですか」
「こいつの主は私の友でな、遠出の散歩でどうも近くにいるらしい」
連れとあちらこちらを歩き回っていて、この国に入る時にばったりあったのだ、と少女は語った。その連れは今、水と食料を調達に行っているとも。
(ちなみに彼女の連れがこの光景を見たら子供でも容赦しない)
「コガちゃんをさわってもいいですか」
「それは私に聞くべきではないな。この者に聞くがいい」
子供はさわってもいいですか、と改めてコガに聞いた。
バウ、バウ。
「構わぬと言っている」
子供はありがとうとお礼をいいながらコガの頭を撫でた。その様子を見て少女はふ、と笑う。
「…あー、うむ。一つ聞いてもいいだろうか」
「はい」
「その…胸に抱いているこここ子猫は」
「先月産まれた子です。あたしが抱いてないとずっと鳴き続けるから」
「そ、そうか…うむ、ならば仕方がない。今のは忘れてくれ」
とてもがっかりした様子の少女を見て、子供はしばしコガを撫でながら考えた。
「この子、撫でてあげてください」
「よいのか」
「はい」
「う、うむ。そこまで言われては断る方が失礼だな、さ、触らせて貰う」
少女は何かとても重大な決意を固めて一度深呼吸すると、じりじりと子供に寄って行く。
その表情は猫を触るというより、触ると壊れる危険物処理に挑むかのような表情だった。
後になって子供はよく逃げなかったと思ったという。
まずあの挑むような目付きがまずいんじゃないかなあとも思っていたらしい。
何分経ったか、ようやく少女の指が子猫の頭に触れた。そしておっかなびっくりしながらゆっくりゆっくり撫でていく。
ようやく少女の顔に安堵が見える。そして回りで見ている野次馬もほっ、と息を吐いた。

やがて日も暮れ始めたころ、子供は家に帰る時間になった。
「ありがとうございました」
「うむ、気をつけて帰るがよい」
そしてここに至って子供は少女の名を聞いていない事に気付いた。
「あたし、ウィーターって言います。この子はチビクロです」
「私は舞だ、芝村をやっている」
自らの名をとても誇り高く答える少女のその姿は、子供が大きくなって子を成しても語り種となったという。




浅田(青の厚志設定文)

君の隣に居ても良いかとは尋ねない

此処に居ようと決めたのだ

この胸に抱く愛ゆえに

此処に居ようとそう決めた

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かつての少年の話をしよう。
彼の持ち物は、男とも女ともつかないその体。
彼の名前は偽物で、今居る場所も偽物で。髪の色すら偽物だった。
一つが多いか少ないか。
それは貴方の心次第だ。
少年にとって、その数は少なかった。
これ以上減らすこともできず、次を得ようとそう思った。
殺しの腕ならそれなりで、それ以外には無いからと。

/*/

わたしにはまだ名前がない。
わたしにはここがどこかわからない。
あなたがだれか、入力もない。

そんな機械が彼に手を伸ばしたのは、今思えば必然だったのかもしれない。

/*/

高機動の幻想の始まりだ。
友誼による物語の始まりだ。
一つの機構は彼を選んだ。
世界の護りがもしあるのなら、それはここにあるのだと。

/*/

OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・
OVERS・OVERS・OVERS・OVERS



このプログラムは世界の尊厳を守る最後の剣として世界の総意により建造された。

OVERS・System Ver0.89



OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・
OVERS・OVERS・OVERS・OVERS

/*/

その後の少年の話をしよう。
彼の持ち物は、男とも女ともつかないその体。
それに加えて青い大きな宝石と、多世界言語プログラム。
三つが多いか少ないか。
それは貴方の心次第だ。
少年にとって、まだその数は少なかった。
使い物にならないものはいらない。次を得ようとそう思った。
彼女に会うまでは。

/*/

此処に居るのか。
何処へ行くのか。
明日を掴むために貴女は何を為そうというのか。

決まっている。
眩しいまでに光るその身で。
燃えるようなその瞳で。
彼女は明日を掴もうと、もっと良い日を掴もうと。
今日という日に反逆するのだ。

/*/

今の青年の話をしよう。
彼の持ち物は、青の厚志というその存在。彼女が認めたそれ一つ。
彼の名前は本物で、今居る場所は本物で、髪の色まで本物だった。
一つが多いか少ないか。
それは貴方の心次第だ。
青年にとって、それだけあれば十分だった。
ただ後一つ望むのならば。
彼女の心がともにあるよう。

/*/

雷電に寄りかかる少女を見つめる青年の目は、優しい青い色をしている。
手に持ったお玉と身に着けたエプロンは、少女のための昼食の用意。
明日をもぎ取る不適な目も、今は優しいまま。
青い色をした髪が風に揺らされる。
ふと、自分は幸せだとそう思った。
だから明日からも戦える。

日々の終わりを知る自分だからこそ。彼女の終わりを止めるのだ。




はる(青の厚志設定分)

 おもしろいゲームだと思った。
 青がおもしろいと思う言うことは、すなわち舞が楽しんでいると言うことに他ならない。
 今日も舞はコガと戯れる猫、コガの背中に小亀のようになって重なる子猫を見ては「あうあうあぅ」 と、人が見たら恐怖におののくような声を上げては悶えている。
 いや、正確には飼い主よりも人間らしいと一部で称されているコガが、舞の悶絶におびえているのだが、そこは飼い主よりもお利口と言われているコガだけあって大人しくしている様子だった。
「舞さん、コガが好きなのですか?」
 青の近くを取り巻く猫耳の少女が、そんなことを聞いてきた。
 この少女は青のファンであるが、どこの国の猫かは分からない。この場所には犬も猫もなかった。犬も猫もありふれてあふれて、それぞれ思い思いに舞や青をスケッチしたり一緒になって写真を撮ったりと、遊んでいる。
 いささか無遠慮な絵描きや文士が沢山いるみたいだけど、舞も青も、概ね可愛い猫と犬の国の物達と戯れに戯れて迷惑ではなかった。
 少しだけ待たせてから、青は首をかしげて、少女に微笑んだ。
「青い毛並みのジジが一番お気に入りみたいだけど、」
青いという部分を強調する。
「好きに触らせてくれる雷電で気がふわふわのもこもこであれば、きっとなんでもお気に入りなんじゃないかな」
「そ、そうですか」
 少女は顔を赤らめて、その後二言三言喋ってきゃうーんと叫びながら遠目に見ていた彼女と同じ猫耳の少女達の環に戻っていった。
 要するに青と会話できてちょーらっきーきゃーなのだが、当人はそんなことはよく分からずに、首を傾げるだけである。

「舞、聞いてよ!」
「なんだ」
 顔を背けながら舞。
 例によって舞の元へとはせ参じる青は、例によって輝くような笑顔である。
 遠くでこちらを恨めしげに覗こうとする猫と犬の気配があるのだが、コガと木に阻まれて舞と青の様子は伺い知れない。それを確認して、耳の赤い舞は安堵しているようにも見えた。
「もうすぐ、この世界で大きなお見合いがあるんだって!」
「聞いている」
 というより。
 そこここを、緑のジャンパーや黄土色のトレンチコートを纏った犬や猫が練り歩いているのだ。
「ふむ。政略的で当人の意向も無視した本意ならぬ催しと解釈していたが、存外楽しそうだな」
「僕たちも出よう!」
 舞ここでずっこけた。
 コガが戦闘腕を使って器用に舞を支える。
「ななな、なんでそうなる」
「だって、」
 青は拳を握りこんで、上目遣いに舞を見た。すでに舞が草場に座り込んで低い位置にいるだけあって、凄い姿勢である。
 舞、押し負けそう。
「お見合いってみんなの前で好きな人に告白するイベントなんだよ!」
「...何か誤謬があるな」
「僕も舞に告白したい! みんなの前で好きって言いたいよ!」
「たわけっ」
 息を吐くように言い捨てる。
 なんとくだらない、と呟いてそっぽを向いた。
「だ、だいたいそなた、なにを今更」
「だってだって、最近だって舞犬と猫とばっかり遊んでるし...」
「た、たわけっ」
 アイドレスにきてこっち、芝村を恐れも萎縮もせずに親しげに接してくれる国民に触れて幸せそう――
 舞が喜ぶならば、それで全肯定だけれども、こうも変な虫が集まってくると青としてはどんどんだんだん心配になってくるのだった。好かれているという自信はあるものの、嫌われるんじゃないかという不安も依然として残っているのである。
 青は青で必死の提案なのだった。
 なにもかも間違ってはいるが。
「だからお見合いしようよ、舞!」
 上目遣いのままじりじり詰め寄る青。
「なにゆえそーなるかっ。ふ、不要だ見合いなど。不要で無用だ」
 コガにすがりつくようにして逃げる舞。
「だって、」
「だって」
「だってこのまえもキスしてくれなかったじゃないか」
 再びずっこける舞。
 キスと聞いて、遠くのコガの隙間からなんとか見えないものかとのぞき込んでいた猫と犬がにゃーにゃーわんわんと黄色い声を上げた。

――ちょっと聞いた奥様。
――ええ、キスって言いましたわよ。ぶちゅーですわ。
――ラブですわ、とってもラブな臭いがしますわん。
――きゃーきゃー

 青はその声を一切無視して、真っ赤な頬の舞の驚いたような照れているような目に吸い寄せられるようにして顔を寄せる。
「い、いつのはなしだいつの」
「いつでもいいよ...」
 とんちんかんなことを言う青。そのままキスをせがむ。
「ば、馬鹿者、昼間からそんなだな」
「前もそう言ったんじゃないか」
 舞、それで思い出したか神妙な顔をした。
 つまるところ、前回がまんしてるから今回は折れないぞということを、互いが確認したのだった。
 舞、覚悟を決める。遠くできゃーきゃー言っている犬猫の手前、いつまでも押し問答しているより、とっとと済ませた方が最良であると選択したのだった。
 幸いコガで隠れて周囲にそれがバレることはないだろうし。
――などと考えている時点で、舞も舞で既に脳みそが煮えているのだが。
 既に瞼を閉じていた青は、気配だけで舞が目を閉じたのを感じ取った。
 表情には出ていないが、犬なら尻尾が揺れているだろう。
「やったー」 という感じだった。

 2秒後、つきあいきれん――と、コガがのそりと起きて去った。
 二人を遮っていたついたてが消えた。
「なっ――」
「――♪」

 その3秒後、大喝采。
 二人の熱烈なキスは、その喝采から実に5秒は続いたという。




技族

沢邑勝海

  
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